緑の勇者じゃない! それはリンク違いだよ!   作:よもぎだんご

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ゼルダの新作をプレイしてみました。いやー面白れぇぜ。矛盾するかもしれないと不安だった時系列や勇者、賢者に関わる新たな設定とかは特になかったので、続きを投稿します。


第25夜 トラウマ

「いい加減、僕の話を聞けえ!」

 

 アゲハさん(仮)を怒らせてしまった。

 

「僕は金色の虫なんかいらないって言ってんだろ!」

 

 そうだっただろうか、そうだったかもしれない。なにせ大きな財布を貰うためにアゲハさんなら反応するだろうキーワードを片っ端から試していたもんだから……いやあ反省、反省。

 

「まったく、千年公を倒せるくらい強い時の勇者がどんなやつかと思って来てみたら、こんな虫オタクだったなんて、がっかりだよ!」

 

「ちょっと待て」

 

 カンカンになって怒っているところ申し訳ないが、まさか虫さん王国のプリンセス(自称)のアゲハさんに虫オタク呼ばわりされると、こんなにも腹が立つとは思いも寄らなかった。

 

「虫オタクなのは君の方だろう。昔の君は金色の虫が大好きだったじゃないか」

「えっ、そうなの? 」

 

 驚いたような顔をしているが、誤魔化そうったってそうはいかない。君があざとい腹黒娘であることはすでに調査済みだぜ。

 

「そうだよ。昔の君が金色の虫が欲しさに俺に泣きついて、世界中を探させたのは忘れたとは言わせないよ。広いハイラルの中で小さな虫を探し当てるのに、どんだけ苦労したと思っているんだ」

 

 いや、これは本当の話。今作でも前作でも大きい財布のために、虫探しをしたが、そのだるいことだるいこと。空き時間にやっていたとはいえ、リアルで数週間かかったぜ、おい。

 

「そうなんだ……何やってんだよ前世の僕は……い、いや、昔は昔、今は今! 前任者はどうであれ、今の僕は金色の虫なんて興味ないんだよ!」

 

 と、目の前のゴスロリ少女は必死に主張してくる。

 俺にたくさんの虫を押し付けられたのがそんなに嫌だったんだろうか。まあ、たくさんの脚がワキワキと動き回るのは虫嫌いの人には鳥肌が立つくらいいやだろうけど、アゲハさんなら大喜びなはずだ。

 ……ひょっとして、もしかして、彼女はアゲハさんではないのだろうか。

 そう言えば彼女は僕っ子だけど、アゲハさんの一人称は私、あるいはアゲハだ。

 

 でもアゲハさんのキャラは不思議ちゃんなあざとい系腹黒娘、ファッションはゴスロリで、小さな日傘を持っている。

 目の前の彼女はほぼそれを踏襲しているように見える。ここまで完璧な類似……マロンちゃんやクリミアさんの例もある……

 

 じーーーー

 

「な、なんだよ、その目は」

 

「怪しい」

 

 リンクさんの表情も怪訝そうな感じになっています、たぶん。

 

「あ、怪しくないし。今の私はキモイ虫なんて一匹も持ってないし、まして欲しがるなんて……」

 

 その時、彼女の背中から一匹の黒く大きな蝶がひらひらと舞い上がった。紫がかった黒い光を放つ蝶は見方によっては幻想的で美しい。

 

 俺の視線に気づいた彼女は慌てて蝶を捕まえると懐にしまいこんだ。

 

 なるほど、なるほど、そういうことか。

 

「これは違うよ。千年公が作った通信用ゴーレムだから、虫じゃない。ノーカン、ノーカウントだから」

 なにやら彼女が苦しい言い訳をしているが、もう遅い。俺の推理は止まらないZE。

 彼女はさっきこう言った。

 

「今の僕は金色の虫なんて興味ないんだよ」

 

 つまり金色でない虫には興味があるということだ。

 

 彼女の髪を見よ! かつて金髪ツインテールだった髪は、今や黒髪のショートだ。

 彼女の服を見よ! かつて明るい色だったゴスロリドレスは、今やシックでムーデーな黒いゴスロリドレスだ。

 そして彼女の背中から舞い上がったのは金ではなく黒いアゲハチョウ。

 

 これらから導き出される答えは、一つ。

 

 今作の彼女は、金色に輝く虫じゃなくて、黒く輝く虫を集めているんだよ!

 

 俺の脳内で「な、なんだってー!」という合唱が聞こえる。

 

 前作のアゲハさんは虫さんに対してデレデレだったので、今作の彼女はツンデレ僕っ子で行こうということか。茅場さんも中々分かっているじゃないか。いたいけな少年少女に新たな性癖を植え付けることに定評のあるゼル伝製作者の鏡ですね。

 

 あ、そういえば彼女の名前を聞いてなかった。名前を聞くのはコミュニケーションの基本だし、いつまでもアゲハさん(仮)では彼女に失礼だろう。

 

「ところで今更だけど、君の名前は?」

 

 何て名前だろう。アゲハかな、モンシロかな、黒が好きみたいだからカラスアゲハという線も。

 

「ほんと今更だなぁ。……まあ、いいや」

 

 そう言うと彼女はカボチャ頭の傘をステッキのようにして姿勢を正し、胸(無い)をドヤッと張った。彼女なりの決めポーズなんだろうか。

 

「僕はロード・キャメロット。君も知っての通り、夢を司るノアの長子さ」

 

 ……名前、全然違った。まさかどこかのバックのブランド品みたいな名前だったとは。

 それにしても前作は自称プリンセス(姫君)で、今作はロード(君主)、キャメロット(アーサー王が築いた都の名前)かあ。

 自称虫さん王国のお姫様の次は自称アーサー王とは、この電波っぷりはやっぱりアゲハさんの系譜に連なる人物だな(確信)。

 

 ところで知っての通りと言われたんだが、夢を司るノアの長子ってなんだろう。他にも彼女みたいな人がいるんだろうか。

 やっぱり本来ありえない出会いだから、本来あるべき夢のノアの長子とは何かということを説明するイベントをすっとばしてしまったんだろうか。まあこの僕っ子は中々面白そうな人だし、あとでイベントを探してみようと思う。

 

「ロード・キャメロット、キャメロットの主、つまりアーサー王か。うん、洒落てていい名前だね」

 

「それはどうもありがとう」

 

 とりあえずここは名前の件を話して、話を合わせておこう。彼女の正体については出来れば使いたくはないが、ファイ先生やウィッキー先生に頼るって手段もある。しかし俺がなけなしのアーサー王知識で褒めたのに、この子ったら硬い表情のまま眉一つ動かさねえ。ツンデレはこれだから。

 

「それで、そのロード・キャメロットさんは何しに来たの?」

 

 ほんとそれ。こんなデバック空間くんだりまで何しに来たんだろうか。やはり虫か、虫なのか。でも漆黒に輝く虫なんて、俺持ってないぞ。冷蔵庫とかの下とかにいる、名前を呼んではいけない漆黒に輝く虫でいいなら探してくるけど。

 

 俺の問いが何かのトリガーだったかのように、彼女は笑みを浮かべた。小さな子が蟻の行列にファブリーズをかけて、フェロモンで動いている蟻たちがどうなるかを観察する時のような無邪気で嗜虐的な笑みであった(体験談)。

 

「君で遊びに来たんだよ、勇者君」

 

 うん? なんか今の発言おかしくなかったか? 聞き間違いかな。

 

「そうか、俺“と”遊びに来たのか」

「うん、君“で”遊びに来たの」

 

 聞き間違いじゃなかった!

 そうかそうかそうだったのか、あっはっはと笑い合う俺たち。笑ってる場合じゃねえ!

 でも、笑う以外どうしようもねえ!

 やっぱりこの少女、ロード・キャメロットはどこかおかしい。

 真っ暗の中に光るテディベアが浮かぶバグった空間、見方を変えればホラーでしかない空間でこんなことを言い出すとか、ホラーにしかなりえない。

 

 ゼル伝はなあ、ちょくちょくホラーをぶっこんでくるからなあ。いったいいくつのトラウマが俺に刻みこまれたことか。

 時オカで一番平和な村(当社比)であるカカリコ村に限っても、一見平和そうな村の中にある怨霊だらけの井戸の底とか、呪いで人面蜘蛛「スタルチュラ」に変えられて呻き声を上げる人々の館とか、禁断の森に入って「みーんなスタルフォス」に変えられてしまった男の人とか、村のすぐ後ろにあるハイラル王家の墓地には皆のトラウマ「リーデッド」が湧いていたりとか、そのすぐ後ろにある血に染まった拷問道具と幽霊だらけの闇の神殿とか、ホラー要素満載である。

 その続編であり、トラウマ量産ゲーとして名高いムジュラの仮面とかね、もうね。

 

 まあ、一番性質が悪いのはそこまでトラウマを量産しながら、やめられないくらいゼル伝が面白いことなんだけどね。やめられない、とまらない、かーっぱえび〇んなんだよ。

 

 でも、マロンちゃんの前世っぽい存在であるマリンちゃんをエンディングで海のモズクにしたり、並行世界のマロンちゃんらしいロマニーちゃんを謎の幽霊に誘拐させて精神崩壊させるイベントは絶許。ゼル伝スタッフはマロンちゃんに何か恨みでもあるのか。このゲームでも何が起こるか分からんので、胸糞イベントはバグ技を使ってでも絶対に阻止する所存である。

 

「夢のノアとしてはさあ、興味があるんだよねえ」

「なにがだい」

 

 そんなことを考えていると、目の前の少女は年に似合わぬ蠱惑的な笑みを浮かべていた。お、これは……?

 

「時の勇者ってさあ、時を超えて魂を転生させながらもう一万年以上も戦ってるんでしょお? だからさぁ、君がどんなに鋼の魂だとしてもぉ溜め込んでると思うんだよねぇ」

 

 お、おいさっきから夢とか溜め込んでるとか、まさかフロイト的な精神分析(意味深)じゃないだろうな。ホラーも駄目だが、エロも駄目だぞ。

 つーか、俺たち、じゃなくてリンクさんはもう一万年以上戦ってんのか……ぱねえ。

 

 そんなことを考える俺の前で、花も恥じらう少女の笑顔がニヤァとサディスト染みた凶悪な笑顔に変わる。

 

「決して消えないトラウマってやつをさ」

 

 あ、やっぱりホラー展開なのね。

 

 いや、アゲハさん系統っつうか、ゼル伝にちょっと頭がおかしい人が出るのは今更か。無邪気な顔して腹黒いのも今に始まったことじゃないし、ここは腹を括って鬱イベントを見よう。

 夢島で泥棒した時にくらう死ね死ねビームみたいな即死イベントじゃないといいんだが……

 

 

 

 

 

 

 それからあとのことはよく覚えていない。

 気がついたら風船みたいな体型のおっさんが背中に気絶したロードと黒猫を担いで、空の割れ目みたいな所に落ちていくところだった。俺の後ろではアニタさんとゲルド族の皆々様が、変な目で俺を見てるし……どういう状況だ、これ?




トアル村編を入れたら見づらかったので今回は主人公視点に統一。そしたらちょっと短すぎたのでゼル伝解説をば

頭のおかしい人たち
劇中でも言っているが、いい人や可愛い人ユーモアあふれる人が多いゼル伝では、一作に必ず一人以上、頭がおかしい人や演出が登場する。それは最新作でも相変わらずで、ダンジョンの周囲を勝手に花壇に変えた挙げ句、花を踏むと発狂して襲いかかってくるイベントを持つ糞BABAがいる。夢島の店主もそうだが、こういう奴に限って殺〇したり、湖の底に沈めたりする手段がない。ロードのサディスト発言に対する主人公の反応が大したことないのもある種の慣れ。

次回はシリアス回(予定)です

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