独物語~ゆきのフォックス~   作:フリューゲル

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お久しぶりです。フリューゲルです。

まるまる一週間空いてしまいました……。解決編ということもあって、ある程度まとめて書いたほうが、書きやすかったのもあって、何話分かをまとめて書いていました。

一応エピローグ以外は書き終わったので、更新ペースを上げながら投稿していきたいと思います。


それでは、ご覧ください。


ゆきのフォックス 其之拾漆

 

 秋の日の釣瓶落とし、という言葉がある。秋は陽が暮れるのが早いという意味だが、こうして体験してみると、成る程その通りだなと思う。

 

 

 翌日の午後七時三十分。空に焼き付いた橙色も、いつの間にか深い闇の色に染まりながら、街へと舞い降りている。少し前のこの時間なら空に明るさが残っていたが、今では黒く塗られたキャンバスに、星の輝きが顔を覗かせている。

 

 

 空を見上げて夏の大三角形を探してみるが、なかなか見つからない。二周ほど体を回ってみても見つけることができなかったので、真上を仰ぎ見ると、一際輝く一等星が目に入る。織姫と彦星も、随分と高い所に上ったものだ。

 

 

 まだ陽が落ちてからあまり経っていないからか、見える星が少ない。まだ空気が澄む季節でもないため、もしかしたら真夜中になっても、星空はこのままなのかもしれない。

 

 

 そのまましばらく、爛々と輝く星空を眺めていたが、首が痛くなり始めたので、視線を元に戻す。しばらく首を傾けていたせいか、少し血が上り頭がふらふらして、近くの電柱が少し曲がって見える。

 

 

 

「少し待たせたか?」

 

 

 

 声が聞こえた方に視線を巡らせると、いつも通り学生服を着た阿良々木先輩と、見知らぬ金髪の美女が歩いて来た。

 

 

 その美女の金髪は目がくらむほど輝いていて、思わず惹きつけられてしまう。近くに街灯はあるものの、その金髪の鮮やかさとは比べ物にならない。

 

 

 

「なんじゃ? ゾンビが米を浴びたような顔をしおって。儂の美しさに見蕩れおったかの?」

 

 

 

 「かかっ!」と、その女は凄惨に笑う。

 

 

 

 その言葉遣いで、目の前の美女が、あの吸血鬼幼女ということに気付く。つーか変わりすぎだろう。胸とか、おっぱいとか、乳房とか、あと脚。……成長期ってすげぇなあ。

 

 

 吸血鬼の隣で当たり前のように立っている阿良々木先輩も、いつもと若干雰囲気が違っている。どこか影を帯びているというか、どこか妖しく、見た目はこの前と同じなのにどこか遠くにいるように錯覚させられる。

 

 

 

「僕たちの準備は整ったぞ。もう一度、現地で待機していればいいか?」

 

 

「ありがとうございます。先に向かっていて下さい」

 

 

「……全く、この儂と我が主様を使いっぱしりにするなど、貴様はどれほどのことをしているのか分かっておるのか?」

 

 

 

 吸血鬼は腰に手を当てて、呆れた表情でため息をつく。その立ち居振る舞いの一つ一つが高貴さに溢れているが、その背後には本来あるべき影はない。どんなに美しくても、これは吸血鬼なのだ。ただ、吸血鬼という人の理の外にいるはずなのに、その動作が人間の気品を持っているなんてどこか不思議で矛盾しているように思える。

 

 

 

「分かりませんね。だから、頼めるんじゃないですか?」

 

 

「かかっ、それもそうじゃの。儂らにまかせて、後は楽しむことじゃの」

 

 

 

 今度は小気味よく笑う。そしてその笑い声を残して、いつの間にか吸血鬼と阿良々木先輩の姿は俺の目の前から消えてしまった。それこそ霧になってしまったかのように、どこかへと消えてしまった。

 

 

 今までなら、こんな現象を目の当たりにしただけで狼狽えていたが、そういうものが在ると知るだけで意外と受け入れてしまう。案外、人の頭は適当に出来ているのかもしれない。

 

 

 それから踵を返して、待ち合わせの場所へと向かう。いつもは意識をしなかったが、一歩ずつ影をしっかりと踏み、自分が人間であることを確かめながら足を進める。

 

 

 あまり早く着くと、二人きりで誰かと話さなければならないため、到着時間には気をつける。早すぎてもいけないし、遅すぎると置いていかれる可能性もある。……めんどくせえなぁ。

 

 

 待ち合わせの時間ぴったりに集合場所へと向かうと、由比ヶ浜と三浦、海老名さんが先に着いていた。

 

 

 

「あ、ヒッキー。こっち、こっち!」

 

 

 

 由比ヶ浜が手招きをしてくる。

 

 

 女子は三人とも一旦家に帰って着替えたのか、全員私服でいる。由比ヶ浜の私服も露出度が高いと思っていたが、三浦は更に高かった。なんで服を着ているのに、不特定多数の視線からの防御力が低いんだよ……。

 

 

 

「なんだ……ヒキオかよ」

 

 

 

 三浦は携帯電話をイジっていた手を止め顔を上げたが、すぐに視線が画面へと戻る。

 

 

 その隣で海老名さんが、眼鏡を光らせて、いやらしい笑顔を浮かべている。おそらく眼鏡は、街灯の光のものだろう、そう信じたい。最近気付いたが、この人が笑顔の時はろくなことを考えていない。藪をつつくと、とんでもないようなものが出てきそうなので、迂闊に話しかけてはいけない。未知の祝福? そんなものは存在しない。

 

 

 

「ヒキタニ君!」

 

 

 

 そんな俺の心情をいざ知らず、海老名さんは俺に話しかけてくる。

 

 

 

「分かってる、私は分かってるよ。夏に持て余したリビドーを発散できなかったんだね。だから葉山君とか戸部君を呼んで、過ぎ去った夏を取り戻そうとしたんだよね?」

 

 

 

 一息で思い切り言うと、「ぐへぇ」と人のものとは思えない呻きを発する。怖えぇ、マジで怖えぇ。なんで女子がいるのに、俺がそんなことをすることを思いつくんだよ。

 

 

 何を言っても無駄なような気がするので、物理的に離れた場所に落ち着ける。由比ヶ浜たちは、三浦が携帯を触っているものの、適度に会話をしながら時間を潰していた。……さすが三浦である、あれ三浦以外がやったら絶対怒るだろうな。

 

 

 その後、街灯の光に惹かれてきた虫を少しの時間だけ見ていたが、すぐに葉山と戸部がやってくる。

 

 

 

「ウィース。お、ヒキタニ君いるじゃん。珍しいー」

 

 

「ヒキタニ君も来るって、さっき話をしてたよな。……まぁいいや、遅れてごめん!」

 

 

 

 戸部は相変わらずうるさく、やかましい。……というか人をSRガチャみたいに言うなよ。課金はしてくれないんだろうなぁ……。

 

 

 葉山と戸部は、部活が終わってからどこかで時間を潰していたのか、制服姿のままだった。制汗スプレーでもかけてきたのか、ほのかに人口的な柑橘系のにおいが漂ってくる。

 

 

 

「隼人ー、ホントに待ったよー。こんな暗いとこに女子を待たせるなんて、信じられなーい」

 

 

 

 三浦は、さっきまでつまらなそうに携帯電話をイジっていたとは思えないほど、科をつくりながら葉山に話しかける。猫をかぶるというか、別人格だよな。

 

 

 

「じ、じゃあ優美子、そろそろ行こっか?」

 

 

 

 由比ヶ浜の言葉に、「よし、行くか」と何故か葉山が答える。並の男なら三浦は威圧するだろうが、葉山の場合は「そーだね」と言いながら、葉山の隣で笑っているだけだった。……マジで誰だよ。

 

 

 

「ところでさー、今から何しにいくん?」

 

 

「そういえば、あーしもよく知らない」

 

 

 

 ……おい、知らないのかよ。由比ヶ浜の話だと、葉山を通して聞いていると言ってたぞ。

 

 

 葉山へ抗議の意味でにらみつけるが、葉山の方も肩をすくめていた。どうやら由比ヶ浜の話は本当らしい。

 

 

 

「恋愛成就の神様がいるらしいから、みんなでお参りに行かないかって、話をしただろ」

 

 

 

 葉山がご丁寧に説明をしてくれる。

 

 

 

 恋愛成就の神様か、世界のどこかにはいるんじゃないか? あまり働いてはくれないだろうが。

 

 

 

「そーだべ、そーだべ。それに夜のお参りって、どこか肝試して的で面白いべ」

 

 

 

 ちなみに、由比ヶ浜には吊り橋効果の話を、それとなく伝えるように言ってある。俺の言ったことをそのまま伝えると、不審に思われるかもしれないので、由比ヶ浜に情動と身体の関係性を懇切丁寧に説明して、アドリブで説明するように言ってある。その方が伝聞調が出るので、頭の中に刷り込みやすいだろう。

 

 

 

 そんな話をしながら歩いていく一行を、後ろから眺める。残暑がまだ続いているが、それでも夜になると夜風が冷たく肌を撫で、心地よい気分にさせられる。

 

 

 これだけ涼しいと、納涼には時季外れかもしれない。まぁそれでも、こいつらには楽しんでいってもらおう。

 

 

 

 




ご覧いただきありがとうございます。

野球が日米ともに終わってしまって寂しいですが、その変わりNBAが開幕しました。

スラムダンク→NBAのゲーム→NBAの順なのですが、たまに試合を見るとめちゃくちゃ熱中します。

ラブが移籍してキャブズに行ってしまったので、ウルブズを応援するべきかキャブズを応援すべきかで、未だに迷っています。

とりあえず、両方プレイオフに残ってくれるように祈るのみです。


それでは、また次回。

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