ころしやものがたり   作:ちきんなんばん

5 / 13
少し間が空いてしまいました、申し訳ないです。
学生なのでどうしても時間が取れない時があるんですよ、言い訳乙ですね。

お気に入り100越え嬉しいです。
あと評価をつけてくださった方々、ありがとうございます。
これからも、ころしやものがたりをよろしくお願いします。

では第4話、どうぞお楽しみください。


第4話 偶然

「初めまして、僕は高町切嗣。こっちに来たのはつい最近だから友達が少ないので、友達になってくれる人がいると嬉しいな」

 

 真っ白な制服に身を包んだ僕はニコリと笑みを浮かべて挨拶をこなした。それにしても……なんというか、似合わない。

 

「はい、切嗣君ありがとう。みんな、切嗣君と仲良くしてあげてね」

 

 若い女性教師のお願いに生徒達ははーい!という元気な声をあげる。桜の咲き誇る季節、聖祥大学付属小学校は新学期を迎えていた。結果から言えば僕は編入試験に合格して、僕の入るクラスは2ーBになった。今は編入生として皆に挨拶している。クラス替えは3年と5年であるので、周りは知り合い、その中に入るのは困難かと思ったが。

 

「ねえねえ切嗣くん、どこから来たの?」

 

「お前サッカーとか好き?」

 

「好きな食べ物はなんなの?」

 

 まあ、こんな感じである。この時僕は小学生のフレンドリーさに感謝した。1年間1人で過ごすというのはいくらなんでも拷問だ。僕は感謝のつもりで1つ1つの質問に丁寧に答えていった。

 

 

 ******

 

 

「はあ……疲れた」

 

「注目浴びちゃうもんね、転入生って」

 

「……ある程度で質問は切り上げた方がよかったかな?」

 

 僕はバスから降りてバス停で大きなため息をつき、それを見たなのはは思わず苦笑いした、そして僕は少しウンザリした顔をしながらボヤいた。小学生のパワーを侮っていた。

 

「しかもなのはちゃんの妹ってことを言ったら更に質問責めに遭っちゃったよ、しかも僕のことじゃなくてなのはちゃんのこと」

 

「ふぇ?私のこと?」

 

 小首を傾げながら僕の言葉に疑問を示す、僕はその様子に少し呆れてしまった。もう少し周囲の反応に敏感になってほしいものだ。

 

「そうそう、僕はなのはちゃんの弟だからさ、なのはちゃんについて色々知ってると思われたんだよ。なのはちゃんは可愛いんだから男子がほっとかないんだよ?そこの所自覚しとかないと」

 

 そう、彼女は同年代の子の中でも抜きん出て可愛いのだ。将来は美人になることなんて簡単に予想できる程に。しかし本人は自覚していないというのだ。好意を寄せる男子は多いだろう。念のため釘はさして置いて困ることは無い。

 

「可愛いなんて……えへへ」

 

 しかしなのはにはそんな意図が伝わることはなく、ニコニコと嬉しそうに笑うだけだ。ダメだ、彼女にその手の話は全く意味をなさない。いくら3年生とはいえ無知識というか純粋過ぎる気がする。まあそこに男子が夢中になるのだろうが、大人になってもそのままのような気がしてならない。バスがバス停から去って行く、それを見送って僕は家に向かって歩き出した。

 

「やれやれ……照れてないで行くよ、遊びに行くなら早く帰って支度しないと」

 

「あ、待ってー!」

 

 そう、なのはは今日は遊びに行く予定なのだ。そこに何故か僕まで呼ばれてしまった。アリサの話によるとなのはの弟だからという理由だそうだ。別に断る理由などある筈もなく行くこととなった。ちなみに集合場所はすずかの家となっている。多少早目に行くくらいがちょうどいいだろう。

 

 

 ******

 

 

 そうして今、バスから降りて僕となのははすずかの家に向かって歩いている。ちなみに僕の手には桃子さん特製のお菓子の入った袋がある。

 

「あれだよ切嗣くん!」

 

「あ、う……ん……?」

 

 なのはがニコニコしながら僕を案内する。ちなみに結局準備に時間がかかったせいで時間はギリギリである。歩いていると目の前に3階建ての大豪邸と呼ぶにふさわしい洋館が目に入った。僕の時間が止まったような気がしたが別に固有時制御を使っているわけではない。

 

「あはは……やっぱり最初は驚いちゃうよね」

 

「そりゃこんなものが日本の、しかも近所にあったらね」

 

「だよね……」

 

 本当に日本かと思うくらい巨大で中世風の洋館だ。周りの風景と不一致ではないのか?ただしアインツベルンの城は例外だ、ちゃんと結界で隔離しているし。まあなんにせよすずかは噂通りのお嬢様というわけだ。まあ、あの学校の学費からしたら当然なのだろう。しかし、それを考えると高町家はどうやって資金を工面しているのだろう?翠屋の収入は確かに多い方だとは思うが、とても足りない気がする。まあそれはそれとして、これだけ大きいと恐らく使用人を雇っているだろうし、立地も良さそうだ。いったい幾らかかっているのだろうか?とても想像がつかない。僕がそんな事を考えている間に、なのははインターホンのボタンを押した。少し間が空いて若い女性の声が聞こえて来た。

 

「どちら様でしょうか」

 

「なのはです!」

 

「ああ、なのはお嬢様ですね、お話は伺っております。お迎えに上がりますのでそちらで少々お待ちください」

 

 そこでインターホンからの声は途切れた。すると玄関と言うには少し大きい扉が開き、紫と白を基調としたメイド服を着こなす女性が出てきた。その足運びや立ち振る舞いはまさにメイドの鏡と言えるだろう。

 

「こんにちは!」

 

「はい、なのはお嬢様、お待ちしておりました

……おや、その方は?」

 

 メイドの視線は僕に向けられた。

 

「あ、私の弟の切嗣くんです」

 

「弟……?はて、高町家は3人兄弟の筈では?」

 

 もっともな疑問である。人間、第一印象はとても重要だ。僕は出来るだけ丁寧に挨拶をする。

 

「ご紹介にあずかりました、高町切嗣です。少々訳あって高町家に養子として迎えられました、以後よろしくお願いします」

 

 僕は言い終えた後に深々と礼をした。するとメイドは少し驚いた表現をしたが、切嗣の対応が非常に好ましかったのだろう、ゆっくり口元を緩めた。

 

「ああ、貴方が恭也様の仰っていたお方ですね」

 

「兄さんが?」

 

 ここでその名前が出るとは思っていなかった。なのはだけでなく恭也もなにか月村家と関係があるのだろうか?

 

「ご存知無いのですか?恭也様は、すずかお嬢様の姉の忍お嬢様と双方のご両親公認の恋仲なのですよ」

 

「えっ、こ、恋仲だったんですか」

 

 予想を超えていた。あの色々堅そうな恭也に彼女がいたことは少し驚きだ。確かに見た目はモテそうであるが。

 

「ええ、その通りです。それはともかくご丁寧にありがとうございます。まだお若いというのに礼節の整ったお方ですね。私は此方の屋敷でメイド長兼、忍お嬢様のお世話を務めさせていただいております、名をノエル・K・エーアリヒカイトと申します、気軽にノエルとお呼びください。

 

では此方へ、お嬢様のお部屋まで案内致します」

 

「あ、はい、ありがとうございます」

 

 メイド長ノエルは、僕となのはの2人をエスコートする。すずかに姉がいることは既に聞いているので驚きはしない。それにしても中の装飾も外装に劣らず豪華絢爛という言葉が相応しいものだった。なのはは何度も此処に来ているらしく驚いた様子は全く見せなかったが、アインツベルンの城にいた僕といえどやはり少々驚いている。するとノエルがとあるドアの前で止まった。

 

「お嬢様の部屋は此方になります。では、どうぞごゆるりと。それとご用がありましたら何なりとお申し付けください。では」

 

 そう言い残してノエルはその場を後にした、するとなのはが僕を見る。

 

「……切嗣くん、なんかまるで大人みたいだったね」

 

 突然そんなことを言い始めたなのはに僕は少し動揺してしまった。あんまりにも唐突過ぎだろう。

 

「え?ハ、ハハハ、そうかな?」

 

「うん、なんていうか、その、落ち着いたカッコイイ大人って感じがしたよ」

 

 僕は思わず苦笑いして頭を掻く。確かに中身は大人だがこれはいけない……怪しまれる要素はなるべく少なくしておきたいところだ。しかしカッコイイは違う気がする。それよりもとりあえずこの場をしのぎ切る案を出さなければいけない。

 

「こ、この前テレビでやってたドラマで同じような場面があったんだよ、どこかで使えるかなと思って覚えてたんだ」

 

 咄嗟に出たのはこれだけだった。我ながら本当に苦しい言い訳だ。どうも最近精神年齢が肉体年齢に引っ張られているような気がする。なんというか頭の回転が遅いのだ。これも世界の修正力のせいだろうか?

 

「へぇ、そうなんだ、すごいね!」

 

 そして高町家の人々はすんなり受け入れ過ぎではないのか?若干どもっているのに一切疑わないで信じるなんて、いつか損しそうだ。

 

「と、兎に角入ろう、すずかちゃんも待ってるだろうし」

 

「うん、そうだね」

 

 僕が急かすようにドアを開けた次の瞬間、ドアの先から突然現れた5〜6匹の猫が僕の顔にタックルをかましてきた。

 

「ふぎゅっ?!」

 

「き、切嗣くん?!」

 

 僕は思わず変な悲鳴を上げてしまった。いくら猫とはいえ数匹集まればそれなりの物量だ、息がし辛い上に更に顔中を舐められて顔がヨダレでベチョベチョになってしまう。

 

「うぶ、ちょっと、やめ……」

 

「こ、こら!迷惑かけちゃだめだよ!」

 

 そこへすずかから助け舟が出された。慌てたすずかが声をかけると猫達は僕の顔から離れる。しかし顔は猫達のヨダレでベタベタになってしまった。なのはが心配そうに声をかけてきた。

 

「切嗣くん大丈夫?」

 

「ああ、顔がベタベタするけど大丈夫、心配はいらないよなのはちゃん」

 

 体を確認したが、外傷はなく、至って健康体だ。ただ、顔が本当にベタベタする。

 

「すずかちゃん、洗面所って何処にある?」

 

「えっと、ここを真っ直ぐ行って突き当たりで右に曲がればすぐだよ」

 

「ありがとう。じゃあなのはちゃん、僕は顔を洗ってくるからこれ持って先に遊んでて、僕もすぐに戻るからさ」

 

「うん、分かった、早く戻ってきてね!」

 

 わかったと答えて僕は洗面所へ向かって歩き出した。

 

 

 ******

 

 

 洗面所まで豪華に飾ってあり正直心が休まらなかった。しかし、それよりも気が休まらないのはそこら中に設置されている監視カメラだ。上手く隠されているものばかりでどうしても体が強張ってしまう。ならば気にしなければいいわけなのだが、昔からこういうものに気を配っていた癖はどうしても直らないのだ。しかし、それにしても警備が厳重すぎる気がする。すずかの父が資産家というのも聞いているがこれは些かやり過ぎだ。余程心配性なのか、もしくはそうしなければならない状況なのか、どちらかは分からないが、どちらにせよ下手に干渉するとなにをされるか分からない、ここは何もしないでおとなしくしているのが上策だろう。そうしてまたすずかの部屋に戻ってきた。ドアを開けるとそこにはなのはとすずか、そして何時の間にかいるアリサとノエルとは別のメイドだ。だが若干ノエルに似ている気がする。

 

「ようやく戻ってきたのね、遅いわよ」

 

「いや、あの、それ以前にアリサちゃんはいつ来たんだい?」

 

「は?あんたまさか気が付かなかったの?私最初からこの部屋にいたじゃない」

 

 はて、居ただろうか?思い出してみたが、猫の事で色々と大変だったため、周囲を見る余裕が無かった。

 

「え、そうだったのかい?ゴメンゴメン、気付かなかったよ」

 

「なんですってぇ?!」

 

 アリサは僕に、いたのか分からなかったと言われてご立腹のようだ。しかしここでなのはとすずかが止めに入ってくれた。

 

「まあまあ、折角遊びに来てくれたんだから仲良くしないとダメだよ」

 

「そうそう、切嗣くんだって悪気があったわけじゃないんだから許してあげて、アリサちゃん」

 

 アリサがムッと黙ってしまう。

 

「ふ、2人がそこまで言うのなら仕方ないわね……許してあげる」

 

 笑いながらありがとうと言って俺の視線は見たことないメイドに向けられる。

 

「で、貴女は?」

 

「あ、私ですか?私はファリン・K・エーアリヒカイトです。主にすずかお嬢様のお世話させていただいてます」

 

「あ、もしかしなくてもノエルさんと血縁関係があるんですか?」

 

「あ、おねーさまと会ったんですね」

 

 それにどうやら姉妹揃ってここで使えているそうだ。するとファリンは足早に部屋の外へ向かう、お茶をお持ちします言い残してファリンは部屋をあとしにした。

 

「じゃあ遊ぼう!」

 

 すずかはニコッと笑いながら言った。その後、猫と戯れたり、お茶をしながら談笑したりした、僕にとってこの年頃の女の子と触れ合う機会は無かったので新鮮な感覚だった。だがここで1つ断っておくが僕は頭にロのつく人ではない。

 

 

 ******

 

 

 すずかの姉、忍にも会ってみたかったのだが、今日は外出していたそうで会えなかった。また今度来ればいいだろう。日はもう傾き始めていた。僕となのはは来た時と同じバスで、アリサは迎えが来るそうだ。

 

「それじゃ、お邪魔しました!」

 

「色々していただいてすいません」

 

「いえいえ、お嬢様も楽しんでおられました、是非また来てください」

 

 なのはと僕は頭を下げてお礼の言葉を言ったらノエルさんは笑顔でそう答えてくれた。実に気持ちのいい笑顔だ。こちらもつい微笑んでしまう。

 

「ありがとうございます、じゃあまた明日」

 

 僕がそう言うとすずかはニコッと笑いながら手を振ってくれた。

 

「なのはちゃん、切嗣くん、また明日ね」

 

「うん!また明日!」

 

 そう言ってなのはと僕となのはは月村邸をあとにし、バス停まで歩いていくことにしたところ、若干人通りの少ない通りに出たのだが、ちょっとしたイザコザが見えた。男が執拗に女性に言い寄っているみたいで、どうやらナンパしているようだ。だが女性は面倒くさそうというか明らかに嫌がっている。

 

「いつの時代にもああいうのがいるんだね……人類の本質は石器時代から一歩も前に進んじゃいない」

 

「え、えと、何の話?」

 

 どうやら聞こえてしまっていたようだ。小声で言った筈なのだがなのはは少し耳がいいようだ。

 

「ああ、独り言だから気にしないでいいよ。ちょっと様子を見に行ってくるからなのはちゃんはここで待ってて、危ないからね」

 

「あ、切嗣くん!」

 

 なのはが呼び止めるが僕は軽く無視して現場へ向かった。

 

 

 ******

 

 

 顔立ちが非常に整っていて透き通るような金色の髪をポニーテールにして纏めている真紅の瞳の高校生くらいの女性は、髪を茶色に染めてイヤリングなどの装飾品をジャラジャラつけた男がネチネチと言い寄られていた。

 

「なあ、ちょっとだけだからさ、ちょーっと俺とお茶してくれるだけでいいんだよ。全部俺が奢るからさ」

 

「あのねぇ……私急いでるってさっきから言ってるでしょ?ナンパなら別のところでやってくれない?」

 

「そう言わずにさぁ」

 

 男はしつこく、決して諦めようとしなかった。これ程の上玉は滅多にお目にかかれないからなのだろう。女性がウンザリしているので手早く助けるとしよう。策はもう練ってある。

 

「そこのお兄さん、その人嫌がってるのわからないの?」

 

 僕は茶髪の男を呼び止めたが、男は面倒くさそうに舌打ちをして睨みをきかせてきた。そんなことしても全然怖くもなんともない。彼の徒労だ。

 

「あ?ガキはすっこんでな。これは大人の世界の話なんだよ」

 

 すぐに逃げ出すだろう。そう考えたのだろうが、俺は1ミリも表情を変えずに首をかしげて思っていたことを言ってやった。

 

「へぇ、そんな矮小な脳みそでドーテ○なのが大人なのかい?だとしたら僕は大人には絶対になりたくないなぁ」

 

 その発言に身体がビクッと震えたのが手に取るように分かった。

 

「……ガ……ガ……ガキが調子にのってんじゃねぇ!」

 

 どうやら最後の方は図星だったらしく男が怒りに任せて拳を振るってきた。子供相手にここまでキレるとは、性根が腐っているな。まあこんなもの、あのド腐れ神父に比べれば何倍も遅い。避けるなど造作もないことだ。他愛なし。軽く後ろに下がって避けつつズボンのポケットからこの間買ってもらったケータイを取り出して手早く電話をかけた。

 

「あ、もしもし警察ですか?子供に暴行を働こうとしていた不審者がいるんです、場所は……」

 

「なっ?!」

 

 男はビクッと震えた。まさか警察にかけられるとは思っていなかったらしく、警察沙汰になるのは御免のようだ。男は足早に去っていった。

 

「く、くそ!覚えてろクソガキ!」

 

「やだ」

 

 男が悪態をついて俺が来た方とは逆方向へ走って逃げ出した。あんな男を覚えておくなんて脳の無駄遣いだ。とりあえず僕はポカンとしている女性に話しかけた。

 

「あ、警察呼んだっていうのは嘘だから気にしなくていいですよ。じゃあ僕はこれで」

 

「ちょ、ちょっと待った!」

 

 僕はそのままなのはの元へ戻ろうとしたが、女性に頭を掴まれて止まってしまった。掴むにしても別の場所はなかったのだろうか?

 

「いやー、ありがとう少年、助かったよ。でもね、もう二度と子供があんなに危ないことしちゃダメだぞ?」

 

 女性はしゃがんで俺と目線を合わせると僕の頭を少し乱暴に撫でた。

 

「あ、その、はい、わかりました」

 

 むず痒さを感じつつも逃れはしない、避けたら失礼に値するからだ。

 

「助けてもらったお姉さんとしてはお礼してあげたいんだけど、今はちょっと無理なんだよね、急いでるからさ。あ、とりあえずさ、君の名前、教えてくれる?」

 

 女性は残念そうにうーんと唸った後ニコッと、まるで子供のような無邪気な笑顔を浮かべて名前を聞いてきた。だから僕は聞こえるようにハッキリと答えた。

 

「切嗣……高町切嗣だよ」

 

「キリツグ……いい名前だね」

 

 この名前を褒めてくれた人は本当に数える程しかいない。昔、この名は魔術師達にとって災厄の象徴だったから。そして女性は立ち上がって笑顔で自分の名を告げた

 

「私はエリシア・テスタロッサ。覚えてくれると嬉しいな」

 

 女性、エリシアはその笑顔を崩さない。例えが単純だがこれ以外に当てはまるものがない、彼女の無垢な笑顔はまさに太陽のようだった。

 

「エリシア……か。うん、僕なんかよりいい名前だね」

 

「おおう、謙遜なんかいいよ、照れちゃうじゃない」

 

「照れてるようには見えないけど?」

 

「ありゃ、バレちゃった?」

 

 クスクス微笑みながら俺はわざとらしくクネクネするエリシアに軽口をたたいた。そしてエリシアはチラと腕時計を見ると、ゲッと血の引いたような表情になった。

 

「やっば!もうこんな時間!じゃあね、また会えるといいねキリツグ!」

 

 女性、エリシアはニコニコ笑いながら手を振って走り去って行くと、入れ替わるようになのはが僕の所に走り寄って来た。

 

「き、切嗣くん大丈夫だった?!怪我とかしてない?!」

 

「だ、大丈夫だから、だからそんなに揺らさないでくれ、目が、目が回るから」

 

 なのはは必死の形相で僕の肩を掴んでガクガクと揺らしてくる。ここまで自分を心配してくれるのは嬉しい。

 

「だけどありがとう、心配してくれて」

 

「当たり前だよ!だって大切な弟だもん!」

 

 ああ、なんて自分は幸せ者なのだろう。そう思った。だが同時に罪悪感も同じくらい湧いてきた。この幸せは自分が享受するものではないと心が叫んでいる。気がつけば僕の口は1人でにポツリと誰にも聞こえないくらい小さな声で呟いていた。

 

「……僕は幸せになっちゃいけないんだ」

 

「えっ、何か言った?」

 

 僕はハッとした。こんなこと、彼女が聞いたらきっと怒るだろう。黙っておくべきだ。

 

「……ううん、何でもないよ。さあ家に帰ろう、なのはちゃん」

 

 

 

 アイリ、やっぱり僕にはわからないんだ。

 

 どうして僕がこんな幸せ過ぎる第二の人生を歩んでいるのか、普通なら君が受けるものの筈なのに。

 

 その出会いは偶然。

 

 でも、運命(Fate)からは逃れられない。

 

 歯車が噛み合い。

 

 そして、廻り始めた。




新たな登場人物の月村家のメイドさん、そしてオリジナルですね、エリシアさんです。オリジナルキャラの数は可能な限り少なくして行きたいです。
この後のストーリーもある程度予想できてしまう人がいるでしょうが、それでも面白い話を頑張って書いていこうと思ってます。

では第5話をお楽しみに。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。