コメントへの返信も遅れてしまって申し訳ないです。
僕は生きてます、大丈夫です。
そんなわけで第5話どうぞ
黒板にカツカツと小気味な音と共に文字が記されていく。将来の夢のこと、色んな職業のこと。書き終えてチョークを置いた若い女性の先生が生徒達を見た。
「世界には数えきれないくらい沢山のな職業があります。お店で働いたり、ボランティア、他にも、スポーツ選手なんかもありますよね。将来自分が何をしたいのか、色々考えてみるのもいいかもしれません」
そう言ったところでちょうどチャイムが学校全体に鳴り響き、起立と礼の挨拶をして生徒達は騒がしい休み時間へと入っていった。
僕は先程の授業をボンヤリと聞きながら考えていた。自分のこれから、肉体的に大人になってから何をするのか。やはり自戦地へ赴くことになるだろう。自分のいた世界とは違う世界であっても人々を救いたい。そのためなら、例え再びこの世全ての悪を担うことになっても自分は構わない。
ーー体が子供になっても信念は変わらない。
誰かを助けたいという願い。たとえ無理だとしても僕の諦める理由にはならない。
それに、この世界に魔術師はいない。魔術を使える自分は非常に高いアドバンテージを持っていると言えるだろう。それに余程のヘマをしなければ死なないという自負もある。
頬杖をついて考えている僕の前に男子の集団が現れて声をかけてきた。
「切嗣、なにボーッとしてんだよ?」
「ーーえ?ああ、ゴメンちょっと考え事しててね」
僕は苦笑いして答える。子供に言える内容ではないし適当に言ってはぐらかしておくとしよう。
「早く給食を食べ終わらせて校庭行ってサッカーしようぜ!じゃないと昼休み終わっちゃうしよ!」
「うん、わかった」
このクラスにも大分馴染んできた。こうやってクラスの男子と遊ぶこともあるし、クラスの女子と話すこともある。ただ、なのは達が僕と遊ぼうとクラスに来ることがよくあって、男子から敵意をもった目で見られることがある。小学校低学年だから気持ちは分からなくもないが勘弁してほしい、だけど高校とかでなくてよかったと思う。聞く所によると、高校生にもなると周囲の嫉妬が物凄くなるらしい。とりあえず今は先の考えていても仕方ない、とりあえず学校生活をいつも通り過ごすために僕は教室を出て校庭へ歩いていった。
******
「切嗣、なのは、お疲れ様」
士郎さんは、僕となのはに労いの言葉をかけてくれた。今の自分に出来ることがこれくらいしかないから、僕は翠屋の手伝いを日課にしている。今日はなのはも手伝いをしてくれて少し助かった。まあ、手伝いと言っても僕は料理を息子の士郎に任せっきりだったり、ジャンクフードばかり食べていたからとてもじゃないが出来なくて、基本的にウェイトレスとしての仕事が殆どなのだが。
「今日はもう粗方片付いたからゆっくりするといいわ、後でお菓子用意しとくから」
食器を洗っている桃子さんの発言になのはの顔がパァッと明るくなる。こっちとしても嬉しいことだ。お礼を言わなければいけない。
「わぁい!」
「ありがとう、母さん」
「いいのいいの、頑張ってくれた分のお小遣いなんだから」
桃子さんは笑顔で言ってくれた。本当に優しい母親だ。とりあえず部屋に戻って部屋の整理でもしよう。此処最近片付けていないから結構散らかっていた筈だ。じゃあまた後で、僕はそう言ってエプロンを脱ごうとした。
「お!キリツグじゃん!何そのカッコ、超カワイイんですけど!」
突然店の入り口の方から他の客を顧みない大声が聞こえてきた。振り返るとそこには金色の髪をたなびかせている女性が何処かの学校の制服に身を包んでいた。
「ーーエリシア?」
あの日からまだ2、3日しか経っていないというのに、なんとも早い再会だ。金色の髪と澄んだ赤い瞳の女性、エリシア・テスタロッサはニコニコ笑いながら近づいてきた。
「やあやあ、キリツグ、元気してた?」
「元気もなにも、会ったのは数日前じゃないか」
「あり?そうだっけ?」
どれだけ記憶力が無いんだ。僕は思わず大きなため息をついてしまった。ここまでテンションが高い相手は大河ちゃんや征服王位しか見たことは無かったので少し呆れてしまったが、そんなことエリシアは知る由も無いだろうが。
「あの、失礼ながらどちら様でしょうか?うちの子とお知り合いのようですけど」
桃子さんは少し不思議そうな顔をしている、俺は先日あったことを全く話していないので高町家の人々は知らないのだ。
「あ、キリツグのお母様ですか。私エリシアって言うんですけど、実は数日前にキリツグが私をナンパして来た男から助け出してくれたんですよ。いやー、惚れちゃいそうでしたねぇ」
クネクネと体をくねらせながらエリシアはわざとらしく頬を抑えて言う。待ってくれエリシア、その発言は色々危ない。
「ーーエリシア君はショタコンだったんだね」
「な、なにを言うんだキリツグ?!私は周りの人より小さくて可愛い男の子が大好きなだけだよ!」
「いや、それを世間一般でショタコンと言うんだけど……」
どうやら真性の変態だったようだ。僕の発言に直様異議を申し立てるが、全く意味が無い反論を聞いた僕は呆れながらも笑って言うとエリシアはガーンという音が似合うようなポーズをとっていた。何故かは分からないが士郎と桃子はうんうんと頷いて感心していた。一体何だろう?
「あらあら、切嗣そんなこと言わなかったから全然知らなかったわ」
「切嗣、どうして言わなかったんだい?」
ああ、そういうことか。2人の疑問は当然と言えば当然なのだろう、息子の行動は知りたいものだろうし。
「いや、言う程の事でもないし、危ないことしたって怒られるかもしれないからさ」
「な!このクールビューティーな私のことを言う程の事でもないだって!?その罪万死に値するー!」
「いや、その点についてじゃないし、それにビューティーは人の感性によるけど、その発言の何処にクールがあるのか詳しく聞きたいね」
エリシアがピーピー騒ぐが僕は軽くあしらう。なのなは少し何かを考えている様子だったのだが、拳でポンッと手を叩いた。
「切嗣くん、もしかしてこの人あの時の?」
「ああ、すずかちゃんの家に遊びに行った帰りの時の人だよ」
ようやくなのはは思い出したようだ。するとエリシアはなのはをジーッと見て突然素っ頓狂な質問をした。
「ん?キミはキリツグの彼女?」
「ち、違います!切嗣くんは私の弟なの!」
本当に突拍子もない質問になのはは思わず声を荒げてしまう、それを見て僕は苦笑いを浮かべるしかなかった。最近の子供はこんなに早く付き合うことがあるのだろうか?ませているな。
「ありゃ、姉弟だったの?それにしては似てないね」
エリシアは僕となのはを交互に見て、うーんと首を傾げている。
「まあ、血は繋がってないですからね」
「あー……聞いちゃいけなかった?ゴメン」
血が繋がっていない。そう聞いたエリシアはバツの悪そうな顔になり、頭を掻きながら謝るが僕は笑いながら話す。
「いいや、気にしてないというか覚えてないんで大丈夫だよ。それよりも、店に来たってことは何か食べに来たんだろう?御注文は?」
エリシアは少しうーんと唸ったが、再び先程の明るさを取り戻した。
「あー、色々気になる所はあるケド、とりあえずキリツグのお任せコースでお願いねー」
「そんなのないんだけど、お客様のご要望にはお答えさせてもらうよ」
僕はカウンターに行き、スイーツと飲み物を選んで桃子さんと士郎さんにお願いする。桃子さんは手早くそれを皿に乗せて盛り付け、士郎さんは淹れたばかりの香り高いコーヒーを注ぎ、そしてそれらを持ちやすいようにトレイに乗せる。
「これ持って行ったらエリシアさん……だったかしら?あの人とおしゃべりしてていいわよ」
「うん分かった、ありがとう」
僕は商品を乗せたトレイを持ってエリシアの座っている窓側の席に歩いていった。
「お、こっちこっち」
エリシアは僕に気付いてニコニコ笑いながら手を振っている。
僕はトレイからシュークリーム1つと一口サイズのショート、チョコ、チーズのケーキが3つ乗った皿、そして香り高いコーヒーを置いた。どれもこの店の人気商品だ。
「うわぁ、美味しそー!」
「僕のオススメコースだからね、美味しさは保障するよ」
作ったのはお母さんだけど、と付け加えておくのを忘れない。
「ありがと。じゃ、食べながら色々聞かせてもらうよ」
ケーキを頬張って幸せそうな顔をしながらエリシアと色々な話をした。
******
「ほー、そりゃまた大変だったねぇ」
「そうでもないさ、こうして楽しく過ごさせてもらってるし、大変なことなんて一つもないよ」
「この前会った時から思ってたけど、キリツグって、随分と大人びてるねぇ」
「エリシアが子供っぽいだけだよ」
「うぐ、否定出来ないのが悔しいです」
エリシアはコーヒーを飲んで、ほうと息を吐いた。僕は聞かれたことには粗方答えた。養子であること、記憶が無いこと、聖祥大付属小の生徒であること。バレてはいけないことは勿論喋ってはいないが。
「他の事は忘れず、自分の正体だけ綺麗さっぱり忘れてるなんて器用な記憶喪失よねぇ」
「は、はは、全くだよ」
僕は思わず苦笑いしてしまう、あの時もうちょっとマシな言い訳が見つかればよかったのだが、いかんせん思考時間が無かった。今更悔やんでも仕方ないだろう。
「じゃあ、今度は僕から質問していいかい?」
「おっけー、私に答えられる範囲なら」
エリシアはそう言うとニコニコ笑った。一瞬初恋の人の面影が見えた気がした。
「なら質問、家は何処?」
「あん、家に侵入して襲うのはダメだぞ?」
前言撤回。どうしようもない変態だった。
「いや絶対にしないよ、エリシアは僕をなんだと思ってるんだい?」
「ちぇっ、期待してたのに」
ブーブー文句を言うエリシアに、僕は大きなため息をつくしかなかった。
「あのさ、僕の中で君の好感度がガンガン下がってるんだけど」
「そ、それはマズイから今すぐ教える!ここから見えるあそこのアパートに1人で住んでるの」
そう言ってエリシアが指を差す先には少し年季の入ったアパートがあった。見えるとは言ってもそこそこ遠い所だ。
「1人で?ってことは学校に通うためかい?」
「半分正解半分不正解ってとこだね。一人暮らししてるのは病気で両親が死んじゃっていないからってのもあるけど、一番は一人暮らししてみたかったんだ。お金はバイトと親戚の仕送りでこうやってお菓子食べる位の余裕はあるよ。だから深く考えてないよ、気にしないでね」
エリシアは笑いながらそんな事を言っていたが僕はここで気がついた。
彼女は嘘をついている。
目の動きや仕草の違和感でこの上無くハッキリとわかった。何故こんな嘘をついたのかは検討がつかないが。ここでエリシアは綺麗にデコレーションされたケータイを取り出して、それを僕に見せながら話しかけてきた。
「あ、そうだ、ケータイ持ってるよね?持ってるならアドレス交換しようよ!」
「こんな小学生のアドレスを聞くのかい?まあ、女の子のお願いは断るつもりはないけどね」
僕もケータイを取り出す。黒一色で特に装飾は無く、電話やメールなどの必要最低限の機能だけついているものだ。
地味だとかなんとか色々言われたが、それ以外の機能は自分には必要ないと思ったからだということを告げると、面白くないと訳の分からない文句を言われたが、そんなことは気にせずに赤外線でパパッと連絡先の交換を済ませた。ちなみに電話帳に入っているのは高町家一家とアリサとすずかだけと少ない。交換が終わると、エリシアはケーキを食べ終わったお皿とコーヒーを飲んだカップを置いてあったトレイに乗せた。
「名残惜しいけど私はバイトがあるから帰るよ。暇があったら絶対メールするからね!」
「期待しないで待っておくよ」
僕が呆れるように笑うとエリシアは手を振りながらニコニコしながら翠屋を後にした。店を出て走り去る途中で一回転んで顔面をアスファルトの地面に強打していたが彼女なら大丈夫だろう。
「ーーさて、これを片付けてゆっくりするとしようかな」
僕はテーブルを拭いた後、トレイを持って戻っていった。
******
そうしてこの日も何事も無く終わる筈だった、筈だったのだ。
上空を覆い隠す灰色の空
周りを包む異質な空気
人の気配を感じないネオン街
そして金色の光の軌跡を残しながら空を飛ぶ一人の女性を追いかける三つの影
その全てが僕の想像を超えたものだった
「ーーどうなっているんだ……これは……」
僕は、存在しない筈の
"魔法使い"に出会った。
第5話でした。
エリシアさんみたいなテンションの娘可愛いです、みのりんみたいな娘が好みです、それが言いたかっただけですごめんなさい。
ようやくという感じですね、魔法と関わっていくことになります。
では次回をお楽しみに。