今まで、ずっと雑音だったものが急にところどころ聞こえてくる。
断片的に聞こえてくる内容を要約するとこの声の主は、
「1000年前に囲碁で敗れた棋士と再戦をし、勝ちたい。」
とのことみたいだ。まあ、聞こえてくる声が断片過ぎて本当にそうか分からないけど。ああ、本当に頭がおかしくなる。
いやついに、おかしくなってしまったのかな。
そりゃあ、小学校六年生からだもんね。普通の人なら発狂しているんじゃないかな。
まあ、普通の人はこんな状態にまずならないと思うけど。ああ、こんな声聞きたくもない。
あの時から、こんな状態になっていることを・・・・・・・。
家族はうすうす気が付いているかもしれないけど、ヒカルにだけは気が付いて欲しくない。
何だかんだ言いながらもヒカルはやさしい、あれだけ強いのだからきっと囲碁のプロにもなるだろうし、邪魔したくない。
何より、ヒカルなんかに気をつかって欲しくない。なんてらしくもないことを考えている。
だめだ!弱気になっちゃダメ!きっと気のせい!気を強く持たないと!
と1人で気を入れると頭は相変わらずだが少し元気になった気がする。
「アカリー」と友達の声が聞こえた。今日も一日がんばらないと。
パチッ、パチッ。
やっぱり囲碁はいい、何よりうるさい雑音が消える。相手と自分の真剣勝負。
いつまでもこの幸せな時間が続けばいいのに。
「おーい、アカリ打つぞ。」
そんな余韻に浸っていると、ヒカルに声をかけられる。
最近は三谷君を含めて4人いるので全員で代わる代わる打ったりもしている。
ヒカルと打つのは、一番幸せな時間だ。毎回ヒカルは、こちらの考えもしない一手を打ってくる。
「saーiー、フジワラノ・・・・・・・・」
まだ始まって、序盤もいいところ。頭痛が酷くなってくる。
囲碁を打っているときに、この声が聞こえるのは初めてだ。
恨みの相手は「ふじわらのさい」さんという方なのかな。
ツギハ、ココダァ、ココニウテェェェ。
ああ、うるさい。私の幸せな時間を奪うな。
頭の痛くなる声を無視しながら私は打ち続ける。
チーガーウ、ソコデハナイ。ソコハヨセダーーー。
あ、しまった。というか、こんな簡単なミス普段なら絶対にしないのに。
「今日は調子悪いな。どうかした。」
大丈夫きっと表情には出ていない。勤めて笑顔で大丈夫とヒカルに言った。
ヒカルは納得いかなそうな感じだが、本当に大丈夫かと心配させてしまった。
ああ、私の馬鹿。なんて思いながらも何とか納得してくれたようだ。
「そういえばヒカル、ネット碁打っているんだよね。名前はなんていうの。」
すると、なぜかヒカルは驚いた表情を一瞬した。私へんなこと言ったかなぁ。
「ああ、light、カッコイイダろー。」
少しもかっこいいと思っていないという感じで、おふざけ半分に言う。
なんか、急に大人びちゃったヒカルがそんな態度をとるなんて久しぶりだな。
「あれ、でもこの間saiって名前で打っていなかった?」
「いやいや、そんな名前で打っていないぞ。というか俺が、ネット碁打っているの見たのかよ。」
わずかに目を横に向け、嘘をついているのがばればれだ。まあ、ちょっとした変化だから私じゃないとわからないと思うけど。
「うんちょっと友達一緒にとネットカフェで調べものするために、三谷君のお姉さんにお願いしたらヒカルがいたからチラッと見たんだ。あの対局はあの後どうなったんだろ。」
もう、嘘を並び立てるのには慣れた。実際は様子を見てきて欲しいと頼まれただけだけどね。
「なんだよ、チラッとだけかよ。見間違えだろ。俺はlightで打ってるぜ。マジで無敗伝説作っているんだからな。」
他の人が見れば分からないだろうけど、ヒカルがほっとしたのが私には分かる。何か隠したいのかな。
サぁーーイーーー、サぁーーイーー。
ああ、うるさい。ん、sai?
「きっと、他の人の対局見ているときに見たんじゃないか。」
ちょっといたずら心もあって、もしかしたら私の問題が解決するかもしれないということもあって余計なことを言ってみる。
「そういえば思い出した。ヒカル、そのsaiさんって人に連絡取れない?ネットで有名な人なんだよね。この間の大会でできた友達がすごく強いからぜひとも対局してみたいって言ってたよ。」
まあ、無理かな。そんな隠そうとしているみたいだし。
「流石に無理だと思うよ。saiはすごく人気だからね。ちなみにその人はなんて名前なの。」
おお、何だかんだでやさしいな。きっと受けてくれるつもりなんだろう。
「確かRIKA01とか言ってたかな。ちょっとメールを見てみる。うんR I K A 0 1だよ。」
どうせ、作って一局しかやっていないアカウントだ。たまたま友達に誘われて作ったのはいいけど放置していた。
ヒカルはふーんという感じで、まあ、俺は連絡先知らないんだけどな。といってその話はそこで終わった。