EIKA LP:400
OBERISK FORCE1 LP:400
OBERISK FORCE2 LP:2300
「スタンダードのデュエリスト如きに何を押されてるんだよ!」
「ぐっ……騒ぐな……! 所詮あいつのライフは残り400……俺のターン! ……クソ、俺はターンエンド! だがこれで!」
彼らの言う通り、私のライフは400、吹けば消えるような僅かな物だけど、決して消えさせはしない。
「あ、ああ! 俺のターン! 古代の機械猟犬の効果発動! 相手フィールドにモンスターが存在する時、相手プレイヤーに600ポイントのダメージを与える! ハウンド・フレイム!」
「させない! シェキナーガの効果発動! 相手フィールドの特殊召喚されたモンスターが効果を発動した時、その発動を無効にし、破壊する! オーバークロック・ダウン!」
シェキナーガの体に巻き付くように在る杖が光を放ち、放たれた炎と共に機械猟犬を破壊する。
「さらに手札のシャドール・カード一枚を墓地に送る……私が墓地に送るのはシャドール・リザード。そしてリザードの効果でデッキからファルコンを墓地に送り、効果を発動、再び裏側守備表示で特殊召喚する!」
シャドール・ファルコン(セット)
レベル2 チューナー
守備力 1400
「はっ、忘れたのか! 俺には二枚の永続罠がある! 古代の機械蘇生の効果発動! 一ターンに一度、自分フィールドにモンスターが居ない時、このターン墓地に送られた古代の機械猟犬を攻撃力を200ポイントアップさせて特殊召喚する!」
古代の機械猟犬
レベル3
攻撃力 1000 → 1200
「さらに古代の機械閃光弾の効果でお前に復活した古代の機械猟犬の攻撃力の半分、600のダメージを与える! そのモンスターの効果じゃ、罠によるダメージは防げまい!」
確かにシェキナーガで防げるのは特殊召喚されたモンスターの効果だけ。分かっていますよ。
でもシェキナーガを召喚した今なら、このカードを使える。
「カウンター罠、フュージョン・ガード! ダメージを与える効果が発動した時、その発動と効果を無効にし、エクストラデッキから融合モンスターをランダムに墓地へ送る……墓地へ送られたエルシャドール・エグリスタの効果発動! 墓地の影依融合を手札に戻す!」
「くっ、どうして削り切れない……! 俺は手札からモンスターを裏側守備表示でセットし、ターンエンド……!」
「私のターン、ドロー!」
セットされたモンスターがシャドールたちのようなリバースモンスターだったら今の私に防ぐ手はない。
「……それも古代の機械猟犬ですか。まるで、いえまさに馬鹿の一つ覚えですね」
「ぐっ、黙れ!」
……やっぱり少し性格が悪くなった気がします。いえ、元々こんな性格だったとかではなく。……ホントですよ?
今の彼らにブラフを行う余裕はない。これでリバースモンスターを警戒する必要はなくなった。
「シャドール・ファルコンを反転召喚し、効果発動! 墓地のシャドール一体を裏側守備表示で特殊召喚する! 私が特殊召喚するのはシャドール・ドラゴン!」
シャドール・ファルコン
守備力 1400 → 攻撃力 600
シャドール・ドラゴン(セット)
レベル4
守備力 0
……何やら墓地からミドラーシュの復活させろよという嘆きが聞こえた気がしないでもない。いやだってあなたリバースモンスターじゃないし……。
「そして手札からマドルチェ・マジョレーヌを通常召喚! さらにマジョレーヌが召喚に成功した時、デッキからマドルチェ一体を手札に加える! 私が手札に加えるのはマドルチェ・エンジェリー!」
箒に腰掛けた魔法使いが私の横で滞空する。楽しげに私にウインクする彼女を見て、私も笑みが零れる。
……何だか墓地のミドラーシュが同じ魔法使いとして対抗心を燃やしているような気がした。仲良くして下さい。というかそれを言ったらファルコンもドラゴンも魔法使い族なんですが。
これじゃあ少し申し訳なくなる。
「レベル4のマドルチェ・マジョレーヌにレベル2のシャドール・ファルコンをチューニング!」
勝ち誇ったような笑みを浮かべていたマジョレーヌは自分の周囲を取り巻き、光の輪へと姿を変えたファルコンを見て、驚いて私を見る。……すいません。
「魂を照らす太陽よ、お伽の国の頂に聖火を灯せ! シンクロ召喚!」
隼と魔法使いは光へと変わり、竜の依代となる。
彼女たちを依代に降臨するのは、私とこの世界の繋がりの象徴と言うべき、刀堂さんとの絆の証。
「人形たちを依代に降臨せよ! レベル6、メタファイズ・ホルス・ドラゴン!」
メタファイズ・ホルス・ドラゴン
レベル6
攻撃力 2300
「シンクロ召喚……!? こいつ、一体いくつの召喚方法を……!」
「メタファイズ・ホルス・ドラゴンはシンクロ召喚の素材となったチューナー以外のモンスターによって効果を変える! 素材となったマジョレーヌは効果モンスター、よってフィールドのカード一枚の効果を無効にする! 無効にするのは永続罠、古代の機械蘇生!」
「何!?」
これで二枚の罠のコンボによる効果ダメージも封じた。一気に決める!
「バトル! メタファイズ・ホルス・ドラゴンで古代の機械猟犬を攻撃! 降天のホルス・フレア!」
「ぐっ!」
OBERISK FORCE2 LP:1200
「さらにネフィリムで直接攻撃! オブジェクション・バインド!」
「っ、がぁぁああ!?」
OBERISK FORCE2 LP:0
「これで終わりです。シェキナーガで直接攻撃……!」
「ば、馬鹿なッ、スタンダードの奴に俺たちが――!?」
「撃ち抜けッ! 反逆のファントム・クロス!」
「うぁぁぁああああああ!?」
OBERISK FORCE1 LP:0
WIN EIKA
「……新しい情報は手に入りませんでしたね」
敗北したオベリスクフォースたちの姿が消えていく。融合次元へと転移したのだろう。
しかしこれでまた振り出し、逢歌が何処に居るのか見当もつかない。彼らオベリスクフォースが逢歌とセレナという人物を連れ戻そうとしているのなら、急がないと。
――――!
……その時、空に紫電が走った。
見上げた空に雷鳴と共に浮かび上がるドラゴン。
「あれは……ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン……」
その姿を忘れるはずがない。あの襲撃犯が使っていたエクシーズモンスター……やはり彼もまだこの街に居たのか。
デュエルの相手は誰? 私と同じオベリスクフォースか、それとも……他にアテはない。自分の目で確かめよう。
足場を頼りにどうにか上の遺跡へと向かう。
しかし、私の予想に反してそこで繰り広げられていたのは、あの襲撃犯のデュエルではなかった。
「――今一度揺れろ、魂のペンデュラム! 天空に描け、光のアーク! ペンデュラム召喚!」
「ペンデュラム……なら、榊さん……?」
榊さんと三人のオベリスクフォース。
足場が見つからず、デュエルが行われている橋の上には近づけない。
けど遠目だが榊さんの異変は分かる。あれは本当に榊さん……?
「出でよ、我が
オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン
レベル7 ペンデュラム
攻撃力 2500
「対立を見定める相克の魔術師よ、その鋭利なる力で異なる星を一つにせよ! 相克の魔術師のペンデュラム効果ッ、一ターンに一度選択したエクシーズモンスターのランクと同じ数値のレベルをそのモンスターに与える……! 俺はランク4のダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴンをレベル4にする!」
ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン
ランク4 → レベル4
エクシーズモンスターにレベルを……? けどそれに今、何の意味が……。
「和合を見定める相生の魔術師よ、その神秘なる力で天空高く星を掲げよ! 相生の魔術師のペンデュラム効果! 一ターンに一度、選択したモンスターのレベルを別のモンスターと同じにする……! 俺はダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴンのレベルをオッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴンと同じ7にする!」
ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン
レベル4 → 7
魔術師から放たれた矢が二体のドラゴンのレベルを等しくした。
レベル7のモンスターが二体……まさか。
「俺はレベル7のオッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴンとダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴンでオーバーレイ!」
エクシーズモンスターとペンデュラムモンスターのエクシーズ召喚……ペンデュラム融合に続いて、ペンデュラムエクシーズまで。
「二色の眼を持つ竜よ、その黒き逆鱗を震わせ、刃向う敵を殲滅せよ! エクシーズ召喚!」
二体のドラゴンが光の渦へと飲み込まれていく。
その渦から現れるのは、
「出でよ、ランク7! 怒りの眼輝けし竜! 覇王黒竜 オッドアイズ・リベリオン・ドラゴン!」
覇王黒竜 オッドアイズ・リベリオン・ドラゴン
ランク7
攻撃力 3000
ORU 2
禍々しい風が吹き荒れる。吹き飛ばされそうになりながらも、どうにか柱にしがみ付く。
違う、沢渡さんとのデュエルで見せたビーストアイズとは、まるで雰囲気が違う。
「オッドアイズ・リベリオン・ドラゴンはレベル7扱いのダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴンを素材とした事で敵側のレベル7以下のモンスターを全て破壊し、その攻撃力分のダメージを与える」
OBERISK FORCE1 LP:1500
OBERISK FORCE2 LP:3000
OBERISK FORCE3 LP:3000
「さらにオッドアイズ・リベリオン・ドラゴンはオーバーレイユニットを一つ使い、このターンに破壊したモンスターの数だけ攻撃する事が出来るッ」
このターン破壊したのは召喚時に効果で破壊された3体の古代の機械猟犬、オベリスクフォースたちのフィールドに伏せカードはない。
……これで決まる。
「よって貴様ら全員に直接攻撃を加える! やれ! オッドアイズ・リベリオン・ドラゴン!」
覇王黒竜 オッドアイズ・リベリオン・ドラゴン
ORU 2 → 1
翼を広げ、オッドアイズ・リベリオン・ドラゴンが橋をその牙で抉りながら飛翔する。
「反旗の逆鱗、ストライク・ディスオベイ!」
「ぐぁぁあああ!?」
OBERISK FORCE1 LP:0
OBERISK FORCE2 LP:0
OBERISK FORCE3 LP:0
二色の眼を輝かせる覇王黒竜は、三人のオベリスクフォースを……殲滅した。
何故榊さんがダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴンを所持しているのか、あれが本当に榊さんなのか、分からない事が多すぎる……でも間違いなく、榊さんはランサーズへと組み込まれるだろう。
それだけの力を、今彼は示した。
けど榊さん……それで、いいんですか?
あなたが目指すエンタメデュエルは、沢渡さんとのデュエルで見せたショーは……ううん、私が口を出す事じゃない。それにきっと、彼は取り戻すはずだ。
私でさえ見つけようと足掻いているのに、彼にそれが出来ないはずはない。そうですよね、私の知っている榊さんは、沢渡さんのライバルは、そういうデュエリストです。
とりあえず榊さんと合流してみよう。逢歌の事を知っているかもしれない――そう思った時、先程の覇王黒竜の攻撃の衝撃が此処まで及んでいたのか、私の立っていた足場が崩れた。
「ッ――!?」
他の足場に飛び移る暇もなく、私は落ちていく。
◇◆◇◆
ワンダー・カルテット 火山エリア、そこに逢歌は居た。
「それにしてもアクションフィールドってのは凄いね、こんな熱気まで再現出来るんだ。質量を持ったソリッドビジョンは伊達じゃないって事か」
崖の上に腰掛け、手でローブの下の顔を扇ぎながら眼下で繰り広げられる惨劇を見下ろす。
「オベリスクフォースか、期待外れだな。こんな雑兵ばかりじゃあねえ」
「――同じ効果でお前には3500のダメージだ!」
三人のオベリスクフォースとランサーズ候補、3人のユースクラスの選手。そのデュエルは今まさに終わりを告げようとしていた。
これで二人のユースはカードへと封印され、残る一人も――
「これで終わりだ! 魔導法皇ハイロンを攻撃!」
「さて、見つかる前に退散しようかな、と」
もしかしたら、とも思ったが此処に彼女のもう一人の目的は居なかった。ならばいつまでも此処に居る理由はない。捕まって連れ戻される前に詠歌の下へ、そう思い逢歌は腰を上げた。
「待てコラァァアアア!」
「ん……?」
そんな逢歌の耳に、男の声とバイクのエンジン音が届く。
もう一度眼下に目を向ければ、バイクを駆り、オベリスクフォースの前に躍り出る男の姿があった。
「バイク……いや、D・ホイールだっけ……? って事はシンクロ次元のデュエリスト……?」
「俺は手札から
SRメンコート
レベル4
攻撃力 400
「その効果で相手モンスターを全て守備表示にする!」
「クソ、これじゃ……俺はターンエンド……!」
「お前、何者だ!?」
「俺は、ユーゴ」
バイクに乗った男は、そう名乗った。
「ユーゴー……? 仲間か?」
「ユーゴだっつってんだろうが!」
名前を間違われた怒りからか、ユーゴは荒々しくDホイールを走らせた。
「ユーゴ……大会参加者に居た‟遊”矢に、セレナお嬢様そっくりの柚子、それに僕と‟私”……ふうん、やっぱりそうなんだ。なら‟私”も後二人……楽しみが増えたな。スタンダードの‟私”はもう駄目そうだし、そっちには期待したいところだけど……」
「俺のターン! 俺は手札からSR三つ目のダイスを召喚!」
SR三つ目のダイス
レベル3 チューナー
攻撃力 300
「俺はレベル4のメンコートにレベル3の三つ目のダイスをチューニング!」
ビルの壁面をDホイールで走りながら、ユーゴは自身の切り札を呼び起こす。
「その美しくも雄々しき翼翻し、光の速さで敵を討て! シンクロ召喚! 現れろ、レベル7! クリアウィング・シンクロ・ドラゴン!」
クリアウィング・シンクロ・ドラゴン
レベル7
攻撃力 2500
「ッ……」
現れた白いドラゴンにオベリスクフォースは気圧される。
「だがっ、モンスターが召喚、特殊召喚された時、
「これでお前のドラゴンも奴らと同じ運命だ!」
「古代の機械双頭猟犬の効果でギア・アシッドカウンターが乗ったモンスターは戦闘時、ダメージ計算を行わずに破壊される……お手並み拝見かな」
自分にとっては何の問題にもならない効果、しかしその効果自体は強力だ。現にその効果と永続魔法のコンボによって二人のユースが敗北し、ユーゴが乱入しなければ残る一人もやられていた。
「そいつはどうかな?」
「何ッ?」
「クリアウィング・シンクロ・ドラゴンはレベル5以上のモンスターが効果を発動した時、それを無効にしてそのモンスターを破壊できるッ、ダイクロイック・ミラー!」
「なっ、ぐぁあああ!?」
OBERISK FORCE1 LP:1800
「自らのカードの効果で……!?」
「永続魔法、
楽しげに逢歌はデュエルを見つめる。
「そしてクリアウィング・シンクロ・ドラゴンは破壊したモンスターの攻撃力分、自分の攻撃力をアップする!」
クリアウィング・シンクロ・ドラゴン
攻撃力 2500 → 3900
「覚悟しな、これで終わりだッ。俺は手札から魔法カード、シンクロ・クラッカーを発動! クリアウィング・シンクロ・ドラゴンをエクストラデッキに戻し、その攻撃力以下のモンスターを全て破壊する! 自分のカードで自滅しやがれ!」
オベリスクフォースたちのモンスターが全て破壊され、再び古代の破滅機械の発動条件が満たされる。
「古代の破滅機械の効果! 破壊したモンスターの攻撃力分のダメージを受けてもらうぜ!」
「ぐぁああああ!」
OBERISK FORCE1 LP:0
OBERISK FORCE2 LP:0
OBERISK FORCE3 LP:0
「おい、大丈夫か?」
「ひ、ひぃ……!」
SAKURAGI LP:0
オベリスクフォース、そして唯一残されたユース、桜木ユウのライフも巻き込んで0にして、ユーゴは完全にデュエルに勝利した。
「お、俺たちにはこんな戦い、無理だぁああ!」
「おい!? ……んだよ、助けてやったのに礼もなしかよ」
無様に逃げ出す桜木ユウに悪態を吐きながら、ユーゴは周囲を見渡す。倒したオベリスクフォースは既に消えていた。
「あっ、あいつらも居ねえし! クソ、本当に何処なんだよ、此処は……」
「どうしてシンクロ次元のデュエリストが、と思ったけどまさか迷子なのかい?」
「あん?」
そんなユーゴに、追手の居なくなった逢歌は姿を見せた。
「僕からは礼を言わせてもらうね。手間が省けたよ」
「何だオメェ?」
「隠れて見てたよ、ユーゴくん。凄いね。ありがとう」
「礼を言うんだったら顔を見せて言えよ、ったく氷山でいきなり襲って来た奴らといい、さっきの奴といい常識がねえ奴ばっかだぜ」
「ああ、ごめんごめん……これでいいかな。改めてお礼を――」
ローブを下ろし、顔を晒して逢歌がわざとらしく礼をしようとしたその時だった。
「その顔……まさかお前!?」
Dホイールから降り、ユーゴは逢歌の両肩を掴んだ。
「な、何かな……? 僕って‟私”と違って男性に免疫とかないんだけど……」
「やっぱり間違いねえ! 俺だ、ユーゴだ!」
「それはさっきの名乗りを聞いて知ってるけど……」
「デカくなってるけど間違えるわけがねえ! お前、‟彩歌”だろ!?」
逢歌を見て、ユーゴは詠歌とも違う名前を呼んだ。
「彩歌……ふうん?」
「お前がセキュリティに捕まってから、リンと一緒に何度行っても面会も出来なかった……! 無事で良かったぜ……! けど何でこんな所に居るんだ? まさか脱獄して来たのかッ?」
「残念だけど僕は、‟私”――彩歌じゃない。僕はアカデミアの逢歌だよ」
「アカデミア? 逢歌……? 何訳わかんねえ事言ってんだ?」
「事実だって……それにしてもシンクロなのにユーゴーだなんて面白い名前だね?」
肩を掴む手から逃れながら、逢歌はからかうように言った。
「んなっ、だから俺はユーゴだ! ……俺の名前を間違えるって事はお前、本当に彩歌じゃねえのか?」
「だからそう言ったよ」
「この前は俺にそっくりの奴が二人も居たのに、今度は彩歌のそっくりかよ……どうなってんだこの世界は」
「お礼ついでに教えておいてあげる。此処はスタンダード次元。今は大会の真っ最中で、此処はその会場。君の言ってた氷山もこの火山もアクションフィールドっていうフィールド魔法の中さ」
「何だって……?」
訝しがるユーゴに肩を竦めながら逢歌は言葉を続けた。
「クソ、リンを探してるってのに全然見つからねえし、彩歌かと思えばただのそっくりだしよ……どうすりゃいいんだ」
「リン……さっきも言ってたけど、君の大切な人なのかい?」
「……ああ」
「へえ、愛されてるんだねえ、その子」
「あ、愛!? い、いや愛とかそんなぁ……」
「……その反応は少し想定外かな」
照れたように身を捩らせるユーゴに若干引きながらも、逢歌は提案する。
「迷子なら少し付き合ってくれないかい? 僕も人を探しているんだ。ま、お互い右も左も分からない同士だけどね」
「はあ? お前、この次元の人間じゃねえのか?」
「違うよ。言ったでしょ? 僕はアカデミアの、融合次元の逢歌」
「融合……それってさっきの奴らの仲間か!」
「まあそうなるかな」
「ふざけんな! 俺はハートランドとかいう世界でオメェらが何をやってたか知ってんだ! さっきみてぇにこの世界でも同じことをするつもりかよ!」
「落ち着いてよ。確かに僕はアカデミアだけど、さっきの彼らに追われてる身なんだ」
「追われてるだと……? 一体何で」
「僕ともう二人の仲間は融合次元から飛び出して来たのさ。一人は向こうに戻る羽目になったみたいだけど、僕も奴らに捕まったらどうなることか。僕もそのもう一人も融合次元が大切にしている子の脱出を手引きした事になってるだろうし、ま、無事ではいられないだろうね」
「……」
ユーゴは考える。目の前の逢歌が厄介事を抱えているのは間違いない。さっきはハートランドでも見たオベリスクフォースが居た為に後先考えずに先走ったが、一番の目的はリンを連れ戻す事、彼女たちの問題に巻き込まれている暇はない……が、逢歌を見ているとどうしても自分の知る少女を思い出してしまう。
「ああ、安心してよ。別に君に守ってもらおうなんて考えてない。自分の身くらい自分で守るさ。ただこの広いフィールドを徒歩で歩き回るのは大変だから、ね」
ユーゴの乗っていたDホイールを指して、逢歌が笑う。
「……わーったよ。俺が地元に帰るまでは付き合ってやる」
「シンクロ次元に? 君、迷子みたいだけど帰れるのかい?」
「ああ、多分な」
言いながらユーゴはDホイールから一枚のカードを抜き取った。
「こいつが光るといつも見知らぬ場所に飛ばされる。今回もそうだった、またこいつが光れば戻れるはずだ」
「さっき使ってたドラゴン……? そんな力があるんだ。でも自由に使えるわけじゃないんだね?」
「ああ」
暫しクリアウィング・シンクロ・ドラゴンを見つめた後、カードを戻してDホイールを操作し、収納されていたもう一つのヘルメットを取り出した。
「ほら、被れ」
「……」
「んだよ? どうした」
「……いや。自由に動き回る所か、バイクの二人乗りまで経験するなんて、と思ってね」
「これはバイクじゃねえ、Dホイールだ」
「そう。安全運転で頼むよ?」
「……本当に別人なんだな」
後に続き、逢歌がDホイールの後ろに腰掛けると、ユーゴがしみじみと言った。
「?」
「彩歌がそんな事言うはずねえからな」
「……そうかい。さっきも捕まってるとか言ってたし、一体どうしてそんな風になったんだか。スタンダードの‟私”も、シンクロの‟私”も」
「じゃあ行くぞ」
「ああ――!?」
「とりあえず走り回ってみるしかねえからな! 舌噛むんじゃねえぞ!」
「ちょ、安全運転は――!?」
逢歌と詠歌。二人の邂逅が近付いていた。
「――待ってなよ、‟私”」
◇◆◇◆
「……熱い……って此処は」
足場が崩れた後、衝撃を恐れて目を瞑っていた私は気付いたら火山らしきエリアに居た。……時刻を確認すると、もう夕刻、バトルロイヤルの半分が終了するところだった。
……落下していた時に感じた一瞬の浮遊感、またミドラーシュが私を助けてくれたのだろうか。
デュエル中でもないのにモンスターが召喚されるのはディスクの不調……で片付けるのは簡単だけど。
「……ありがとう」
そうじゃない、そう考えた方がきっと素敵だ。
でもどうしようか、これでまた手掛かりを失った。今榊さんが何処に居るのかも分からない。周囲でデュエルが行われている気配もない。近くに誰かが居れば良かったんだけど……。
「どうせなら人が居る所に連れてって欲しかったです」
そんな我が儘を言いながら、私は歩き始めた。
アテはない、でも立ち止まっている暇もない。
「――久守!」
「え――」
聞こえて来た声が、私の歩みを止めさせた。
「はぁっ、はぁ……」
「あ……」
振り返ると、其処には……
「ようやく見つけたぞ……ったく、手間掛けさせやがって……」
「沢渡、さん……」
息が上がっているのは、汗を流しているのは、火山エリアの熱気に当てられただけじゃない。
「ずっと私を捜して……?」
「当たり前だろうが! 勝手な事ばっかしやがって!」
「す、すいません」
「……もういい。結局俺もあの日、戻れなかったからな」
息を整えながら言う沢渡さんは――自惚れていいならば――安堵の表情を浮かべていた。
「……もう大丈夫なのか」
「――はい!」
「そうか。……何があったかは聞かねえ。お前が大丈夫なら、それでいい」
そう言って、沢渡さんは疲労の抜けきってない様子のまま……微笑んだ。
「……」
「んだよ? ……やっぱ無理してるんじゃねえだろうな」
「あ、いえ、その……今のはまずいです。やばいです。すごいです」
「はあ?」
えとえと大人びてるというか男前というかとにかく格好良すぎっすよ!?
「い、いえ! とにかく大丈夫です!」
え、えへへ、ちょっと破壊力が強すぎました……!
というか今冷静になって思い出してみると私を部屋に運んでもらったりとか手を握ってもらったりとか、あ、あまつさえ背中に頭を預けたりとか私って物凄い事をしたりしてもらったりしてました……!
「なんだそりゃ……まあいい。お前も知ってるだろうが、今この中にアカデミアとかいう連中が紛れこんでる」
「はい。……あれ? でもどうして私が知ってるって?」
「中島さんから聞いてんだよ。お前が密林エリアに居るって聞いて行ったら今度は遺跡エリアでアカデミアの連中と戦ってるって。その次は榊遊矢の所に居たと思ったら消えたとか言うしよ……中島さんからの連絡もなくなるし、俺がどんだけ苦労したと思ってんだ……!」
「すいません……」
「だから謝んな!」
「は、はい! ……あの、沢渡さん」
「何だよ」
「アカデミアの事は……」
「赤馬零児から聞いた。お前が俺に隠れてランサーズの候補者を探す手伝いをしてた事もな」
ランサーズの事も……予想は出来ていた。榊さんとのデュエル、負けはしたけど沢渡さんにランサーズとして選ばれる可能性が生まれたかもしれない、と。
赤馬社長が沢渡さんに伝えたという事は、つまりそうなんだろう。
「巻き込んだとか思ってんじゃねえだろうな」
「……」
「はっ、ランサーズなんてのは俺にとっちゃただの通過点だ。この世界を守った後、今度こそ榊遊矢と決着を着けてやる。この大会がランサーズを選ぶ為の場だったなら、アカデミアを追っ払って俺もランサーズ入りすりゃ、つまりは大会で勝ち残ったのと同じだからな」
……そろそろ、沢渡さんに対する思いに一つの決着を着けるべきなんだろう。
「……沢渡さん、私は前、沢渡さんを守らせてほしいって言いましたよね」
「それがどうした。お前が勝手に言ってただけだろ」
「ええ。だから、もうそんな思い上がりはやめにします。――沢渡さん、一緒に戦いましょう。一緒にアカデミアを追い返しましょう」
「……はっ」
沢渡さんは笑う。馬鹿にしたような、でも決してそうではない笑み。
「足手纏いになるなら置いてくぞ」
「ええ。私は決して強くはないけど、沢渡さんに手を引かれなきゃ立てないような、そんな弱い女じゃないですから!」
私も笑う。きっと、小生意気な笑みで。
「でも一つだけお願いです」
「何だ」
「彼女とは――逢歌とだけは、私に決着を着けさせて下さい。沢渡さんが榊さんとの決着を望むように、私も彼女とは決着を着けなくてはならないんです。私が答えを出す為にも」
「……好きにしろ。見届け人ぐらいならしてやる」
「はい!」
私の思いを汲んでくれたのだろう。僅かに言葉に不満を滲ませながら、しかし沢渡さんは頷いてくれた。
……やってみせる。友人を取り戻す事も、アカデミアを倒す事も、そして答えを見つける事も。
沢渡さんが見ていてくれるなら、私は大丈夫。
「……待ってなさい、逢歌」
◇◆◇◆
「シンクロ次元のデュエリストと逢歌はまだ発見できないのかっ?」
管制室、中島が急かすように観測員たちに言う。
「はい、どうやらあのバイクのようなものでバトルロイヤルの会場を走り回っているようで……氷山エリアで二度、火山エリアでは三度、密林エリアで一度、古代席エリアで二度、カメラに捉えてはいるのですが……それ以降氷山エリアからの中継は完全に途絶えたままです」
「くっ、一体何があったんだ……」
「引き続き捜索を続けるんだ。榊遊矢はどうしている?」
中島とは裏腹に、あくまで冷静に零児は問いかけた。
「密林エリアで参加者の茂古田選手、大漁旗選手、権現坂選手、それに加えて一回戦で敗退した方中選手と共に休息を取っているようです」
「何故敗退した者がフィールドに居る……」
頭を押さえながら、中島が嘆く。
「社長、如何致しますか?」
「……黒咲はどうだ」
「現在も紫雲院素良と交戦中です」
「……紫雲院素良は黒咲が抑えている。ユースが一人を残して全滅した今、これ以上の増援を送っても被害が増えるだけだ。残るアカデミアからの侵入者はフィールドに残った彼らに託すしかない。中継カメラの復旧とシンクロ次元のデュエリストの捜索を急げ。彼が今も逢歌と行動を共にしてアカデミアと敵対しているならば、シンクロ次元は味方と成り得る」
「はっ」
……バトルロイヤルの制限時間は残り約半日、それまでに一体どれだけのデュエリストが残り、ランサーズに相応しい力を示すのか。
零児の立てる予想は決して甘いものではなかった。
(残る選手は十一人。それに加えて久守詠歌と沢渡シンゴ……その中でランサーズと成り得るのは恐らく半数程……)
既に彼の中ではランサーズのメンバーの選抜は決まりかけていた。
「沢渡と風魔忍者への指示は……沢渡は久守詠歌と合流した今、こちらの指示に従うでしょう。ユースがやられ、黒咲がデュエルしている以上、我々が動かせるのは沢渡と久守詠歌の二人と彼らだけです」
「……風魔忍者には引き続きセレナの監視を続けさせろ。沢渡と久守詠歌には逢歌とシンクロ次元のデュエリストを見つけ次第、接触するように伝えるんだ。セレナはアカデミアとの交渉に、逢歌に関してもみすみす追手に捉えさせるわけにはいかない。こちらで確保する。それ以外の行動は彼ら自身に任せる」
「分かりました。ですがセレナと違い逢歌は久守詠歌からペンデュラムカードを奪い、さらに恐らくはLDSのチームを……素直に従うとは思えません」
「それでいい。榊遊矢が紫雲院素良との接触でペンデュラム融合、そしてペンデュラムエクシーズに目覚めたように久守詠歌もまた彼女との接触でさらなる力に目覚める可能性がある。彼女に与えたペンデュラムを奪われた今ならば猶更だ」
――零児の言葉通り、詠歌の中でさらなる力が目覚めようとしていた。
それが逢歌との接触で目覚め始めたものなのか、それとも――
その力の根源を知るのは今、この世界には二人しかいない。
オベリスクフォースは三度死ぬ。
アニメと異なり、逢歌の分、追手であるオベリスクフォースの数も増えています。それが主人公とデュエルした二人です。
現在の状況(選手11人+ミエル、セレナ、ユーゴ、沢渡さん、詠歌、逢歌)
遊矢→ミエルの膝で眠ってる
みっちー、大漁旗、権現坂、ミエル→遊矢と一緒
柚子→ユーリと追いかけっこなう
セレナ→黒咲ドコー?
黒咲→素良とデュエルなう
日影&月影→セレナをストーカー中
デニス→オベリスクフォースに協力してセレナを探し中
梁山泊塾の二人→ユーゴに負けて氷山エリアで気絶中
詠歌&沢渡→ようやく合流
逢歌&ユーゴ→ライディングなう(迷子)
アニメと異なっているのは沢渡さんがアニメよりも早くバトルロイヤルの会場に乱入している事とユーゴが逢歌と行動を共にしている事ぐらいです。
取り巻きたち→観戦中(ただし中継カメラは調整中)