楽しめるか否か。それが問題だ。   作:ジェバンニ

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最近面白い二次創作が増えてついつい読み耽っていてとある事実に気付きました。
私自分の二次創作を更新し忘れているじゃないか! と。






何が言いたいかっていうと私は悪くない。
面白い二次創作を書いている他の作家さん方が悪いんだい!


たった一つの冴えたやり方について

朝起きて大広間でオレンジジュースを飲んでいると突然爆音が響き渡った。

「何やら楽しい気配がしますね」

眼を輝かせた私に対して隣の彼は辛辣だった。

「どうしたんですか、ティア。また厄介ごとの気配でも嗅ぎつけましたか?」

ジャスティン、君は全くもって失礼だな。そういうのはザカリアスの役割だと思っていたよ。

「まあ、ティアとの付き合いも一年になりましたから」

うん、そうか。それにしても

「これ、聞いている限りロナルド・ウィーズリーが何かで叱られているようですね。何でしょう?」

「あれ、ティアって『吠えメール』は知らないの?」

ハンナがそんなことを言った。

「ほえ……?」

「ああ、そうか。ティアの場合送ってくるような相手がいなかったのか……。良い? 吠えメールっていうのはね」

どちらかといえば面倒見は良い方のスーザンが、今聞こえている「それ」が一体何なのかを教えてくれた。

ああ、解説のスーザンさんに聞くまで忘れていたがそういえばそういうのがあったような気がする……。

昨夜から噂になっていたがハリーとロンの非行、もとい飛行しての到着は全校生徒の知れ渡るところとなっていたから、彼のお母様によるそのことについての制裁だったか。

「なるほど。しかし彼らもそんな物を受け取るとは災難でしたね」

「そうでも無いのでは?」

「どういうことです、ティア」

「心配してくれたが故に送ってきたのでしょう。良いお母様じゃないですか……そういうお母様が居ない身としては少し、羨ましいです」

心底そう思うよ、本当に。

「ティア……!」

何やらエロイーズが私の境遇をいたわるように少し涙ぐんでしまっていたようだが、私と彼女とで意味の捉え方に差があったようだ。

彼女は純粋にそういう意味として理解しているようだが私の場合、今生の「あのお母様」は私がああいった不始末をしたら、想像になってしまうが飛んでくるのは吠えメールなんてある意味牧歌的な物じゃないだろうということなのだ。

あの容赦のない怖いおばさん、ベラトリックスお母様は吠えメールじゃなくて高い確率でかの有名な「クルーシオ 苦しめ!」を私に対して掛けてくるだろう。

 

喰らいたいクルーシオは「腹筋クルーシオ」だけと決めているというのに。

 

その気も無しに何だか突発的にしんみりしてしまった空気はと言えば、寮監のスプラウト先生が時間割を配るまで続いてしまったのだった。

 

新学期最初の授業、それは「薬草学」である。

確かマンドレイクを扱うのかとうろ覚えの記憶を探ってみたらやっぱりそうだった。おまけにグリフィンドールとの合同だ。

若干遅れて合流したハリーたち仲良し三人組を見かけたので小さく手を振って挨拶をしておいた。

ここホグワーツでは一年目は箒から落ちて首の骨を折って死ぬかもしれず、二年目はうっかりマンドレイクの鳴き声を聞いたり、バジリスクの眼を見たりして死ぬかもしれず、三年目は吸魂鬼に魂を吸われるかもしれずない。それらを無事にやり過ごした場合は四年目や五年目は安全かもしれないが、六年目と七年目は授業参観でもないのに招かれざる客として来訪したお母様に、スリザリンに入らなかったことで殺されるかもしれない。

後確か四年目まではハロウィンになる度に悪いことしか起こっていなかった気がする。

 

本当ホグワーツは地獄だぜ!

 

今のうちに日常をしっかり楽しんでおかないと……まあ私には幾つかの計画通り「色々」としなきゃあならないことがあるわけだけど。

と、ハーマイオニーとスプラウト先生のやり取りを見ていた私はそんなことを考えていたのである。

 

マンドレイク、私にとってはマンドラゴラの方が馴染のある名前であるところの魔法界の危険な植物に関する説明を二人が終えた後の話だ。

その特徴的な鳴き声を防ぐために耳当てを選ぶことになったのだが

「ティア、本当にそれを選ぶの?」

エロイーズが戸惑うように訊いてきた。

「? 可愛い色合いじゃないですか」

「気に入っているなら良いと思うけど……」

ハンナも何だか気乗りがしない様子だ。

件の私が取った耳当ては何故か皆が選ぼうとしなかった「ショッキングピンク色の物」だった。

鮮やかな色合いが可愛らしくて良いとは思わないのだろうか?

辺りを見てみると何でそんな物を、という感じで何とも言えない顔をしているな。

……これはひょっとして私の感性の方がずれているのか?

実は呪われた品で皆がそれを感知したが故に避けたとか? なら他の物にでも今から変えて貰うか。ザカリアス辺りのそれと無理矢理交換してしまえば何の問題も無いに違いない。などと考えていると

「おや、ミス・レストレンジ。それを選んだのですか?」

少し驚いたようにスプラウト先生が言った。

「この耳当てでは何かまずかったでしょうか?」

「いえ、そんなことはありません。それで問題は特に無いのですが、私が使おうと思っていたので驚いただけです。何しろそれは一番良い耳当てですからね」

「そんなに良い物なのですか?」

ただの外見が素敵な耳当てにしか見えないのだが。

「ええ、何せダンブルドア校長が自らお作りになられたものですからね」

その言葉を聞いた瞬間私の脳裏に思い浮かぶものがあった。

 

確か『賢者の石』での冒頭、ハリーがダドリー家に預けられる場面で

 

「こんなに赤くなったのはマダム・ポンフリーがわしの新しい耳あてを誉めてくれた時以来じゃ」

 

とダンブルドア校長がマグゴナガル副校長におっしゃっていたはず。

それは物語の冒頭故の、とてもインパクトの大きい場面だったからこそ私の記憶に焼き付いていたのだ。

やけに印象的だったのでついつい覚えてしまっていたのだがこれがそうだったのか……。未だこれがその時に話していた新しい物の方なのか、あるいは新しいと言っていたから当然存在するだろう古い方なのかは判別が付かないのだが。

 

それにしても何とも感慨深い物だ。あえて例えるならば、伝説上の人物が手にしていた剣を握ってみた勇者志望の少年のような気持ちとでも言えば一番近い気がする。

ただダンブルドア校長のお手製……だったのか。てっきり購入した代物かと思っていたのだが違ったのか。

何度か登場した「灯消しライター」のような魔法が掛かった品を発明あるいは創造してはいたようだし、おかしくはないのだろうが。

 

「ミス・レストレンジが選ぶまで生徒の中では誰も選んだことが無かった物なのですよ。不思議なことに」

 

……まあ、スプラウト先生なら外見ではなく、実用性や性能の方を重視するということだろう。

駄目だったのは私のセンスのようだが、耳当て自体の性能は折り紙つきだろうし、特に対した問題は無いはずだ。

そう思った私は特に返却することなくそれを使うことにしたのだった。

他の面々は相変わらず胡乱気な様子でこっちを見てきていたのだがこんなことで他人の目など気にしては好きに生きられない。

私は気にするのをやめた。

 

さて、その後の私はと言えば四人一組となって残りの授業を受けなければならないようであった(マンドレイクの植え替えをやることになったのだ)のでザカリアス、ハンナ、そしてスーザンと組むことになった。

二年生にやらせるのはどうかと思うという意見もあるかもしれないが、危険物の取り扱いについて学んでおいて損は無いし、何より確か狩猟民族とかだと斧やナイフを今の私たちよりも早い段階で持たせて慣れさせていくと聞いたことがある。

であるならば魔法と言う私たちの存在自体から切り離せない物(我々は魔法界の住人なのだから)の危険性などさしたる問題では無かろう。

だからこの薬草学でこれからすることに異論も文句の一つであろうとないのだが、本音を言えばメンバーは彼では無くてエロイーズと一緒が良かった。

たまに目の敵にするような目でこっちを見てくるからな、ザカリアスは。全く、私が一体何をしたというのだろう。

 

ただ単に賭け事の度にカモったり、皆でトランプの勝負を遣っている時にモヒったり、聞かれたことを大抵の場合はぐらかしたりしただけなのに。

 

どうにも彼の器は小さい気がすると思うのだよ……。

ジャスティンがハリー達三人組と組んで自己紹介しているところを見ながら私たちはと言えば準備に取り掛かった。

ところがザカリアスだけは違った。

彼だけは作業を手伝わない上に、耳当てをしている私が集中してやっていると人差し指で肩をつついてきたりするのだ。

私がそちらを向くと知らん顔で明後日の方向を見ていたりする。

小学生の男子かお前は。

こんなことを何回か繰り返された後で、流石の私も堪忍袋の緒が切れてしまったのだ。

 

私の左手側に居たバカリアスの顔を両手で掴んでこっちに無理矢理向かせると

「いい加減にふざけていないで真面目にやってください。私がする『警告』はこの一回限りですよ」

とはっきり言ってやった。

勿論彼に聞こえているはずがない。マンドレイクの鳴き声を防ぐために、私を含めて皆耳当てをしているのだから。

だが意味は伝わったはず。

いきなり私に掴まれたことで動揺した彼の眼を正面から見て、開心術を無言呪文で使ったことで私には彼がやったことだという裏もはっきりと取れている。

それに先程私が発した言葉は決してブラフなどではない。彼が続けるようなら私には一発で彼を無効化できる手段が思い浮かんでいるのだから。

私が再びマンドレイクに向き合う作業を始めると、はたして彼は再び続けて来た。

故に私は次の手段を取ることに一切の躊躇いを抱かなかったのだ。

 

スーザン、ハンナそしてザカリアスが見ている前で私は自分の右腕を少しずつ上げていった。

徐々にではあるが不自然ではない程度にゆっくり、と。

何をしているのだろうと二人が反応し、そして最後に彼が私の腕を見て、それから私はとある方向を指さした。

無意識にではあるのだろうが三人の視線がその方向、私から見てまっすぐ正面に集中した。

その方向にいるのはスプラウト先生だったがその人はと言えばちょうど見ていなかった。手近な生徒たちの様子を見守っていたのだ。周りの他の生徒たちも自分たちの作業で低位一杯の状況。

その時だ、私が行動を起こしたのは。

と言っても私がやったのは実に簡単なこと。

誰もがほぼ知っているような、私の魂の故国の有名な漫画に使われていたその名言はこの状況において酷く有効的であった。それというのは

 

 

 

左手は添えるだけ。

というものだ。

 

 

 

 

――ただし私が力一杯握りしめて泣き叫んでいるマンドレイクの幼子を、同じ手で耳当てをずらしてやったザカリアスの右耳に押し当てるものとする、という条件が付くが。

 

特に何の予備動作も無く、他の誰もが行われていることに気が付かない零距離でのお一人様用ヂャイアンリサイタル。それを私が正面を向いたまま彼が白目を向くのを横目で確認しながら押し付けてやった後で、再び元々の位置に戻されるマンドレイク。

 

この間約二秒。誰かに気付かれた形跡は皆無である。

 

だからだろうか、突然ザカリアスが倒れた時は皆本当に驚いた様子であった。

前を向き直ったハンナとスーザンは呆然とし、視界の端に映ったことで気が付いたのだろう、他の生徒たちもこっちを見て驚いていた。

必要な作業を終えた後で私たち全員が耳当てを外したことを確認したスプラウト先生はおっしゃった。

 

「毎年一人か二人は耳当てがずれていることで医務室に行く生徒が出てくるのですがホグワーツでは良くあることです。

皆さん、ミスター・スミスがどうなったかを忘れずにこれからの作業中もしっかりと耳当てをしていてくださいね。これまで学んだ通り魔法界の植物は危険が多いのですから」

「はい、スプラウト先生!」

私たちの声はとてもとても大きかった。

 

その後の授業は彼が医務室で過ごしていたせいで、姿を見なかったからか非常に心穏やかに過ごせたのだがそれについてはまあ、どうでも良いだろう。

話は次の日に移る。

その日の午後は私が待ちわびていた「闇の魔術に対する防衛術」の授業があったのだ。

「楽しみよね、ティア」

「ええ、そうですねエロイーズ」

やっぱりハンサムな先生の授業は気になるのだろう。そういうところは女の子している彼女だった。

だから私の手持ちのお菓子を飲み干すのは今後からやめていただきたいのだが……。

「それは無理よ」

そういうだろうとは私も思った。しかしそんな食生活では今以上に顔が

「放っておいて」

はい、わかりました。スイーツ好きにも程があると思うのだがどうか。

彼女もお菓子をなるべく食べないで私のように野菜と肉中心のヘルシーな生活を送ってみた方が良いと思うのだが。

そんなことをつらつらと考えていたらロックハート先生がようやく準備室から顔を出してくれた。きっと髪の毛をカールさせていたら時間が掛かったとかそういうアホな理由で少し遅れたに違いない。

 

と思って開心術を使って見たら本当にそんな理由だったことに私が驚いた。色々な意味で凄い先生である。

 

ハーマイオニーを見つけて昨日確認しておいたのだが、聞いてみるにやはり教師としての実力は高くない、というかまるで無いようなのだ。

校長も適任者がいなくてこんなのを仕方なく就任させざるを得なかったとか少し同情してしまう。

彼の外見は非常に良いのだが……。

とそこで聞いていた話通り、ロックハート先生によってミニテストが配られた。

「君たちがどのくらい私の本を読んでいるかの簡単なテストです。覚えてさえいれば楽勝ですよ、制限時間は三十分です。では始め!」

そう言われて私たちは利き手に羽ペンを持って――

 

大いに困惑することになる。

何故ならテストペーパーにあったのは

「ギルデロイ・ロックハートの好きな色は何?」

「ギルデロイ・ロックハートのひそかな大望は何?」

と言ったどちらかと言えば彼自身の個人的なことに関する質問ばかりだったのだから。

受けているハッフルパフ生の彼らに取ってはこんな内容知るか、とばかりに匙を投げてしまいそうな物だけが集まっていたのだ。

 

まあ、私ことユースティティア・レストレンジを除いては、の話だったがね。

 

私はと言えばテスト問題の内容を一字一句正確に覚えていたハーさんから、例によって例のごとく開心術で読み取り、事前に完璧に暗記したので解答するうえでの問題はまるで無かったのだ。

「おや、満点はミス・レストレンジただ一人ですか。

私の出したミニテストで他に満点を取った人と言うと、他にはグリフィンドールのミス・グレンジャーだけでしたね。よろしい! あの子と同じ十点を上げましょう!」

予想外とは言えちょっと嬉しい。基本的に取れるところで取って置くことを良しとする私としては、このような少ない労力で多大な点数を得るというのは一番好きなシチュエーションなのだ。少し嬉しくて思わず微笑みが漏れてしまった。

 

残りの時間はと言えばミニテストの解説、要するに彼自身の自慢話やら何やらやこの授業の目指すべき物についての彼の仰々しい説明で終わってしまったのだ。

そして授業が終わり、皆が次の授業に備えて呪文学の準備を進めている中で私はロックハート先生の元へと向かっていた。

「ちょっと、ティア。何する気なの?」

ハンナが疑問に思っていたようだが、彼女が理解できずとも私にはどうしてもしなければならないことがあるのだ。

「大丈夫ですよ。ちょっとロックハート先生にお願いがありまして」

「もう、早くしてね」

納得が行かないようなハンナに返答を返すと、彼女は談話室へと向かっていった。

「ロックハート先生、あの大変不躾で恐縮なのですがお願いがあるのです」

「おや、ミス・レストレンジ何ですか?」

満面の笑顔で応える彼に対して私は顔を赤らめてしまっていた。

まるで恋するバカな女学生のように見えることを自覚しながらも私はこういう特別な状況に大変弱くて……。

そしてロックハート先生のサインを戴いたことで思わずスキップしてしまいそうになった私は――

 

 

 

 

 

そのサインを元に、予てよりの計画通りマダム・ピンスの元へ「閲覧禁止」の棚にある本を借りに行ったのだった。

 

 




秋休みなんて無かった。
相変わらず良い子は真似しないように、なことばかり書いている気がしますが此処にいる読者諸氏の善性を私は信じている。





決してイイ性格をした読者ばかりが居ることを期待しているわけじゃあないんだよ……?

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