やはり幼馴染なんてものは、どこかまちがっている。   作:フリューゲル

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こんにちは、フリューゲルです。

全然本編に関係ないのですが、最近NBAのプレーオフが本当に面白いですね。

贔屓のチームそもそもプレーオフ圏外なのである意味穏やかな気持ちでみられるため、純粋にこの選手がすごいなあと思うことができたりします。

レブロンがキャブズに戻って一年目で、ラブもアービングもいないのにここまでやれるのは本当にすごいです。……あの人、本当に何でもできますね。

それでは、ご覧下さい。


少女期Ⅲ ~仄かな思い~

 またいくつかの季節が巡って、私と小町ちゃんは中学生になりました。

 

 

 初めての制服は小町ちゃんが着ると凄く可愛らしいのに、私が着て鏡の前に立つと何故かあまり似合っていないのが多少不満でした。それでも初めて袖を通したときには、少しだけ大人になったような気がして、見慣れた並木道も少しだけ違って見えました。

 

 

 私たちよりも二年早く中学校に上がった八幡さんも、比企谷家にお邪魔しているときよりもずっと大人に見えて、それなりに格好いいなあと思っていたりもしたのです。

 

 

 そんな大人への第一歩を感じたのは私だけではないようで、クラスの女の子たちの会話も少しづつ変わっていきます。以前の恋愛話は誰々が好きだけで終わっていたのですが、それが誰々と付き合っただとか、あの子を狙っているだとか、そんな会話が交わされるようになりました。

 

 

 実際に何人かの女子たちは既に恋人ができたり、初デートを済ませたという話しも耳に入ってきました。そういった子たちは未だ恋人がいない子に比べて垢抜けてきていて、スカートの裾の折り方とか爪の手入れとか、そういった細かい部分のお洒落の違いが見え隠れしていたりするのです。

 

 

 

「昨日の月9に出てた人、マジでかっこよかったよね~。えっと、ほら、名前何だっけ?」

 

 

「名前覚えていないんだ……」

 

 

「だって初めて見た人だったし。ほら、メガネ掛けていかにも俺様、って感じの人」

 

 

「あ~、あの人。……私も名前知らないや」

 

 

「朱音もじゃん! ……で、どう?」

 

 

 

 そんな私はというと、そういった甘酸っぱい空気に少しだけ気後れしながらも、色恋話に耳を傾けていたりしていました。

 

 

 時折私のところに恋愛相談を持ちかけてくることがあり、そういう場合は何となく彼女たちが自分の好きな男の子を告げる意図を理解することもできたのです。

 

 

 しかしだからといって彼女たちが挙げる男の子にさして興味を抱くこともなく、そういった与太話には適当に返事しながら、普通の学校生活を送っていました。

 

 

 

「私はああいうタイプはあんまり好みじゃないかも」

 

 

「ふ~ん。じゃあ、どういうのが好み? できれば芸能人で言って」

 

 

 流行のドラマに出ている登場人物の名前を何人か挙げると、

 

 

「あ~」

 

 

 

 納得されたのか、されてないのかよく分からない返事をされ、しげしげと上から下まで眺められます。

 

 

「……朱音って、ちょっと趣味変わってる?」

 

 

「そんなことないと思うけど……」

 

 

「ツンデレ、みたいな感じ? 不意に優しくされたい感じでしょ」

 

 

「そう言われるとちょっと違うような……。普段擦れてるのに変に真面目で、ちょっと不

器用で、でもやっぱり不器用に優しい人がいたら、いいと思わない?」

 

 

「思わない。私はどんどん引っ張ってくれる人が好きなの」

 

 

 

 そこで予鈴が鳴って休み時間が終わり、この会話は打ち切りになります。

 

 

 その後の授業、一次関数の公式を聞き流しながら、先ほど話した好みのタイプに一人だけ当てはまったことに気付き、少しだけ恥ずかしくなりました。

 

 

 女の子たちが徐々に変わっていくように、男の子たちもだんだんと変わっていきました。

 

 

 小学校までは普通に話していた人がいきなり距離をとったり、逆に妙に話しかけてきたりするのです。

 

 

 特に後者の人たちは、メールアドレスを交換して欲しいと言い、特に断る理由がないので交換はするのですが、それだけです。

 

 

 交換をしたときに「暇だったらメールして」と言われるものの、学校で顔を合わせるクラスメイト、しかもさして興味のない男子とメールして話す内容などありません。

 

 

 結果、私からは送ったことのない、ほとんど意味のない名前が電話帳に残っていったのです。

 

 

 そうやって距離をとっていたのに関わらず、それでもいきなり告白されことがありました。

 

 

 私に告白をしてきた人たちとはそこまで親しいわけではなく、たまに話しをする間柄でした。しかも僅かばかりの交流の中で、私に好意を抱いてもらうようなことをした覚えはなく、大層困惑しまして、返事をするのに若干時間がかかったりしてしまいました。

 

 

 結局彼らと一緒に過ごしている自分というものが、どうして想像できず、全て断っていました。

 

 

 そんなある日、小町ちゃんが委員会で遅くなるため一人で帰っていると、私と同じように一人で帰っている八幡さんを見つけました。

 

 

 

「八幡さん、お一人ですか?」

 

 

 

 車道を渡り、反対側の歩道へ行って声を掛けると、八幡さんは周囲をざらっと見渡した後、口を開きました。

 

 

 

「なんだ、切花か。一人だぞ、むしろ進んで一人でいると言っていい」

 

 

「いえ、あの。私としてはほとんど挨拶みたいな感じだったんですけど……」

 

 

 

 というよりも八幡さんの場合、一人でいることが大半なので、むしろ誰かと一緒にいる

方が驚きます。

 

 

 隣に並んで歩き始めると、八幡さんが歩く速度を緩めてくれて、私は八幡さんのそんな心遣いに感謝しながら、いつもより足早に足を動かしました。

 

 

 こうやって二人で帰るのは初めてで、夕日の射し込み具合も相まって、映画のワンシーンのようだなあと自分のことながら思いました。

 

 

 

「小町はどうした? いつも一緒に帰ってるだろ」

 

 

「美化委員会の活動があっって、学校の周辺を掃除しなくちゃいけないそうです」

 

 

「はー、あいつも面倒な委員会に入ったもんだ」

 

 

 

 私も小町ちゃんも部活には入らなかったので、放課後は基本的に時間があるのですが、

たまに委員会活動が入ります。

 

 

 私たちの中学校は全員がなんらかの委員会に入ることになっていて、私は教科委員なので放課後まで拘束されることはないのですが、小町ちゃんは不運にも維持管理的な委員会に入ってしまったようで、たまにこういうことがあるのです。

 

 

 

「そうですね。久しぶりにババを引いたって言ってましたよ」

 

 

「……お前ら、要領いいからなあ」

 

 

「私はそこまで良くないです。小町ちゃんと一緒にいるから、そう見えるだけですよ」

 

 

「かもな」

 

 

 

 その調子で小町ちゃんの話しを続けます。

 

 

 八幡さんは小町ちゃんが誰かに言い寄られていないか私にしきりに聞いてきましたが、私は今も別のクラスなので、小町ちゃんのクラスで誰が狙っているのか分かりません。

 

 

 でも小町ちゃんから男の子の話題をほとんど聞かないことを伝えると、八幡さんは露骨に安堵して大きな息を吐きました。

 

 

 大通りを外れて、細い、歩道のない道に入ります。正面から車が来たので避けるように路肩に寄ったとき、擦れるように八幡さんの腕にぶつかりました。

 

 

 

「……すいません」

 

 

「おう」

 

 

 

 八幡さんと触れた部分が一気に熱くなるのを感じました。

 

 

 ここ最近、このようなことが度々起こるんです。何気ないことで胸がどきどきして、会話をしているだけなのに凄く楽しくて、触れ合うと火傷をしたように熱くなります。

 

 

 そのような現象を少女漫画の中で何度も読んだのですが、私が持っている感情は、物語の登場人物とは少し違っている気がして。具体的にどうこう言えないのですが、所々感情移入ができずにいるので、どうも自分の感情に自信が持てないのです。

 

 

 

「……それにしても不思議です」

 

 

「何がだ?」

 

 

 

 少しだけ迷って、この不透明な気持ちについて八幡さんに尋ねることにしました。

 

 

「何ヶ月前まあではみんな小学生だったのに、今は恋愛の話しばかりなんです。付き合いたいとか、そういった感じで。どうしてそんなに彼氏彼女の関係になりたいんでしょうか?」

 

 

「そりゃ、ただの背伸びだろ。中身はまだまだ子供のくせに、大人の真似をして慣れないことをしているだけだ」

 

 

「でもそんな憧れだけで、わざわざ放課後の教室に呼び出して、いきなり付き合って欲しいって告白するなんて変じゃないですか?」

 

 

「やけに具体的だな」

 

 

「一般論ですよ。一般論」

 

 

 

 別にわざわざ次の日に噂になりそうな状況で、告白をしてきたことを不満に思っているわけではないのです。

 

 

 いや、実際噂になって困りましたけど……。

 

 

 

「……まあいいか。そりゃ、好きだからだろ。好きだから一緒にいたいと思って、他に表現したり繋がる方法がないから、恋人関係になるしかないだけだ」

 

 

「それは、八幡さんもですか?」

 

 

「……一般論だ」

 

 

「……ふうん、そういうことですか」

 

 

 

 その八幡さん言葉で、自分の感情に気が付きます。

 

 

 きっとおそらく、一般的な意味での『好き』ということは、好意的な感情を抱いて、相手に何かを望んで、相手に何かをしてもらうことを望むことなのです。

 

 

 だから付き合おうとしたり、好きな人への希望を言ったりして、誰かに何かをしてもらおうとするのです。

 

 

 ……でも私にはその感情がありません。

 

 

 私は異性として八幡さんに好意的な感情を抱いていると思います。その言葉の通り、今も心臓は少しだけ早く鳴っていて、それと一緒にきゅっと締め付けられます。

 

 

 恋人になったらきっと楽しくて、手を繋いだらどきどきして、キスをしたらとても甘い味がするのでしょう。

 

 

 でも私は恋人になりたいわけでも、手を繋ぎたいわけでも、キスをしたいわけでもないんです。

 

 

 ただ、好意を持っているだけなんです。

 

 

 この気持ちを伝えようとも、叶えようとも思わないんです。

 

 

 ……何だ。私、祖母とあんまり変わらないじゃないですか。

 

 

 祖母ほど状態が酷いわけではなく、きちんと誰かに感情を向けることもできますが、結果は変わらず、さして繋がりたいとは思いません。

 

 

 

「……どうかしたのか?」

 

 

 

 八幡さんが少し心配そうに声を掛けてきます。

 

 

 

「いえ、ちょっとした疑問に納得がいったので」

 

 

 

 本当にちょっとしたことです。

 

 

 涼しげな風が街路樹を揺らし、深い陰影が所々にまき散らされながら、太陽は沈んで星空が顔を覗かせようとしています。

 

 

 高校の制服を着た男女が手を繋いで、顔に笑みを浮かべながら私たちとすれ違いました。

 

 

 ほんの少しだけ手を伸ばせば届きそうな距離にいる八幡さんは、やっぱり手を伸ばそうとは思わないのです。

 

 

―――――――

 

 

 だいたい祖父の四十九日の法要が終わった頃からでしょうか、たまにぽかんと時間が空いたときに、お墓参りに行くのがいつからか習慣になっていきました。

 

 

 習慣、といっても三ヶ月に一度のときもあれば、二週間ごとの時もあったので、厳密な意味で習慣とはいえないのかもしれないですが、それでも通ってはいたのです。

 

 

 お盆や三回忌のような式典はどうも苦手です。決められたように死んだ人のことを思い出すと、日常の情報の中に埋もれてしまって、きっと大切なものを忘れてしまう気がするんです。

 

 

 お墓参りといっても大したことはしません。お墓を掃除して、花を添え、お線香をあげて、いなくなった人たちに語りかけるくらいです。

 

 

 名前しか知らない弟に謝って、良く知っている祖父に近況を報告して、顔と名前しか知らない祖母に愚痴や文句を言ったりしていました。

 

 

 本当は故人に愚痴を言うのは間違っているかもしれませんが、それでも祖母だけはどうも他人の様に思えず、つい口が軽くなってしまいます。

 

 

 そうして私が八幡さんのことを好きになったことも伝えました。

 

 

 お墓の中で眠っている祖父はきっと喜んでくれるでしょう。祖母は無関心な表情しか浮かびません。弟のことは何も分かりません。

 

 

 ……本当に意味のない行為です。それでも、何故かこの三人にはしっかりと伝えなければいけない気がするのです。

  

 




ご覧いただき、ありがとうございます。

最近、『冴えない彼女の育て方』の二次創作の短編でも書こうかなー、と思ってまたせこせことプロットを作っています。だいたい15000字くらいで。

元々丸戸さんのファンではあって、この作品も一巻から買ってはいるのですが、キャラクターを再度つかむためにまた一から読み直す毎日です。

文章の練習も兼ねるというか、丸戸さんの文章はシンプルでテンポがいいので、そこら辺を勉強しながら、しっかりとキャラを生かしつつ書ければと。

多分、詩羽先輩がメインになると思います。


それでは、また次回。

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