[凍結中]魔弾の王×戦姫×狂戦士×赤い竜   作:ヴェルバーン

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俺、この作品(A end:虐殺控え目)書き終わったら、次の作品(B end:虐殺多め)書くんだ……。








第十五話

 カイム達はアルサスから国境のヴォージュ山脈を越え、ジスタートのライトメリッツ公国に四半刻(三十分)を少し超えた時間で到着した。

 

 カイムとアンヘルの二人ならさらに短かっただろうが、バートランを慮り速度を抑えて飛行した為このような時間となった。

 

 それでも、陸路なら数日掛かる道行きを大幅に短縮し、日付が変わる前にはライトメリッツ公国の領内に入った。

 

 しかし、

 

 

 

 

「す、すまねぇな……」

 

「……」

 

「あと一刻(約二時間)程休み、身体を温めておけ。

 

そこからはまた空だ」

 

 上空のあまりの寒さにバートランが音を上げてしまった。

 

 ライトメリッツ公国の公宮に近い西の森の中、バートランは持っていた槍を地面に放り出し、ガタガタと身体を震わせ厚手の外套に包まっている。

 目立つので火は焚けないが、少しでも早く温かさを取り戻そうと身体を擦っている。

 

 バートランは今年で五十歳の老人。普通の村人なら隠居していてもおかしくない齢だ。

 そんな彼が上空の、真冬並みの気温に耐えられるはずがない。今は秋だが、冬の寒空だったらポックリ逝ってしまったかもしれない。

 

 思えば、ティグルの救出を決めたのが約三刻(六時間)程前。そこからバートランはずっと準備に駆けずり回っていたのだ。

 寧ろよく、持った方だろう。

 

 上空の叩き付ける風や温度以上に、この老人の体力を考慮すべきだったと二人は自省していた。

 

 

 

 

 暫くそうしてバートランの体力が回復するのを待っていると。

 

「……しかし、どうするか?

あの公宮の門は閉じとるだろうし空から乗り入れるにしても、

 

お前さんの身体は目立つからなぁ」

 

 外套に包まり鼻を啜るバートランはアンヘルの体躯を見て、どうやって侵入しティグルを連れて脱出するかという相談を二人に投げ掛ける。

 

 

 しかし、カイムは遥か上方からライトメリッツの公宮を眺めていた時に、既にその侵入の段取りを考えていたのかアンヘルにその内容をバートランに伝えるよう頼む。

 

 内容を聞いたアンヘルはその方法に特に異論はないのか、気怠い様子でバートランに説明する。

 

「正面から突破する」

 

「……へ?」

 

「無論お主には無理がある故に、目的地から少し離れた森の中で待っておれ」

 

 そこに小僧を伴い合流してアルサスに戻る、とアンヘルはバートランにカイムの考えを簡潔に伝える。

 

 アンヘルが陽動として公宮の庭で暴れ、カイムがティグルの救出に向かい、彼を連れてアンヘルと共に公宮を去る。

 

 現状ではこれが最善だろうと。

 

 しかし、説明を聞いたバートランは口を開けて呆けた様な表情をしている。

 バートランの表情に、何か問題や疑問な点でもあるのかと二人は訝る様な顔で彼を見遣る。

 それから三呼吸分間を空けて、バートランは呆けた顔を怒りの形相に変え、唾を飛ばして二人に詰め寄った。

 

「バ、バカ言っちゃいけねぇ! 何を考えとる!

いくらお前さんらが強いと言っても限度があらぁ!

あの公宮にはなぁ百や二百じゃねぇ、千単位の兵と騎士がいるんだぞ!?

侵入さえ出来るかどうかだってのに、ケンカを売りにいくバカがいるか!」

 

 バートランは顔を真っ赤に染め肩を怒らせながら、二人を怒鳴り付けてその提案を撥ね付けた。

 当然、考えを否定された二人はいい顔をしなかったが、現在体調の悪いバートランを慮り自分達には問題ないことを冷静に、宥める様に説明するが……。

 

「我らの前では雑兵など相手にもならん。

 

お主の心配は杞憂よ」

 

「……お前さんらがわしの立場だとして、その言葉を信じろってか?」

 

「……」

 

「……フン」

 

 バートランの言葉に、カイムとアンヘルは思わぬ所を付かれたといった体で眉をひそめ、鼻を鳴らした。

 二人は思わず十八年前の感覚で説明したのだが、当然バートランには受け入れ難かった様だ。

 元の世界の戦争時には二人が強力な契約者ということもあり、連合の将兵は寧ろ喜んで送り出してくれたのだが、バートランはそんな事を知らないし言っても理解できないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 カイムはいっそ、バートランを無視してこのまま直行するかとも考えたが、この老人は意地でも追い縋ってくるだろうと判断し、断念した。

 囚われているティグルを連れて脱出する際、当然追っ手が掛かる。

 そんな中、バートランにこの近辺をうろつかれたら怪しまれて彼が捕まる。二度手間だ。

 

 ならば、彼をこの場に縛り付けて……とカイムが潜孝していると、不満を隠さない様子のアンヘルがバートランの考えを窺う。

 

「では、どうするというのだ?

老僕、お主に代案があるのか?」

 

 アンヘルの幾分意地の悪い問い掛けに、今度はバートランが押し黙って渋面を作り、ややあって答えた。

 

「そ、そりゃ……その……これから考えるが……」

 

「話しにならんな」

 

 間髪容れずにバートランの答えを切って捨てたアンヘル。しかし、バートランは焦った様にアンヘルに言い募る。

 

「だ、だが、お前さんらになにかあったら若が悲しむ!

若だけじゃねぇティッタやマスハス卿もだ!

それに!

このお役目はわしにだって任されとるんだ!

わしだけ安全な場所でぬくぬくと待っとられんわ!」

 

 バートランは意地でも二人に付いていくという姿勢を見せて、首を縦に振らない。

 頑なに自身の考えを変えようとしないバートランに、次第にアンヘルも怒りを声に滲ませ、

 

「では、お主の案が浮かぶのは何時になるのだ?

我らは此処で無為に時間を過ごす心算はない。

それから、我らに付いてくるだと?

はっきりと言ってやるが、お主の腕では足手纏いだ。

 

大人しく我らを待て」

 

と、バートランの話しに取り合わない。

 遂に場が剣呑なものとなり、アンヘルとバートランは睨み合い始めた。

 

 そんな二人の様子に、どうしたものかとカイムは悩む。

 ティグルやティッタ、そしてこのバートランには借りがある、恩とも言い換えてもいいが。

 カイムはそれを仇で返すような真似は極力避けたかった。

 

 ティグルには二人の町の受け容れや、住居の提供。この国(世界)の基礎的な知識。

 ティッタには日々の食事や日常の雑事。

 そして、バートランには自身に文字や手持ちの換金、些末な事柄にも逐一教えて貰った。

 

 ティッタ達の前でティグルを助けるのは自身の気紛れ等と言ったが、実はその借りを返す意味合いもある。

 後はまあ、自身が指導したティグルへの責任感や、情が移ったとまでは言わないが自身にも思う所などが極微量に存在する。

 

 何れにせよ、それらすべての借りを十分に返した後、アルサスを去る心算でいたのだ。

 

 そして、このバートランにも……。

 

 アンヘルとバートランを見る。二人は睨み合いからまた口論になり、激しく言葉を交わしている。

 

 アンヘルは、いつ浮かぶとも知れぬ良案を待つことなく迅速に事を成すべきだ、と言い。

 バートランは、失敗する可能性の高い救出案より確実性の高い案を考えるべきだと反論し、その言葉にアンヘルが鼻で笑う。

 

「確実だと? 笑わせるくれる。戦場である以上、確実なもの等何もない。

況して此処は敵地。地の利は向こうにあるのだ。

 

多少の危険を覚悟するのは当然の事よ」

 

「多少の危険どころじゃねぇと言っとるんだ!

お前さんらがヘマして若が殺されたらどうすんだ!

 

そうならんようにわしは絶対付いていくし、お前さんらの案も認めんからな!」

 

「寧ろ、お主を連れて行く方が失敗する可能性が高いと何故判らん。

 

もう良い。

カイム、この老僕を其処らの木にでも縛り付けておけ!」

 

「ふ、ふざけんな! わしは絶対若を助けに行くからな!」

 

 バートランは地面に投げ出していた槍を慌てて拾い、カイムが教えた槍の構えの一つを取る。

 しかし、寒さで震えているのかそれとも、槍を指導した自分の強さを身体が覚えているのか、槍を持つ手は震えて身体は強張っている。

 

 カイムは仕方ないといった風情で首を振り、嘆息を洩らす。

 そして、構えているバートランに

───ギリギリ意識を保てる程度の殺気を叩きつけ───

 次いでアンヘルを見上げる。

 

「……カイム?」

 

 何故さっさと気絶させないと言いたげな瞳でカイムを見下ろす。

 カイムはアンヘルに自身の『代案』の内容を話して聞かせる。

 しかし、アンヘルはその内容に不満の色を浮かべ、カイムに言い募る。

 

「……お主の言い分は、分かる……。

 

……それなら、小僧が人質に取られる危険がないことも。

しかし、小僧があの公宮の何処に居るかという問題もある。

そして、この老僕は確実に足手纏いだ。

 

其処はどうするのだ」

 

 アンヘルはバートランを見遣り、カイムも視線を移した。

 バートランは先程より身体の震えが大きくなり顔は恐怖に歪んで、額に脂汗が滲んでいる。

 腰も若干引けて、脚まで震えてきている。

 

 だが、カイムが発する殺気に、情けないながらも耐えている。

 

「……」

 

「……はあ。……良かろう……」

 

 どうやらアンヘルは自身の『代案』に考えを譲ってくれた様だ。

 カイムは何処か気落ちしているアンヘルに謝意を籠めて、その体躯を優しく撫で上げた。

 

「っ…………!」

 

 アンヘルは身動ぎして、しかし嫌ではないのかそのままの体勢で、カイムの手の感覚と温かさを感じ続ける。

 それからカイムは自身の熱と、思いを、アンヘルに分かって欲しくて丹念に撫で続ける。

 そして、これから死地に赴こうとする自身の、常の覚悟と、新たな決意を理解できるように。

 

 そんなやり取りを暫く続けた後、

 

「……もう良い」

 

 アンヘルはまだ『代案』に不満がありそうだが温かさには満足した様で、その行為の終了を告げる。

 

 

 アンヘルはカイムが心配だったのだ。

 そして不安を感じた。

 また三年前の様にカイムの存在を感じ取れなくなり、会えなくなるのを。

 契約で繋がっているとはいえ、自分の目の届かない場所にカイムが行くのを恐れ、孤独になるのを。

 それが分かった故にカイムは温めたのだ。

 必ず生き残るという十八年前からの覚悟と、

 必ず生きて帰るという新たな決意を込めて。

 

 

 

 

 

 

 

 アンヘルは、依然カイムの殺気を浴びているバートランに向き直り、厳しい声音で問い掛ける。

 

「……我らの案に反対なのだな?」

 

「っ! ぁ、ああ!」

 

 問われたバートランは唾を呑み込み、身体を震わせながらも答える。

 だが、アンヘルはその情けない姿を気にせず、問い続ける。

 

「我らに付いてくるのだな?」

 

「あ、ああ!」

 

 今度は恐怖に歪む表情を戸惑いに変えて、だがはっきりと、覚悟を込めて答える。

 アンヘルはさらに問う。

 

「死ぬやもしれんぞ?」

 

 最後の問い。お前に死線を潜る覚悟はあるのか?

 

 アンヘルのその問いにより、バートランは遂にカイムの殺気を跳ね除け、戸惑う表情を毅然とした面立ちに変えて自らの決心をアンヘルに告げる。

 

「若を助けるまで、わしは死なん!」

 

 アンヘルはバートランの表情を幾分か満足気に見遣り、彼の決心を愉快気に思いながら

 

「良かろう」

 

 とだけ返した。

 そして、カイムの『代案』を説明する。

 

「カイムに『代案』があるそうだ。

お主を連れてあの小僧を助け尚且つ、危険の少ない『代案』が」

 

「……は?」

 

 

 思わず、バートランは間の抜けた声を上げた。





バートランを同行させた理由?

二人で正面突破させたら、皆殺しになっちゃうからさ……。

それがいいという方もいるとは思いますが、……現時点で原作の終わりが見えないから何とも言えなくて。

この話は非難を覚悟しています。

皆申し訳ない

それから「決意」と「覚悟」意味は似ているようで違います。
興味があったら調べてみてください。

それからそれから、こんなのカイムじゃないという方もいると思います。ですがカイムももうオッサンです。
考え方も多少丸くなっています。
というよりは余裕ができたのかな?
そんな感じで読んでくれたらと思っています。

時間があるときにでも加筆するかもしれません。大筋は変えませんが。

次は明後日には更新します。

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