―WILLの船体が相模湾に姿を表してから1時間後には、帝都を含む日本帝国は蜂の巣をつついたような状況になっていた。
様々な憶測が飛び交うなかで有力なのは新種BETA&新ハイヴ説、某国の新兵器説等など完全に混乱の坩堝と化していた。
このような状況の中、日本帝国内閣総理大臣の榊 是親を筆頭とした政府は帝国本土防衛軍から帝都防衛第一師団の第一戦術機甲連隊を臨時に抽出し、海上砲撃支援として横須賀基地の帝国連合艦隊第一戦隊(戦艦紀伊・尾張・出雲)を緊急配置し、後詰として城内省に斯衛軍の派遣を依頼することも合わせて決定した。
今回配置する部隊には、突然現れた構造物(WILL)を遠巻きに監視することを任務とし、直接攻撃はBETAが確認できてからと厳命されていた。
また、相模湾のWILL対して三浦半島を挟んで接している国連軍横浜基地でもデフコン2が発令されており、状況の推移次第では出撃を依頼する準備が進んでいた。
本来の対応としては、カナダのアサバスカへ落着した着陸ユニットに対する米国の対応のように砲撃等で破壊することが望ましかったが、主な経緯の1つには、半年前に行われた【明星作戦】で損耗した戦力が回復しきっておらず、奇しくも西日本のBETA駆逐作戦と佐渡島ハイヴ警戒任務に戦力の大部分が割かれており、即応可能な部隊をほぼ全軍当てている状態であったからである。
2つめの経緯として、構造物の形状及び落着地点がBETAのそれとはあまりにもかけ離れているためである。形状については、過去にカシュガルとアサバスカに落着した着陸ユニットに対して明らかに巨大(WILLの全長は32.5km)且つ人工物のようなデザインであること、落着地点については海上に突然現れたにも関わらず、津波等の災害が一切発生しなかったため、通常の落着方法とは明らかに異なっていることが対応を慎重にさせた。
政府の対応検討会議では、BETAとは別起源の異星起源種ではないかとの憶測まで飛び交っていた。(この憶測はある意味で正鵠を射ていたが、この時点では誰もが其れはないと考えていた。)
そんな状態の日本国土をWILLから監視しているアトロポスがおもむろに声をかける。
「ところでどのようにして現地人とコンタクトを取りますか?」
「そうだなぁ。権力者に手紙を渡そうにも居場所を知らないし、突然来た手紙を本気にするとは思わんよな~。」
「……まさか、コンタクト方法を考えてなかったのですか?降下前にはコンタクトがどうとか言われていたのですが?」
やべ!
「い、いやカンガエテイマスヨ」
「そうですか?では次のご指示をお願いいたします。」
「う~ん。」
さて、どうしたものか。こちらには交戦の意思はないし、この場所を間借りさせてもらえれば、正直この星のパワーバランスがどうなろうと知ったことではないんだが。相手するのもめんどくさいしな~。
「マスター。さてはめんどくさいって考えてません?」
ギク。鋭い。
「それに、対岸の様子を見るに、こちらにいきなり砲撃してくるような事はなさそうですが、あの人型ロボットみたいなものや水上戦艦がしっかりこっちを監視していますから、あんまり悠長にしていると敵対的な態度で乗り込んでくるかもしれませんよ?」
むぅ。人の船に土足で入り込む輩は鬱陶しいな。さっさと穏便に済ませる方法を検討しないと不味いか。
「監視している水上艦の航行状況や兵装から見ると技術はこちらよりも劣っていることはわかりますが、やけくそになってどんな隠し球を使ってくるかは予想しかねますからね。」
やめてぇ!俺のライフはもうゼロよ!
「アトロポス、確認だが現地言語の文章化は可能なんだよな?」
「一般用語であれば誤字なく変換できます。」
「よし、看板を立てよう。それも大きな奴。」
「看板ですか?」
「気球にくくりつけて対岸からも見えるくらい大きな奴をさ。話し合いがしたいから準備してくれって感じで。」
「わかりました。それでは地上を調べた段階でこの地方で最も多く使われている文字を使用して大型アドバルーンを作成致します。」
「夜になっても見えるように電飾もよろしく!あと、間違っても色だけの旗は使わないようにな~。」
旗の色に宣戦布告や降伏なんかの意味があったら誤解を招きかねないからな。特にファーストコンタクトでの誤解は致命傷になりかねないから慎重に事を運ばないとまずい。
「文面はどのようにしますか?」
「うん?そうだな~。こんな感じでどうだ?」
1.貴国との和平交渉を望むの。
2.代表者との会談準備をして欲しい。
3.会談場所へはこちらに案内人を派遣して欲しい。ただし案内人は2名までとする。
4.会談日は2日後を希望する。
5.了承する場合は貴国側が青・黄・赤の信号弾を各1発あげて合図とする。
6.不服がある場合は、白色信号弾の後文字にて返答されたし。
「ではこのように手配いたします。」
―WILL出現から5時間後、WILLの甲板から①~⑥の数字が描かれたバルーンが上がり、会談を求めるとの内容が対応検討会議に伝えられた。
本文でも説明していますが、ファーストコンタクトでの誤解はイデオン等で有名です。実際白旗が降伏や戦意のないことを示すときなどに用いるの事が現代日本では当たり前です。しかし、源氏の軍旗でもあり、平安時代では軍旗として使われていた事実もありますので、使う相手次第でどちらにもとれてしまいます。
因にイデオンの話の中では、白旗の意味が「相手を地上から一人残らず殲滅する」という意味で受け取られるシーンがあります。