SIRENE:Neue Übersetzung   作:チルド葱

5 / 8
『さて、事此処に至っては最早言うに及ばぬ事かとも思うが、この歌劇は異なる条理どうしが噛み合い生まれる、奇妙な形の合いの子のようなもの。
 ゆえに、今一度この点をご留意願うとしよう。
 噛み合い、つがい、そうして生まれたこの珍奇な筋書きにおいては、元の条理には存在し得なかったような在り様を与えられた役者達も存在するということを』


ゆきえせんせい│2006.8.4.

 はやく、はやくさがさなきゃ。

 赤い服に身を包んだ女――アマナは、金髪を振り乱して丘を駆ける。

 はやく。はやく。はやく。

 口を開いて荒く息を吸う。

 

(珍しい実を、はやく、返さなきゃ)

 

 死者の踊りを横目に微笑みながら、アマナは「ああ!」と空を仰いだ。

 まるで父親に褒められたい少女のように色白の頬を赤く染めて、つぶらな瞳を目一杯開く。「Turn! ――Turn, turn!」と、久々に発した懐かしい言語で口火を切れば、言葉はもう止まらない。

 

 ――回る、回る、回る、回せ、回せ、回せ! ああそうよ、わたしを愛してわたしが愛してあの子を愛したわたし達の世界を回さなきゃ!

 

 

 

 ○ ● ●

 

 

 

 屍人達の肉を擂り潰しながら停車したトロッコは、車輪に肉や骨の欠片が絡みこんでもう走れないようだった。線路と車輪の間で未だぎちぎちと蠢く死体を見下ろして、身を乗り出したヴィルヘルムはサングラスの奥の赤眼をすがめ、眉を寄せる。

 

「バカかこいつら? 劣等どもの肉だっつうの抜きにしたって、これは喰う気になんねえな。雑魚のすり身なんざ趣味じゃねぇ」

「なんでここで食事の話題に入ってけるんだお前……」

 

 ヴィルヘルムの猫背をジト目で睨んだ美耶古は、ハワードに手を取られてトロッコから降りた。この惨状をカマボコ生産工場みたいなくくりで処理しているらしいこの白い軍人男はやっぱりネジが吹っ飛んでるんじゃないかと考えると、ハワードなんかは至って普通に見えてくるから相対評価というのは便利である。

 外の世界の常識について、美耶古はまだ、少々は希望的疑いを持っていた。『ベイはやっぱり違うだろ……ちがうだろ……』と脳内で自分に言い聞かせながら、美耶古はもうひとりの異邦人であるハワード・ライトを見上げる。さあ頼むから私に『普通』を見せてくれ。

 ちょうどそのとき、ハワードが彼の足元に転がった屍人の腕を見下ろして「Oh!」と眼を見開いた。

 

「Shot-gun!」

 

 そうして煽るように口笛を吹きながら拾い上げたのは、先程までこの屍人たちの誰かが持っていたと思われる血濡れの狩猟用散弾銃である。白い歯を見せて明るく笑ったハワードは、「エッ」と銃を凝視した美耶古に親指を立ててみせた。

 

「だいじょぶ! ミヤコは、ぼくがまもる! ぼく、じゅうつかう、とくい!」

「あっ、えっ、う、うん……そうか……」

 

 戦闘行為を辞さないスタンスは、どうやら村の外では万人共通の原理と見て良いのだろうか。

 残弾数を確認し、倒れた屍人の弾倉入りの鞄を肩に掛けてからまた美耶古を背負い直したハワードを見て、ヴィルヘルムも「ま、いいんじゃねえの」と薄く笑む。

 

「子守りなんぞに気を回すつもりはさらさらねぇが、俺が遊んでる間に勝手にのたれ死なれんのもつまんねえ。使えるモンは好きに使って派手に"客寄せ"しといてくれや」

「OK! Counts on us!」

 

 ハワードがヴィルヘルムの言葉の意味と意図をどれくらい理解できているかはとてもあやしいが、ともあれ彼らはひき肉まみれのトロッコから離れ、坑道への入り口と抗夫の詰め所を兼ねた小屋にずかずかと侵入した。

 土手沿いに建てられた小屋の奥には、地下の坑道に繋がる扉がある。暗く翳った屋内はぞっとするほど静かだが、扉一枚隔てた向こう側には屍人達がそぞろ歩いているのだろう。小屋の中は一面土間になっており、壁沿いに作業台が備え付けられている。壁には色褪せたカレンダーやグラビアアイドルのポスターが貼られたままになっていた。部屋の中央にはヤカンが乗っかった石油ストーブまで放置されており、田堀地区と同様、この鉱山も異界化する前の生活臭を色濃く残している。

 そんな内装をジロリと睥睨して、ヴィルヘルムはハワードに背負われた美耶古に「おい」と声をかけた。

 

「あの扉の奥が坑道なんだろ。野郎はまだそこにいやがんのか?」

「あ、ああ。ちょっと待て、今視界を――」

 

 すぐに目を閉じて視界ジャックに切り換えた美耶古は、そこで思わず言葉を切った。

 一度覚えた相手は、次に視界ジャックする際に素早くチューニングを合わせることが出来る。だから今繋いだ相手は間違いなく、先程までジャックしていたあの狙撃主に間違いない。感覚がそう告げている。

 

 ――しかし接続された視界には今、赤い空の下、ちいさな木造の小屋が見えているのだ。

 

「あ、上がってきてる……」

「あ?」

「あいつは地下から上がって来てる!」

 

 

 

 掠れた小声で美耶古がそう叫んだ直後、ヴィルヘルムの耳にもそれらしい声が聞こえた。『この村は終わりだ』だの『せんせい』だのと、美耶古がトロッコに乗る前に挙げた通りの言葉が遠くから。常人離れした感覚器をくすぐるノイズ混じりの屍の声に、ヴィルヘルムは「へえ」と首をもたげる。

 

「どうやらテメェの言う通り、マジでもう近くまで来てやがるな。地下と行き来できんのはここだけじゃねぇらしい」

 

 低い声で呟きながらも、白い面にはみるみる喜色が広がっていく。そしてそれと比例するように、美耶古の顔には恐怖がみるみる広がっていく。といっても、この目聡い吸血鬼は、しかし同伴者の少女の顔色なんかにはいちいち注意を割くわけがなかった。

 大事なのは、ただ一点。見込みのありそうな敵が、近くまでのこのこ出向いてくれているらしいということのみである。

 ゆえにヴィルヘルム・エーレンブルグはひとときも迷うことなく、彼一流の理屈でもって次の行動を独断即決した。

 

「テメェらは適当にやってろ」

「へ?」

「Bey?」

 

 短く言い捨てて、回れ右。大股に軍靴を踏み出して、先ほどくぐったばかりの扉を今度は外に向かってくぐる。赤く濁った空の下、初雪の色の髪がふわりとなびいた。押し退けたハワードと彼の背の上の美耶古が何か言うより早く、ヴィルヘルムはもう狙撃手のいる方角とそこまでの直線距離にあたりをつけていた。

 だったらもう狩りにいかない手は無い。

 任務だとか儀式だとかの縛りが無い戦場において、この男は怖ろしく奔放なのだ。もったいつけて獲物を逃がすなんて馬鹿げている。望んだ相手を手に入れたことが一度も無い餓えたけだものたる彼は、その場その場で気になった相手を本能のまま追いすがらずにはいられない。

 要するにこのとき、遊びに飛び出す子供にも似た浮き足立った様子で牙のような犬歯を晒して口角をつり上げた黒円卓第四位の騎士は、持ち前の堪え症の無さを遺憾なく発揮していた。

 

「俺ァそこでさっきの礼してくッからよ、――っとォ!」

 

 ぐ、と、跳躍する直前の豹のようにしなやかに一度屈められた長身は、次の瞬間には中空を舞っていた。

「ちょ、ベイおまっ――!」とかいう少女の叫びを無視して先ほどまでいた小屋の屋根を蹴り、小屋の裏の土手に作られた山道に着地。そこからもう一度三角飛びの要領で山肌を蹴れば、トロッコを走らせる高架線路として整備された高い橋の真上に出る。線路2本が十分な間隔を空けて横たわったそこは、幅にして10メートル弱ほどはある安定した足場だ。

 そこにそいつが立っている。

 一息に地上から高度約10メートル、直線距離にして20メートル程を移動したヴィルヘルムが「さあ、ご対面といこうじゃねえか」と未だ滞空状態のまま目を細めて笑った。

 宙で翻った黒い軍服と白い髪を見上げる肉塊がひとかたまり、古びて黒ずんだ線路上にヘドロのようなぬめりを引き摺って突っ立っている。ずんぐりとした大人の男程の大きさのそれは、下腹部のあたりから人の頭ほどの何かを生やしているふうに見えた。茶色いジャケットを引っ掛けた肩からは数本の腕だか羽根だかわからない関節じみた突起が突き出ており、今まで相手取ってきた屍人たちとはまったく異なる佇まいである。

 一言であらわせば、"キメラのゾンビ"といったところだろうか。

 ヴィルヘルムが更に詳しくその未知の敵を検分するより先に、そいつは不意に真っ直ぐ片腕を突き出した。同時、ジャラリと鈍く、しかし耳障りな金属音。

 

「――その鎖」

 

 目を瞠ったヴィルヘルムの足が線路に降り立つ直前、突き出した手の先に握られていた狩猟用の銃がダァンダァンダァンと立て続けに3発火を吹いた。

 小型ピストルでも撃つかのような構えでそんなことをすれば、常人であれば反動で後ろに仰け反りかねないし照準だって滅茶苦茶になる。ところがその特異な屍は先と変わらぬ立ち姿でそれをやってのけ、しかも飛来する3発の散弾はヴィルヘルムの胴・腰・着地地点をあやまたず狙い済ましていた。

 

(面白えッ!)

 

 それが人間離れした化け物であることをこの初撃で即座に察したヴィルヘルムは、だからとうとう、久方ぶりに、聖遺物の能力をもう一段階解放させる。

 身を捻り、着地地点に向かって腕を振りかぶりながら、白い吸血鬼は上機嫌で喚いた。

 

 

「――《Yetzirah》!」

 

 

《形成》。聖遺物の第2位階。

 ぐにゃり、と、黒い軍服に覆われた身体のシルエット全体が一瞬だけ蠢動した。その歪みが一点に集中し、長い腕の肘のあたりからズアッとその腕と同じくらいの太さの切り立った杭がぶち生える。

 振り抜きざまに腕から生やした吸精の杭で線路ごと地面を叩き抉ることで自らの自由落下の軌道を逸らして両足でダンと着地した《串刺し公》は「アーおもしれえ」と肩を揺らしながら、指先でサングラスを外した。

 切れ長の瞳の白目部分は、今や墨を流しこんだように黒く染まっている。その真ん中では赤い瞳が爛々と、血色の眼光を強めていた。バキ、パキ、と細かい軋みをあげながら、細身の長身の節々から鋭く尖った血の杭が伸びている。

 他の屍人はまともな思考能力を欠いているようだったが、この特異で例外くさい屍にどの程度の知能があるかは定かでは無い。出会い頭の3発を外されたことでこの黒円卓の騎士を厄介な相手であると判断しでもしたのか、湿っぽい肉塊は銃を撃った時の体勢のまま思案するようにヒタリと動きを止めた。

 猫背を丸めてゆらりとそちらを向いたヴィルヘルムが「よお」と声をかければ、その屍は何事か呻きながら爛れた顔の真ん中の皮膚を震わせる。まばたきをしたようだったが、目玉はほとんど溶けた薄皮か瞼の肉にまみれて隠れてしまっていた。そんなグロテスクな容貌には特に頓着せず、ヴィルヘルムはニヤつきながらゆるく首を傾げる。

 

「聖槍十三騎士団黒円卓第四位、ヴィルヘルム・エーレンブルグ=カズィクル・ベイだ。名乗れる程度の脳味噌が残ってるようなら名乗っとけ、ゲテモノ枠として覚えといてやらぁ」

「……ァ……」

 

 ヴィルヘルムの名乗りを解しているのかいないのか、屍は濁った声をもらしてから、緩慢に自らの下腹部を見下ろした。それからそこに突き出しているまるい頭のようなもの――よく見れば複眼の虫のように細かな粒がびっしりと顔面に埋まった人間の頭部のようだ――に鎖の絡まった左手を沿えると、ぐちゅ、と、腹の内にそれを押し込み始める。これにはさすがにヴィルヘルムもわけがわからず眉を寄せた。

 

「おーい。何やってんだそりゃア、死体流のマスカキか何かか?」

 

 半目で悪趣味な冗談を飛ばしたヴィルヘルムが軽くせせら笑うと、ぐちぐちと粘着質な音をたてて何かを収納していく下腹部から顔を上げた屍が、奇妙に複数の声色が絡み混ざった男とも女ともわからない声を、びちびちと喉か腹のあたりから迸らせた。

 

「――……ユ、キエ、『せん、せぇ』……」

「……ユキエセンセイ? 極東の名前にゃ呼び難いのが多いが、テメェのも大概変な名前だな」

 

 眉を顰めたヴィルヘルムはすぐに「まァいい」と黒い目を細め、バキ、と指の関節を鳴らす。

 頭の中はもう、これからこの未知数要素の多い怪物をどういう手順で嬲り殺すかでいっぱいだ。人器融合型の聖遺物を扱うヴィルヘルムは、気分や能力が調子にノればノるほど、それに比例して人間的な理性が減耗して行く。

 さっきまで一緒に居た少年少女のことなんか最早思考の圏外。ユキエとかいう目の前の屍人の左手から垂れる現代では非一般的な型の鎖がマレウス・マレフィカムの《形成》の鎖と同じ型であるといった細かなことには目が行き届くものの、未だ合流できていないかの魔女の行動や所在について思案するには及ばない。

 現状のあらゆる懸案事項を戦場の興奮と狂喜の前にあっさりと意識からぶった切って投げ捨てて、ヴィルヘルムはまず、軽く片腕を振りかぶった。

 

「そんじゃ、ユキエセンセイ。遊ぼうぜぇ、ちょぉォど暇してたんだよ――なあァッ!」

 

 とりあえずこんくらいは避けれるだろう、と。

 笑い混じりに振り抜いた手から大ぶりな杭を射出する。まずはお手並み拝見――と言っても、その速度は常人にはギリギリ捕捉不可能な域に調節されていた。普段は大味なくせに、嗜虐嗜好を満たすためのこういう打算や手心は抜け目無い。

 

(これくらいは避けてくれねぇと話になんねぇ)

 

 しかしてその願いは、予想外の好感触を伴って叶えられることになる。

 虫の頭をずぶりと下腹部に収めたユキエ(仮名)は、鎖の絡んだ左腕で飛来する杭を横薙ぎに叩き落としたのだ。地面に突き立った後バキィ、と飛散した木屑が血のにおいとともに霧散する。その赤い霧越しに、ヴィルヘルムはいよいよ目を見開いて思い切り哄笑した。

 

「クハッ、はははははははは!! いーい感じに出来あがってンじゃねえか、気に入ったぜテメェ!」

「『せ』、『せぇぇ』……『どうして』……終わりだァ……」

「何キめてんのか知らねぇが、その腹ァ掻っ捌いて見ンのも面白そうだ。せいぜい目一杯足掻いてくれや、屠殺よか殺し合いのが燃えるっつうのは万国共通の常識だろ」

 

 べらべら喋りながらも、既にヴィルヘルムは大股に歩いてユキエ(仮名)に近付いている。間合いの自由度が高いヴィルヘルムには不安や警戒なんか無く、ただ純粋に相手の手を見たがっているのだ。

 右手に銃。左は、鎖の絡んだ棍棒のような腕。背丈はヴィルヘルムより少し大きい程度。足からは赤黒いぬめり。顔はただれていて、ひだのように細かな凹凸が発生している。茶色いジャケットにタートルネックの服を着込んだそいつは間違いなくこの地の他の屍人同様に人間だった頃の生活を表皮に纏っていたが、また同時に間違いなく、他の屍人とは一線を画する構成要素も含んでいる。

 もしこの特殊な屍人に直面したのが普通の人間であれば、突如現れたこのクリーチャー相手に絶望し、逃げ隠れすることでなんとか延命をはかろうとあがくところだろう。

 しかし今やヴィルヘルムも全身から血の杭を生やし、彼が信じる吸血鬼の能力を発現させている。

 乱暴なまとめ方をしてしまえば、この場に相対しているのはクリーチャーが2匹。キメラじみた化け物に向かって、黒円卓の超人は更に一歩踏み出しながら、歓迎するように両手をゆるく広げた。

 

「低脳の肉人形っつっても、今ンとこ見たなかでは、間違いなくテメェがここの最高傑作だ」

「こ、の、村……『わたし』、は……ァァァ」

 

 ざり、と軍靴の底が地面を擦る。彼我の距離は約7メートルといったところか。

 そこで、ユキエ(仮名)の顎のあたりとおぼしき場所が動き、顔面にぼこりと穴が空いた。

 直後、

 

 

「『せぇんせえいはああああああああああああああああああああわァたしがいないとおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおだァめなぁんだぁからアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアあああああああああああああああああああああああ』!!!」

 

 

 口腔だったと思しきそこから甲高い咆哮が響き渡り、ユキエ(仮名)は右手の猟銃を構えながらまろぶように前に駆け出した。

 真正面に飛び出して来た肉塊に、ヴィルヘルムは「おっ」と楽しげに笑う。

 かち上げてやろうと掬うように下から上に振り上げた手がユキエ(仮名)の脇腹を豆腐のように抉り飛ばすと同時、その内側から、まるで果物を潰しでもしたかのように勢い良く、赤い水がぶしゅうと撒き散らされた。

 まともにそれをかぶったヴィルヘルムはそれでも目を閉じたりはしないが、さすがに眉をひそめる。目の粘膜や口、鼻にまで飛び散った赤い水には、何か奇妙な酩酊感を引き出す生臭さがあった。

 痛覚も失せているのか、脇腹の肉をもがれながらも駆け抜けたユキエ(仮名)は、返り血よりも勢いのある赤い水に一瞬驚いたヴィルヘルムの頭を振り向きざまに正確に射撃する。蠢く影を纏った弾丸を横目に捕捉したヴィルヘルムはそれを歯で噛み止めることで受けたが、至近距離からの銃撃――それも魔装効果のある弾丸によるのだ――で後方に吹っ飛ばされ、仰け反る。軍靴の底が一瞬宙に浮いた。しかしそんなもの、この吸血鬼にとっては体勢を崩された内にも入らない。

 鋭い歯で銃弾を噛み潰しながら反射的に撃ち出した杭は、ユキエ(仮名)の右足の膝から下を削り飛ばした。

 

 

 ●

 

 

 一方その頃。

 喜々として単独行動を開始したヴィルヘルムに置いて行かれた美耶古とハワードはしばし呆然としていたが、遠く聞こえてきた叫び声でハッと我に帰った。このままではいけない。

 

「ってベイあいつほんとなんなんだ!? 1人で勝手に飛び出してッ――ていうか飛びすぎだろなんだあれ!? なんだあれ!?」

「Like Super Man!! So coooool!!!」

「お前はお前で何ガッツポーズしてるんだばかっ! もうやだどうすれば……あっ!」

 

 小屋の中、ハワードの背の上で表情を二転三転させる美耶古は、そこでひとつの妙案を閃いた。

 

「視界ジャックだ!」

 

 先ほどのヴィルヘルムの謎特攻によってまたもうっかりジャック解除してしまっていたのだが、去り際の口ぶりから察するに、あの不良軍人はどうやら先程まで視界ジャックしていた狙撃手の元に向かったらしい。普通に考えてそんな高速移動が可能かと言うのはこの際棚に上げて、美耶古は目を閉じると意識を集中させ始めた。今は少しでも状況を把握しておきたい。というか、そうでもしていなければおそろしいのだ。あの超戦力が近くに無い今、美耶古に出来る精一杯の自衛は視界ジャックを駆使した情報獲得くらいしか無いのだから。

 暗い瞼の裏から、視界が切り替わる。

 赤い空の下の光景を見据える何者かの目玉をジャックして――

 

「……………………エッ」

 

 美耶古は、顔色を無くした。

 

「み、ミヤコ? しかいじゃっく、どう? ベイみえた?」

「み、みえた。見えたよ、見えたけど」

 

 見えたけど。

 そのとき彼女が捉えたヴィルヘルム・エーレンブルグの姿をまとめると、以下の有り様であった。

 

・全身に多数刺さっているように見える尖った木の棒

・黒くなっている白目

・白貌をべっとり濡らす血か赤い水

・凶悪すぎる面構え

 

 かくして導かれる結論は

 

 

「ベイが、死んだ……し、屍人に、なってる……!」

 

 

 絶望的な認識に脳天を叩きのめされた気がする。

 泣くことも出来ず震える美耶古は形の無い悲壮感と焦燥感の奔流にさらわれないように、ハワードの逞しい首にぎゅっと両腕を回した。




ベイ中尉「面構えは生まれつきだボケが」

ついにベイ中尉の初バトル!(ここまでのはただの虐殺だと思います)
お相手の屍人についてはSIREN:NTをご存知の方ならどういう作りかわかってしまいそうですが……どうぞまったりと応援してあげて下さいませ。

あと、今回の前書きの水銀さんの言葉を今回のお話の内容に合わせてざっくり要約すると、
「このお話には『ぼくの考えたしびと』なんて珍妙なものも出て来ます!ご了承下さい!」
っていう内容になります。後書きでわかりやすく喚起しても遅い気もするのですが()今さらながら、どうぞご了承下さいませ。わたしなりに精一杯原作の魅力を活かしてクロスさせたいと思っております。

次回は「美耶古・ハワード組」か「ベイ中尉・ユキエ(仮名)組」のどちらかをフューチャー(予定)!

(2014.11.5. こねぎ。)

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。