……まあ、単に文才が無いのが原因ですけどね。
§side切嗣§
さて、難なく資料室まで来ることが出来た。道中に罠の類があるのか不安だったが、機械兵と監視カメラで事足りると思っていたのだろう。特別なものは何もなかった。僕としては非常にありがたい。
少しすると機械兵がやって来て、パスワードを入力すると資料室へ入っていった。僕はすぐ後ろにつけて侵入することに成功し、一先ず機械兵が去るのを静かに待つ。
数分すると、機械兵は資料室から出て行った。とりあえず監視カメラギリギリのところまで結界を張る。これで一先ず一安心だ。
さて、今から情報収集を始めるのだが、検索魔法など使ったことも使い方も分からないので片っ端から読んで行くしかない。
僕は近くにあった資料へと手を伸ばそうとした時に気がついた。
誰かの息遣いが聞こえる。
僕は警戒し、キャリコを構える。ここでバレたら練り上げた計画は全て瓦解してしまう。最悪息の主を殺すことも視野に入れて周囲を探る。
すると息遣いの主は案外すぐ近くにいた。
猫……それも山猫のようだ。透けているからか存在感が希薄で、ただの猫ではないことを示している。
本当に微弱なものだが魔力を感じるため、恐らく契約完遂か、契約破棄でもされた使い魔だろう。
何でこんな場所にいるのかはわからないが、あと数日もすれば確実に消えて無くなってしまうに違いない。寧ろよく耐えているなと感心した。
僕はしゃがみ込んで、その使い魔に右手を翳した。今から使い魔との契約をするつもりだ。
僕は確かに一を切り捨てて十を救う事を心情にしているが、勘違いしないで欲しい。目の前で犠牲なく確実に救えるのであれば、勿論僕は救う。何事にも犠牲が必要というわけではない。僕は多くの命が確実に助かる方法を常に選んでいるだけだ。
さあ、早く再契約を済ませよう。契約内容は"僕から仕事に関しての指示があれば、それに従うこと"だ。此処で使い魔を得られれば、情報を収集するスピードが格段に上がるだろう。僕にも、この使い魔にもメリットがある。僕は契約のための魔力を注ぎ始めた。
次の瞬間、僕の体から魔力がごっそり持っていかれ、意識が暗転した。
薄れ行く意識の中、わけがわからないと愚痴を零した僕は悪くないと思う。
§side???§
私の目に光が、感覚が戻った。確かめるように自分の手を見ると、そこには見慣れた自分の手があった。間違いなく自分は此処に存在している。
体を満たしていく魔力の暖かさは、とても心地よかった。しかし、この魔力は主であるプレシアのものではない。では一体誰が……。
そう思って私は周囲を見渡すと、目の前に黒づくめの男の子が倒れていた。
「え……えぇ?!」
私は慌てて駆け寄った。歳はフェイトと同じくらいだろうか?顔が苦しそうに歪んでいる。
まさかこの子が私と契約を結んだのだろうか?だとしたらかなり危険だ。
確認してみると、魔力は間違いなく、目の前の男の子から流れてきている。自分で言うのもなんだが、私という使い魔を維持するのにはかなりの魔力が必要となる。それこそ、大魔導師の名を持つプレシアですら「貴女を維持し続けるのも楽ではない」と言う程に。よくプレシアが愚痴っていたのを、私は苦笑いして謝るしかなかったのを覚えている。
そんな激しい負荷ををこんな小さな男の子が一人で支えているのだ。流れてくる魔力量からして恐らく魔力ランクはB程度。明らかに足りない。このままではリンカーコアの酷使で息絶えてしまう!
私はすぐさま消費魔力を可能な限り抑えた。その影響で体がぐんぐん縮み、目の前の男の子と同じ位になってしまうが、そんな瑣末なことはどうだっていい。私の命の恩人を救えるのなら。
******
……あれから数分後、男の子の表情は和らぎ呼吸も落ち着いた。私はホッとため息をつき、今現在、私のマスターである男の子に膝枕をする。
聞きたいことは沢山あるが、今はしっかり休んでもらいたい。
私、リニスはそう思いながら名も知らない小さなマスターの頭を撫でた。
******
§sideなのは§
……なんで……
なんでっ……なんでッ?!
わたしの頭はその言葉をひたすらに連呼し続ける。体はがむしゃらに地を蹴る。
理解が出来なかった。
理解したくもなかった。
ちょっと大人びていて、優しくて、しっかりしていて、出会って少ししか経ってないけど、とっても大切に思っていた弟が病院からいなくなっていた。
それだけならただ病院を抜け出しただけだと思えたけれど、置かれた一枚のメモ用紙にただ"ごめん"と書かれているのを見た瞬間、わたしは病院の先生の静止も聞かずに飛び出した。
今、町を走り回って探している。ユーノくんはわたしを後ろから必死に追いかけている。もうユーノくんの声と念話するどころか、声を聞くことすら私の頭から消え去る程わたしは混乱していた。
息があがっている/呼吸は出来る
足が悲鳴をあげる/まだ走れる
突然踏み出した足がガクンと沈む。更に視界がぐらついて、わたしの体は糸が切れた操り人形みたいに倒れそうになる。
切嗣くんがわたし達の手の届かない所へ行ってしまいそうな気がして凄く怖い。
『なのはッ!』
≪Master!!≫
二人の声が聞こえる。必死に手を伸ばすけれど、わたしの手は何も掴む事が出来ずに空を切る。
地に落ちる直前、わたしの体に感じられたのは地面に叩きつけられる衝撃ではなく、フワリと柔らかくて気持ちのいい、抱きしめられたようか感覚だった。
ーーボヤけた目に映ったのは、まるで月のような綺麗な輝きで……。
わたしの意識はここで一度途切れる。
******
深く沈んだ意識が覚醒へと向かう。
身体中がとても熱いけれど、額に何か冷たいものが当たっていて凄く気持ちがいい。……そうだ、わたしは切嗣くんを探してる途中で倒れて……。
ゆっくりと重い目蓋を開けると、わたしを心配そうに覗き込んでいる人達がいた。
お父さん
お母さん
お兄ちゃん
お姉ちゃん
それにユーノくんもだ。
大丈夫かとか色々言っているみたいだけど、わたしの意識はそこにはない。何故なら、そこには弟の姿はなくて……。
「っ……!探さなきゃ……!」
わたしは起き上がろうとしたけれど、力がうまく入らない。そこまで深刻だったのかと思っていると、お父さんが優しく制止してきた。
「なのは、私達もなのはの気持ちは分かるけれど無茶はしちゃダメだ。」
そんなこと言ってる間にも切嗣くんは……!必死に体を起こそうとすると、体を押されてベッドに倒れてしまった。お父さんのここまで真剣な表情をわたしは見たことがなくて、何も言えなくなってしまった。
「倒れたところを通行人が見つけてくれたお陰で軽い脱水症状だけで済んだけど、もし発見が遅れていたら軽症では済まなかったんだよ。」
お父さんの少し厳しい声。わたしはビクリと萎縮して、ごめんなさいと謝った。確かに冷静じゃなかったと思う。それでも切嗣くんが……。そう思っていると、お父さんは優しく頭を撫でてくれた。
「警察にも連絡は入れたし、勿論父さん達も探すから大丈夫。きっと見つかるさ」
……衰弱しきったわたしでは今はどうしようもなくて、頷くことしか出来なかった。早く体の調子を整えて、切嗣くんを探さないと。それにジュエルシードのこともある……。今更考えると本当に考えなしで行動したなと反省する。
……そういえば、気になることがある。
「ねぇ、お父さん。わたしを助けてくれた人って誰なの?」
「ああ、外国の女の子だったよ。年齢は10代だったね。どうやらうちの近所に住んでいるらしくて、なのはのことを知っていたらしいんだ。お礼をって言ったんだけれど当然のことをしただけって流暢な日本語で言って帰ってしまったよ」
引き止めたんだけどね、お父さんは苦笑いしながら話す。
今度会ったらお礼を言わなくちゃ。
"なんか旦那に憑依したみたいですね(仮)"もよろしくです。