緑の勇者じゃない! それはリンク違いだよ! 作:よもぎだんご
好評価、面白い感想ありがとうございます。作者は皆様の感想を見て毎日ニヨニヨさせてもらっています。
さすが公式チートリンクさんは格が違った。
主人公視点に戻り、物語が大きく進みます。ヒロイン視点はいずれ、どこか
なあ、見てくれ。こいつを、どう思う。
ルベリエさん「待っていましたよ」
酔っ払いおじさん「私はアクマDA―!!」
ピッカー!
ルベリエさん「」(返事がない。ただの屍のようだ……)
酔っ払いおじさん「」(返事がない。もういないようだ)
すごく、意味不明です……
いや、さっき確認したらルベリエさんとお付の人はただ道の真ん中で気絶しているだけで、死んでなかったんだけどね。
もしかしてあの謎の光は強烈な光と音で周囲の者を麻痺させるスタングレネード的何かだったんだろうか。
あの酔っ払いが酒の勢いに任せてそれを投げてしまったとか。
いや、なんで一般人がスタングレネードなんて兵器を持ってんだよ。
ありえねえだろ。この世界はそんな物騒でも世紀末でもないはずだ。
ん、待てよ。
俺が投げようとしたデクの実も強烈な光と音で相手を1定時間麻痺させる効果。
そしてデクの実は森で拾った物。
つまりこの世界はスタングレネードまがいのデクの実がぽとぽと落ちている、物騒で世紀末な世界だったのだ!
なんてこった。
このままじゃモヒカンが大量発生しちまう! 早く何とかしないと。
そういえば俺はあの時何を出したんだろう。
何でもいいから投げて牽制しようと、適当に出したもの。たぶん牛乳瓶だと思うのだが。
俺が改めて周囲を見回すと出がけに貰ったおまもりが落ちていた。
牛革で作られた袋の中にはいろんな小物が入っている。
代々ロマーニの家に伝わる物や、マロンやテワク、マダラオやゴウシ君たちが街の子供たちと、かくれんぼで勝負してゲットした物、その他にも色々入っているらしい。
かくれんぼで勝負、ムジュラの仮面のボンバーズか、それとも風のタクトのキラービーか。はたまたオリキャラか。
まあ何でもいいや。どうせ、クリミアさんから絶対に袋を開けてはならないし、中身を見てもいけないって厳命されているからな。
もし破ったら……装備全損、ルピー全損、笑ってない笑顔……
『リンクくーん、なにしているのかな』
巨乳のお姉さんに笑顔で背中からぎゅっとされているのに、冷や汗が止まらない。
逃げようにも万力で絞められて逃げられない。
するすると白い蛇の様に腕が懐に入って来る。
勝手にインベントリが開き、苦労して拾い集めたデクの棒や実や種が……
『約束を破る子にこんなものは……』
クリミアさんはインベントリに気付いた様子はない。
なのに、なんで勝手にアイテム消去欄が開いて……
選んだアイテムを消去しますか? はい いいえ
やめろ!やめろ!やめてくれ!やめてください!
『いらないよね』
アッ――――――――!!
…………と、とにかく今は剣と盾を手に入れるのが先決だな!
俺は自身のトラウマと倒れ伏すおじさんたちをカレーにスルーして、鍛冶屋に向かった。
「ひひひ、その恰好、出かけるのか」
鍛冶屋への道の途中でスタルキッドに再開した。今日はまだ早朝なので露店を広げておらず、背中にでっかいリュックを背負っている。どこぞのお面屋みたいだぞ。
この人にもきちんとお別れを言っとこう。
「ああ、ちょっと東に用があってね。しばらく君とも会えなくなる」
「そうか、そうだな。お前はいつもそうだもんな……」
「え?」
小さな声で何かを言って俯いてしまうスタルキッド。心なしか体も震えている。
もしかして寂しいのか。実は俺以外に話す人いない、とか。
「大丈夫だよ。また会いに来るさ。俺たち友達だろ」
ばっと顔を上げるスタルキッド。
「ほ、本当か。俺たち友達か……?」
この友達という言葉への食いつきっぷり。
間違いない。こいつは俺と同じボッチだ!
そういや時のオカリナやムジュラでも半ばボッチだったね、君。
なんでスタルキッドってみんなボッチ属性なんですかねぇ。
「ああ、友達だ」
「っ、これやる!」
スタルキッドはリュックから取り出したのは妖精のオカリナだった。しかもいっぱいある。
「でも俺そんなにお金持ってないよ」
これを他の人に渡しておくと携帯電話の代わりになるのでぜひ欲しいのだが……
「金はいつでもいい。やる」
彼は手に持ったオカリナの束をぐいっと俺の胸に押し付けた。
お金はとるのね。当然か。
ここで断るのも悪いし貰って置くか。金も何時でもいいって言ってるし。
「ありがとう」
俺は礼を言ってオカリナを受け取った。
「おう坊主、待ってたぜ」
「あ、リンクさん。おはようございます」
鍛冶屋に着くと、アンジュちゃんとそのお父さんの鍛冶屋さんが家の前で待っていてくれた。
「待たせてごめんね」
「いいえ、私も今来た所だから」
なんだか今のやりとりは待ち合わせに遅れてきた恋人みたいだ。
いつか俺も言ってみたいセリフだったが、ゲームで、しかも10歳前の子に言うことになるとは思いもよらなかったよ。
「……坊主お前本当にアンジュには何もしてないよな」
「ええ。リンクさんは私にまだ何もしていないわ」
まだってなんだ、まだって。
それじゃ俺がアンジュちゃんにいつか何かやらかすみたいじゃないか! しないぞ!
だが豪快なおやじさんはそんな微妙なニュアンスには気付かなかったようだ。
「そうか、ならいいんだ。ほれ坊主、約束の品だ。受け取れ」
そう言って抜身の剣を俺に差し出した。
漆黒の刃の上を、金色のラインがいくつも交差したその剣を俺はかつて画面越しに見た事があった。
今それが実体を伴って目の前にある。
俺は歓喜に震える体でそれを受け取り、左手で天高く掲げた。
金剛の剣を手に入れた!
フェザーソードに砂金を加えて鍛えた、絶対に折れない剛剣。
リーチもフェザーソードより長く、切れ味も抜群だ!
例のテロップが脳内を流れる。
金剛の剣はムジュラの仮面に登場した剣で、子供リンクが持てる剣としてはマスターソードや大妖精の剣といった規格外を除けば最高の剣だ。
耐久力は無限で、リーチも攻撃力もそんじょそこらの剣とは比較にならない。世界を滅ぼそうとするラスボスにだって通じる剣だ。
ムジュラではこれを作るには中盤までストーリーを進めてから、面倒なレースに出る必要があったり、この剣の前段階であるフェザーソードですら材料を提供した挙句に100ルピーもかかると言えば、この剣を得るのがどれだけ大変か分かってもらえるだろうか。
まだ初期装備の剣すら手に入っていなかったのに、序盤からこんな高級品を貰ってしまっていいのだろうか。
もう返せと言われても返さないけどな! こんな良い剣捨てられるか!
「いいんですか。こんな素晴らしい剣を頂いてしまって」
「ああ。お前は娘の、いや俺達の恩人だからな」
恩人って、俺お見舞いに来て牛乳渡しただけなんだけど。あれって大切なイベントだったんだな。
「こいつは俺の鍛冶屋としての人生の中でも1,2を争う出来の剣だ。正直もう1回作れと言われても無理かもしれねえほどにな」
娘の友人が子供ながらに旅に出ると知って、少しでも安全になる様にと頑張ってくれたのだろう。つくづく良いおやじだぜ、あんた。
若いころはモテただろうな。娘さんも可愛いし、きっと美人の嫁さんがいるんだろう……あれ、なんだろう、おっさんがリア充だと思うと急に感謝の気持ちが薄れていくぞ。
この剣は売れば200ルピーはするような砂金をわんさか使っている。柔らかい金属である金を使ってなんで剛剣が出来るのか分からないが、錬金術的な何かなんだろう。
この店儲かっているようにはあまり見えないけど、どこから砂金を手に入れたんだろうか。実は標準装備なのか。
「だが、だからこそおめえに使って欲しいのさ。坊主ならきっとその剣で正しい事を成してくれる、そう信じてるぜ」
渋い声で信じているというおやじさん。リンク=サンモードの俺がそれに応える。
「分かりました。俺の負けです。謹んでお受取りします」
俺の負けだよ。おやじさん、あんたはリア充だ。
俺も子ども時代最強の剣を手に入れたし、それでいいじゃないか。
現実の俺がリア充でないのは関係ない話だ。
「それでな坊主、盾の事なんだが……これだ」
おやじさんがまたもどこか見覚えのある代物を出し、俺に渡した。
トアルの盾を手に入れた!
トアル村のヤギが描かれた木製の盾。
木製なので火に弱い。火がついたらすぐ消そう。
またテロップが流れる。
トアルの盾は前作トワイライトプリンセスで主人公が最初に手に入れる盾だ。
初期装備だけあって火がついたら前転とかして消火しないと燃え尽きてしまう。後半は全く使わなくなる盾だ。
武器は最強、防具は初期装備……落差がひどいな。
「あーこれはだな……」
「お父さんたちは最強の剣を作ることにこだわりすぎて、盾のための材料も予算も時間も使い切ってしまったんです」
「こ、こらアンジュ!」
「本当の事じゃない」
「ぐぅ、まあそういう事だ。その盾はトアル村からの貰いものだが、かなりいいものだ。坊主が使ってくれ」
「はい。ありがとうございます」
「その代わりと言っちゃなんだが、余った材料で作った鎖帷子だ。いざって時のためにその緑の服の下に着とけ」
鎖帷子とは服の下に着こむ小さな鎖で編まれた鎧である。
「助かります。子供用の鎖帷子は中々売ってなくて」
防御面でもそうだが、見ため的にも鎖帷子があった方がかっこいい。早速服の下に着こんだ。大して重く感じないのはゲームだからだろう。
これで俺の見た目はトワイライトプリンセスのリンクを子供にしたような感じになったはずだ。
決してムジュラや時のオカリナのようなスカート状態じゃない。
その下にしっかりズボンをはいている。ちなみに靴はブーツ(初期装備)だ。
「あとこれ、お弁当です。道中食べてくださいね」
美少女であるアンジュの手作り弁当を貰えるなんて、やはりゼル伝がギャルゲー化している。
いいぞ、もっとヤレ。違う、そうじゃない。
「ありがとう。大事に食べるよ」
「はい……」
泣き出しそうな潤んだ目でこっちを見ているアンジュちゃん。
いかん、ここで泣かれると辛い。俺は涙もろいのだ。俺はとっさにあれを出した。
「そうだ、これあげるよ」
さっきスタルキッドから餞別に貰った妖精のオカリナだ。
「これは……笛、ですか?」
「妖精のオカリナって言うんだ。ある曲を吹けば、これを持っている者同士でどんなに離れていても会話できる」
「どんなに離れていても……すごい。ありがとうございます! 私大切にしますね!」
アンジュちゃんは目に見えて喜んでいる。
オカリナには他にも色々効果があるんだけど、まあ別れを悲しんでいる彼女にはこれが一番だろう。
「曲の吹き方はテワクたちやマロンに教えたから、彼女たちから訊いてほしい」
「……マロンちゃんたちにもあげたんですか……」
「うん。君も彼女達も友達だからね」
なんか今度はズゥンと落ち込んでしまった。何故だ。
「なあ、本当に、本当に坊主はうちのアンジュに何もしてないんだよな! そうだよな!」
「していません」
さっさと出発しないと、ルベリエさんが復活しそうなので早々に去ることにした。
おやじさんも親バカ発動! してるしな。
俺は改めて礼を言って彼らと別れ、東門に向かった。
まあ、なんにせよ剣と盾はそろったのだ。最初の街から出て俺の運命の剣を求める冒険は、物語は加速する。
これはあの有名なセリフを言っておかないといけないな。
俺の冒険はまだまだ始まったばかりだ!
俺は東門から出て、以前デクの実などを拾った小さな森を抜け、広大なハイラル平原に出た。
雲一つない夜明け空、徐々に輝きを増していく太陽、広々とした草原、青々としげる草木。風が草の匂いと涼しい風を運んでくる。
「すごい。これがあのハイラル平原……」
俺は1ゼルダプレイヤーとして猛烈に感動していた。
なんせ俺がリンクになって緑の服を着て、剣と盾を持ち、ハイラル平原に立って、夜が明けていくのを見ているのである。
時のオカリナで初めてハイラル平原を見た時はその広さや雄大な景色に感動したものだ。
トワイライトプリンセスで見た時は更にリアルに広大になっていて、大興奮したものだ。
そして1度でいいからこのゲームの中に入ってみたいと思ったものだ。
今、俺は念願叶い、これ以上ないほどリアルになったハイラル平原にいるのだ。感動しないはずがない。
俺は慎重に1歩踏み出す。
「凄い……!」
俺、あのハイラル平原を歩いているよ……!
いちいち感動する俺だった。
あれからあっという間に1週間が過ぎた。現実の俺もゲーム生活2日目だ。
その間、様々な事があった。
手に入れた剣を振り回して草を刈りまくってみたり。回転切りごっこしたり。夜になると湧きだしてくる小さな骸骨の群れや人の顔っぽい物の付いた空飛ぶボールを狩りまくったり。
草原を全力疾走して、リンクさんの身体能力TAKEE! ってやってたら5分もしないでばてたり。
昼を過ぎて、日が沈んで、月が上って、夜になり、また朝が来て。
その間に様々な事で感激しまくり、でもこの身体は意味のない絶叫を許してくれないので俺は内心で叫びまくっていた。
まあでもさすがに1週間もすれば、感動は少しずつ収まってくるものだ。
少なくとも無意味な草刈りや全力疾走はしなくなった。環境破壊いくない。
だが今の俺にも叫びたいことがある。
広い! ハイラル平原広すぎんよ!! トアル村どころか隣の街にも村にも全然着けないよ!!
俺は忘れていたのだ。風のタクトでも途中で、何この世界の海無駄に広すぎ、やってらんねーってなったことを。
そしてこのゲームはかつてのゲームよりはるかに処理能力が高い。世界を広げるのが大好きなゼル伝スタッフが調子に乗って平原を広くし過ぎてしまう事などよく考えれば分かるはずだったのに!
俺はリンクさんの体なので剣と盾を背負って走っているだけではまるで疲れない。ゲーム的には頑張りゲージ(スタミナゲージ)が全く減らない。リンクさんの体力の回復速度が早すぎるのか、もとから体力が桁違いに多いのか、たぶん両方だろう。
やろうと思えば休憩なしで1日でも3日でもぶっとおしで走り続けられるのだ。しかも現実の俺とは比べ物にならないほど早く。
さすが世界を救っちゃう予定の勇者様である。格が違った。
それでもさっぱりトアル村に着けないのである。困った。
いや、途中で個人的に怪しいと思った林に飛び込んでみたり、穴に落ちてみたことは認めるよ。
どれもはずれだったけど。ハートの欠片どころかルピーすら落ちてなかったけど! ゼル伝のお約束はどこへ行った!
それでも夜も寝ずに走っているのに一向に着かないのはどういう事? もしかして道間違えている?
でも地図的には俺の通っているのは最短ルートのはずなんだけどなぁ。
そんなことを考えながら、俺は元気に剣をブンブン振るって弾丸を跳ね返し、ハイラル平原を“後ろ向きに”疾走していた。
いわゆる1つのムーンウォークってやつだ。
剣を振りながらムーンウォークで平原を凄い速さで疾走する緑の勇者リンク……我ながらシュールだな。
俺がこんなことをしている理由は、ゼル伝の伝統と新要素が奇妙な融合を果たしたからだ。
まず2Dゼルダから続くゼル伝の伝統を1つ紹介しよう。
勇者リンクは基本的に前向きに走るより、後ろ向きに歩いた方が早い。
何を言っているのか初めての方は意味が分からないと思うが安心してほしい。熟練プレイヤーも意味分かってないから。
ただ訓練されたゼル伝プレイヤーは“ゼル伝とはこういうのもんだ”とニヒルな笑みで割り切って使っているだけだ。そこが初心者と熟練者の唯一の違いである。
ニュービーは問う、「そんなことをして大丈夫なのか、人類はそもそも後ろ向きに歩き続けられるのか、それは正しいのか」と。
訓練されたゼル伝プレイヤーは答える、「大丈夫だ、問題ない」と。
実際今回もメニュー画面のマップを脳内に開きっぱなしにしておけば、自分の進んでいる方向は分かるし、敵がどこから近づいてくのかも分かるし、不意打ちをされる事も無くなって普通に走るよりかえって安全かつ速かった。意味分かんない。
現実ではありえないが、これはゼルダの伝説なのだ。
だからニュービーの皆さんも“そういうものなんだ”と納得してほしい。
そしてゼル伝がVRゲームとなる事で新たに追加された新要素。
何を隠そう武器熟練度とソードスキルである。
なんとこのゲームはゼル伝なのに、熟練度制とスキル制だったのだ。超びっくりである。
そういえば茅場さんってそっち系のゲームを作っていた人だもんね。納得ちゃあ納得。
3日目の昼頃、変わり映えしない毎日に嫌気がさして普段あまり弄らないメニュー画面を色々を見ながら淡々と後ろ向きで走っていたら見つけてしまったのだ。
そして喜び勇んだ俺が経験値の表示されているメニューを出しっぱなしにして、草を刈り、骸骨の群れやチュチュ、顔の付いた空を飛ぶボールを斬り殺したりした結果分かったことがいくつかあった。
剣は振れば振る程、威力や速度、技のキレが上がっていく。
これは素振りでも構わないが、一番良いのは敵や物を、それも出来るだけ強そうな敵や硬そうな物を斬ると良い。
硬くて強い物を斬れば切るほど、武器熟練度の経験値がたくさん貰え、レベルが早く上がっていく。
経験値的には素振りで1、チュチュのような柔らかい敵で2、小石は10、人面ボールが出す弾丸で30、人面ボール本体で100位たまる。
今作ではフィールドにたくさん落ちている小石は投げる物では無く、斬り刻む物となったのだ。小石の経験値、おいしいです。
ちなみに人面ボールとは今作オリジナルの雑魚キャラで、人の顔と大砲みたいなのが体中についたメカメカしい外見のボール型浮遊モンスターだ。見た目はかなりキモイ。まあゼル伝ではよくあることだ。
俺を見つけると紫色のビーム(実は巨大な弾丸)を発射しながら、どこまでも追って来る。オクタロックやデクナッツの親戚だろうか。最初こそ剣が届かず焦ったものの、今では問題なく倒せる。
彼らが発射する弾丸は斬ると武器熟練度の経験値が30溜まるので、わざと彼らを倒さずその弾丸を剣や盾で跳ね返し続ける事で美味しい想いが出来る。
しかも最初から大群でいたり、仲間を大量に呼んでくれることもある。無論そういう時はヒャッハー! 汚物は消毒だぁー!! して経験値を稼ぐ。
やつらは所謂はぐれたメタル的なボーナスモンスターなのだろう。たまにやたら強くて、よくしゃべる敵を呼び出すのも同じだ。
人面ボールさん、あざーっす!
そして武器の熟練度レベルが上がると新しい武器スキルを覚えられるのだが、ここでもゼル伝ファンにとっては憎い演出があった。
メニュー画面のはしっこに金色の狼のマークが出る。それをタップすると謎の空間にワープし、トワイライトプリンセスに登場した骸骨先生こと先代の時の勇者に奥義を教えてもらえるのだ。
さすが世界を2度も救った時の勇者、なんか強者のオーラが溢れていました。
それにあの戦う前にお互いの剣をキンって合わせ合うやつ、やってみたかったんだよねぇ。
威厳たっぷりなしゃべり方と共に最初に教えてもらったのは“とどめ”、次が“盾アタック”だった。その辺はトワイライトプリンセスと一緒なんだね。
教えて貰って以降、とどめの一撃で倒せる相手が分かるようになった。その時に“とどめ”と念じると、身体が勝手にジャンプして敵のど真ん中に威力が大幅に上がった剣を突き立てるのだ。
でも、相手が人型の場合は一回地面に転がしてからじゃないと、スキルが発動しない上に、外すと剣が地面に突き刺さって一定時間隙だらけになるのでその辺は注意が必要な所もトワイライトプリンセスと一緒だった。
まあ、デメリットもあるけど確実に相手を仕留められるソードスキル、それが“とどめ”だ。
“盾アタック”については言う事は少ない。
文字通り盾を前に突き出す技で、隙は殆ど無いが、ついでに威力もほとんどない。ただ、これの真骨頂は相手の遠距離攻撃を跳ね返せる事と相手の体勢を崩して攻撃を当てやすくする事なのでこれでいい。
次は“背面斬り”かなぁとか考えながら俺は武器の熟練度を溜めるため、トレインした敵の弾丸をスパスパ斬りまくり、無理なのは盾で弾く。その間もバックする足は止めない。たまにマップも確認して進路を微調整。
しかし俺は剣の達人でも何でもないのに、なんで某ゴエモン大先生のような真似ができるのだろうか。
防御を意識すると体が勝手に動く感じだし、たぶんゲーム補正とか武器熟練度補正とかが効いているのだろうか。
それとも武器熟練度が最初からレベル2だったことと関係があるのか。謎は深まるばかりだ。
ま、楽しければ何でもいいや!
『面白きことはよきことなり』
ボッチの俺の数少ない友人であり、狸みたいな性格をした京都の大学生の言葉だ。
「やっとついた……」
それから更に3日後、絶え間ないムーンウォークと無数のスパスパの末、やっと俺は中つ国のはじっこにあるトアル村に到着した。
目の前にはトアル村はあちらと書かれた看板がある。
そしてその向こうには前作トワイライトプリンセスのリンクさんが住んでいた、ツリーハウスが見える! これはゼル伝ファンとして行くしかない!
だが、それに水を差すものがあった。
「……眠い。腹減った……」
ゲーム内の俺は水と牛乳以外もう3日も何も食べてないし、10日も寝てなかった。現実世界なら死んでいる。リンクさんの肉体でもいい加減休息を入れたかった。
このゲームはなんと空腹や満腹感、眠気なども再現されている。無論ゲームなので無視することは出来るのだが、空腹感、脱力、幻覚などの様々なデメリットが発生する。
俺はクリミアさんやアンジュちゃんからお弁当とか1週間分の食糧を貰っていたし、徒歩で3日の所に隣村があるのでそこで食糧を買い足せと言われていたのだが、いつの間にか通り過ぎてしまったらしく買えなかったのだ。
その結果が、狂おしいほどの空腹感と人面ボールが巨大な豆大福に見えてくるなどの幻覚だった。あと今すぐ寝たい。
だが、俺のゼル伝プレイヤーとしての矜持が安易な道に走ることを許さない。
「あと少し……あと少しなんだ……」
あのツリーハウス、あそこまで行ったら、行ったら……
「お兄さん、だあれ?」
その時舌っ足らずな声が聞こえた。
木の陰から顔だけチョコンと出した少女が目を好奇心と警戒心でいっぱいにして俺の事を見ていた。
緑がかった艶やかな黒い髪をツインテールにしている、4,5歳くらいの女の子だ。
「……ハワード・リンク。君は……誰……」
「わたし? 私はリナリー・リーっていうの」
呼び名 主人公の認識 真実 末路
人面ボール=はぐれたメタル=レベル1 ゴチになります!
やたらと強い敵=はぐれたメタルの王=レベル2 ??
酔っ払いおじさん=世紀末なおじさん=レベル3 アイェエエエ! 身の程をわきまえよ!!
これはひどい(確信