緑の勇者じゃない! それはリンク違いだよ!   作:よもぎだんご

15 / 32
昼休みにこっそり投稿。


新たな力(役に立つとは言っていない)

 ついに目の前に現れた宝箱。

 期待に胸を膨らませていた俺が手に入れたのは鋼鉄で出来た靴「アイアンブーツ」だった……

 

 

 ふざけんなよ、茅場!

 

 アイアンブーツってお前、水中でも探索しろって言うのかよ!

 

 それとも火山地帯の磁石壁に張り付けとでも言う気か! 

 

 こちとら耐水装備も耐熱装備も何一つ持ってねえ。今のまま水の底や火山に潜ったら、一発で死ぬわ!

 

 火山や水中で耐性装備なしで一定時間経つと一発死っていうのはゼル伝の伝統なんだよ!

 

 さんざん人の期待をあおっておいてこれか、と俺が内心で怒り狂っていると、アリアさんがおずおずと声をかけてきた。

 

「……も、もしかして気に入らなかった?」

 

 その怯えたような声にハッと我に返った。体内の熱が急速に冷えていく。

 

 何やっているんだ、俺。

 

 アリアさんは先祖代々受け継がれてきた宝を俺にくれるっていうのに、その態度はなんだ。

 

 確かに予想とは違ったが、アイアンブーツだって立派なアイテム。立派な勇者の遺産。

 

 例え現状では役立たずでも、いずれ使う日がきっと来るはずだ。ならば俺のすべきことは一つ。

 

「いいえ、ありがとうございます。確かに勇者の遺産を頂戴しました」

 

 俺が謝罪と感謝の念を込めて頭を下げると、アリアさんはあからさまにホッとした様子で息を吐いた。

 

「よかったぁ。森の賢者になれなかった上に、遺産の管理にまで失敗してたらどうしようって思っちゃった……」

 

 あ、そういえばアリアさんは自分が受け継いできた賢者の役割を果たせなかったことを無茶苦茶気にしていたんだっけ。

 

 じ、自責の念がやべえ。どうしよう、これじゃあ余った弓矢かパチンコをくださいなんて言えねえよ。

 

 わ、話題を切り変えないと。

 

「それはそうとアリアさんたちは森の賢者の一族なんですよね」

 

「ええ、そうよ。……もっとも私はお役目を果たせなかった駄目賢者ですけど……。あ、賢者になれなかったんだから駄目賢者じゃないですね、ただの駄目女ですね、ハハッ」

 

 やべえ、全然話題が切り変わらねえ! 

 

 アリアさんの目に光が宿ってないし。地雷を踏んじまった感ががががが。

 

「他の賢者の一族について、何かご存じありませんか」

 

 そんな俺の内心の焦りを微塵も感じさせずに、滑らかに話すリンクさん。俺だけならどもっちゃうと思うから正直助かるぜ。

 

「……そうね。言い伝えでは7人の賢者はハイラル各地から、その土地の力を最も強く受け継いだ者が選出されたとあるわ。だから他の土地の民族を探し行けば……」

 

「自ずと賢者に会えるかもしれない、と?」

 

「ええ。例えばゴロン族は火山帯に、ゾーラ族は水のきれいな川や海に住んでいるはずよ」

 

「ちなみにゴロン族やゾーラ族の居る火山とか川の場所は……」

 

「ごめんなさい。そこまでは分からないわ」

 

 ゼルダの伝説では7賢者は全員ハイリア人である場合(神トラや4剣)や、ほとんど全員が違う種族(時のオカリナ)、生き物であるかも不明(トワプリ)など作品によって様々だ。

 

 例えば時のオカリナにおいて賢者は、光(種族不明)森(コキリ族)、炎(ゴロン族)、水(ゾーラ族)、闇(シーカー族)、魂(ゲルド族)、時(ハイリア人)の7人だった。

 

 あの時もハイラル中を端から端まで駆け回って、賢者を探し回ったが、どうやら今回も同じことをしなければならないようだ。

 

 しかも今回はゲーム技術が格段に進化したことにより、フィールドはよりリアルかつ巨大なものになっている。

 

 時のオカリナでは、ロンロン牧場からコキリの森の里(おそらく過去のトアル村)まで南東に半日位しか掛からなかったが、今回は10日もかかっている。

 

 フィールドはざっと20倍は広がったと思っていい。

 

 ちなみに時のオカリナではロンロン牧場を中心に、ハイラル城が北、シーカー族の立てたカカリコ村とゴロン族の住む火山は北北東、ゾーラの里は北東、ゲルドの谷は西、となっていた。

 

 まあ、全部が全部過去作の通りとは限らない。民族の移動とかがあるかもしれないので、あくまで参考になる程度だ。

 

 

 でもトアル村で情報を集めて何も見つからなかったら、とりあえず北東に行ってみようかな。

 

 

 ゴロン族の住むだろう火山もゾーラ族の里もシーカー族の村もみんなコキリの里から北東にあるし。俺の推測が正しければ、そのどれかがあるかもしれない。

 

 

 

 一夜明けて、結局俺とファイさんは北東に向かうことになった。

 

 

 トアル村は中世的世界観にありがちな閉鎖的農村で、半年に一回行商人と役人が立ち寄る程度。あとはごくまれに巡礼者が来るくらいだ。

 

 村人は、はっきり言って村の外について碌な情報を持っていなかった。

 

 おまけに村唯一の道具屋、というより雑貨屋でも弓どころかパチンコすら売ってねえ。あるのは鍬やスコップなど農作業の道具ばかりだ。

 

 歴史学者のロックさんだけはまともな情報を持っていたが、オタク気質な研究者にありがちなことに自分の興味のあることしか覚えていない。彼にハイラルの伝承をいくつか教えてもらったが、特に真新しいものはなかった。この世界は時のオカリナの後の時代なのでは、という予想が深まっただけだ。

 

 賢者の末裔であるアリアさんにもマスターソードに封印されている者の正確な名前は分からず、世界の最期に復活する王らしいということしか知らないみたいだ。

 

 これだけではガノンドロフかグフーか、それとも全然別のキャラなのか分からない。

 

 

 困り果てた俺がファイさんに相談した所、東に賢者の素質を持つ者の存在を感じるとのこと。

 

 力が弱っているせいで東、しかも遠くにいることしか分からないと申し訳なさそうに言ってくれたが、それだけ分かれば十分だ。

 

 近くに行けばよりはっきりと賢者の存在を感じ取れるそうなので、通り過ぎてしまう心配もない。

 

 やっぱり持つべきものは頼りになる相棒だぜ!

 

 もっと遊ぼうって言うリナリーや村の子供たちの誘いを断り、融通してもらった食糧と飲料をインベントリに詰め込む。

 トアルかぼちゃやトアル山羊の乳、山羊ミルクのチーズにパン、山羊肉、河魚、果物、はちみつ、はちのこ、毒針を抜いたスズメバチの蜂蜜漬け、すべて新鮮な山の幸である。ラスト二つは正直食べたくないけどな。

 

 次々と懐に消えていく食糧にリナリーちゃんを始めとする村人たちは不思議そうな顔で首をかしげていたが、勇者に伝わる魔法ということでごまかした。

 

 うん、嘘は言っていない。インベントリは歴代勇者がみんなやっていることだ。

 

 だからロックさんもアリアさんも鼻息荒く近づいてこないでください。色々質問しないでください、魔術とか知らないよ。ご両親の姿にリナリーちゃんも村の人も引いているよ。

 

 お世話になった人たちにお礼をし、遠慮する彼らに半ば強引にお金を払う。

 

 あとはリナリー一家にお別れを言って、出発だ。

 

「ごはんはちゃんと食べないとダメだよ」

「りょーかい。リナリーも賢者の修行がんばってね」

「……うん」

 

 リナリー元気ないなあ。やっぱり賢者になりたくないのかな。よし、ここはお兄さんが一肌脱ぎますか。

 

「リナリーは空は好き?」

「え? 好きだけど……」

 

 リナリーは空と賢者になんの関係があるのか分らず、きょとんとしている。

 

「賢者になれれば、君は自由に空を飛べるかもしれない」

「空を……自由に」

 

 空を自由に飛ぶって、人間共通の夢だと思うんだ。某どら○もんの歌にもあるし。リナリーも空を見上げながら、空想の翼を広げているようだ。空を飛ぶ自分を想像しているんだろう。

 

「言い伝えでは賢者は妖精に変身して、空を飛べたらしいよ。他にも遠くの人とお話しできたり、身を守る障壁を張ったり……」

 

 作品にもよるが、俺の言っていることはおおむね事実である。

 

 小学校時代、友人と一緒に遊びまくった4つの剣+でも賢者は妖精に変身して空を飛んでたし、念話もバリアも可能だった。

 

「賢者の修行を頑張る気になったかな?」

「うん! 私もしゅぎょうがんばってみる。リンクもゆうしゃがんばってね」

「ああ。何かあったらオカリナで連絡して欲しい。すぐ行くから」

 

 リナリーに妖精のオカリナを手渡し、サリアの歌の効果と演奏法を教える。幼いリナリーだけでは不安なので、さっきまで少し離れてこっちを微笑ましそうに見ていたロックさんとアリアさんにも教えといた。

 

 案の定根掘り葉掘り聞かれたが、妖精の力が宿るオカリナを通して会話できる、みたいに適当にごまかしておいた。その辺の詳しい理屈は分からないし。

 

 多分、リナリーが大きくなる前にこのゲームは終わると思うから、リナリーが頑張る必要はあまりないかもしれない。

 

 でも将来賢者になれれば、その力で身を守ったり、空を飛んだりできるだろうし、覚えておいて損はないはずだ。

 

「じゃ、行きますか」

「イエスマスター。ファイはいつまでもマスターとともに」

 

 出発だ。

 

 

 

 リナリーサイド

 

 

 行っちゃった。

 

 リンク。森で倒れていた不思議な男の子。伝説の勇者と同じ格好をしていて、青い目が一度だけ森で見た狼みたいに鋭く、どこまでも澄んでいたのが印象に残っている。

 

 村にいる同じ年頃の男子たちみたいに無意味に走り回ったり、騒いだりしない。でも暗いわけじゃなくて、みんなの知らないトアル村の外の話をニコニコしながら面白おかしく話してくれた。

 

 その笑顔は私たちが友達に向ける笑顔じゃなくて、お父さんやコムイ兄さんが私と話すときに見せる包み込むような笑顔。

 

 私と2つしか違わないのに、すごく大人っぽい男の子、というのが私の印象だった。

 

 お母さんとお父さんは、リンクは時の勇者になる定めを持つ少年だと言っていた。やっぱり勇者になるには大人じゃなきゃならないんだろうか。

 

 崖にかけられた1kmの綱を渡りきる勇気の試練をあっさり突破したリンクを見て、ずっと前にお母さんに訊いた言葉がよみがえる。

 

「お父さん、勇者ってなんだろう」

「それはね、勇気のある者のことだよ」

 

 私が小さいころからお父さんやお母さんが話してくれた、時の勇者の物語。時を超えて現れる、緑の勇者の伝説。

 

 さらわれた王女様を助けるために、マスターソードを手に魔王に立ち向かう時の勇者。7人の賢者の力を借りて魔王を封じ込めた時の勇者は王女様や賢者たちと一緒に末永く、幸せに暮らしましたとさ。

 

 まさか私の家が賢者の一族で、しかも伝説の聖剣を護っているとは思いもよらず、すっごくびっくりしたけど。長い綱を素早く安全に渡る練習を何度もしていたのはマスターソードを護るためだったのだ。

 

 

 リンクとマスターソードから出てきたファイさん(彼女が出てきた時は私だけじゃなくお父さんとお母さんもびっくりしていた)は、マスターソードを取りにまた来ると言っていた。

 

 リンクが私以外の9人の賢者と3つの炎、そして女神様を見つけるのに何年かかるか分からない。

 

 でも遠からず復活してしまうだろう世界の最期に現れる王を倒すためにも、賢者になれなかったお母さんの夢を叶えるためにも、私が賢者になることは必要だ。

 

 そう力みながらも、皆からの期待と責任に押しつぶされそうになっていた私を見かねたのだろう。リンクは笑って空は好きかと言った。

 

 質問の意図が分からず困惑しながらも正直に答える私に、彼は賢者になれば妖精に変身して空を飛べることを教えてくれた。

 

 秋や冬の澄んだ青空、たなびく雲、朝焼けや夕焼けににじむ空。そこを翼を使って自由に飛べる。その空想に私の心は羽が生えたかのように軽くなっていった。

 

 修行を頑張る気になったかと問う、彼の言葉に私は笑顔で返事ができた。

 

 それを見た彼は笑って私に妖精のオカリナという遠くの人と話の出来るオカリナをくれた。吹き方を私たちに丁寧に教えると、振り返りもせず、彼は門を出て村から遠ざかって行く。

 

 ……進行方向に背を向けたまま。

 

 トアル村でも彼はああやって後ろ歩きしていたし、どうして人や物にぶつかったり、躓いたりしないのかとても疑問だったが、「勇者には必須技能」だと教えてくれたのできっとそうなのだろう。

 

 勇者は後ろに目がついているんだろうか。でも私たちが手を振ると振り返してくれたし。

 

「お父さん、勇者ってなんだろう……」

「それはね、決して振り返らない者のことだよ……」

 

 

 




まだ行ける、まだ大丈夫と自分を騙しながら、更新してきましたが断腸の思いで決断しました。
拙作を楽しみにしてくださっている読者の方には大変申し訳ないのですが、作品の更新をしばらく休止させていただきます。
予想以上に急激に増やされてしまったリアルの方の仕事の多さに限界を感じまして。

Dグレもカンピもせっかく世界観やキャラクター設定、プロットを作ったのに、せっかくランキングにも乗って、色んな人が読んでくれたのにと口惜しいばかりです。

ただよもぎだんご氏にエタるつもりはありません。
来年の3月以降ならば、執筆の時間が取れると思われますので、よろしければまた読みに来てください。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。