沢渡さんの取り巻き+1   作:うた野

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サブタイ通り&今回デュエルなしです


ネオ沢渡さん 編
ネオ沢渡さん、出番がないっすよ!


「久守さん」

「……はい。何でしょうか」

 

昼休み。弁当を広げようと鞄を手に取った所でクラスメイトの方に声を掛けられた。珍しい。いやぼっちじゃないですよ? 私には沢渡さんが居ますし! 後山部たちも。

 

「お客さん、多分隣のクラスの子だけど」

「分かりました。ありがとうございます」

 

クラスメイトの方が指したドアの方を見れば、あのデュエルの後も何度か学校で見かけたショック・ルーラー……じゃない、柊さんの姿があった。……報復?

 

「お待たせしました」

「あ……久守さん、ちょっといい?」

「はい、構いません。私も話しておきたかったですし」

「そう……あ、お昼まだよね? だったらお弁当持って中庭に行きましょ?」

「校舎裏じゃないんですね」

「え?」

「いえ。分かりました」

 

どうやら報復に来たわけではなさそうなので素直に頷き、弁当を取って柊さんと歩き出す。

 

「……」

「……」

 

互いに無言のまま、中庭へと到着し、空いていたベンチに腰掛ける。以前一緒に帰った光津さんと違い、柊さんは無言の今が落ち着かないようで、視線があちこちを彷徨っている。

 

「柊さん、どうぞ」

「え、あ、ありがとう」

 

まずはともあれ、ということで弁当と一緒に持って来た水筒と紙コップを取り出し、紅茶を注いで差し出す。

 

「美味しい……」

「ダージリンです。ストレス緩和の効果があるそうです」

「へえ……って、別にストレスを感じたりなんてしてないからねっ?」

「そうですか」

「ええ……まあ確かに少し緊張はしてたけど」

「私もです」

「え?」

「柊さんに何をされるのかと」

「私を何だと思ってるのよ……」

「何をされても仕方のない事をしましたから」

 

横並びに座りながら、首を柊さんに向けると視線が交差する。……ケジメは必要ですよね。

 

「先日の件、申し訳ありませんでした」

 

深く頭を下げ、謝罪の言葉を口にする。

 

「本当なら柊さんに誘われる前に遊勝塾に直接謝罪に行こうと思っていたのですが……」

「……」

「榊さんにもすぐに謝罪させていただきます。勿論、それで許してもらえるとは思っていません。それでも謝罪の言葉を紡がせて下さい。頭を下げさせて下さい……申し訳ありませんでした」

「ちょ、ちょっと頭を上げてよ久守さんっ」

「……はい」

「ペンデュラムカードを奪ったのは沢渡で、私は久守さんとデュエルをしただけっ。それに他の奴らに捕まった時に助けてくれたじゃないっ」

「ですがそれが言い訳には……」

「いいから!」

 

慌てる柊さんに申し訳なさが募る。ですがあの時の私は意固地になって、身勝手に喧嘩を売ったようなものですし……。

 

「それと、あの時私やアユちゃんたちを助けようとしてくれたでしょ?」

「それは……」

「あの時は遊矢に助けられたけど、久守さんが誰よりも先に助けようとしてくれた」

「……」

「だから私には謝らなくていいわ。それに遊矢だって久守さんの事までは気にしてないだろうし」

「……それは私が取るに足らないと……?」

「あ、ううん! そうじゃないの、あの後色々あったから……」

 

柊さんはあのデュエルの後、榊さんに弟子入りしようと現れた紫雲院素良という融合使いの少年の話をしてくれた。今は榊さんの友人として、遊勝塾の塾生になったという。

 

「素良のおかげで多分、それどころじゃなくなっちゃってたから」

「そうですか……それでも近い内、遊勝塾に伺わせていただきます。やっておかなければならない事ですから」

「……久守さん」

 

……それにまだ、沢渡さんもペンデュラムカードを諦めたわけじゃないです。今はそれよりも榊さんにリベンジする事に意識が向いていますが……それは黙っておきます。

 

「分かったわ。でもその時は歓迎させてもらうわね」

「……?」

「遊勝塾塾長の娘として、久守さんの友人として、ね」

「柊さん……」

「さ、お弁当食べましょ!」

「――はい」

 

誰かと学校でお昼を一緒に食べるのは、転入した時以来です。

 

「それにしても……」

「? 何でしょう」

 

ジッと私の目を見つめる柊さん。

 

「久守さんってあの時とは全然性格が違うわね」

「……? そう、でしょうか?」

 

そんな事はないと思いますが。私の頭は常に沢渡さんで一杯で、それは学校でもLDSでも変わらないんですが。

 

「だってあの沢渡と一緒になった時なんて凄いテンションになってたじゃない」

「だって沢渡さんと一緒に居られるんですよ?」

「……あ、そう」

 

何故かくすんだ目になる柊さん。何故でしょう。

 

「でもどうしてそんなに沢渡の事を?」

「柊さん」

 

……これは、せめてものお礼だ。

 

「友人として忠告するとそれを聞くと午後の授業には出られなくなりますが――いいでしょうか」

「ごめん、聞いた私が悪かったわ」

 

……残念です。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

 

 

授業を終え、私は駅前のケーキ屋に足を運ぶ。

ケーキも勿論買いますが、今日は以前もらったプティングの感想を伝えるのが目的です。

あの日、大伴がセンターコートに置き忘れた私の荷物を持って帰った来ましたが、急いだから中身は少し崩れていました、それでも味は良かったです。あ、勿論一緒に買った沢渡さん用のケーキは沢渡さんには渡さず、私が後で食べました。型崩れしたものを沢渡さんに渡すわけにはいきませんからね。大伴は突き落としました(比喩)。

 

「いらっしゃいませー! ……あっ」

「こんにちは」

 

カウンターに立っていたのは以前と同じ、女性の店員さんだった。

 

「はい、いらっしゃいませ!」

「どうも。……美味しかったです、あのプティング」

「本当ですか!?」

「はい。甘さが元々あったものより控えめで、私はあちらの方が好みでした」

「あ、ありがとうございます!」

 

何度も頭を下げてお礼を言う店員さんに少し気圧されながらも、ショーケースの中の商品を見ると、一番端にそれはあった。

 

「商品化されたんですね、おめでとうございます」

「はいっ、まだまだ美味しく出来るはずなので、まだPOPとかで宣伝はしてもらってないんですけど、それでも毎日少しずつですけどお店に出させてもらってます!」

「それでは約束通り、この――」

 

商品名を告げようとして気付いた。商品名が記載されているカードには短く『新作カスタード・プティング』としか書かれていない。他の商品には細かく、長い商品名が書かれているのがこのお店の特徴でもあるので、それがやけに浮いていた。

 

「あ、あの、実はもう一つお願いがあって……」

「何でしょうか」

「お客さんに、商品名を考えていただきたいんですっ!」

「……え」

「実は店長に、私が作ったんだから名前も私が決めろと言われて……で、でも店長みたいなセンスは私にはなくてっ、こんな名前で置かせてもらってるんです」

 

……商品名は店長のセンスだったんですか。いいセンスです。

 

「……いや、ですが私もあれ程のセンスは……」

「いえっ、センスの問題じゃないんですっ。やっぱり思い出のお客さんであるあなたに決めてもらいたくて!」

「ですが……」

「お願いします! 時間がどれだけ掛かっても構いませんから!」

 

今度は完全に店員さんに気圧されてしまう。

いや、でもそういうのは私よりも店長さんに……

 

「私がつけても『ケーキ屋発冥界行きデスプリン』とかそういうのしか浮かばなくてっ」

「分かりました私がつけます」

 

思わず言ってしまいましたがそんな商品を此処に並べさせるわけにはいきません。

 

「本当ですかっ? ありがとうございます!」

「……あまり期待はしないでくださいね」

「どんな名前でも胸を張って売り出します!」

「……じゃあ、この新作プティングを一つ下さい」

「はい!」

 

……安請け合いをしてしまいました。店長のセンスに勝てる気がしません。

 

「今日はお一つでよろしいんですか?」

「はい。いつも食べてくれる人に暫く会えないので」

 

沢渡さんはあれからLDSに来ていない。学校にはいらしてますが、恐らく家でデッキを組んでいるんだろう。見つけたというペンデュラム召喚の弱点を突く為のデッキを。

後でデュエルを見ていた山部たちから聞いた話だと、セッティングされたペンデュラムカードは魔法カード扱いとなってフィールドに置かれているらしいので、恐らくそれが鍵なんだろう。だとすれば私のデッキバウンスでも勝機はある。ペンデュラムの秘密がそれだけだとは思えないけれど、まだ知られていない貴重な情報だ。そして沢渡さんはその情報をしっかりと活かす。

 

「彼氏さんですか?」

 

店員さんがからかうように言いますが、それに対する答えは決まっている。

 

「いえ、違いますよ。大切な人です」

 

今の私は中学生だ。そんなんじゃない。それに沢渡さんに釣り合うとも思っていないし、私は今に満足してますから。

 

「そうですか……でも頑張ってくださいね!」

「だからそういうのでは……」

 

笑顔の店員さんに否定の言葉を重ねても無駄かと考えて、大人しく代金を支払って商品を受け取る、が少し考えてもう一つ追加することにした。

 

「すいません、やはりもう一つ同じ物をいただけますか」

「はい、かしこまりましたー! もしかして届けて差し上げるんですか?」

「いえ、別件で必要になるかと思いまして」

 

何を勘繰っているのか店員さんの微笑みは止まらない。……別に何を考えていようといいですけど。

 

「ありがとうございました! それと、よろしくお願いします!」

「……出来るだけ早く考えて来ますね」

「はい! お待ちしてます!」

 

……どうしましょう、本当に。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

 

 

沢渡さんがデッキを組んでいる間、私に出来る事はLDSで少しでも講義を進めて、沢渡さんが戻って来た時に一緒に居られる時間を増やすことだ。

そしてもう一つ、これは沢渡さんと同じ――デッキの変更。とは言っても大きく変更はしない。沢渡さんや他の人と違って、私の持っているカードはデッキを除けばそう多くはないから。それに……私の持つデッキには、きっと意味があるから。私のデッキはマドルチェとシャドール、二種類の人形たちが居る。彼女たちの居場所であるデッキを無闇に変えたくはない。

変更するのはヴァルカンやエフェクト・ヴェーラーといった此処に来て手に入れたカードたち。とはいえいい案が浮かばなかったのでずっとこのままだったのですが……。

 

「こいつなんてどうだっ? 甲化鎧骨格(インゼクトロン・パワード)

「悪いカードではないですが、せめてもう少し攻撃力が上か、相手のターンにまで影響を与えるような効果の方が良いです」

「ならこいつは? オリエント・ドラゴン。相手のシンクロモンスターを除外出来れば、そう簡単に復活もさせられねえだろ?」

「そもそもシンクロがそれ程普及していないでしょう」

「……ならこいつはっ、グラヴィティ・ウォリアー!」

「私のカードは攻撃力、守備力が低いものが多いですから、攻撃を強制させるより封じる方が良いです」

「……X-セイバー ウェイン」

「召喚時に戦士族が手札にある確率を考えると却下です」

「……だーっ! また全滅かよ!」

 

……今は案を持ってきてくれる人が居ますから。今の所は全て空振り、というか私が却下してしまっていますが。

 

「連日申し訳ありません、刀堂さん」

「あー? 別に気にすんな、俺から言い出した事だからな。シンクロコースの刀堂刃の名に賭けて、何が何でもお前に合ったカードを見つけてやるぜ」

 

以前言っていた通り、刀堂さんはあれから私にシンクロモンスターのカードを色々と紹介してくれている。

日によっては光津さんも一緒なのですが、今日は融合コースの講師、マルコ先生の講義を受けていていません。

 

「ありがとうございます。一度休憩しましょうか、良い時間ですし」

「そうだな、ずっと画面と睨めっこしてたら目が疲れた……そういや最初に何かガチャガチャやってたな」

 

休憩室の一角を使い、借りて来た小型のタブレットを刀堂さんが弄って、私がそれを見る、というのを繰り返していましたが、さすがに疲れたのか今はタブレットを投げ出し、背もたれに体を預けている。

それを尻目に私は隅の方で用意していたティーセットを手に取り、準備をしていく。この部屋なら流しもあるので処理も楽です。

 

「ええ。疲れた時はアイスよりもホットの方が良く効きますから」

 

……まあ実を言えば、前回美味しそうに飲んでいただけたので少し気合いを入れてしまっただけですが。

 

「あっ、そういえばお前、真澄の奴に何言ったんだよっ。スポーツドリンク飲んでたら「やっぱりそっちのが刃らしいわ」とか何とか言って笑ってたぞ!」

「ただ刀堂さんに紅茶を誉めていただいたと言っただけですが」

「言わなくていいんだよ、んなこと! 何か小恥かしいだろっ」

「そうでしょうか。沢渡さんにも「少しは腕を上げたな」と時々言っていただけますが」

「あいつと一緒にすんじゃねえ!」

「一緒になんてしてません!」

「うぉっ」

 

全然違いますよ! 沢渡さんが持ち歩くのは刀堂さんと違って竹刀ではなくダーツですし、沢渡さんは刀堂さんと違って服の襟を立ててませんし!

そう言ってやろうと刀堂さんに迫りますが、刀堂さんは椅子ごと後ろに下がって行ってしまった。

 

「中身入ったポッド持ったまま迫って来るな! 怖えよ!」

「ああ、失礼しました」

 

今はこちらに集中しましょう。せっかく準備したんですから、こんな所で失敗しては沢渡さんが戻って来た時に残念がらせてしまいます。

 

「どうぞ、それとこれも」

 

紅茶と一緒に、買っておいたプティングを刀堂さんの前に差し出す。どちらかと言うとコーヒーの方が合いそうですが、私は紅茶用のポッドしか持ち歩いていないのでそこは我慢してもらいましょう。

 

「あー、ありがとな。……けどまた真澄に知られたら笑われちまいそうだ」

「今度は黙っておきますので心配なさらず」

「ならいいけどよ……」

 

まだ気にしているのか、若干ふてくされたようにカップに口をつける刀堂さん。気にする必要なんてないと思いますが。

私も席に座り、カップに口をつける。うん、出来は悪くないと思います。

 

「……なあ久守」

 

少し言い難そうに、刀堂さんが口を開いた。

 

「何でしょう」

「お前、こないだセンターコートで沢渡たちと何してたんだ」

「……それは」

「いや、何をしてたか知ってる。ま、センターコートの貸切なんて目立つことしてたら、噂にもなるわな。何つーか……何でんなことしたんだ?」

 

言葉を選び、はっきりとは言わないように刀堂さんは気を遣ってくれている。刀堂さんが気を遣う必要なんてないのにも関わらず。

 

「真澄の奴は「沢渡に唆されたんでしょ」なんて言ってたが、マジでそれだけなのかよ」

「違いますよ」

 

そこだけははっきりと否定しておく。私が決心したのは確かに沢渡さんの存在が大きいけれど、それだけじゃない。私が‟確かめたかった”。

 

「私の意思でしたことです。沢渡さんのせいではありません」

「……」

 

沢渡さんだけに責任を押し付けることは出来ない。あれは私のせいでもある。

 

「そうかよ……だが」

 

カップを置いて刀堂さんが立ち上がり、竹刀を私に向ける。

 

「ルール違反で負けるってのはどういう事だよ!」

「そこまで知ってたんですか」

「素人でもあるまいし、アクションデュエルのルールは知ってんだろ!? それで何でんなことになった!」

「いや、それは……」

「LDSの生徒がジャッジキルなんざ、情けねえっつの! 俺はそれが気に入らねえ!」

「……はい、まあ、おっしゃる通りです、はい」

 

それに関しては一切言い訳できない。……私も榊さんのエンタメデュエルに飲まれていたというか、あの時点で諦めてしまっていたというか。

 

「北斗の奴もそれを聞いてまた落ち込みやがるし、お前に負けた俺だって何なんだ、って話だよ!」

「お、落ち着いてください刀堂さん、紅茶が零れます」

 

ヒートアップしていく刀堂さんに押されながらもそう言うと、刀堂さんは不機嫌そうに鼻を鳴らして椅子に座り込んだ。

 

「はん、どうせお前の事だ、沢渡の野郎を気にしてた、とかそんな事なんだろうけどよ」

「うっ……」

 

それは沢渡さん本人にも言われたことであり、事実なので何も言い返せない。

 

「いいか、もし今度またそんな情けねえ負け方したらただじゃおかねえからな!」

 

そこまで言って満足してくれたのか、刀堂さんが竹刀を手放した。

 

「おい刃、廊下にまで君の声が――げっ」

 

その大声に呼び寄せられ、休憩室に現れた(そして私を見て顔を引きつらせた)のは、今名前が出たエクシーズコースの志島さんだった。

 

「ああ、北斗か」

「や、やあ刃……久守詠歌さん」

 

以前会った(ほぼ初対面だった)時よりもよそよそしい態度で志島さんが挨拶してきた。……そんなに35連勝出来なかったのを引きずっているのでしょうか。

 

「お久しぶりです、志島さん」

「ああ、久しぶり……」

「んだよ、まだ気にしてんのか? 昨日こいつが負けたのを聞いて、散々落ち込んでたくせによ」

「余計な事を言わなくていい!」

 

慌てて刀堂さんの口を手でふさぐ志島さんですが、丸聞こえですし、それはもう聞きました。

 

「ふぅ……それにしても君たち二人で一体何をしてるんだ? 仲良く休憩中に見えるけど……はっ、まさかっ?」

 

机に用意された紅茶とプティングを見て、何かを察したような顔をする志島さん。

 

「お前が想像してるような事はねえよ」

「一切ありません」

 

勿論何も察せられていないので刀堂さんと一緒に否定しておく。

 

「光津さんと同じように志島さんもご存知なのかと思っていました」

「お前に負けてから暫く落ち込んでたからな。お前の話題を出すと面倒な事になると思って黙ってた」

 

私を見た時の反応を考えれば、その判断は正しかったと言わざるを得ない。

 

「お前も知ってんだろ、こいつがシンクロを使うのは」

「あ、ああ……そうだったね」

「なのにシンクロを抜こうとか考えてやがったから、俺がこいつのデッキに合うシンクロモンスターを探してやってんだよ」

「へえ……」

 

そこでまた志島さんが何かを思いついたような顔をする。

 

「それを聞くと君たちがまるで姉弟に見えてくるね」

「はあ?」

「……ご迷惑をお掛けします、兄さん」

「お前も変な所でノるんじゃねえよっ」

 

刀堂さんに軽く頭を小突かれてしまった。志島さんの言う事も一理あると思ったのですが。

 

「それでいいカードは見つかったのかい?」

「いーや、また今日も全滅だ」

「それで休憩中、というわけか」

「ええ。……志島さんも如何ですか」

「え、いや僕は……」

「遠慮しないでもらっておけよ。エクシーズコースの講義も終わったんだろ?」

「ああ……そうだね、お言葉に甘えるよ」

「はい」

 

席を立ち、志島さんが座る席を引いて新しいカップを取り出す。

 

「これもどうぞ」

「あ、ああ、ありがとう」

 

流し台へと向かう前に、まだ手を付けていなかったプティングを志島さんの前に置く。

 

「お前の分がなくなんだろ。そこまで気ぃ遣う必要ねえって」

「いえ。せっかくですから、是非。それに誰かが私が用意したものを食べたり飲んだりしてくれるのを見るのが好きなので」

 

それだけ言って、カップを持って流し台に向かい、お湯をカップに入れ、温める。

 

 

 

「いや流石にここまでしてもらうのは……」

「本人が良いって言ってんだ、貰っとけよ。あいつも真澄と同じで割と頑固なところがあるからな」

「……随分と仲良くなったみたいだね」

「お前が落ち込んでる間にな」

「うぐっ……ところで、あの噂の件は……」

「今確かめた。本人も認めてたぜ」

「そうか……」

 

 

 

準備を進める私の後方で刀堂さんと志島さんはさっきの事を話しているようだ。事実だし、別に気にしないですが。一応柊さんには謝罪を済ませましたし、後は榊さんに伝えるだけ……それで終わりになるわけではないですが。

とにかく私が負けたのも、榊さんのカードを奪う事に協力したのも変わらない事実である以上、侮蔑も罵倒も受け入れます。

 

「お待たせしました、どうぞ」

「ああ、ありがとう」

 

席に戻り、紅茶を入れたカップを志島さんに差し出す。口に合えば良いのですが。

 

「……美味しい」

「ありがとうございます」

「このプリンもイケるぜ?」

 

買って来たプティングを口にした刀堂さんも続くように言う。

 

「沢渡さんお気に入りのお店の新作です」

 

今は私のお気に入りでもありますが。私が作った物ではないとはいえ、褒められるのは嬉しい。あの店員さんにも伝えてあげましょう。

 

「デュエルの腕はともかく、そういうセンスだけはあるんだな、沢渡の奴」

 

「……は?」

 

自然な流れで口にした刀堂さんの言葉に、私はカップを取り落としそうになるほどの怒りを覚える。

 

「刀堂さん」

「? 何だよ」

「今の言葉、撤回した方が身の為です」

 

刀堂さんにはシンクロの件で恩がある。私は怒りを抑えて、そう口にする。

 

「沢渡の事か? つってもレアカードを使ってるだけで、腕はお前と比べたら遥かに下だろ?」

 

ダンッ! と思い切り机に手を叩き付け、私は立ち上がる。そして刀堂さんの目の前に歩み寄り、彼を見下ろしながら言う。

 

「今撤回しないのなら覚えておいてください。沢渡さんは必ず今以上に強くなる。私も、榊さんも、あなたも足元に及ばないくらいのデュエリストに必ずあの人はなる。その時、あなたは今の言葉を恥じる事になりますよ。そもそも私に負けた人が沢渡さんをどうこう言う資格があるとでも思ってるんでしょうか。というかあなたは沢渡さんを弱いと言いますが、沢渡さんとデュエルした事があるんですか? もしかしてデュエルした事もないのにそんなことを言ったんでしょうか。沢渡さんの噂や人柄で判断したんでしょうね。そういった油断がデュエリストとして致命的だとまだ気付けないんでしょうか。気付けないんでしょうね、でないとそんな台詞吐けないですもんね。それにシンクロやエクシーズがエリートだと言うのならそれに興味を持たなかった沢渡さんはペンデュラムの存在を予期していたからこそ興味がなかったんです。流石沢渡さんです、既存の召喚方法ではなく全く未知の召喚方法の存在を予想してるなんて私やあなたには出来ないですよね。それだけでデュエリストとしての才覚が私やあなたよりも、いえ、他の誰よりも上だと言えますよね。もうこの時点で私たちの負けみたいなものじゃないですか。だというのにあなたは沢渡さんが弱いと、しかも私よりも遥かに下だなんて良くのたまれましたね。むしろ尊敬してしまいます。ああ、井の中の蛙大海を知らずという言葉をご存知ですか? まさに今のあなたにぴったりじゃないでしょうか。まあ沢渡さんは大海どころか大陸、大空、大宇宙にすら匹敵する存在であるのは言うまでもないんですが、そこまで大きいと成程確かにあなたにはちょっと想像できないですよね、納得です。でもだからといって侮辱が許されるわけではないんですよ。無知は罪です、あなたの言葉は天に唾するに等しい行為だという事を自覚していただきたいです。ああ、また難しい言葉を使ってしまいました。すいません、つい熱くなってしまったようです。いえ、私は落ち着いていますけどね? ただ沢渡さんの事を正しく伝えようと思うと私にはこうして言葉を重ねて並べ立てて説明するしか方法がないんですよ。沢渡さんならもっとスマートにするでしょうが、私は沢渡さんではありませんから。その辺りを考えてもやっぱり沢渡さんは私なんかよりも遥かに素晴らしいんです。少しは伝わりましたか? その顔は伝わっていない顔ですよね、いいです、ならいくらでも言葉を紡いで伝えてあげましょう。気にすることはありません、お礼代わりだと考えてくれれば結構ですから、そうですね、まずは何処から話しましょうか、ああ、そうだ、最初は私が沢渡さんに教えてもらった――」

 

「だああああ! 分かった! 俺が悪かった! だから座れ! そして茶飲んで落ち着け! マジで!」

 

「……分かりました」

 

まだ言い足りませんが、仕方ありません。刀堂さんには借りがありますから、今回はこの辺りにしておきます。

 

「もしもまた沢渡さんを侮辱するようなら次は止めません」

「しねえ! もうお前の前ではしねえから!」

「私の前では……?」

「いやしない! もう金輪際沢渡の話はしねえ!」

「それは沢渡さんが話す価値もないと言いたいんですか……?」

「違え! もうどうしろって言うんだよ!? おい北斗、お前も何か言ってやれ!」

「うぅ、どうして僕はこんな奴に……」

「北斗ォ!」

 

何やらまたネガティブになり始めた志島さんが助けの手を差し伸べてくれるはずもなく、それから紅茶が完全に冷めてしまうまで刀堂さんは私に詰め寄られ続けたのでした。

……少し、やりすぎたでしょうか。いやでもまだまだ言いたい事はたくさんあったので、大人しかった方ですよね、はい。

 

 

……沢渡さんに早く会いたいです。ここ数日、学校でしか見る機会がないんですよ! このままだと学校で沢渡さんに会いに行ってしまいそうな勢いですよ! ああ、でもそんなことしたら沢渡さんの迷惑に……一体山部たちはこの衝動をどうやって抑えてるんだろうか。って山部たちは沢渡さんと同じクラスだった……こんな思いをするぐらいなら、あの時お父様にお願いしておくべきだったでしょうか……はあ。

柊さんの謝罪を済ませたとはいえ、まだまだ悩みの種がいっぱいですね……。

 




シンクロテコ入れはまだ先……
リアルでも遊星ストラクでシンクロ復権するはず(願望)。
リミットオーバー・ドライブのおかげでベエルゼウスやスカノヴァ、セイヴァ―が出せるようになって楽しいです(勝てるとは言ってない)
次回はちゃんとネオ沢渡さんが出ます

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