沢渡さんの取り巻き+1   作:うた野

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バトルロイヤル終了


ランサーズ+2

LDS デュエル管制室。

モニターに映し出された映像に、部屋は騒然としていた。

 

「なんだ……あれは……!?」

 

カメラが回復し、柊柚子とシンクロ次元のデュエリストが姿を消してすぐ、久守詠歌、沢渡シンゴ、逢歌は邂逅した。それを追うように榊遊矢たち参加者が集った――そこまでは想定の範囲内だった。

その後、詠歌と逢歌のデュエルの最中、それは現れた。

 

「召喚エネルギー、最大レベル!」

「一体どちらのデュエルディスクからだ?」

「これは……アカデミア、逢歌の方からです!」

 

零児の問いに答えた管制官だったが、報告した彼女を含む全員が信じられないといった表情を浮かべていた。

 

「馬鹿な!? どうして融合次元のデュエリストがこれほどまでのエクシーズの召喚反応を!?」

 

デュエルの勝敗が決しようとした瞬間に光の渦から浮上した方舟――S・H・Ark Knight(サイレント・オナーズ・アークナイト)

その力の巨大さからか、再び監視カメラからの映像が一瞬途切れた。

 

「――!? 消えた……?」

 

僅か数秒の遮断、しかしカメラが回復した時、其処にはもう逢歌の姿はなかった。

 

「なっ……!」

 

そして今度はカメラの目の前で、久守詠歌が光となって方舟に吸い込まれるように消え、方舟もまた消えた。

俄かには信じられない光景に、管制室は沈黙に包まれる。

 

「全てのカメラを探しても、二人の姿はありません……」

「馬鹿な……」

 

もう一度、中島は同じ台詞を口にした。

 

「……社長」

「……彼女たちの事は後だ。残る融合次元の追手は?」

「現在、風魔忍者日影と紫雲院素良が、黒咲、セレナ、月影が残る三人と交戦中です。榊遊矢、権現坂昇もすぐ傍に。さらに沢渡シンゴ、茂古田未知夫、大漁旗鉄平もこのまま進めば火山エリアに到達します」

「バトルロイヤル終了まで残り僅か……」

 

バトルロイヤルが始まって初めて、零児はその腰を上げた。

 

「彼らのデュエルの監視を続けろ。それと同時に久守詠歌と逢歌の捜索も行うんだ」

「了解しました!」

「社長、どちらへ?」

「万が一に備え火山エリアに向かう。そしてバトルロイヤルが終了し、参加者たちが戻り次第、予定通り全世界に向けてランサーズの結成を宣言する」

「……分かりました。お気をつけて」

 

万が一、とは言ったが零児は確信していた。自分が出るまでもなく、彼らはアカデミアの追手を倒すだろう、と。

それでも彼が向かうのは――

 

(……榊遊矢の力をこの目で確かめなくてはならない)

 

自らの予想を超えた、ペンデュラムエクシーズを会得した榊遊矢の力を確かめる為、

 

(そして久守詠歌たちの所在も……)

 

何処かへ消えた二人の姿、カメラの死角に入り込んでいるだけの可能性もある、勿論あの超常的な現象を見て、その可能性が低い事は承知している。

 

(久守詠歌それに逢歌……彼女たちは一体何者だ?)

 

デュエルの最中に交わされた二人の会話、そのどれもが理解できない、不可思議なものだった。彼女たちは自分の知らない何かを知っている、何かを背負って戦っている。ランサーズを束ねる者として、無視できるものではなかった。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

 

 

OBERISK FORCE1 LP:2000

OBERISK FORCE2 LP:2000

OBERISK FORCE3 LP:2000

 

 

「ちっ、それがアクションカードか……」

「はっ、残念だったなあ? この俺を敵に回した事を後悔しやがれ!」

「ありがとう、沢渡くん、助かったよ……」

「なんややるやんけ、お前……!」

 

永続罠によるコンボを沢渡がアクションマジックによって防ぎ、茂古田は危機を脱した。

その事に安堵し、三人は再び勝機を見出した。だが、

 

「油断するな! まだ終わってはいない!」

 

融合次元のデュエリストであるセレナ、風魔忍者である月影、そしてレジスタンスとして戦い抜いて来た黒咲たちは未だ安堵も油断もしていなかった。

そしてセレナの言葉の通り、まだ悪夢は終わらない。

 

「その通りだ! まだ俺たちのコンボは終わっていない! 二枚の永続罠、古代の機械蘇生、古代の機械増幅器を発動!」

「んなっ!?」

「そして既に発動中の古代の機械閃光弾の効果を合わせ、もう一度2000のダメージを喰らわせてやる!」

「もうアクションカードとやらも打ち止めだろう! 今度こそ終わりだ!」

 

オベリスクフォースの言う通り、手札に加えられるアクションカードは一枚のみ、それを使った今、沢渡の手にアクションカードはなく、そしてもう付近にもアクションカードはない。

 

「目障りなお前からだ……! 喰らえ、アンティーク・リヴァイヴ・ハウリング!」

「俺ぇ!?」

 

標的となったのは沢渡、再び三つ首の猟犬から破壊の音が発せられた。

 

「沢渡くんッ!」

「あ、アクションカード! どっかにアクションカードはないんか!?」

 

迫り来る光を前に、三人はどうする事も出来ない。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

 

 

意識が戻る。目を開けば其処に広がっていたのはあの病室ではなく、この世界にやって来てから私が過ごした、あの部屋だった。

これは現実ではないとすぐに分かった。これは彼女が見せる、夢と現実の狭間の意識だけの空間。

 

「……話をしてくれる気になったんですか」

 

本物とは違い、綺麗に整頓されたリビング、椅子に腰掛け、問い掛ける。

 

『変な勘違いされるのも不愉快だから』

 

返答はすぐにあった。対面の椅子に、彼女の姿が現れる。

 

「……詠歌、私は――」

『言ったでしょ? 私はあなたの言葉なんて信じない。だからこれは会話じゃない、ただの映像みたいなものだよ。あなたはそれをただ眺めるだけ』

「……それでも、構いません。私はあなたの事を知りたい」

『知ってどうにかなるものじゃないけどね。私も、あなたも。これも言ったはずだよ、死んだ人には何も出来ないって――私も、あなたも』

 

詠歌は椅子に背を預け、呆れたように言った。

 

『見てて何となく事情は理解した。私の体にあなたが入って来たのはあのカードのせいなんだね。満たされぬ魂を運ぶ方舟、か。これに関してはあの逢歌ってそっくりさんと同じでいい気分じゃない』

「私一人の思いだけじゃ、方舟は動かなかった。私一人じゃ世界を超える程の想いなんて、なかった」

 

どれだけ悲しくても、どれだけ望んでいたとしても、私一人の想いだけじゃ無理だった。世界には私なんかよりも理不尽で死んでいく人たちが居る。ううん、あの子たちでさえ、私と同じか、それ以上の想いを持っていたはずだ。それでも私が世界を超えた理由、それが、

 

『私も願ったから、か。……うん、思い出した。大体は思い出してたけど、今完全に思い出したよ』

「詠歌……」

 

『私は半年前、自分で命を断った』

 

「……やっぱり、そうなんですか」

 

先程聞いた逢歌の話、それと同じように、詠歌も……。

 

『お母さんとお父さんが死んで、私だけ残されて……随分長い間待ってたよ。最初の頃は毎日親戚だったり知り合いだったりが押しかけて来た。優しい言葉を、私を気に掛ける言葉を掛けてくれた』

「……」

『――それが本当に鬱陶しかった。だから待った。誰も私を気にしなくなるまで。平気な振りをして。……そしてようやく会いに行けると思ったのに』

 

そう言って、詠歌は忌々しげに私を睨んだ。

 

『それなのに私はまだ此処に居る。どうして? ずっと我慢してた、誰にも迷惑を掛けず、誰も悲しませる事無く、やっとお母さんたちに会いに行けると思ったのに……』

 

沈黙の後、詠歌は笑う。

 

『あはは、でもいいよ。一度で駄目ならもう一度。今度こそ私はお母さんたちに会いに行く。あなたから体を取り戻して、私は自分の意思でお母さんたちに会いに行く。もう私を邪魔するのはあなただけだもの。逢歌がああなった以上、もうカードにされる心配もない。今度こそ終わりにする』

「……私があなたの体に宿ったのは、あなたも続きを望んだからのはずです。ただ消えていくはずだった私の魂を、あなたの魂が呼び寄せた。あなたもきっと終わりなんて望んでない……そうでしょう?」

『運命とでも言うつもり?』

「その言葉は好きじゃありませんよ。あの子たちが亡くなったのも、あなたの両親が亡くなったのも、運命なんかじゃない。そんな言葉で片付けるつもりはありません。ただ、無意味なんかじゃない、そう思っているだけです」

『あはは、意味なんてないよ。偶然、ただの事故みたいなものでしょ。あなたと一つになっても何も意味なんてなかった。私はただ迷惑なだけだよ。生きたいと思ってるあなたにとってはそうじゃないのかもしれないけどね』

 

笑い続ける詠歌に、私は突き付ける。今の彼女には刃とも言える言葉を。

 

「私と一つなら、あなたも聞いていたはずです。だからなんでしょう?」

『何の事?』

「――‟泣きたい時は笑え”。あなたも榊さんのあの言葉を聞いていた、だから笑っているんでしょう。泣きたいのを我慢して、平気な振りをして、必死に」

『……』

「もう一つ言いましょうか。榊さんのような強さがない、弱い私が信じる、大切な言葉を」

『……』

「‟我が儘を押し通せ、弱いなら我慢するな、子供らしく駄々を捏ねろ”――詠歌、あなたも同じです」

『っ……ご高説ありがとう。でもいいの? 私にそんな事を言う前に、やらなきゃならない事があるんじゃない? アカデミアはまだ残ってる、その言葉を吐いた沢渡シンゴや榊遊矢は大丈夫? 私は彼らがどうなってもいいけど、あなたは違うでしょ? まああなたの支えの彼が消えれば、私は楽に体を取り戻せそうだし、構わないけれど――』

「大丈夫ですよ」

 

詠歌の誤魔化しの言葉を一蹴する。そんな心配、端からしていない。

 

「私の戦いは終わりました。言った通り、ゆっくりと話をしましょう、詠歌。あなたがずっと抱えていたものを、私がずっと抱えていたものを」

 

 

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

 

(ふざけんな……! こんな所で終わってたまるかよ!)

 

アカデミアを倒し、自らがLDS最強である事を証明する為、そして何より、詠歌の帰りを待つ為に。

――諦められるはずがない。

それだけで十分だった。目前にまで光が迫り、それでも必死にアクションカードを探す彼の姿に、どんな時でも諦める事無く、必死で生きる姿に彼女は心惹かれたのだから。

だから、彼は十分に役目を全うしていた。その姿を、彼女に見せつけたのだから。

 

「……!」

 

目前へと迫った光が消え去る。

 

「アクションマジック、フレイム・ガード!」

 

先程と同じ、このコンボを破る為の一枚のアクションカードによって。

 

「何!?」

 

その驚愕の声は、オベリスクフォースのものだ。

だが声こそ上げずとも、皆の思いも同じだった。

光が霧散し、周囲が晴れる。

 

「……はっ、この俺を待たせるなんて随分偉くなったじゃねえか――久守!」

 

火山エリアの崖の上、そこに立つ一人の少女。

沢渡の窮地を救った、ローブを纏った少女。

 

「……ごめんね、あの子じゃなくってさ」

 

沢渡の言葉に、彼女はローブを脱ぎ捨てて答えた。

 

「……!? お前、逢歌……?」

 

セレナと同じ赤い制服に身を包む、詠歌と同じ顔をした、けれど詠歌ではない彼女。

――逢歌が其処には居た。

 

「逢歌……!? 何故お前が……」

 

沢渡に次いで反応を示したのは、セレナだった。

同じ融合次元、アカデミアに属するセレナだからこそ、疑問を抱いた。逢歌には沢渡を助ける理由などないのだから。

 

「お嬢様に言った通りだよ、僕も僕がやりたい事をやる。それだけだよ」

 

崖から逢歌はセレナたちの前に降り立つ。その腕にデュエルディスクを携え、手にカードを握り、オベリスクフォースへと相対する。

 

「僕のターン、ドロー!」

 

AIKA LP:4000

 

「天邪鬼だね、僕も、君たちもさ――! 僕は霊獣使いの長老を通常召喚し、効果発動! このカードが召喚に成功したターン、もう一度霊獣モンスターを召喚できる!」

 

霊獣使いの長老

レベル2

攻撃力 200

 

「僕は霊獣使いの長老の効果で手札から精霊獣 ペトルフィンを通常召喚!」

 

精霊獣 ペトルフィン

レベル4

攻撃力 0

 

「そのカードは……」

 

逢歌のフィールドに現れる、二体のモンスター。

それに沢渡は既視感を覚えた。長老の持つ杖と、精霊獣の姿に。

それは詠歌が使っていた人形たちの持つ物と同じ杖、同じ姿をしていた。

 

「ペトルフィンの効果発動! 手札の霊獣使い レラを除外し、相手フィールドのカード一枚を持ち主の手札に戻す! 古代の機械参頭猟犬を選択!」

 

イルカに似た姿をした精霊が空中を泳ぎ、巨大な猟犬へと触れた瞬間、その巨体が消えていく。

 

「チッ、お前も邪魔をするのか!」

「ああ、するよ。お前たちの片棒を担ぐのは御免だから、それが僕のやりたい事だから!」

「ならお前も一緒に葬ってやる! 回収を命じられたのはセレナ様だけだからな!」

 

オベリスクフォースは下卑た笑みを浮かべ、デュエルディスクに触れた。

 

「罠発動! 古代の機械(アンティーク・ギア・)再生融合(リバース・フュージョン)! 自分フィールドの古代の機械一体が相手のカード効果によってフィールドを離れた時、そのモンスターを素材に含む融合モンスターを融合召喚扱いで特殊召喚する! 現れ出でよ! レベル9、古代の機械(アンティーク・ギア・)究極猟犬(アルティメット・ハウンド・ドッグ)!」

 

古代の機械究極猟犬

レベル9

攻撃力 2800

 

「このカードの融合召喚に成功した時、全ての相手プレイヤーのライフを半分にする!」

「……!」

 

MICHIO LP:1000

TEPPEI LP:1000

SAWATARI LP:1000

TUKIKAGE LP:250

SERENA LP:1200

KUROSAKI LP:2000

AIKA LP:2000

 

「ッ、余計な真似を……!」

「ごめんね。今更虫のいい話だってのは分かってるんだ。君の責めは甘んじて受ける。でも今は、やらせてほしいんだ……!」

 

黒咲の舌打ちと共に発せられた威圧感に一瞬だけ彼を見て、逢歌は痛みに耐えて再びカードを握った。

 

「逢歌、お前は……」

「セレナお嬢様、此処に立ってるって事はきっと知ったんだろう? 僕たちアカデミアがエクシーズ次元で何をしたか」

「……お前は知っていたのか」

「僕はお嬢様と違って箱入りってわけじゃないからね。知ってたよ、お嬢様よりも少しだけだけど、アカデミアがどれだけ非道な組織なのか、外に対しても、内に対しても、ね。それを知って、僕は今まで何もして来なかった。自分に言い訳をして、ずっと目を反らしてきた。だからこうしてすぐに行動出来たお嬢様が少し羨ましいかな。けどいいさ、そうして間違え続けたからこそ、今僕は此処に立ってるんだから」

 

逢歌の瞳に映るのはオベリスクフォースと、借り物のカードたち。

 

「力を貸してよ、逢歌――! 僕はフィールドの霊獣使いの長老と精霊獣 ペトルフィンを除外する事で融合召喚を行う! 未来を見守る長よ、流れる水の精霊よ! 今一つとなりて杖を掲げよ! 融合召喚!」

 

光の渦へと二体のモンスターが消えていく。そしてその中から現れ出でる、新たな輝き。

 

「雷鳴轟かし、大空に羽ばたけ! 聖霊獣騎 カンナホーク!」

 

聖霊獣騎 カンナホーク

レベル6

攻撃力 1400

 

雷を纏い、光の渦より来たる一対の獣騎、大鷹と霊獣使いの長。

 

「攻撃力1400のモンスターで何が出来る!」

「いくよ、逢歌!」

 

オベリスクフォースの嘲りを無視し、少女は語り掛ける、自らの内に眠るもう一人の少女に。

 

「聖霊獣騎 カンナホークの効果発動! 一ターンに一度、除外されている霊獣と名の付くカード二枚を墓地へ戻し、デッキから霊獣カード一枚を手札に加える! 僕が選択するのは霊獣使いの長老と精霊獣 ペトルフィン」

 

掲げられた杖に雷が集い、新たな精霊を呼び覚ます。

 

「けどこの瞬間、カンナホークのもう一つの効果を発動! このカードをエクストラデッキに戻し、除外されている霊獣使いと精霊獣一体を守備表示で特殊召喚する! おいで、霊獣使い レラ! 精霊獣 ペトルフィン!」

「一体何を……!?」

 

雷鳴の中、二体のモンスターが姿を現す。

 

霊獣使い レラ

レベル1

守備力 2000

 

精霊獣 ペトルフィン

レベル4

守備力 2000

 

「そしてカンナホークの最初の効果、除外されている霊獣使いの長老一枚だけを墓地に戻し、デッキから速攻魔法、霊獣の相伴を手札に加える!」

 

逢歌のデッキは詠歌とは真逆だった。

除外に対し無力である詠歌のデッキと、除外されてこそ真価を発揮する逢歌のデッキ。正反対のデッキを扱う二人の少女たち、けれど今、彼女たちは同じ目的の為にその力を振るう。自らの意思で。

 

「いくら壁モンスターを並べた所で無駄だ!」

「壁? 違うよ、この子たちは繋げてくれる、僕たちの意思を、力に変えて! 速攻魔法、霊獣の相伴を発動! フィールドのレラとペトルフィンを除外し、エクストラデッキの霊獣モンスター一体を召喚条件を無視して特殊召喚する!」

 

デュエルディスクから一枚のカードが少女の手に収まる。それを見て、彼女は微笑んだ。

 

「風を操る担い手よ! 流れる水の精霊よ! 今一つとなりて天高く杖を掲げよ!」

 

風と水、霊獣使いと精霊獣、二体が触れ合った瞬間、生まれたのは光輝く炎だった。

 

「――騎乗せよ! 聖霊獣騎 ガイアペライオ!」

 

聖霊獣騎 ガイアペライオ

レベル10

攻撃力 3200

 

その姿は奇しくもオベリスクフォースに敗れたユースのデュエリストが使っていたモンスターに似ていた。

異なるのはその身に纏う聖なる炎と、それを駆る少女が居る事。

 

「攻撃力、3200……!」

「受けてみなよ、君たちが、アカデミアが落ちこぼれと罵り、嘲笑った逢歌の力を、僕たちの力を! 聖霊獣騎 ガイアペライオで古代の機械究極猟犬を攻撃! フレイム・ストライク!」

 

霊獣使いレラが杖を掲げた瞬間、ガイアペライオの鬣の炎が激しく燃え盛る。逢歌の言葉に呼応するように、聖霊獣騎、レラとガイアペライオは大地を蹴り、機械の猟犬へと迫る。

喉笛に喰らい付き、杖が振られ炎が機械の体を燃やし尽くす。

 

「ぐぅ……!」

 

OBERISK FORCE1 LP:1700

 

猟犬は燃え尽き、ガイアペライオは逢歌を守るように彼女の前に立ち塞がった。そしてその背の霊獣使いはこの時を待ちわびていたかのように、微笑んだ。

 

「……ごめんよ」

 

逢歌の小さな呟きは周囲には届かない、ただ霊獣使いの少女だけがその謝罪を聞き、笑みを深めた。

 

「くっ、たかが300のライフを削った程度でいい気になるな……!」

「そうだね、今の僕にはこれが精一杯だ。今まで散々間違えて、今更いきなり結果を出せるなんて思ってないさ――でも、僕もまた繋げた。僕も信じてみるよ、あの子が信じた、彼の力をね」

 

今までにない、逢歌の安らいだ笑み。その先に立つ、一人のデュエリスト。

 

「はっ、上出来だ。後はこの俺に任せておきな! 俺のターン!」

 

沢渡シンゴが、其処には居る。

 

「――俺はスケール1の魔界劇団―デビル・ヒールとスケール8の魔界劇団―ファンキー・コメディアンでペンデュラムスケールをセッティング!」

 

逢歌によって繋がれたものを、沢渡は無駄にはしない。彼の手には新たな力が、彼の探し求めていた力が握られている。

 

「これでレベル2から7のモンスターが同時に召喚可能! ペンデュラム召喚!」

 

天へと昇る二つの光の柱、その中心から現れ出でる、沢渡の新たなエース。

 

「現れろ、レベル7! 魔界劇団―ビッグ・スター!」

 

魔界劇団―ビッグ・スター

レベル7 ペンデュラム

攻撃力 2500

 

光と共に現れた魔界の演者、その手には台本。今、舞台の幕が上げられた。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

 

 

氷山エリア。

シンクロ次元のデュエリスト、ユーゴに敗北し気絶した梁山泊塾の二人以外に誰も居ないはずの其処に、人影があった。

 

「……」

 

一人はLDS、そしてランサーズを束ねる者、赤馬零児。そして彼の視線の先、もう一人の人影――久守詠歌。

 

「……赤馬さん、ですか」

「――つい先程まで、君の姿をカメラで捉える事が出来なかった。……君は今まで何をしていた?」

「私からも一つ質問があります。……私の記憶を書き換えたのは、あなたですよね」

「……そうだ」

 

詠歌の問い掛けに僅かに眉を上げ、しかし心の内を悟らせる事無く零児は頷く。

 

「君にランサーズを選定してもらう為、そして黒咲を選手権に参加させる為、必要だからそうした。そしてもう間もなく、ランサーズが選ばれる。私のやり方を非道だと罵ってくれて構わない。だが、必要だった」

「そうですか。……理由は今となっては何でもいいんです。理由がどうあれ、それがきっかけとなって私は彼女と向き合う事が出来ましたから。だから今更それを責めるつもりはありません。むしろお礼を言いたいくらいですよ――ありがとうございます」

「っ――――」

 

詠歌の晴れやかな笑みと共に告げられた感謝の言葉に、零児は一瞬言葉を失った。計画を立て、予測を立て、彼はここまでやって来た。けれど詠歌のその言葉は、完全に想定の外の言葉だったからだ。

 

「次は私が質問に答える番ですが……でももうすぐバトルロイヤルが終わるんですよね。少し長い話になります、沢渡さんたちの所に向かいながらでいいでしょうか」

「ああ、構わない。私も向かう途中だ」

 

 

 

バトルロイヤル終了時刻が刻一刻と迫る中、私は赤馬社長と共に歩きながら、私の事を話した。融合次元やシンクロ次元の存在を以前から知っていたからだろう、赤馬社長は私の話を否定することなく、静かに聞いてくれた。

 

「――今、やっと見えたんです。私の答えと、終着点が」

 

私がかつて生きた世界の事、この世界で生きていた詠歌の事、そしてこれから私が成そうとしている事。その全てを語り終えた時、アクションフィールドが解けていった。

 

「私がお話し出来る事はこれで全てです。あなたが今の話を聞いてどうするのかは分かりません。でも、私のやる事は変わらない。もう……ううん、ようやく決めた事ですから」

「――話は理解した。だが今はその話は置いておこう」

「え?」

「私にも君にも、やるべき事があるだろう?」

 

そう言った赤馬社長の視線の先には、会いたいと願っていた人が居た。

 

「はい。でも違いますよ、赤馬社長。私のやる事はやるべき事じゃなく、私がやりたい事なんです。いつだって、そうだった」

 

そう伝え、私は走り出す。あの人の無事をこの目で、この手で確かめる為に。

 

 

「――沢渡さん!」

 

 

駆け寄り、怪我がない事を確認して安堵する。

 

「久守」

「良かった……」

「それはこっちの――まあいい。お前も無事だったんだな」

「はいっ、私はこの通り大丈夫です!」

「ならいい」

 

沢渡さんの無事を確かめ終え、ようやく橋の上に並んだ他の人たちに目が行く。権現坂さん、デニスさん、月影さん、黒咲さん、茂古田さん、大漁旗さん、方中さん、柊さんそっくりのセレナという少女と逢歌、そして……一人佇む榊さんの姿。

他の人たちがどうなったのかは分からない、けれど私が出会った人たちは皆無事……ただ喜ぶ事は出来ないけれど、それでも良かった。

 

「紫雲院さんは……?」

「彼ならアカデミアに戻ったよ。バトルロイヤルが終わってすぐにね」

 

私の問いに答えたのは逢歌だった。肩を竦め、残念そうに彼女は言う。

 

「逢歌……見つかりましたか、あなたの探しものは」

「さてね。それはこれから確かめていくさ。正しいのか間違っているのか、本当に求めていたものなのかそうでないのか……幸か不幸か、僕にはまだ時間が残されているみたいだからね」

 

一瞬躊躇った後、逢歌はそう続ける。彼女には気づかれているみたいですね。別人だとしても似た者同士に変わりはないって事でしょうか。

 

「あなたならきっと見つけられるはずです。私に見つけられたように」

「成程、それは説得力のある台詞だ」

 

逢歌が笑い、私も微かに笑った。

 

「――君たちのデュエル、見せてもらった」

 

そして聞こえてきた赤馬社長の声に皆の視線が集中する。

 

「っ、赤馬零児……!」

 

真っ先に反応したのは榊さんだった。

 

「随分とタイミングの良い事じゃねえか。……俺はお前が言った通り、アカデミアの連中を追っ払った。これで俺もランサーズの一員って訳だな?」

 

次に反応を示したのは沢渡さん。

 

「ランサーズ……? なんだそれは?」

 

沢渡さんの言葉に権現坂さんが疑問の声を上げる。

 

「はっ、このバトルロイヤル、いいや舞網チャンピオンシップそのものがデュエル戦士選抜の為の試験だったって事だよ」

「ちょ、ちょっと待ち!」

「大会そのものが試験って、それじゃあ……!」

 

僅かに嫌味を込めて言う沢渡さんに大漁旗さんと茂古田さん、そして榊さんが反応する。

 

「どういう事だよ、答えろ赤馬零児……! お前は融合次元の奴らが現れる事も最初から分かってたのか……!?」

 

当然の疑問。私も抱いていた疑問、その疑問の答えは先程、赤馬社長本人から聞いている。彼女、セレナを追ってアカデミアが侵入して来る事をセレナ本人から聞き、三回戦をバトルロイヤルに変更したのだ、と。

 

「どうしてプロやユースじゃなくて、まだジュニアユースの俺たちを……」

「ユースも戦ってたぜ。一人を残して全滅させられちまったらしいがな」

「全滅ッ……?」

 

沢渡さんの言葉を補足するように逢歌が言葉を発した。

 

「シンクロ次元のデュエリスト、ユーゴくんの乱入がなかったら残る一人もやられていたよ。決して弱くはなかったんだろうけれど、最近教え始めたっていう付け焼刃のシンクロやエクシーズはアカデミアには通用しなかった。……唯一、他の次元には存在しないペンデュラムを除いてはね」

 

……それも赤馬社長は分かっていたのだろうか。真に融合次元に対抗しうるのは、ペンデュラムを受け入れたジュニアユースクラスのデュエリストだと。

 

「私の見込み通り、君たちはアカデミアの撃退に成功した――まさに対アカデミアの為のデュエルの戦士、ランサーズの名に相応しい力を示したというわけだ」

 

わざとらしく、まるで榊さんたちを煽るように赤馬社長は称えた。

 

「ふざけるな! 何がランサーズだ……! そんな事の為に俺たち以外の参加者はカードにされて……! 柚子も……!」

 

怒りの声と共に、榊さんの瞳から涙が零れ落ちる。……柊さん。

シンクロ次元は敵ではない、そう赤馬さんは言っていた。けれど彼と消えた柊さんが本当に無事なのか、それを今確かめる術はない。

 

「お前のせいでみんなは……柚子はッ!」

 

私には榊さんを止める事は出来ない。今必要なのはアカデミアに対抗する為の力と、前へ進む希望。そしてそれを与える役目は私ではなく、赤馬社長が自らやろうとしている。

今となっては赤馬社長のやり方全てを肯定する事はできない。だけど、それを否定する事もまた、出来ない。

私は自分の進む道を見つけた。……同時に、その権利を失った。

僅かに、迷いが生じる。本当にこれでいいのかという迷い。

……榊さんの慟哭は私の心にも響いているから。

それでも、その迷いを振り切る。拳を握り、唇を噛み締め、私は迷いを消す。

 

「……」

「っ……」

 

そんな私の肩に手が置かれる。逢歌の手だった。

無言だけれど、その手の温もりが私に安らぎをくれた。

 

「……そもそもお前は何なんだ、それにこの柊柚子そっくりの女は? 俺もまだその説明は受けてねえぞ、赤馬零児」

 

それを見て、沢渡さんが問い掛ける。恐らく他の人たちも抱いている疑問を。

 

「――私はセレナ。アカデミアのデュエリストだ」

 

私から手を放し、逢歌はまた肩を竦めて答える。

 

「僕は逢歌。セレナお嬢様と同じくアカデミアのデュエリストだよ。……ま、元と言っていいけどね」

 

逢歌はセレナに視線を向けると、彼女も頷いた。

 

「セレナも逢歌も、彼女たちはアカデミアに追われている」

 

赤馬社長がそれを肯定するように言葉を繋ぐ。

 

「そうだ。オベリスクフォースは私を追って来た。……逢歌も柚子も私に巻き込まれたに過ぎない」

「っと、勘違いしないでよ。確かに僕はお嬢様に巻き込まれる形でこのスタンダードにやって来た。けど僕には僕の目的があっての事だ。まったく、一人だけ悪ぶるなんてズルいよ、お嬢様」

「目的だと?」

「ああ。僕は詠歌を、この子を苛めに来たのさ。追いつめて追い込んで、最後には――」

 

わざとらしい口調で言いながら、逢歌は一枚のカードを取り出した。

 

「こうやってカードにしてやる為にね」

 

……あの女性が封印されたカードを。

 

「――!」

 

それを見て、敵意が一気に逢歌へと集中する。事実とはいえ、悪ぶっているのはあなたも同じじゃないですか。

 

「ちょっと待って! そうだとしても、彼女は僕たちを助けてくれたんだ! 彼女がいなかったら僕や沢渡くんもやられて、あいつらにカードにされてたかもしれない!」

 

私が口を開くよりも早く、茂古田さんが逢歌を庇う言葉を紡ぐ。

 

「それは皆も見てただろう?」

 

……そうか、やっぱり逢歌が沢渡さんを助けてくれたんですね。詠歌にはああ言ったけれど、本当に良かった。

 

「どっちも事実には変わりない。君たちが僕をどう見ようと、どう責めようと弁解はしない。……それだけの事をしたって自覚はある」

 

俯きながらそう言った逢歌の手は、先程の私のように強く握りしめられていた。

 

「逢歌の事は今言った通りです。次はセレナさん、あなたの事を聞かせてもらえますか」

 

静かに逢歌の手を握り、私はセレナさんに先を促した。

頷き、セレナさんは柊さんとの間にあった事を話してくれた――

 

 

 

――セレナさんの話と、それに乗じた赤馬社長の言葉で始まった榊さんと赤馬社長のデュエルが終わった。

そしてそれは即ち、ランサーズの選抜が終了した、という事。

 

スタンダード、融合、エクシーズ、それぞれのデュエリストたちによる対アカデミアの為の組織、ランサーズの結成が成されたという事だった。

 

 

 

「……ねえ詠歌」

「なんですか、逢歌」

 

スタジアムへと戻る途中、他の人たちから少し離れ、逢歌が私に声を掛けてきた。

 

「……言葉にしておくよ。それで何か変わるわけでも、許されるわけでもないけれど」

「……?」

 

静かな、けれど決意の秘められた瞳。今まで見た事のない表情だった。

 

「……ごめんなさい。酷いことを言って。ごめんなさい。君の大切な人を奪ってしまって……ごめんなさい」

「……」

「関係のない人を巻き込んだ。……一人で抱え込む強さなんてないくせに我慢して、それでも耐え切れずに他人を傷つけた。自分に嘘をついて、言い訳を重ねて……あの子たちとの約束を裏切った」

「逢歌……」

「……僕も戦うよ。逢歌の名前を借りて、逢歌の体を借りて、逢歌の力と――あの子たちに受け取った、思い出と一緒に。それで罪が許されるわけじゃない、でもそれが僕の、やりたい事なんだ。だからお願いだ。僕にも……この人の為に戦わせてほしい」

 

逢歌は手にしたカードを見つめる。その瞳の中にあるのは決意と、確かな後悔と罪の意識だった。

 

「……一つだけ補足がありました」

「え……?」

「私とあなたは同じじゃない、別人です。でも――他人じゃない。きっと妹が居たら、こんな感じなんでしょうね」

「……」

 

私の言葉に呆気に取られ、一瞬沈黙した後、逢歌は笑った。もう見慣れたといってもいい、あの偉そうな笑みだ。

 

「姉の間違い、だろう?」

「あっはっは、言ってなさい」

 

榊さんと沢渡さんのように間違い、ぶつかり合った私たちは笑い合う。

たとえどんな出会いでも、どんな関係でも、そこからやり直せる。全てを0にしなくても、一度始まった関係はきっと色々な感情を足したり引いたりしながら、続いて行く。

 

「おーい、お前ら何してんだ、置いてくぞ!」

 

先を歩く沢渡さんが立ち止まって振り向き、私たちを急かす。他の人たちの姿がもう随分と遠くに見えた。

 

「行きましょう!」

「わっ……」

 

 

逢歌の手を引き、私は走り出す。左手に繋いだ手の温もりを、踏みしめる地面の感触を噛み締めながら。

そして。

残った右手にまた、あの人の温もりを感じたくて手を伸ばす――――。




アニメとの差異
・みっちーと鉄平が生き残る(前回立った月影さんのフラグは折れた)。
・詠歌、逢歌がランサーズに加入。
・柚子がカードになっていないことを現時点で遊矢が知っている(ただしユーゴが融合の手先疑惑があるので社長とのデュエルの流れは変わらず)

生き残った二人も合わせると+4ですが、二人の扱いは次回。
予定では後二話で完結、デュエルは後一回だけになります。


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