6戦目、いかにも落ち着いた強いという雰囲気を持っている感じの人だ。
えっと、名前は伊角さんだったかな。
見た目どおり、しっかりした囲碁を打つ。
きっちり耐えて打つか、多少強引にでも攻めるか。
今までの流れで分かってきたが、長い対局になると私は弱くなる。
単純に体力がないのだろう。
だからといってどんな対局でも手を抜くつもりもないし勝つために全力を尽くす。
攻めどころが見つからない。お互い拮抗しているのが分かる。
お互い穏やかな流れのまま中盤になってしまう。
これ以上この状態を続ければどうなるかは分からないけど、攻めどころは無くなってしまうだろう。
私は思い切って中央へ踏み出した。
この中央の石が殺されれば私の負け、生きれば私の勝ちという流れになる。
とにかく伊角さんはしつこくくる。でも私も負ける気はない。
何とか連絡しきって情勢は動かない。でも、予選のように油断はしない最後まできっちりと打つ。
終盤で伊角さんが投了。彼もここまで全勝だったらしく周りに驚かれた。
うん、あそこで踏み込んだのがすべてだった。
でももう少し早く踏み込むべきだったかもなんて思ってしまう。
検討してみるも、やはりあのタイミングが一番良かったみたいだ。
7戦目、本田さんという人に当たった。
この人も強い。伊角さんとはまた違う強さを持っている人だ。
どちらかといえば門脇さん寄りなのかな。
でも、二人ほど強くはない。
気持ちのいいほど思い切った手を気合と共に打ちこんでくるけどひらりひらりとかわして、
逆に私が地を稼いでいく。
終盤で中押し勝ち。
え、ヒカル?相変わらず強すぎてすぐ帰ってしまうので、負けた人に対局を並べてもらったりしている。
土下座って便利だね。
たいていそこまでやって並べてくれない人はいない。
といっても、相変わらず圧倒的過ぎて参考にならないけど、ヒカルが遥かに高い頂に立っていることはわかる。
8戦目は完勝。
9戦目は奈瀬さんが言っていた和谷君だ。
彼はここまで1敗らしい。絶対落とせないという感じで向かってくる。
辛くも勝利を収める。検討しながらヒカルのことを聞くと
「あいつは別格だよ。ちょっと前までおちゃらけた感じも出していたのにプロ試験に本気で臨んでいるのか常に集中している感じだな。
あれで糸が切れて一気に落ちないといいけどって、俺は2敗になってしまったし他人の心配している場合じゃないな。」と、悔しさをにじませながらも教えてくれた。
確かに最近変だよね。変なのは前からだけどあんなヒカルは見たことがない。
ヒカルとは相変わらず話せずじまい。家に行ってみようと思いつつも初日の雰囲気が忘れられず行く勇気が出ない。
それに会ったら会ったで、何かが切れてしまいそうで怖い。
それが、ヒカルについてなのか、私自身のことかは分からないけど。
10戦目は、どこか諦めの漂う院生だった。飯島さんとかいったかな。
もうすでに何敗かしてしまっているようで諦めムードが漂っている。
打っていてもまったく響かない。
中押し勝ちで終わった。
11戦目越智くんだ。奈瀬さんに聞いた話では院生内でも常に上位3名を争う位置にいる人だそうだ。
現在、ヒカルと私と同じく全勝同士だ。
打ってみると分かる。確かに強いことは強い。
でも、地にこだわりすぎているせいで全体が見えていない。
確かに堅実といえるかもしれないけど、これなら何とか。
私も堅実な打ち方のほうが好きだけど、今回は攻める。
ちょっとやばいかなというところまで思い切って攻める。
昨日の夜幽霊と棋譜を並べて、この人と同じ強さで打ってくれといって通じたのか分からないけど本気で打ってくれた。
検討した結果、もっと攻めることを覚えたほうが良いという流れで決まったので試してみたけどうまく行ったようだ。
正直負けてもしょうがないと思って打ったけど、何とかなっちゃたな。
彼らのプロを目指すという気迫にもなれてどんどん調子が今までにないほどあがっていくのが分かる。
今の私は負ける気がしない。ヒカルとも対等に戦えそうというのは流石にうぬぼれかな。
12戦目は門脇さんだ。
彼にも前回負けている。
彼には勝負という大切なことを教わった。今回こそは必ず勝つ。
石をつかんだ瞬間に分かる。本当に今までにないくらい絶好調だ。
私が常に先に仕掛ける。
まるで未来が見通せるかのように、全体がどのように流れていくかが分かる。
どんどん私の地が増えていく。気持ちいいくらいに相手がどう動いてくるか分かる。
盤の全体を支配したような全能感に襲われる。
結果はもちろん中押し勝ち。
「今日のあんたは進藤並みに強いな。今まで何度か対局を見せてもらったけどここまでとは思わなかった。俺の完敗だ。」
ヒカルのことを知っているのかと聞くと、一息ついて
「院生受験前に進藤と1局打ってもらったんだよ。そうしたら余りの強さに修行しなおそうと思ったのだが彼が本気出していないように見えたから、悔しくて是非とももう1局、本気で打ちたいと思ってな。」
ヒカルを追いかけている仲間だなと思ってそのことを伝えると、
「あんたといい、進藤といい、本当に試験のレベルを舐めてたな。まあ、ここまで来たのだから最後までやっていくぜ。」
明日ヒカルとの対局ですと伝えると、
「全勝同士の頂上決戦か。あいつの強さは別格だが、何が起こるかわからないしまあ、がんばりな。」
ええ、もちろん。今日まで打ってきたのはすべてヒカルとの対局のためだったといえるような対局にしたいと思った。
今度こそ、ヒカルと本気で勝負して勝つんだ。とこぶしに力を入れギュッとした。
そしてついにヒカルとの対局を迎える。