緑の勇者じゃない! それはリンク違いだよ! 作:よもぎだんご
あまりの温もりに、作者は泣きそうになってしまいました。もう嬉しくて、嬉しくて。
思ったより長くなってしまったので、分割。
後半は大体出来ていますから、近いうちにアップできると思います。
『精神と肉体、霊魂の再結合に成功。おはようございます、マスター』
このゲームを久しぶりに始めた俺を迎えたのは、マスターソードの精霊ことファイさんだった。
俺の片手で数えられる程数少ない友達の入退院とか、「来ちゃった☆(公安さんが)」とか、その他諸々あって暫くぶりのゲームなのだ。
なんか前回より大部目線高いなあ、と思ったらなんか体が成長していた。メニュー画面によるとリンクさんは現在十歳のようだ。
いつの間にか三年経っていることになるが、時のオカリナみたいに世界が滅んでいる訳でも無し、別に良いだろう。
このゲームは俺がプレイしていない時も、ゲームの中では時を刻んでいるらしい。
別にそれ自体は新しいシステムではないが、ゼル伝に限って言えば珍しい。
俺達はマスターソードに眠る『世界の最期に現れる王』の封印を強化するため、各地の賢者を目覚めさせる旅路の途中だった。
まぁそれは表向きの理由でホントは、なんとしてもマスターソードを使わせまいとする(そうとしか思えない)茅場さんと、なんとかしてマスターソードを使ってみたい俺の意地と情熱のぶつけあいの旅路である。
『マスター、賢者の子孫の反応はこのまま東です』
彼女の導きに従い、俺は平原を越え山を越え、また平原を越え、道なき道を東へ東へと緑の風のように走り続けた。まるでメロスだ。雄大な景色の中をリンクとして走るのは実に楽しい。
『マスター、賢者の子孫の反応はこの中です』
そして俺は目的地にたどりついた、のたが……
「なん、だと……」
上手く声が出ない。
それは余りにも予想外過ぎた。奇襲と言ってもいい。
それは俺の長年の勇者経験でも希少なタイプ。いや、正直もう滅んだと思っていた。
油断していたんだ。
だって……だって、まさか記念すべき初ダンジョンが……まさか、
「天青楼……娼館だと……」
エロダンジョンだったなんて!
『マスター、突入しますか』
ああ
はい!
YES!
クラァーー(風タクの赤シャチ風味)!!
なんで肯定しか選択肢がねえんだよ!
いや、賢者さんは特別な方法以外で子作りしちゃうと問答無用で賢者の資格が次世代に行っちゃうらしいから、現在進行系でピンチと言えなくもないけど、あらぬ誤解を招くだろうが!
久しぶりに脳内選択肢が出てきたと思ったら、コレだよ!
あっ、言っておくけど、リンクさんは将来大事な仲間になるだろう賢者さんの危機に対して義憤に駆られて、やる気満々になっているだけだから、そこん所は誤解しないでほしい。お兄さんとの約束だ。
「ああ」
『イエスマスター。まずは侵入経路と方法を検討することを推奨します』
思考と行動が一致していないとか突っ込まれそうだが、さっさと脳内選択肢には答えないと選択肢が融合してとんでもないセリフになるのはルベリエさん罵倒事件で身に染みている。故に速やかに処理したまでだ、他意はない。
というか、こんなところダンジョンにして大丈夫なのか、茅野さん。
CER○とか、教育○員会とか、その他諸々に喧嘩売ってないか。
たぶんFF7以来だぞ。大手が作った大ヒットゲームでこういうお店をダンジョンにしちゃったの。
因みに同じ金髪剣士だからって女装はしない! しないぞ!
某雲さんはたった一度の女装のせいでさんざんネタにされ続けている。同じ轍を踏むつもりはない。だいたい野郎の女装とか、誰得だ。
それにしても、どうしたものか
俺がいるのは天青楼の正面。
今は昼前だから、きらびやかに飾り付けられた中華風の御殿は割と閑散としている。
赤い柱に囲まれた大きな門を門番が二人、その奥の扉も二人、欠伸しながら守っているだけだ。
今なら正面突破できそうな気も、しないでもない。
しかし例え潜入出来ても、賢者さんと一緒に脱出できなくては意味がない。
ぐるりと店の周囲をまわり、入り安い所、脱出に適した所はないか観察する。
その結果判ったのは、天青楼はこの街のほぼ中心に位置し、敷地を白い石の壁で囲んでいるということ。
天青楼自体は四階建て。外壁はつるつるしていてとっかかりがなく、二階建ての家くらいの高さだ。子供の体ではよじ登れそうにない。
外部とのつながりはきらびやかな正門と地味な裏門のみ。
突入自体はまあ、リンクさんの身体能力によるごり押しでもなんとか出来そうだが、問題は脱出。
ボスを倒すと出てくるダンジョン脱出用の謎のひかりが有ればいいんだが、それがないと賢者さんを守りながらの逃避行は困難だろう。
「いっそ、空でも飛べたらな……。ミミちゃんやコッコさんがいれば……」
前回ドラゴンガール・ミミちゃんを仲間に出来なかったのがここにきて痛い。
爆弾やデクの葉、ペガサスブーツやホバーブーツなど空中を移動出来るアイテムを何一つ持っていないのも、致命的だった。
「現状では正面突破しかないか」
なんだかんだ言ったが、物は試し。やってみなくてはわからない。
作戦無し大作戦、行くぞおー!
「手強い……」
その夜、俺は未だに天青楼に侵入出来ずにいた。
端から見れば娼館に入るか入らないかさんざん迷った挙げ句に入ろうとするマセガキである、というのが先ず俺の心を折りかけた。
「ガキはお断りだよ」と言う門番の生暖かい視線が痛かった。
そういうのではない。会わなくてはならない、助けなくてはならない人がいるのだ、通して欲しいと一生懸命説明すると生暖かい視線は厄介者を見る視線になった。
挙げ句「お前の姉ちゃんが売られたのはきちんとした商取引で……」と説教されたり、なじられたり、堪忍袋が切れたのか罵声を浴びせかけられた。
だがこの理不尽に俺の堪忍袋も切れた。
なんでゲームで、しかも娼館の門番ごときに説教された挙げ句、罵倒されなあかんねん。絞め殺すぞ、ワレ。
って似非関西弁になるレベルでプッツンしました。
さすがに絞め殺したり、切り捨てご免! するのは寝覚めが悪いので、リンクさん自慢の身体能力で門番の下を潜り抜け、店の扉を開けた。
だがその時そいつは、マホジャ=サンは現れた。
一言で言うのならスタイリッシュなツキノワグマだろうか。
胸の膨らみから女性と推測されるが、二メートル越えの身長、並々ならぬその筋肉は修羅を思わせる。
つーか、アイツは絶対モンスターかニンジャの類だ。
まだ十歳位の体とはいえリンクさんの脚力で首に蹴りを入れたのに、笑って反撃してきやがった。
顔自体は不細工ではないのだが、それはスキンヘッドかつ殺気だった表情を際立たせるだけだった。
兎の黒い毛皮を肩にかけ、鉄棒を片手に仁王立ちする、その姿は完全に山賊の親分(バーサーカー)であった。
しかもその戦闘は店の壁や天井、鉄棒、俺の剣や盾すら足場にしての高機動戦闘。
拳を盾で防いでも、その衝撃で大きくぶっ飛ばされた。
大口径の銃撃さえ跳ね返せる盾なんだが。
拳を縦にしたカンフー、いやリアルマジカル八極拳と言うべき武術と、彼女の部下からの銃撃もあり、俺はデクの実フラッシュを使った撤退を余儀なくされた。
「まあ、収穫が無かったわけじゃないしな」
俺は手の平の上の白い羽を弄びながら呟いた。
これについてはファイさんが『お任せ下さい』と言っていたので任せてある。
「どう、ファイさん?」
『作業の終了まで54分47秒です、マスター』
「オッケー」
『時間がかかってしまい申し訳ありません、マスター』
ファイさんの言葉は淡々としているが、どこか申し訳無さげだ。
ファイさんは現在マスターソードではない剣に憑依していることと、マスターソードに力を送る賢者がいないこと、封印されし者に内側から蝕まれていることで、全盛期の1割以下の力しかない。
「なんの、やってくれて助かっているよ」
『そう言っていただけて幸いです』
俺の仕事はなんとかしてマホジャ=サンに見つからないようにする方法を考えることだ。
マホジャさんは恐らく今作のインパさんポジションなのだろう、きっと。
そうじゃないと、あの人間離れした強さに説明がつかない。
ファイさんによるとマホジャさんは賢者の力を纏って肉体を強化しているらしい 。
でも彼女は賢者でも、逆にモンスターでもないそうだ。
つまり、どういうことだってばよ?
天青楼から少し離れた船着き場をうろうろと歩きながら彼女の攻略法を考える。
あれ、ちょっと待て。
インパポジションが天青楼にいるということは……
今作のゼルダは娼館にいる、のか?
不味い。「くっ、殺しなさい!」展開はまずい。それはとても、マズイ。マズイ、マズイ、マズイ。
最悪天青楼は後回しという選択肢もあったのだが、それは完全になくなった。
賢者さんが、ゼルダが中に居るんじゃ俺に選択肢はないに等しい。
「強引にでも、行くしかないか……!」
俺は悲壮感すら漂わせながら、大人の館に突撃しようとして、
「イヤッハーー!! やっと着いたぜ」
ポンポン船の蒸気の上がる音と共に、聞き覚えの有りすぎるダミ声が聞こえた。
思わず振り返り……何故か専用BGMが聞こえてきた。
たった今着いたばかりの白い蒸気船から降りてきた、裾の長い青い服のちょび髭男。
背は高いが胴長短足。目には隈、無精髭、ボサボサの黒い髪。
夢幻の砂時計でのリンクの相棒であり、シリーズ初の人間の相棒キャラクターでもある、愛すべき伝説の船乗り(自称)。
(ラインバック、ラインバックじゃないか!!)
ちなみに『イヤッハーー!!』はラインバックの口癖であり、冒険中に何回も聞ける。
さらに無駄に勇ましい専用のBGMまであり、口癖と共に続編のラインバック3世に受け継がれていた。
続編では「イヤッハーー!!」にはボイスまでついている。スタッフにも愛されているおっちゃんだ。
懐かしさでいっぱいになった俺は、早速彼に話しかけようとしたが、この一声をきいて再び固まった。
「こっちの樽と箱は天青楼って所に運んでくれ。街の真ん中だ。こっちは湖月堂に、こっちは……」
樽が! 天青楼に!
天青楼の裏口に向かうラインバックと荷運びのお兄さんたちを、俺はこっそりと追う。
作戦は決まった。風タクの魔獣島で使ったアレだ。
だが、常に荷運び男が集団で複数の樽を担いでいて樽に入れない。
デクの実では前方の狭い範囲しか硬直させられないのだ。
その上、裏門前にいる毒見係りの男も邪魔だ。なんとかして樽に入っても中身を確かめられたらバレちまう。
『マスター、いかがしますか』
「まだだ。このまま待つ」
『イエスマスター。ファイは与えられた任務を継続します』
俺たちは建物の陰でじっと機会を待ち続ける。
裏門でラインバックとマホジャ=サンが会話をし始めるというアクシデントもあったが、隠れてなんとかやり過ごす。
そしてその時は訪れた。
歴代相棒きってのビビりであるラインバックが、マホジャ=サンの女子とは思えない野獣染みた迫力に耐えられるはずもなく、仕事を理由に逃げ出してきた。
ラインバックは樽に近づき、自分もやると言っている。荷運び男たちは頷いて別の樽を持って裏門に向かった。
(今だ!)
ラインバック一人になった所を見計らって、こっそり素早く近づく。無論、後ろ向きだ。
『お兄さん、お兄さん』
俺が袖を引いてファイさんが声をかけた。
女の子に弱いラインバックが振り返った所でデクの実フラッシュ!
「ごめんよ、ラインバック。後で謝るから」
ラインバックが麻痺硬直している間にさっさと作業を済ませなくては。
まずは剣で樽の蓋をこじ開ける。
次に濃厚なアルコールと葡萄の臭いにむせかえりそうになりながら、中身のワインを空きビンで掬う。
我らが空きビン先生は質量保存の法則をガン無視して、一掬いで樽いっぱいのワインが牛乳瓶に入ってしまった。
デク姫様(1メートル越え)やゾーラ族の卵(人の顔位)を平然と容れたり出したり出来るのだ。
出来るだろうと踏んでいたが、さすがにこれには俺も呆れた。
やっぱり、リアルになってもゼル伝はゼル伝だよなあ。
そんなこんなで樽に潜り込み、蓋をしめる。
ここまでくればもう安心と。
暗い樽の中でじっとしていると、いきなり樽ごと横にされる。
あ、運ばれるなあと思ったが、外の人は予想を裏切ってガンガン樽を叩きだした。
なんなんだよ、音が反響してスゲーうるせえ!
『マスター、毒見係です』
うげっ、ヤバい。入った後のことを考えてなかったです。
そうこうする内に、樽の中に細い光の束が入ってくる。
あらかじめ樽に小さい穴を空けておき、普段は栓をしておいて毒見や瓶に注ぐ時に使うのだろう。
俺はどうする、どうしたらいい、どうしちゃうのよ!?
……とでも言うと思ったか!
ヴァカめ! 残像だ!
俺はいまだ手に持っていたワイン入りのビンを穴にさっとあてがい、優しく傾ける。
「うむ、毒はない。味もよし。ロマネコンティに間違いない」
そら、そうだ。貴方が飲んだのはそのロマネなんたらでしょう。
中にいるのは俺だけどな!
そしてその後は予定調和。
酒樽は酒蔵へ。
俺も勿論酒蔵へ。
だが物事に予定外は付き物だ。
『マスター、賢者の魂を感じます』
な、なぬ!?
どこ!? ファイさんは見える!? 俺、見えない!
『イエスマスター、彼女の姿を記録しました』
彼女!?
やっぱりゼルダ!? ゼルダなのかー!?
『マスター、心をお鎮め下さい。あと付近から人の気配がなくなりました』
「やっと行ったか」
あー酒臭かった。ではちょっと失礼して……
「待たせたな……!!」
すかさずスネ○クのセリフと共に、樽を挙げた俺だった。
前回の視点は船乗りラインバックだったんだよ!