沢渡さんの取り巻き+1   作:うた野

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沢渡さんが格好良すぎてつい……


沢渡さん 編
沢渡さん、マジ甘党っすよ!


『俺はスケール1の星読みの魔術師とスケール8の時読みの魔術師でペンデュラムスケールをセッティング! これでレベル2から7のモンスターが同時に召喚可能!』

 

舞網市に数多く存在するデュエル塾、その中で最大手とされるのLDS(レオ・デュエル・スクール)の資料室に設置された端末の前に座り、映像を瞬きもせずに眺める黒髪の少女が居た。

流れている映像はつい先日行われたばかりのアクションデュエルチャンピオン、ストロング石島のエキシビションマッチ。だが別に少女がストロング石島の熱狂的ファンと言うわけではない。現に少女が繰り返し見ているシーンにストロング石島はほとんど登場していない。

彼女がまるで機械のように繰り返しているのは、その対戦相手が行った、初めての召喚方法、ペンデュラム召喚のシーンだ。

しかし一部の市民が「インチキ」「それズルじゃん!」などと騒いでるように何かイカサマが行われたのではないかと見定めているわけではない。どんなカードであってもデュエルディスクが認識している以上、公式ルールに反したものではない。

ならば探すべきなのはイカサマの証拠などではなく、それに対抗する手段だ。今現在、ペンデュラム召喚の使い手はたった一人だが、これから先、ペンデュラムカードが量産されないとも限らない。むしろされるのが自然の流れだ。だからこそ少女は数少ないペンデュラム召喚の資料を漁っていた。

映像を見て、何かを手元のノートへと書き連ねていく。ノートには「セッティングされたペンデュラムカードの扱いは?」「ペンデュラム効果とは何だ? いつ発動する?」「ペンデュラム召喚は一度の召喚?」「神警、神宣でおk?」などと他人には到底読めない乱雑な字が書き込まれている。

数十回繰り返したところでこの資料だけではこれ以上の研究は不可能としたのか、少女は静かに端末の電源を落とした。

 

「熱心ね」

 

電源が落ち、ブラックアウトした画面に背後に立っていた褐色の肌を持つ少女の姿が映り、同時にその褐色少女が声を掛けた。それに驚くこともなく座っていた少女は立ち上がる。

 

「デュエリストですから。未知の召喚方法や効果に興味を示すのは当然です」

「それが出来ずにバッシングするようなデュエリストはいくらでも居るわ。残念な事にLDS(ここ)にもね」

「相手の心を折るのも戦略の一つです。あまり好まれる方法ではないですが」

「当然だわ。デュエリストなら自分のカードの力で戦うべきよ」

 

そのデュエリストらしい答えに少女は内心で(あなたの仲間のしつこいバウンスも十分心折れそう)と考えるが、言葉にはしない。自分自身、他人の事を言えるようなデュエルではなかった。

 

「それで未知のペンデュラム召喚の対策は出来たの?」

 

黒髪の少女は首を振る。

 

「情報が少なすぎます。それにいくら対策を立てても実際にデュエルをしてみなければ分かりません」

「その通りね。まだ入って日が浅い割に、しっかりと理解してるじゃない」

「あなたが融合コースのマルコ先生に教わっているように、私も恩人から教わっていますから」

「恩人、ねえ……」

 

何故かくすんだ目をして「恩人」という言葉を繰り返す褐色少女。それに初めて黒髪の少女は表情を崩した。

 

「何か?」

 

若干不機嫌そうに眉を上げ、尋ねる。

 

「あなたが入って来た時から思ってたんだけど、どうして――」

 

褐色少女が言葉を紡ぐ途中で黒髪の少女のデュエルディスクの通話機能が着信を告げた。

 

「……失礼」

 

一言断り、少女はディスクを通話モードにし、耳に当てる。

 

「もしもし」

『あ、もしもし久守(くもり)っ。今何処に居るっ?』

「山部。LDSだけど、どうしたの」

『よしっ、実は俺達今学校終わってさ、今からじゃあの人に追いつけそうにないんだよ。だから悪いんだけど、ご機嫌取りにあの人の好きなケーキ買って待っててくれねえ?』

「山部」

『うん?』

「あの人が好きなのはただのケーキじゃない。スイートミルク・アップルベリーパイ~とろけるハニー添え~。間違えたら怒られる」

『ああ! じゃあとにかく頼んだ!』

 

最後の言葉は完全に聞き流され、通話は切られた。

 

「申し訳ない。話の途中だけどこれで失礼します」

「……一応聞いておくけど、これから何処に何をしに行くのよ」

「駅前のケーキ屋へ。スイートミルク・アップルベリーパイ~とろけるハニー添え~を買いに」

「はあ? そんなのそこの売店で良いじゃない」

「LDSの売店には普通のアップルパイかケーキしか売ってませんから。一応要望は出していますが、カードではないのですぐには反映されないと思います」

「……まさかパシリじゃないでしょうね」

「いいえ、使命です。それでは失礼します、光津さん」

 

一礼し、久守と呼ばれていた少女は去り、資料室には光津と呼ばれた少女、光津真澄だけが残る。

残された真澄は資料室の窓から外を覗く。するとすぐに今去ったばかりの少女がケーキ屋へと駆け

ていくのが見えた。それを見て真澄は溜め息を吐く。

 

「本当にどうして、あいつの取り巻きなんかやってるのかしら……」

 

 

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

山部からの連絡を受け、慌ててケーキ屋に走りスイートミルク・アップルベリーパイ~とろけるハニー添え~を購入しました。

まったく、LDSにも早く置いてほしいものです。そうすれば急に食べたくなった時でもあの人を待たせることなく用意できるというのに。

それに山部達も何をやっているのか。私と違いあの人と同じクラスに居るという羨ましい状況にいながら、あの人を待たせるとは。

まあ山部たちを責めても仕方ありません。今はとにかく急いでLDSに戻らねば。私があの人を待たせるわけにはいきませんから。

けど、いずれ光津さんとがデュエルで決着をつけなければいけませんね。何を言いかけたのかは知りませんが、あの人を馬鹿にしたような態度は許せません。いくらあの人と同じエリートで、しかも融合コースに所属しているからといって見逃せない。私や他のデュエリストを見下すのは勝手ですが。とにかくあのDT三人組とはいずれデュエルを……

 

 

「ん、久守、今来たところか」

 

 

「沢渡さん!!」

 

LDSの入り口前で私を呼んだのは――イッヤホゥ! 沢渡さん! 今日初の生沢渡さんだ! あんな三人組なんてどうでもいい! 沢渡さん、今日もマジ格好良すぎっすよ!

 

「沢渡さん沢渡さん、来る途中で沢渡さんの好物のスイートミルク・アップルベリー~とろけるハニー添え~を買って来たので一緒に食べましょう!」

「ほぉ、気が利くじゃないか」

「いやそんな! これぐらい当たり前の事ですよ!」

わぁい! 沢渡さんに褒められた!

「そういや知ってるか?」

 

LDSの門を潜り、通路の真ん中を歩く沢渡さんに並びながら沢渡さんとの会話に花を咲かせる。

 

「何をですか?」

「あのペンデュラム召喚、それを使ったのが俺達と同じ学校の、同じ学年の奴だって」

「そうなんですか!」

知らなかった! あの榊遊勝の息子って事は簡単に分かったけど、まさか同じ学校だったとは。流石沢渡さん、情報が速い!

「俺もテレビで見てたけど、すげーよな、ペンデュラム召喚」

 

おおっ、融合もシンクロもエクシーズも興味ないって言ってた沢渡さんが興味を! これはレアですよ!

 

「やっぱりああいう特別な召喚は沢渡さんみたいな特別なデュエリストが使えばもっとすごくなりますよ!」

「はっはっは! やっぱりぃ? だよなあ、俺もそう思ってる」

 

流石沢渡さん! 私が進言するまでもなく気付いてるぅ!

 

「だから俺、良い事を思いついてさ――そういや今日はあいつらはまだ来てないのか?」

「山部たちは遅れるそうです。それより沢渡さん、良い事って?」

「そう慌てるなよ。あいつらが来たら一緒に説明してやる」

くぅ~! 沢渡さんの焦らし上手ぅ!

「ならケーキを食べながら待ちましょう! その頃にはきっと山部たちも来るはずです!」

「ああ」

 

沢渡さんの言う良い事もすっごい気になりますが、山部たちが来るまでは沢渡さん独り占め! やったー!

もし山部たちが食べ終わっても来なかったらどうしよう、沢渡さんのカードたちを磨かせてもらおうか、それとも沢渡さんの肩を揉ませてもらおうか! あーもう今日は山部たちは来なくてもいい!

内心で狂喜しながら私たちはロビーへと到着した。空いてる席を瞬時に確保し、沢渡さんを迎える。

 

「さあ沢渡さん、どーぞ!」

「おう」

 

ソファにふんぞり返るように座る沢渡さん。それに見とれながらも私はテキパキと包装を解き、ケーキを沢渡さんに差し出す。

 

「じゃあ私は食後の紅茶を用意しますね!」

 

常に持ち歩いて、今日最初にLDSに来た時にロッカー室に預けておいたティーセットを取りに走ろうとする私を沢渡さんが止めた。

 

「待て」

「はい、待ちます!」

「茶なら後でいい。溶ける前にお前も食え」

「はい、いただきます!」

 

流石沢渡さん! 優しすぎっすよ!

 

「んぅー! やっぱり最高っ」

「沢渡さんの好物、マジ美味しすぎっすね!」

「だろ? いやーやっぱり俺ってば違いが分かる男なんだよね」

 

正直私には少し甘すぎですが、沢渡さん、マジ甘党っすね!

 

「ちょっと」

 

「あん?」

「はい?」

 

私と沢渡さんのおやつの時間を邪魔するのは一体誰ですか!

 

「誰かと思えば光津真澄か」

 

ま た お 前 か。

すっかり忘れていい気分になっていたのに、つくづく邪魔してくれる……。

 

「沢渡、あんた女の子をパシリに使って男として恥ずかしくないの?」

「はあ? 俺がいつこいつをパシリに使ったって?」

「さっきあんたの取り巻きから電話があって、その子が急いでそのケーキを買いに行ったのよ」

「何だと?」

「他の奴らならどうでもいいけど、その子があんたみたいなのに使われてるのは見てられないのよ」

「……おい、そうなのか」

 

光津さんの言葉に沢渡さんは不機嫌そうに私を見る。あ、うぅ……。

 

「確かに山部からの電話で買いに行きました。でもそれは私が勝手にやったことです。沢渡さんが気にすることなんてないですよ!」

「ふん、だとさ?」

「あんたねえ……!」

「そもそも私と沢渡さんは男と女である前にデュエリスト。男女云々というのはお門違いです、光津さん」

デュエリストは男女平等。それは常識だ。勿論私はデュエリストでなくとも沢渡さんについていきますけどね!

「くっ……あなたはそれでいいのっ? 沢渡なんかに顎で使われて、あなたならもっと上にだって行けるはずよ」

「興味ないです。それにそれは沢渡さんも同じ、もし沢渡さんがコースを変えるなら、私もそれについていくだけです」

 

それに融合やエクシーズ一つに絞るのは馬鹿らしい。私のデッキじゃ光津さんのジェムナイト程、一つに絞ってたらエクストラが厚くならないですから。

 

「それでも尚文句があるのなら、デュエリストらしく」

「デュエルで決めよう、ってことね。……いいわ、あなたのような原石が磨かれずにくすんだままなのは見てられないもの」

「私は沢渡さんの道に転がる石ころで十分です」

 

勿論沢渡さんが輝けといったらもうビカビカ光りますけどね!

 

「話はまとまったか?」

「はい。すいません沢渡さん、少し外します」

「あまり俺を待たせるなよ」

「はい。ケーキを食べながら待っててください!」

「ちょ、ちょっと! あんたはこの子のデュエル見ないの!?」

「生憎興味ないんでね」

「私のデュエルなんて、沢渡さんが見るほどのものじゃないですから」

……本当は見てもらいたいけど、そんな我が儘沢渡さんに言えないっすよ!

「今からアクションデュエル用のコートを取るのも時間が勿体ない、スタンディングで構いませんね」

「……そう、いいわ。相手にする気もなかったけど、あなたを倒したら今度は沢渡、あんたを叩きのめしてあげるわ」

 

沢渡さんの手を煩わせるまでもない。私が決める。

沢渡さんに一礼し、デュエル場へと歩を進める。

光津ますみ、総合コース以外の人とデュエルをするのは初めてだけど、戦法は聞いている。エリートである融合コースに所属するジェムナイトデッキ……融合には融合で決めてあげましょう。

 

 

 

「さあ、始めましょう、久守詠歌(くもりえいか)!」

「沢渡さんを馬鹿にした罪は重い……懺悔の用意は出来ていますか」

 

デュエル場で向かい合い、互いにデュエルディスクを構える。アクション用のコートと違い、スタンディング用の此処は複数人がそれぞれデュエル出来る。けれど私たちの気迫に押されたのか、使っていた他の塾生たちがそそくさとギャラリーに回っていく。沢渡さんほど魅せるデュエルは得意ではありませんが、宝石使いに魅せてあげましょう、路傍の石ころであっても、沢渡さんの輝きを受ければこれぐらいには輝けるという事を!

 

 

MASUMI VS EIKA

LP:4000

 

「デュエル!」「デュエル!」

 

「先行は私よ! 私は手札から魔法カード、ジェムナイト・フュージョンを発動!」

 

初手からキーカードが手札にあるとは……沢渡さんほどじゃないですが、カードに選ばれてますね。

 

「私は手札のジェムナイト・ルマリンとジェムナイト・エメラルを融合!」

 

光津さんは二枚のカードを融合素材にし、手札から融合召喚を行う。……ダイガスタじゃないエメメメさんを見るとは思いませんでした。

 

「雷帯びし秘石よ、幸運を呼ぶ緑の輝きよ! 光渦巻きて新たな輝きと共に一つとならん!」

オブシディアやラズリーでなかったのは幸運ですかね。それともあえてルマリンを使ったのか。

「融合召喚! 現れよ、勝利の探究者 ジェムナイト・パーズ!」

 

ジェムナイト・パーズ

レベル6

攻撃力 1800

 

「その様子だと融合自体は理解しているみたいね」

「昔は良く相手にしてましたから」

 

ヒーローは恐ろしい……。

 

「ふん、私をそこらの融合使いと一緒にしないことね! 私はカードを一枚セットし、ターンエンドよ!」

 

墓地のジェムナイトを除外すればジェムナイト・フュージョンを効果で回収出来る。それをしないのはプレイングミス……? いやそんなロマンチストじゃいけない。

 

「私のターン、ドローします」

「さあどうするの? 私のフィールドのジェムナイト・パーズの攻撃力は1800、決して高い数値じゃないわよ」

 

誘ってる。……それに乗るのもいいですが、今日の私は少し機嫌が悪いんです。

 

「私は手札からフィールド魔法、マドルチェ・シャトーを発動」

「フィールド魔法? 随分珍しいものを使うのね」

「アクションデュエルでない以上、フィールド魔法も立派な戦術です」

ソリッドビジョンによってフィールド魔法が再現され、周囲がお菓子の国へと変わる。

「このカードはフィールド上のマドルチェたちの攻撃力、守備力を500ポイントアップさせます。そしてこのカードが発動した時、墓地のマドルチェと名の付くモンスターをデッキに戻すことが出来ます、が私の墓地はカードが存在しないのでこの効果は無意味です」

むしろ強制効果なのでデメリットとも取れますし。

「手札からマドルチェ・エンジェリーを召喚」

 

マドルチェ・エンジェリー

レベル4

攻撃力 1000→1500

 

お菓子の国に現れたのは小さな天使。小さなスプーンを持った可愛らしい魔導人形がお菓子の国に降り立つ。

 

「可愛らしいカードを使うのね。正直意外だわ」

「いいえ、私には似合いですよ。人形なんて揶揄される私には。……可愛すぎる自覚はありますが」

 

似合わないってゆーな! 好きなカードを使って何が悪い!

 

「さらにマドルチェ・エンジェリーの効果発動。このカードをリリースし、デッキからマドルチェと名の付くモンスターを特殊召喚します。私はマドルチェ・ホーットケーキを特殊召喚」

「……馬鹿ね、確かにあの天使にはお似合いのフィールドだったけど、効果を発動した後にフィールド魔法を使っていればエンジェリーをデッキに戻すことが出来たわ」

 

……私の事を評価してくれているようだったのに、これをプレイングミスと考えるのはやっぱり私たちを見下している証拠じゃないですか。

 

「さらにホーットケーキの効果を発動、一ターンに一度、墓地のモンスターを除外し、このモンスター以外のマドルチェと名の付くモンスターをデッキから特殊召喚します。来て、マドルチェ・メッセンジェラート」

ホーットケーキの鳴き声に呼ばれ、デッキからお菓子の国の郵便屋が届け物に現れる。

 

マドルチェ・ホーットケーキ

レベル3

攻撃力 1500→2000

 

マドルチェ・メッセンジェラート

レベル4

攻撃力 1600→2100

 

「メッセンジェラートの効果発動、特殊召喚された時、フィールドにマドルチェと名の付く獣族モンスターが居た時、デッキからマドルチェと名の付く魔法・罠カードを手札に加える」

 

メッセンジェラートがカバンから手紙を取り出し、私に差し出す。

 

「私が手札に加えるのはマドルチェ・チケット。そして発動」

 

この効果を使うつもりはないですが、念には念を。彼女に負けるわけにはいきませんから。

 

「大した展開力ね。けどそれだけじゃまだ私のライフを0には出来ない」

「まだ終わりじゃありません。それと光津さん、いくつか言っておきます」

「えっ?」

「まず一つ、沢渡さんは「なんか」じゃありません。次に沢渡さんは私や山部たちを見下してる点もあります。けどそれを理解して、当然のことだという自負がある。……あなたのように無意識でやっているわけではありません」

 

どちらが客観的に見てマシなのか、は人それぞれでしょうが。

 

「そしてあなたのように融合が使えるというだけでは、沢渡さんのような自負は程遠い。そして最後に、この子たちは確かに私には不似合いかもしれません。だから私に似合いの子を紹介してあげます」

 

この子たちも私の大事な仲間のお人形さんですから。

 

「私は手札から速攻魔法、神の写し身との接触(エルシャドール・フュージョン)を発動」

「フュージョンですって……!?」

「あなたが一体私のどのような点を評価してくれたのかは知りません。特に評価されるようなデュエルを此処でした覚えはありませんから」

 

少しばかり意地の悪い言葉と光津さんのプレイングをそのまま繰り返すような融合、私ってば性格悪すぎぃ!

 

「私は手札のシャドール・ドラゴンとシャドール・ファルコンを融合――糸に縛られし隼と竜よ、一つとなりて神の写し身となれ――融合召喚。来て、探し求める者、エルシャドール・ミドラーシュ」

「融合召喚……あなた、融合まで使えたの……!?」

 

 

エルシャドール・ミドラーシュ

レベル5

攻撃力 2200

 

「ミドラーシュがフィールドに居る間、お互いのプレイヤーは特殊召喚を一ターンに一度しか行えなくなる。そしてこのモンスターは相手の効果では破壊されない」

「特殊召喚を封じるモンスター……刃や北斗なら致命的ね」

 

お仲間のシンクロ使いさんとエクシーズ使いさんですか。確かにこの効果は彼らには致命的だ、手札で行える融合とは違い、シンクロもエクシーズも場にモンスターを二体以上そろえる必要がある。けれど通常召喚と特殊召喚によって一ターンで素材となるモンスターを揃えても、特殊召喚扱いとなるシンクロ、エクシーズは召喚できない。次の自分のターンまでモンスターを守るか……相手のターンで特殊召喚を行うしかない。強力な効果だが、しかしこれでも恐らくペンデュラム召喚は止められない。彼の言葉を信じるならばあの召喚は複数のモンスターを同時に召喚している。よって召喚のカウントも一度のはずだから。

 

「融合素材として墓地に送られたシャドールたちの効果発動。シャドール・ファルコンは効果によって墓地に送られた時、裏側守備表示で特殊召喚される」

「さらにモンスターを……」

「そしてシャドール・ドラゴンは効果によって墓地に送られた時、フィールド上の魔法・罠を一枚破壊する。私はあなたの場の伏せカードを破壊」

「っ、私は罠カード、廃石融合(タブレット・フュージョン)を発動! 墓地のジェムナイト・ルマリンとエメラルを除外する事で融合召喚を行う! 雷を帯びし秘石よ、幸運を呼ぶ緑の輝きよ、光渦巻きて新たな輝きと共に一つとならん! 融合召喚! 現れよ、幻惑の輝き、ジェムナイト・ジルコニア!」

 

ジェムナイト・ジルコニア

レベル8

攻撃力2900

 

「私のターンでの融合召喚。流石に融合では私よりも上を行きますね。けれど廃石融合で召喚したモンスターはエンドフェイズ時に破壊される――バトルフェイズ、私はエルシャドール・ミドラーシュでジェムナイト・パーズを攻撃」

 

「くっ……!」

 

MASUMI LP 3600

 

ジェムナイト・パーズが破壊され、光津さんのライフが削られる。

 

「攻撃力2900のジルコニアは私のモンスターたちでは破壊できません。ターンエンドです」

「ターン終了時、ジェムナイト・ジルコニアは破壊されるわ」

 

正直今のターンで決めたかったです。沢渡さんを待たせてますし、何より手札が満足してる、じゃなくて手札が0で伏せカードがありませんし。

 

「私のターン、ドロー! ……正直、あなたが此処までやるとは思ってなかったわ。あなたの言う通り、無意識であなたを見下していた」

「別に私を見下すのは構いませんよ」

「そう、でももう二度と、あなたを見縊らないわ! 私は墓地のジェムナイト・ジルコニアを除外することで墓地のジェムナイト・フュージョンを手札に戻す!」

これで光津さんの手札は3枚、1枚がジェムナイト・フュージョン……手札に回収した以上、残りの手札は――

「私はジェムナイト・フュージョンを発動! 手札のジェムナイト・ルマリンとジェムナイト・ラズリーを融合! 現れよ、ジェムナイト・プリズムオーラ!」

 

ジェムナイト・プリズムオーラ

レベル7

攻撃力 2450

 

二枚目のルマリンを引いたらしい。何と言う強運。

 

「ジェムナイト・ラズリーの効果発動! このカードが墓地に送られた時、墓地から通常モンスター1体を手札に加える。私はジェムナイト・ルマリンを手札に! そしてプリズムオーラの効果を発動! ルマリンを墓地に送り、表側表示になっているカード1枚を破壊する! 私が破壊するのはフィールド魔法、マドルチェ・シャトー!」

 

プリズムオーラの効果によりマドルチェ・シャトーが破壊され、フィールドが元のデュエル場へと戻る。

 

「バトルよ! ジェムナイト・プリズムオーラでエルシャドール・ミドラーシュを攻撃!」

「……」

EIKA LP 3750

 

ミドラーシュが破壊され、特殊召喚封じが解かれる。光津さんの手札が0である以上、このターンこれ以上の追撃はない。……けれど彼女の事だ、次のターンで何かしらのキーカードを引くに違いない。

 

「ターンエンドよ!」

 

そう彼女の自信に満ちた顔が告げている。

 

「……私のターン、ドロー」

 

けれど、ミドラーシュを破壊したのは間違いだ。シンクロやエクシーズ使いなら大打撃だが、融合使いならばその二つと比べればまだ影響は少ない。マドルチェ・シャトーを破壊したことで攻撃力の戻った二体なら大丈夫と踏んだのだろうけれど。

……ドローしたカードは罠カード、マドルチェ・ハッピーフェスタ。強力なカードだけれど、手札が一枚しかない今は使えないカードだ。本当に私はここぞという時のドロー力がない。

だからドローには頼らない。

 

「私はホーットケーキの効果発動。墓地のミドラーシュを除外し、デッキから二枚目のマドルチェ・エンジェリーを特殊召喚。さらにエンジェリーをリリースし、デッキからマドルチェ・マジョレーヌを特殊召喚」

 

ミドラーシュが残っていればこれだけの展開は出来なかった。次の自分のターンの為とはいえ、やはりミスでしたね。

 

マドルチェ・マジョレーヌ

レベル4

攻撃力 1400

 

「けれどマドルチェ・シャトーが破壊されている以上、攻撃力は上がらない! どうやっても私のプリズムオーラを破壊する事は出来ないわ!」

「そうですね」

 

そもそもマドルチェ・シャトーがあろうとなかろうと、私のデッキではプリズムオーラの戦闘破壊はほぼ不可能。打点が低い、私と同じ非力なデッキですから。

だから破壊はしない。

 

「……っ! まさか!」

「融合に気を取られていましたからね。気付かないのも無理がありません。あなたは融合に誇りと愛着を持っていますから……私はレベル4のマドルチェ・メッセンジェラートとマジョレーヌでオーバーレイ。二体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築――人形たちを総べるお菓子の女王、お伽の国をこの場に築け……エクシーズ召喚、来て、ランク4、クイーンマドルチェ・ティアラミス……!」

「これが、あなたの本当のエース……!」

 

少し可愛すぎますけどね。

それに融合で決めると(内心で)誓っておきながら、結局この子に頼ることになってしまった。

 

クイーンマドルチェ・ティアラミス

ランク4

攻撃力 2200

 

「ティアラミスの効果発動、一ターンに一度、オーバーレイユニットを一つ使い、墓地のマドルチェと名の付くモンスターを2体までデッキに戻し、その枚数分フィールドのカードを持ち主のデッキに戻す。私はマドルチェ・エンジェリーをデッキに戻し、あなたのフィールドのジェムナイト・プリズムオーラをエクストラデッキに戻す。女王の号令(クイーンズ・コール)

「プリズムオーラが!」

「バトルです。私はマドルチェ・ホーットケーキで直接攻撃」

「きゃあ!」

 

MASUMI LP 2100

 

「さらにクイーンマドルチェ・ティアラミスで直接攻撃。ドールズ・マジック……!」

「くっ、きゃあああああああ!」

 

MASUMI LP 0

 

WIN EIKA

 

「ありがとうございました。それでは」

 

勝負か着くと私は一言だけ声を掛け、すぐにその場を去ろうとする。沢渡さんが待ってるから!

 

「ちょ、ちょっと! 待ちなさいよ!」

「すいません、話はまた今度。沢渡さんは集団の中で一人だと寂しがるので」

 

ケーキを食べてる間は気にしないだろうけど、食べ終わったらきっと気にする。

光津さんには申し訳ないけど、これで失礼します!

制止の声を振り切り、急いでデュエル場を飛び出してロビーに向かう。

しかしデュエル場を出た途端、誰かとぶつかってしまう。くっ、急いでるのに!

 

「あん? なに、もう終わっちゃったの? わざわざこの俺が見に来てやったっていうのに」

 

「さ、沢渡さん!」

「それで結果は? まあ聞くまでもないだろうけど」

「勝ちました!」

「あ、そ。ならさっさと行くぞ」

「はい、沢渡さん!」

 

やっぱり一人になったせいで少し機嫌が悪くなってしまった沢渡さんと一緒にデュエル場を跡にする。

 

「食べかけのケーキ、悪くなる前に食っちまえよ」

「はい、沢渡さん! 良かったら半分どうですかっ?」

「どうしてもって言うならもらってやる」

「どうしてもお願いですっ!」

「しょうがねえなあ」

「流石沢渡さん!」

 

 

 

 

「…………本当、どうしてあいつの取り巻きなんてやってるのかしら」

 

そしてデュエル場に残された光津真澄がくすんだ目で呟いた。




主人公のデッキはシャドルチェ。多分シャドール特化にした方が強い、ミドラーシュとの相性があまり良くないし。展開し終わった後ならどうにでもなりますが。

沢渡さん、次はクリフォ使ってもいいのよ?

感想にてご指摘いただきました。
最後のターン、ティアラミスの効果で墓地のマドルチェを戻した際、本来ならばマドルチェ・チケットの効果でデッキからマドルチェ・モンスターを手札に加えなければなりませんが、アニメ的演出としてカットさせていただいています。
今後もこういった演出があると思いますが、アニメ的演出とお考えください。

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