[凍結中]魔弾の王×戦姫×狂戦士×赤い竜   作:ヴェルバーン

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次の更新は三日後だと言ったな…………。すまん、ありゃ嘘だった。

今回の話しは短めです。

以下、作者の心の叫び。















ヴぁかめ!

古今東西、あらゆる作者が更新の予定の宣言を守ると誰が思うか!?

それでなくても、更新がなくて泣かされているというのに!!!






嘘です、すいません本当に。

ただ、自分が定めた期日は守りましょう、と言いたいだけなんです。


第六話 バートランの鍛練

「フッ! ハァァ! ウオォォォォ!」

 

 裂帛の気合いと共に雄叫びを上げ、バートランは薙ぎ払い、打ち払い、突きを繰り出す。

 これが模擬戦用の槍でなければ、相手の命は尽きていた所だろう。

 

 特に最後の突きは、体重の乗った渾身の一突き。

 そこらの騎士でも凌ぎきれない程の連撃が相手を襲う。

 

 これで勝負は決まった。

 

 そう思った。

 

 

 しかし、相手は百戦錬磨を誇るカイム。

 

 

 その薙ぎを弾き、打ちを防ぎ、突きを捌く、そうして出来た足下の隙をカイムは無逃さず、自身の模擬戦用の槍の石突でバートランの脚を刈り払う。

 

 バートランは脚を刈られ倒れ込み、そこへカイムが首元に穂先を突き付けて、バートランの稽古は終了。

 

 また一巡する迄待たなければならない。

 

 若い青年達や腕に覚えのある農夫達が、カイムに畏怖と尊敬の眼差しを浴びせる中、バートランは仰向けになり荒い息を吐きながら、気持ち良さそうに青い空を見詰めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ことの始まりは一週間前、カイムとアンヘルがセレスタの町に来て三週間程前に遡る。

 バートランが、カイムへの読み書きをある程度教え終わった時だ。

 

 自身がこれ以上教えられる事はない、とカイムの秀麗な文字による文章を見て判断し、バートランがカイムに告げる。

 

「相変わらず達筆な字だな。

よし、カイム! もうわしはおめぇさんに教えてやれることはねぇ。

後の普段使わねぇ難しい事は、若に聞くんだな。

おめぇさんは晴れて卒業だ」

 

 感慨深げに告げるバートランにカイムは、これまで根気よく付き合ってくれたバートランに、謝意を籠めて静かに頭を下げようとした。

 

 しかし、バートランは気にするなと言った風情で、彼を制すると今までの闊達な様子とは打って変わり、寂しそうに染々と呟いた。

 

「喜ばしいことだが、寂しくなるな」

 

 バートランは、この時間が思いの外楽しかった。

 

 確かに最初の内はぎこちなく、アンヘルが『声』飛ばす事もあったが、次第にカイムの表情を見分けられるようになった。

 

 困惑、納得、疑問、そして満足。

 

 これらの表情の、微細と言っていい程の違いを見抜けるようになり、バートランは次はどんな表情がその顔に浮かぶのかを、日々の楽しみにしていた。

 

 しかし、そんな時間も今日で終わり。

 

 バートランは自身の湿っぽい気持ちを払い、快活に笑いながらカイムに次の提案を勧めるべく話を切り出した。

 

「話しは変わるがカイム。

 

おめぇさん、かなり強いだろ?」 

 

 

 

 カイムは、突然変わった話しに付いていけないのか若干困惑し、眉間に皺が寄る。

 

「初めておめぇさんと会った時、おめぇさんには悪いが、纏っている空気が違うと思った。

こいつは尋常の者じゃねえ。それこそ、おとぎ話の魔物のような恐さを感じた。

わしは戦で何人も殺したし、戦で狂った男も何人か見たが、こいつだけは殺せねぇ、絶対に勝てない。

早くケツ捲って逃げろ。

そう思った」

 

 バートランはその時感じた思いを掘り起こすように、淡々と語り始める。

 

「しかし、若に何かあっちゃならねぇ。

その時は例え刺し違える事になってもおめぇさんを止める。

 

そう思ってた」

 

 バートランは、その時抱いた覚悟を思い出し、決死の表情をしていた。

 

「実際に相対してわかった。

おめぇさんは俺が刺し違える覚悟で挑んでっても、軽く捻り潰すだろうってことが。

 

だから次に、おめぇさんを知ろうと思った。

おめぇさんの弱点を見つけるためにな」

 

 それはカイムも気付いていた。

 

 時折この老人の目に、探るような意図と、動きがあったことを。

 

 しかし、カイムは問題にしなかった。

 この老人の言う様に、相討ち狙いでも自身に傷を付けるのが精々だと判断したからだ。

 

 例え、自身が気を抜いていたとしても、この身体に染み着いた動きが自分を動かし、この老人を反射的に死に至らしめるだろうと知って。

 

「だがおめぇさんと来たら、無防備にわしに接するし、かと思えば反射的にわしの行動を予測する。

んでもって、おめぇさんはわしの教えに素直に従う。

 

次第におめぇさんを気に入ってきた。

危険だが、悪い奴じゃねぇと分かったからな」

 

 バートランは、どこか照れ臭いといった風情で頭を振りながらそう告げる。

 

「それで、ここからが本題だ」

 

 バートランは表情を改め、カイムに向き直る。

 どこか決意を懐いた様な眼差しをカイムに注ぎ、カイムは微かに身動ぎした。

 

 

「わしを、いや、わし達を鍛えてやってくれねぇか?」

 

 

 カイムは困惑を微かに顔に浮かべた。

 眼帯で分かりづらいが、バートラン以外でもはっきり分かる程に。

 

 話しの関連性が見出だせず、バートランに真意を問う様な視線を向ける。

 

 

 バートランも話しが性急過ぎたと判り、その理由を説明する。

 

「若の目はなぁ、このアルサスにしか向いてねぇ。

 

わしら年寄り連中も、若の父上のウルス様も、若が外にも関心を持って目を向けて欲しくてなぁ。

 

そりゃあまだ十六歳だってのに、領主の仕事をちゃんとなさってるの立派だ、だがそれでも、こんな閉じた世界で満足して欲しくなかった。

 

現にウルス様に仕えていて、若と親しかった奴は外に飛び出していったしな。

 

おめぇさん達の存在は渡りに舟だった。

これで外の事に目を向けることも知ってくださる。

そう思った。

 

しかしなぁ」

 

 そこでバートランは困った様に言葉を切る。そこから先は、カイムでも分かった。

 

 カイム達が此処に来たのはあくまで自分達からであり、ティグルの自発的行動ではない。

 自分達を招いた行動も、仕方なくの上でありそして、それ以来外の様子に関心を払う様子はない。

 

 ティグルは外界に興味を持っていないのだ。

 

「若がこのまま外に興味を持たないなら、それも仕方のない事なのかもしれねぇ。

 

しかし、おめぇさん達の時の様に外から関心を向けられることもあるかもしれねぇ。

 

そうなった時、わしは……わしらは若の力になってやりてぇ」

 

 バートランは改めてカイムに向き直り、静かに頭を下げる。

 

「こんな事を言われても迷惑なのは分かっとる。

 

だが、どうかわしらに稽古を付けてやってくれ。

 

頼む」

 

 カイムは目の前の真摯に頭を下げる老人が、かつての家臣や将兵達と重なって見えた。

 

 

 

 カイムは今から二十四年前、十八歳の時に連合軍に入った。

 そこでは祖国カールレオンの将兵や家臣達も参加しており、王子であったカイムに敬意と気遣う態度で接する者が数多くいた。

 

 カイムは復讐に身を焦がし、女神である妹を守ることに固執して、大半の言葉や気遣いを気にも留めていなかったが、今になってそれらを幻視した。

 

 自分を気遣う者は確かにいた。しかし、自分は彼らと碌に言葉を交わさなかった。

 ばかりか、言葉を交わせなくなり、そのせいで妹、フリアエを喪った。

 

 

 

 今の自分を彼らが見たら、何を思い、何と言葉を掛けるだろうか。

 

 

 

そこまで考えカイムはバートランを見る。

 

 バートランはもう隠居に入る年頃だというのに、主人を思い、まだ身を粉にして主人に尽くそうとしている。

 

 カイムはそんなバートランを見て思わず胸が痛んだ。

 彼の思いに、そして自分を思ってくれた嘗ての家臣と将兵に。

 

 

 

「……」

 

 カイムはバートランの両肩に手を置き、ゆっくりと頭を上げさせ、了承の意を伝えるため頷いた。するとバートランは涙声で、カイムに礼を言った。

 

「ありがどうなぁ」

 

 一頻り泣いたバートランはすっきりしたのか、今度は恥ずかしそうに鼻をかんだ。

 

「へへ、年寄りは涙もろくていけねぇ」

 

 そう言ってまた鼻をかみ、カイムと具体的な内容を話し合った。

 

「鍛えて欲しいのは三十人位だ、それも年寄りか、若い奴が多い。場所はこの町の空いてる広場を使おうと思っとる。

人数が多いから最初のうちはローテーションでな。

来週からなんだが頼めるか?」

 

「……」

 

 カイムは少し考え、首肯し、了承する。

 バートランは快活に笑い、カイムの肩を叩きながら言う。

 

「徹底的にしごいてやってくれ、特に若いもんはな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よろしくお願いします! ハァァ!」

 

 また年若い青年が元気よく挨拶し、カイムに勢いよく向かい一合で吹き飛ばされる。

 

 かれこれ二刻(四時間)程続けているが、カイムには衰える様子がまるでない。

 

 吹き飛ばされた青年は気を失い、仲間に運ばれていった。これで六人目だ。いい加減馴れつつある。

 

 

 そして漸く、バートランの番がやって来た。

 

二人は無言でにじり寄るが、次第に堪えられなくなり、バートランが先に駆け出し、槍を繰り出した。

 

 助走からの刺突一閃

 

 これまで生きてきた中で最高の一撃。

 

 これほどの一撃は、狙ってももう二度と出せないと、自信でも確信できる程のそれがカイムを襲う。

 

 しかし、読まれていたのか簡単に捌かれ、鳩尾に石突が叩き込まれる。

 

 わしは若いもんじゃねぇぞ。もっと加減しろ!

 

 という思いが薄れ行く意識の端を過ったが、くぐもった声しか出せず、バートランは意識を手放す。

 

 

 

 

 本日、七人目の犠牲者だった。





前書きで偉そうなこと言いましたが

八話までは一日一回更新です。



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