沢渡さんの取り巻き+1   作:うた野

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後編です。


二つの人形

「酷いのはセキュリティだけじゃねえよ」

 

手に入れた食料を抱えながら、遊矢の仲間を探しに出ていたクロウは自らの住居へと帰還した。

クロウの住居に待っていたのは次元を越えて来たという4人のデュエリストと彼が世話する三人の子供たち。

このシンクロ次元で行われているライディングデュエルについて彼らは子供たちから話を聞いていたところだった。

悪態を吐きながら、クロウは今のシティの現状を吐露する。

 

「遊矢、お前も今外に出たらセキュリティに追い掛けられて実況中継されちまうぜ。恥を晒したくなかったら今はまだ動くな――お前もな」

 

遊矢と、そして最も気の強そうな少女、セレナへとクロウは釘を刺す。

 

「街はセキュリティだらけという事か。それで尻尾を巻いて戻って来たと」

「何だと?」

「っ、おい!」

「セレナさん、わたしたちは彼に救われた立場です。その態度は失礼です」

 

セレナの言葉に遊矢と詠歌は彼女を諫める。

 

「柚子の情報は何もないのか」

 

セレナは自らと同じ顔をした少女、柊柚子に恩を感じていた。アカデミアの真実を、自分たちがやって来た事の罪の重さを、彼女は教えてくれたから。

そんな彼女が行方不明となった事に、セレナは誰よりも責任を感じていた。だからこそ、そんな態度を取ってしまったのだろう。

 

「セレナっ、クロウだって俺たちの為に色々と――」

「努力しても結果が0では意味がない……っ」

 

そう言い捨て、セレナは出口へと向けて歩き出した。

 

「セレナ、何処へ――クロウ?」

 

彼女を止めようとする遊矢を制し、クロウは口を開いた。

 

「確かに柚子って奴の情報は何も得られなかった。けど、成果はあったぜ」

「……何?」

 

「――やれやれ、聞いてはいたが、とんだじゃじゃ馬だな。セレナってのは」

 

セレナが向かおうとしていた出口がゆっくりと開く。

 

「お前は――」

 

その扉の向こうに立っていたのは、

 

「逢歌……?」

 

詠歌と同じ顔をした少女。一番先に反応を示したのは、詠歌だった。

 

「……いや違う。誰だ、お前は」

 

しかし、セレナは詠歌の言葉を否定する。短い付き合いだが、共に次元を越えてスタンダードへとやって来たセレナには分かる。服装だけではない、彼女には逢歌とは別の感情を感じた。僅かに、しかし隠しきれない敵意が。

 

「まさか、この次元の……?」

 

逢歌ではない。ならば遊矢と同じ顔をしたユーゴと同じようにこの次元に存在しているであろう、もう一人の少女。逢歌が話していた、彩歌という少女。

 

「それも違うな。……オレは舞歌」

 

逢歌以上に見た目に似つかわしくない言葉遣いで少女はそう名乗った。

 

「お前たちアカデミアに蹂躙された、ハートランドの住人だよ」

「エクシーズ次元……!?」

 

詠歌が驚きの声を上げる。エクシーズ次元にも自分や逢歌と同じ立場の人間が居る事は予想していた。だが、このシンクロ次元で出会うとは思っていなかったからだ。

 

「エクシーズ次元の人間がどうして此処に居る。黒咲と同じレジスタンスか?」

 

セレナは警戒を隠す事無く、身構えたままそう問いかけた。

 

「いいや違う。オレはレジスタンスじゃない。そんなものが結成する前にオレは、アカデミアにやられちまったからな」

「何だと……? なら何故、無事でいられる?」

 

アカデミアに敗北したもの、戦う事すら出来ずに虐げられた者、それらは皆、カードへと封印された。

舞歌の言葉が真実ならば、それはあり得ない。

 

「……詠歌、それと――沢渡さん。お前たちに話がある」

 

外を差し、舞歌は二人を呼ぶ。

 

「んだと?」

「……聞きましょう」

「チッ……」

 

「あっ、おい、二人とも!?」

 

立ち上がった二人を遊矢が呼び止める。

 

「わたしも彼女に聞いておきたい事があります。大丈夫です」

 

詠歌にそう言われ、遊矢はそれを見送る事しかできなかった。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

 

 

「……本当にそっくりなんだな、オレとお前は」

「舞歌、と言いましたか。あなたは……」

「ああ。お前たち二人には話しておかないといけないからな。それも、約束だからよ」

「こいつ……久守はともかく、俺にも話ってのは何だ」

 

偉そうに壁に背を預けながら、沢渡……さんはオレに先を促した。

聞いていた通りの性格みたいだな。

 

「お前たちは知ってるんだろ。お前の――詠歌の中に居た子の事」

「っ……!」

 

知っているはずだ。詠歌と沢渡さん、そして此処には居ないけれど、逢歌は――名前を呼ぶ事の出来ない少女の事を。

 

「お前――‟詠歌”を知ってんのか!?」

 

唯一、沢渡さんだけがあの子の事をそう呼んだ。

 

「……どうして、エクシーズ次元のあなたが‟彼女”の事を」

「会って、話をしたからだ」

「っ――! ”彼女”がエクシーズ次元に!? いつ、どうして!?」

 

そう告げると詠歌はオレに掴みかかるような勢いで問い詰めて来る。……告げなきゃならねえ。

 

「……」

 

オレは無言で一枚のカードを取り出し、詠歌へと手渡した。

 

「……?」

「なんだ、それ」

 

手渡されたカードを詠歌と沢渡さんが覗き込む。そしてそれが何であるかを理解した瞬間、二人の顔が驚愕に歪んだ。

 

「こ、これは……‟彼女”は……!」

「……おい、どういう事だ、これは」

 

それは、それに描かれているのは。目の前の詠歌と同じ格好をした、オレや詠歌と同じ顔をした、一人の少女。

 

「……それが、今のあの子だ」

「ッ――!」

 

僅かに、沢渡さんの方が早く動いた。オレの胸倉を掴み、睨みつける。

 

「どういう事だ、ああ!? 何で、どうしてあいつが――カードになってやがる!?」

「っ、あの子はッ、あの子は元の世界に帰ったはずです! わたしじゃない、彼女として! それなのにどうして!? どうしてこんな……!?」

「……」

「や、約束したんだ! わたしじゃないあの子として、もう一度再会するって! わたしを倒して、最後まで自分勝手に、一方的に約束をして、あの子は!」

 

震える口調で詠歌が叫ぶ。……ああ、そうだな。その話も、聞いてる。

 

「答えろ! お前、あいつに何をしやがった!?」

「……想像がつくんじゃないのか、詠歌。あの子と一緒に居たお前なら」

 

沢渡さんの力が強まる。抵抗はしない。彼の怒りは当たり前だと思うから。オレにはそれをこんな形で受け止める事しか出来ない。

 

「まさ、か……」

 

オレとカードを見て、詠歌は真実に辿り着く。あの子と一緒に居た詠歌なら、すぐに気付くと思っていた。

 

「今度は、あなたの中に……?」

「……ああ。そうだ」

「ああ!? どういう事だ、そりゃあ!」

「……オレはアカデミアにカードにされた。お前たちも見たんだろ、カードにされた連中を」

「っ、だったら何で詠歌がこうなってやがる!? お前じゃなく、どうしてあいつが!?」

 

さらに強くなる沢渡さんの腕を、詠歌が解いた。

 

「……カードに封印できるのは、一枚につき一人だけ。そういう事ですね」

「……ああ」

 

肯定する。詠歌の言う通りなのだろう。だからオレが、今此処に居る。自由に動く手足を持って、立っていられる。

 

「っ……馬鹿じゃないですか……? あなた、言ってたじゃないですか。わたしじゃないあなたとして、もう一度こっちの世界にやって来るって……それがどうして、そんな恰好で其処に居るんですか……っ」

 

あの子の封印されたカードを胸に抱いて、詠歌は崩れ落ちた。涙を流しながら、震えながら。

 

「あの子から伝言がある。お前らに会ったら伝えてくれって、そう頼まれた」

「……話してください」

「……まずは詠歌――」

 

 

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

 

 

『逢歌の次は詠歌にですね……そうですねえ』

「……」

『再会は少しお預けです。私は直接手助けは出来ないけれど、ミドラーシュやあの子たちと、あなたの大切な人形(シャドール)たちと一緒に戦って。あなたの力で、あなたの意思で、あなたの為に戦って。一度は終わってしまった命を、今度こそ最後まで止めないで、生き続けて。もう二度と、満たされぬ魂なんて呼ばせないように――って、伝えてください」

「……うん」

「それから……沢渡さんですねっ。沢渡さんには……どうしましょう。伝えたい事が多すぎてやばいです。そ、そうですね……うーん……あっ、そ、そうだ! 返事! 返事は次に会った時に聞きますから! 絶対に誰にも言わないでくださいね!? わ、私はどんな答えでも受け入れますから! 絶対に、絶対に直接聞きに行きますから! だから待っててください! あ、それからシンクロ次元でもちゃんとご飯は食べてくださいね! でも甘いものばかり食べ過ぎちゃ駄目ですよ!? 私、あれでも色々とカロリーとか考えて選んでたんですから! う、うぅ……他にも色々伝えておきたい事がありますが……とにかく! 私、楽しみにしてます! 沢渡さんのエンタメ! 私とのデュエルで見せてくれた、沢渡劇場を! 私も今度はしんみりしたデュエルじゃなく、もっと盛り上がるデュエルにしますから! だから……だから! ネオ・ニュー沢渡さん、マジ最高っすよ! ……こんな感じ、ですかね』

「分かった。必ず伝えるから……!」

『あ、はい……何か改めると少し照れますね……それじゃあ、申し訳ないですが、お願いしますね……舞歌』

「うん、うん……っ」

『きっと、これから大変だと思います。でも大丈夫。詠歌が、逢歌が、沢渡さんが、ランサーズが、それにシンクロ次元の人たちがきっとあなたに力を貸してくれます。だからあなたの力を、ランサーズに貸してください。きっとその中であなたが無くしたものも取り戻せるはずです。詠歌のように、私なんかが入り込む余地がないくらいの――満ち足りた魂になれるはずですから』

「でも……私に出来るのかどうか……私は一度逃げ出して、それでも逃げきれなくてこんな……」

『それなら、あなたにプレゼントをあげます。私とも詠歌とも違う、人形たち。そしてそれを扱う、私の知っているとあるデュエリストの話を」

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

 

 

「……確かに伝えたよ」

「……」「……」

 

一字一句違える事無く、オレは二人に‟彼女”からの伝言を伝えた。

 

「……はっ、言われるまでもねえ。さらに進化したこの俺のデュエルを見せてやるぜ……!」

「……本当に、自分勝手なんですから。わたしと約束しておいて、こんな寄り道をして……」

 

……凄いな、あの子は。私に――オレに勇気をくれたように、言葉だけで、二人に力をくれた。

 

「オレはあの子と約束をした。その約束を果たす為にオレもランサーズに入れてくれ。それが多分、アカデミアをぶっ潰す近道だと思うからよ」

「……分かりました。赤馬社長と再会したら伝えましょう」

「ありがとよ」

「……それからこれは、彼女はあなたが持っていてください。……あなたも、それでいいですね?」

「好きにしな。誰が持っていようと関係ねえ。俺のエンタメは次元を越えて観客を湧かせるんだ。たとえカードになってようと見せつけてやるぜ」

「……いいのか?」

「ええ。多分、今のあなたには彼女が必要です。わたしはもう……満たされぬ魂なんかじゃないから。彼女が居なくても、わたしは戦える」

「……分かった」

 

詠歌からあの子が封印されたカードを受け取り、懐へと仕舞う。それだけで勇気が湧いてくる気がした。

 

「……一つ、お願いがあります」

「何だ?」

「沢渡シンゴ、榊さんたちには上手く言っておいてください」

「はあ? 一体何を――」

 

沢渡さんにそう告げると、詠歌はデュエルディスクを構えた。

 

「‟彼女”が選んだあなたの力を、わたしに見せてください。ランサーズに相応しいだけの力を、一度は封印されたあなたがアカデミアに立ち向かえる力と覚悟があるのか、わたしに」

 

……そういう事か。

 

「いいぜ、相手になってやる」

 

覚悟ならあるさ、詠歌。一度は逃げ出した私だけど、今のオレにはあの子がくれた力がある。あの子が教えてくれた、勇気がある。

同じようにオレもデュエルディスクを構えた。

 

「わたしたちランサーズがアカデミアに対抗する為の最大の武器はアクションフィールドとアクションカード。あなたもランサーズになるなら、それに慣れてください――アクションフィールド・オン」

『フィールド魔法、クロス・オーバー』

 

フィールドが展開され、アクションカードが周囲に散らばる。これがあの子の言っていたアクションフィールドか。

 

「上等じゃねえか。楽しませてもらうぜ!」

「いきますよ、舞歌!」

 

「デュエル!」「デュエル!」

 

EIKA VS MAIKA

LP:4000

 

「わたしの先攻! わたしは手札から速攻魔法、神の写し身との接触(エルシャドール・フュージョン)を発動! 融合するのは手札のシャドール・ビーストとシャドール・ヘッジホッグ! 影糸で繋がりし獣と鼠よ、一つとなりて神の写し身となれ! 融合召喚!」

「融合……!」

 

アカデミアと同じ、だけれど決して違う紫の光。詠歌のアカデミアと戦う為の力!

 

「おいで、神の写し身! 探し求める者、エルシャドール・ミドラーシュ!」

 

エルシャドール・ミドラーシュ

レベル5

攻撃力 2200

 

「……見せてあげよう、ミドラーシュ。カードなんかになっちゃったあの子に、わたしたちの力を」

 

無機質なはずの人形が、微笑んだような気がした。

 

「ミドラーシュが存在する限り、互いのプレイヤーは一ターンに一度しか特殊召喚出来ない」

「特殊召喚封じ……成程、厄介な人形だ」

「まだ終わりじゃないよ! 融合素材として墓地に送られたビーストとヘッジホッグの効果発動! カードを一枚ドローし、さらにデッキからシャドール・リザードを手札に加える! ――そして! 魔法カード、影依融合(シャドール・フュージョン)を発動!」

「いきなり二回の融合……!」

「わたしが融合するのは手札のシャドール・リザードとエフェクト・ヴェーラー! 落ちろ天幕! 影の糸で世界を包め! 融合召喚!」

 

今度の輝きは、先程よりも遥かに巨大だった。

 

「おいで、神の写し身、人形たちを総べる影の女王! エルシャドール・ネフィリム!」

 

現れたのは巨大な影の女王。人形たちを総べる者。

 

「……ふふっ、ありがと。ネフィリム」

「……?」

「この子は本当はもっともっと大きいの。でも今その大きさで現れたら、大騒ぎになっちゃう。だから少し小さい状態で現れてくれたんだよ」

「……」

 

デッキを信頼しているのだろう。詠歌は嬉しそうにネフィリムを見上げた。

 

「融合素材となったリザードの効果発動! デッキの影依の原核(シャドールーツ)を墓地へ送り、その効果で墓地から影依融合を手札に戻す! 影依融合は一ターンに一度しか発動できないけど……さらにネフィリムの効果発動、デッキから二枚目のシャドール・リザードを墓地に送る、リザードの効果も一ターンに一だけ、わたしはこれでターンエンド!」

「オレのターン、ドロー!」

 

デッキへの信頼。それはオレにもある。信頼していたからこそ、オレはずっと使い続けて来たんだ。たとえ一度だってデュエルに勝てなくても、そして信じてたからこそ、オレは出会えたんだ。あの子が出合わせてくれた……!

 

「オレはギミック・パペット―死の木馬(デス・トロイ)を召喚!」

 

ギミック・パペット―死の木馬

レベル4

攻撃力 1200

 

召喚されるのは人体模型のような人形たちで作られた木馬。これがオレの信じる、詠歌ともあの子とも違う、人形。

 

「ギミック・パペット……へえ、この子たちには負けるけど、あなたも中々良い人形さんたちを持っているんだね」

「そいつはありがとよ! ギミック・パペット―死の木馬の効果を発動! こいつがフィールドに表側表示で存在する時、一度だけフィールドのギミック・パペットを破壊する事ができる! オレはその効果で死の木馬自身を破壊する!」

「自らの効果で……?」

「死の木馬がフィールドから墓地へ送られた時、手札のギミック・パペットを二体まで特殊召喚出来る!」

「その為に……でももう忘れたの? ミドラーシュが居る限り、特殊召喚は一度しか出来ない!」

 

ドラゴンを駆る人形が杖を掲げ、胸を張る。覚えているさ。

 

「速攻魔法、禁じられた聖杯を発動! このカードの対象となったモンスターは攻撃力がエンドフェイズまで400ポイントアップする、だが! モンスター効果は無効となる! オレはエルシャドール・ミドラーシュを選択!」

 

エルシャドール・ミドラーシュ

攻撃力 2200 → 2600

 

「っ……」

「オレは手札からギミック・パペット―ネクロ・ドールとギミック・パペット―ナイトメアを特殊召喚!」

 

ギミック・パペット―ネクロ・ドール

レベル8

攻撃力 0

 

ギミック・パペット―ナイトメア

レベル8

攻撃力 1000

 

「レベル8……!?」

「そのデケェ女王様にぴったりの相手を用意してやるよ! オレはレベル8のネクロ・ドールとナイトメアでオーバーレイ! 二体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築! エクシーズ召喚!」

「エクシーズ……!」

「現れろ、No.15! 運命の糸を操る地獄からの使者! 闇の中より舞台の幕を開けろ! ギミック・パペット―ジャイアントキラー!」

 

No.15 ギミック・パペット―ジャイアントキラー

ランク8

攻撃力 1500

ORU 2

 

「ナンバーズ……あの方舟と、同じ……?」

「こいつはあの子から受け取ったカードの一枚、オレがアカデミアへと立ち向かう為の力……見せてやるぜ」

 

あの子の言うように沢渡さんがエンタメを見せるというのなら、オレは――!

 

「オレのファンサービスをな!」

「フ、ファンサービス?」

 

目を瞬き、詠歌が鸚鵡返しに繰り返す。……オレがあの子から教えてもらった、デュエリストのモットーらしいそれは、やはり他人には理解しがたいものらしい。

 

「良く分からないけど……でもどんなモンスターだろうとネフィリムは倒せない! ネフィリムは特殊召喚されたモンスターとバトルする時、ダメージ計算を行わずに破壊する!」

「へえ、そいつはスゲエ……だがそれはバトルの時だけなんだろ? ジャイアントキラーの効果発動! オーバーレイユニットを一つ使い、お前のフィールドの特殊召喚されたモンスター一体をぶっ潰す!」

 

No.15 ギミック・パペット―ジャイアントキラー

ORU 2 → 1

 

「ッ!」

「まずはその女王様からだ! やれ、ジャイアントキラー!」

 

影糸を操り、女王はジャイアントキラーの魔の手から逃れようとする。だが無駄だ。

その影糸の全てをジャイアントキラーの指から伸びた糸が断ち切り、女王を掴み、己の胸へと抱く。

 

「ネフィリム!」

 

ゆっくりと女王はジャイアントキラーの胸の中へと飲み込まれていく。嫌な音を響かせながら、胸のローラーへとやがてその巨体全てが砕かれ、飲み込まれた。

 

「次はそいつだ! 残るオーバーレイユニット一つを使い、効果発動!」

 

No.15 ギミック・パペット―ジャイアントキラー

ORU 1 → 0

 

「っ、ミドラーシュ!」

「無駄だァ!」

 

ドラゴンを駆り、空へと飛びあがったもう一体の人形の体をジャイアントキラーの糸が掴む。

 

「砕けろ!」

「させ、ない!」

 

ジワジワと糸が手繰り寄せられ、ミドラーシュが飲み込まれる直前、詠歌は走り、一枚のカードを手に取った。

 

「アクションマジック、透明! このターン、選択したモンスター一体はモンスター効果を受けない!」

 

ローラーに砕かれる運命だったはずのミドラーシュの姿がかき消える。

 

「それがアクションカードか……成程な」

「……中々やるようですね」

「褒めるにはまだ早いぜ?」

「褒めたわけじゃありません。ほんの少しだけ、侮っていたというだけです……破壊されたネフィリムの効果発動! 墓地の影依の原核を手札に加える!」

「はっ、言ってくれるじゃねえか。オレはカードを一枚伏せてターンエンド。この瞬間、禁じられた聖杯の効果は終了し、ミドラーシュの攻撃力と効果が戻る」

 

エルシャドール・ミドラーシュ

攻撃力 2600 → 2200

 

「わたしのターン、ドロー!」

 

詠歌は笑う。……なあ、見えるか? あんたが心配してた詠歌は、もう大丈夫みてえだよ。

 

「わたしは再び影依融合を発動!」

「また融合か……!」

「ええ、でもさっきとは少し違いますよ! このカードは相手フィールドにエクストラデッキから特殊召喚されたモンスターが居る時、デッキのモンスターを融合素材に出来る!」

「っ、何!?」

「私が融合するのはデッキのシャドール・ドラゴンと――地帝グランマーグ! 舞歌、あなたが開けた舞台の幕、わたしが下ろしてあげましょう! 融合召喚! おいで神の写し身、舞台に幕を、世界に弓引く反逆の女神! エルシャドール・シェキナーガ!」

 

エルシャドール・シェキナーガ

レベル10

攻撃力 2600

 

現れたのは先程破壊したネフィリムによく似たモンスター。ジャイアントキラーと同じ、機械の玉座に座する女神。

 

「融合素材となったシャドール・ドラゴンの効果発動、あなたの伏せカードを破壊! さあ、お礼をしてあげます! シェキナーガでジャイアントキラーを攻撃! 反逆のファントム・クロス!」

「ぐっ……! ジャイアントキラーが……!」

 

MAIKA LP:2900

 

「ミドラーシュで直接攻撃!」

「チッ!」

 

こういう時の為のアクションカードって事なんだろっ? シェキナーガの攻撃による風圧に吹き飛ばされそうになりながらも、目についたアクションカードに向けて走る。ミドラーシュの杖に風が収束していく、まだだ、まだ間に合う……!

 

「届け――!?」

 

指一本、そこまで迫ったアクションカードが不自然に風で飛ばされていく。

 

「っ、この野郎――!」

 

カードを追って顔を上げると、ついさっきまで詠歌の傍に居たはずのミドラーシュが上空に居た。不自然な風の正体、それはミドラーシュの操るドラゴンによるものだった。

ミドラーシュと目が合う、表情は変わらない。人形なんだ、それが当たり前だ。だがオレにも分かった。この野郎、間違いなく笑ってやがる……!

 

「ミッシング・メモリー!」

「っ、くぅ……!」

 

MAIKA LP:700

 

「惜しかったね、舞歌。でもそれで良い、そうやってアクションカードを使うのが、わたしたちのデュエル」

「それを邪魔するのも戦術ってわけかよ……!」

「モンスターで邪魔する、ってのは普通狙ってやるものじゃないけどね……この子はお転婆だから。わたしはカードを一枚セットして、ターンエンド」

「やってくれるぜ……! オレのターン!」

 

……今まで、オレは負け続けて来た。そして最後には負ける事からも逃げて、アカデミアにカードにされた。

そんなオレが、次元を越えて、アカデミアをぶっ潰そうなんて、大それた事を言ってるのは分かってる。ランサーズに入る、ってのもあの子の頼みではあるが、一人で戦うのが怖いからなのかもしれねえ。

だけど、それでも。オレはもう逃げねえ。勝負からも、アカデミアからも。

 

「墓地の罠カード、ブレイクスルー・スキルの効果発動! このカードを除外し、相手モンスター一体の効果をターン終了まで無効にする! ミドラーシュの効果を無効!」

「さっきドラゴンで破壊した伏せカード……! またエクシーズですか……!」

「ああ、その通りだぜ! オレは墓地のギミック・パペット―ネクロ・ドールの効果を発動! 墓地の死の木馬を除外し、ネクロ・ドールを甦らせる!」

 

ギミック・パペット―ネクロ・ドール

レベル8

守備力 0

 

地面が割れ、再び棺桶の中から不気味な人形が姿を現した。

 

「さらに手札からギミック・パペット―マグネ・ドールを特殊召喚! こいつは相手フィールドにモンスターが存在し、オレのフィールドのモンスターがギミック・パペットだけの時、手札から特殊召喚出来る!」

 

ギミック・パペット―マグネ・ドール

レベル8

守備力 1000

 

「またレベル8のモンスターが二体……!」

「オレはレベル8のネクロ・ドールとマグネ・ドールでオーバーレイ! 二体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築! エクシーズ召喚! 現れろ――No.40! ギミック・パペット―ヘブンズ・ストリングス!」

 

No.40 ギミック・パペット―ヘブンズ・ストリングス

ランク8

攻撃力 3000

ORU 2

 

ヘブンズ・ストリングスの効果はオーバーレイユニットを使い、ストリングカウンターを全てのモンスターに置き、さらにストリングカウンターの置かれたモンスターを次の相手ターン終了時に全て破壊する効果。

 

『ミドラーシュが存在する限り、互いのプレイヤーは一ターンに一度しか‟特殊召喚”出来ない』

『ネフィリムは‟特殊召喚”されたモンスターとバトルする時、ダメージ計算を行わずに破壊する!』

 

オレの予想が正しいなら……。

 

「バトルだ! ヘブンズ・ストリングスでエルシャドール・シェキナーガを攻撃! ヘブンズ・ブレード!」

「ッ!」

「アクションカードを取らせる暇は与えねえ!」

「きゃああ!」

 

EIKA LP:3600

 

「シェキナーガの効果発動! 墓地の影依融合をもう一度手札に加える! くっ……エクシーズモンスターの真価は己の魂であるオーバーレイユニットを使い、相手を滅する事にあるって聞いていたけど、その子のは飾り?」

「いいや、なら見せてやるよ! ヘブンズ・ストリングスの効果発動! 一ターンに一度、オーバーレイユニットを一つ使い、このカード以外の表側表示になっているモンスター全てにストリングカウンターを置く!」

 

No.40 ギミック・パペット―ヘブンズ・ストリングス

ORU 2 → 1

 

「ストリングカウンターの置かれたモンスターは次のお前のターン終了時、破壊される!」

「成程……そういう効果だから、先に使わなかったんだ。もしも最初に使っていたなら、シェキナーガの効果で破壊できたのに」

「やっぱりな」

「……!」

「ミドラーシュもネフィリムも特殊召喚に関する効果を持っていた。ならさっきのシェキナーガも同じような効果を持ってると思ったぜ」

「予想していた……やるようですね。今度のこれは、褒め言葉ですよ」

「いいや、褒めるにはまだ早え。オレを認めるなら……オレの覚悟を見てからにしな」

 

これは、逃げ出したオレがもう一度立ち向かう為の一枚。

アカデミアに蹂躙され、滅びへと向かうハートランドの運命をぶっ壊す為の一枚。

 

「オレは手札から――RUM(ランクアップマジック)―アージェント・カオス・フォースを……発動!」

「ランクアップマジック……! 黒咲隼が使っていたものと同じ……!?」

「ぐっ……!」

 

言いようのない痛みがオレを襲う。あんたの言ってた通り、タダでは使えないって訳か。だがこれぐらいなら……!

 

「このカードはヘブンズ・ストリングスをランクアップさせ、新たなカオスナンバーズを生み出す! いくぞ! オレはランク8のヘブンズ・ストリングスでオーバーレイ! 一体のモンスターでオーバーレイネットワークを再構築!」

 

エクシーズ次元でも、スタンダードでもない、別の世界で生み出された、人類の切り札。オレに力を貸してくれ……!

 

「カオス・エクシーズ・チェンジ! 現れろ――CNo.40! 人類の叡智の結晶で、悪魔よ甦れ! ギミック・パペット―デビルズ・ストリングス!」

 

CNo.40 ギミック・パペット―デビルズ・ストリングス

ランク9

攻撃力 3300

ORU 2

 

「カオス、ナンバーズ……!? 違う……! これは、黒咲隼のランクアップとはまた別の……!?」

「デビルズ・ストリングスの効果発動! こいつが特殊召喚に成功した時、ストリングカウンターの置かれたモンスター全てを破壊する!」

「! ミドラーシュ!」

「今度は逃がさねえよ! 潰れろ、メロディー・オブ・マサカ!」

 

今度こそ、ミドラーシュは破壊される。

 

「どうだ……これがオレの覚悟で、オレの力だ……!」

 

煙が立ち込め、姿の見えなくなった詠歌にそう告げる。オレは勝つ、詠歌にも、アカデミアにも。

 

「そしてこの効果で破壊した攻撃力が最も高いのモンスターの攻撃力分のダメージを相手に与え、さらにオレはカードを一枚ドローする!」

「っ……」

 

EIKA LP:1400

 

「オレはカードを一枚セットして、ターンエンド……!」

 

約束を果たさなきゃならねえ。どんな事をしても、どんな事があっても!

 

「……見せてもらいましたよ、あなたの力は。だけど、わたしも――ううん、わたしたちも見せつけてやらなきゃならない。あの子に! わたしのターン!」

「来やがれ……!」

「わたしは影依融合を発動! わたしが融合するのはデッキのシャドール・ファルコンと氷帝メビウス!」

「何だ……?」

 

煙は晴れた。だが、オレの視界に広がるのは漆黒の闇。

 

「御伽の国に夜の帳が降りた時、安寧なる影に抱かれて新たな花よ――咲き誇れ! 融合召喚! おいで、御伽の国の夜の番人! エルシャドール・アノマリリス!」

 

エルシャドール・アノマリリス

レベル9

攻撃力 2700

 

「あなたにも見せてあげる。わたしの、わたしたちの力を!」

「……ッ!」

 

 

同じ顔をした少女たちはぶつかり合う。憎しみからではなく、ただ見せつける為に。

一人は自らの覚悟を、一人は成長した自らの姿を。

カードの中で眠る、自分勝手で我が儘な少女へと。

 

 

――未だ、少女たちは気付かない。カードに描かれた少女の姿が、僅かにだが薄らいでいる事に。

ナンバーズとカオスの力、普通の人間には過ぎたその力、その代償を一体誰が払っているのかに。

 

 

けれどいつか、舞台の幕が上がるのだろう。

その題目はきっと――――眠り姫の救出。

 




妄想が再び爆発した特別編でしたが、やはりシンクロ次元編は厳しそう……。
クロウやジャック、アニメ本編でキャラが増えた事と続けるつもりがなかったので登場させた彩歌など、キャラが多く、それにプラスして今回の舞歌と、さばくのが難しいです。

今回書きたかったのはマドルチェ、シャドールに続くもう一つの人形テーマであるギミパぺですので、とりあえず満足。
沢渡さんの出番が少ないのは不満足。だけど続かせるつもりもないのに最後の最後で沢渡劇場を予告するという。


後、私事ですがシンクロ次元の妄想が捗りすぎて自分自身も大型二輪免許取ってきました。(しかし購入したバイクは中型)描写には活かされてないですが……。
実際に試したわけではないですがライディングデュエルは危険ですので皆さん真似しないようにしましょう。というか無理。

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