楽しめるか否か。それが問題だ。   作:ジェバンニ

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色んな人に影響受けた結果、何をとち狂ったのか二次小説を書いてみることにしました。後悔って後ですれば良いよね?


賢者の石
いざ、ホグワーツへ。


誰もいないコンパートメントに私は自分の荷物を降ろした。

良かった。

正直ほっとした。

生前の癖で三十分は前に「キングズ・クロス駅」に辿り着いていたのが効いたらしい。

生まれが生まれなだけに、できるだけ一人で居たいと思っていたから入学前からついていると言って良いだろう。

とある事情で叔母一家の手で育てられて来た私にとって、これから行く場所は今までとまるで違った私の将来に大いに関係ある所だった。

魔法界にある「ホグワーツ魔法魔術学校」と呼ばれるその学校は、次代を担う魔女と魔法使いを養成するための場所。そんな場所に行くのだから、私の身の上も大体予想が付くだろう。

学ぶことを待っている見習いなのだ、私は。

杖を買ってもらったのは一月ほど前で、教科書から読み取って実践できる魔法に関しては全部試し、なおかつほとんどが上手くいったのだが不安は拭えない。

それは魔法の技術の問題ではない。

いずれ私が自身に降りかかってくるであろう、運命に抗えるか否かについてだ。

何しろ私は自分自身が、原作における闇の魔法使い達とかなり関わりのある身だと分かっているのだから。

 

この世界、実は私が所謂生まれ変わりというものを体験する前に映画や本で見知っていた『ハリー・ポッター』シリーズのものと幾つかの点を除けば同じなのだ。

一日本人の女性としてそれなりに親しんで来た作品の一つなのだが、ある日通り魔に刺された後、この世界で赤ん坊の身として目覚めた時には非常に驚いたものだった。

……もっとも今生での自分の名前を知った時に比べれば、その衝撃はそこまででも無かったように思うけれど。

 

とにかく自身の現状を知ってからの私は、色々と対策を取らねばならなかった。

普通に考えてこんな身で原作の開心術などを受けてしまえばどんなバタフライエフェクトが起こってしまうか分からない(無論前世の原作知識と言われるものまで術を使って読み取れるのかどうかは疑問の余地があったが適性がある場合は身につけておいて損は無いだろう)。

だからこそ未だ杖も無い状況から閉心術の訓練を開始した。

また元々興味と素質があったので念力のような浮遊術、灯りをつける魔法、鍵開けの魔法などを杖の無い状態でも使えるようになった。というか使えるようにした。もちろん今述べた以外の魔法に関しても少しだけ身につけてはいる。が、そっちに取り掛かれたのは基本的に杖が手に入ってからだった。

 

そういうわけで魔法の学習はそのペースで順調に進んで行ったが、人間関係についてはさっぱりだった。

こちらの言葉で言う所のマグルとは別に深く関わりを持つことはなかったが、それは同じ魔法使いにしても同じことが言える。

育ての親達がそこまで他の魔法使いや魔女たちと親しくすることを許さなかったのだ。

私が本当の両親と同じようになることを恐れているのだろう。物心が付いているはずの年齢から今までの間、直接血の繋がりがある人たちについて教えてもらえたのはダイアゴン横町に自分の杖やら入学用品一式を買うその日のことだった。

もっともそれについて恨む気持ちは起こらない(元々ある程度知っているという事情もあるのだが)。

彼らの立場ならきっとそうするだろうし、その気持ちは分かっているつもりだった。

それに私と育ての親達、そして彼らの実の子との関係は比較的良好だ。

次の日には四人で笑って流していた。

 

そして現在に至る。

9と4分の3番線のプラットフォームに入る前に一年間のお別れの挨拶を済ませたのだが、いやはやあの手の類のものは何度やられても慣れないものがある。

前世が日本人だった身で、抱きしめられて両頬に口付けされると言うのは。

籠に入れてある賢い顔立ちの白い雌の梟と、そいつを入れている鳥籠越しに軽くスキンシップをしながら困ったものだとそう思った。

席を確保してから汽車に備え付けのトイレへと向かった。これから何が起こるかある程度分かってはいても緊張とは無縁でいられない性格ではあったのだから。

……あ、ついでに今のうちに制服に着替えておこう。後であたふたするのはごめんなのだから。

 

ある程度安心していた、というか油断して切っていた罰なのだろうか? トイレで用を足して着替えて戻って来たら極め付きのイレギュラーがそこに居た。

「ええと……?」

、その同い年の少年は私に気が付いたのか窓から顔をこちらに向けて行った。

「ああ、すみません。ここ、良いですか?他に空いているところが無くて……」

一瞬の間があった。そして

「ええ。どうぞ」

動揺を悟らせないように、見せ掛けだけでも平静に応えた。否、そう答えるのが精いっぱいだった。

まさかこんなに早いとは……!

接触がある可能性があるとは考えていたがそれはもう少し後のはずだった。決してこんな心臓に悪い場面なんかではないはずなのだ。

口の中でもごもご言うように答えた後、私は彼の物言いたげな視線と親しみを感じさせる笑顔から眼を逸らし、読みかけの『ホグワーツの歴史』を読むふりをしながら考え中である。

まさかこんなに早く物語の最重要人物の一人に会うことになるとは、思ってもいなかったからだ。

 

やがてもう一人が先程の最初の彼とほとんど同じ言葉でこのコンパートメントを訪れた。

それに対し先に訪れていた黒髪の眼鏡の少年は後から来た赤髪の方を見て、私はと言えば本から顔を上げないまま、というよりは本で顔を隠したままどうぞと応じた。

ややあって良く似た赤髪の双子が弟君に声を掛けて行き通りさって行く。

まあ、この二人が居るならそうなるよなと私は思いながら、しかし私自身はと言えば顔を本から離していないが為に声を掛けられずに済んだのだった。

必要以上に注目を浴びるのはごめんだ。

それに私に接触するにしてももう少し後にしてもらわないと困る。

やがて決定的な瞬間が訪れた。

「君、ほんとにハリー・ポッターなの?」

その言葉で私は本を顔の前から降ろした。

頷いた後で傷の有無を聞かれ、ハリーは稲妻の傷痕を見せたところだった。

「貴方が、あの生き残った男の子なのですか?」

無論知ってはいるがこう答えないと不自然だろう。

未来を少し変えてしまったのだろうが多分此処はこうするのが最善のはずだ。

「あ、うん……」

? 同年代の女の子に話しかけられたことが少ないのだろうか。ハリーは何やら顔を赤らめていたがロンの方はと言えば反応は違った。

「ええと、君は?」

そう重要なのは此処から。

故に私は覚悟を決め、出来得る限り最高の微笑みを浮かべて名乗った。

「申し遅れました。私の名前はユースティティア・レストレンジと言います。是非ティアと呼んでくださいね。よろしくお願いします」

と。

そう、今生での実の母親はあのベラトリックス・レストレンジなのだった。

元の物語には存在しなかった私がいることでどんな影響が彼らの未来に及ぼされるのか。また私がどのような運命を辿るのか? 少なくとも今の私には知る由もなかった。

 

……中の人がTS転生した憑依ハリーじゃなかったのかって?残念、ユースティティアちゃんでしたー。

 




毎日は無理だと思うけどなるべく早く更新します。感想をくれる場合は投稿自体が初めてなんで手心を加えてくれると有り難く。ではでは。

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