望んでないのに救世主(メシア)!?   作:カラカラ

14 / 17
巡洋輸送艦イールの諸元(F.S.S.リブート4巻のP.342設定)
全長:287m~
輸送量:27,000t~
総排水量:185,000t以上
武装:空中砲塔 320mm、ガンランチャー4基
魚雷発射管:前方5門 後方2門
速度:1光年を78時間で加速



第14話:九州上陸戦という名の……

――2000年3月23日AM11:00――

 

――荷物積込の対応をバスクチュアルに指示し終わった時、カイエンは非常に不機嫌になっていた。不機嫌の原因は横浜基地に来てから度々遠巻きにチラチラと自身の思考を覗こうとする気配だ。カイエンのダイバーパワーによって感知され、弾かれているので覗き(リーディング)自体は成功していないが、さながらモスキート音を耳元で鳴らされている様な不快感をもたらしていた。

――カイエンの異様な不機嫌さを感じた伊隅大尉と涼宮中尉は戦々恐々となりながら廊下を先導していた。

 

 あーウザイ! なんなんだこの感触は! こう手の届かない場所に虫刺されができたような感触は。

 

「マスター。大丈夫ですか?」

「あー、正直大丈夫ではないな。思わず暴れたくなる」

「ご自重して下さい。それではこの基地が消滅してしまいます」

「わかっているさ。ここは日本帝国の所属ではないとはいえ、国内の基地で騒動を起こすリスクは承知している」

「くれぐれもご自重お願いします。ところで伊隅大尉」

「は、はい。アトロポスさんどうしました?」

「現在この基地に人の心に干渉する超能力者のような者が居ますか?」

「超能力者ですか? 小官ではわかりかねるのですが……」

「そうですか。その人物を消しても良いか聞こうと思ったのですが……難しいですね」

「そのような物騒な事はおっしゃらないでください」

 

 とか言いながらアトロポスのことだから実行犯の予測はついているんだろうな。あえて隠している集音マイクの近くで伊隅大尉に話を振ったということは、伊隅大尉の上司かあるいは基地全体への警告といったところか。ん? どうやら危機を感じて覗見をやめたようだな。

 

「取りあえずは静かになったな」

「お疲れさまです。今後の対応は以下がなさいますか?」

「そうだな……伊隅大尉、とりあえず貴官の上司にそういう能力者が基地内に潜伏し、こちらに干渉を仕掛けていたことと、以後干渉があった場合は独自に対応をさせていただく旨を報告しておいてくれ。ちなみに伊隅大尉の上司は誰だ?」

「は、当横浜基地の副司令です。副司令にはカイエン司令のおっしゃられていた内容を違わず報告いたします」

 

 

――こうして横浜基地で増援部隊を積込んだイールは2000年3月23日PM03:00に九州奪還作戦侵攻部隊本部がある佐賀関港に向けて出発するのであった。

 

 

《閑話》

 

――イールに乗り込んだ増援部隊の面々は宿舎コンテナの室内が個室であり、すべての部屋がビジネスホテルクラスの設備が完備されていた。(少尉以上の士官でなければ6~8名の大部屋になることが一般的)このような厚遇を受け、PXの食事はWILL印と一般兵士達は狂喜乱舞の如く好感を持った。尤もこの対応はWILLにとっては特別対応をするつもりではなく、兵員輸送コンテナを複数持ち込む手間と士官用コンテナを一基用意する場合を天秤にかけた結果だ。食事についてもWILLで生産したものを使用しているだけで特別なことは一切なかったりする。好感度を得たことはあくまでも純粋に嬉しいおまけでしかない。

――一方割を食う結果となってしまったのは衛士達である。出撃12時間前には衛士用の合成食材を用いた食事に変更しなければならない都合上乗船直後の食事はWILL印の食事であったが、九州上陸前の食事から衛士用の物が配給され、あまりの落差に絶望を味わうことになった。絶望を体験した三軍(帝国軍・斯衛軍・国連軍)の衛士からの突き上げが原因でWILL印の衛士用合成食がとてつもない速度で開発されるのであった。

 

《閑話休題》

 

――増援部隊を積み込んで出発した巡洋輸送艦イールは潜行しながら順調に高知県足摺岬沖を通過しようとしていた時、九州の状況を伝える一報がイール艦橋に入った。

 

「マス・ター・ビョンド・シーカー・ヨリ・入電・デス」

「わかった。こっちに回してくれ」

「イエス・マス・ター」

 

――ビョンドシーカーからもたらされた映像は宮崎の海岸を北へ向かって軍団規模のBETAが侵攻している映像であった。

 

 

「ん? この映像は宮崎県の沿岸部だよな、やたらとBETAが犇めいていないか?」

「確かに、事前の情報では九州南部に存在するBETAは大隊規模単位でまばらに配置されているはずなのですが……」

「こういう時はオブザーバーの方々にも意見を求めたほうが賢明かね」

「…………そうですね、約30年の戦訓には似たようなケースがあるかもしれません。では宿舎コンテナに向かいましょうか」

 

 あのコンテナ宿舎までブリッジから向かうのは結構距離があってめんどうなんだよな、それに、あの神宮寺少佐達はどちらかというと戦いに来たというよりもこちらの戦力把握に来た観戦武官っていうのが正しい立場なんだろうしな。そんな相手をする場合はあるこちらにとってレベルの低い情報をあえて持たせたほうが余計な介入を防ぐことにもつながるから今回の話題は丁度よい機会だろう

 

「ブリッジに呼び出したほうが早いんじゃないか?」

「……そうですね、今回持ち込んだ兵器は元々知られても問題ない程度の機密レベルですからいっそのこと見やすい状況を整えた方が情報を操作しやすくなりますね」

「バスクチュアル、斯衛軍の泰阜少佐と国連軍の神宮寺少佐をブリッジまでお通ししろ」

「イエス・マスター」

 

――BETAから約50kmの沖合に浮上した頃、斯衛軍の安岡宗樹少佐(やすおか ひろき)とまりもがブリッジに現れた。

――なお、この約50kmという距離は100m程上空までが重光線級の照射可能水面であり、イールは浮上時の喫水線から上は10m程あるので、水上艦としては約25kmまでは近寄る事が可能。

 

「帝国斯衛軍安岡少佐並びに国連軍神宮寺少佐、お呼により参上しました。」

「態々ご苦労さん。九州のBETAに動きがあったので過去の戦訓や今後の作戦を協議する必要があったので急いで来てもらった」

「!! 九州の部隊は無事なのでしょうか?」

「現状では無事だ。尤も現在集結中のBETAが動き出したら退路を塞がれる形で挟撃されるので壊滅は必至と言ったところか」

「ならばすぐにでも救援をお願いします!」

「安岡少佐少し落ち着いてください。マスターの先ほどの予想はあくまでも救援がなかった場合の結果であり、現在の我々が救援に向かう準備が進行中です」

 

――そう言ってアトロポスが安岡少佐を落ち着けているのを見ながらまりもが発言した。

 

「それでは我々をブリッジに召集した目的はなんでしょうか。見たところ其方に座っているブリッジ要員以外を退室させてまで秘密にする内容があるとは思えないのですが」

 

――まりもの発言を聞きカイエン達3人は顔を見合わせた。ブリッジには全員揃っており、誰ひとりとして退室していない為である。尤もブリッジの座席数は凡そ30席あるので、まりもの発言は的はずれなことではない。30人以上の仕事をひとりでこなせてしまうバスクチュアルとその手足となっているロボット達がこの究極の省力化を実現しているだけである。

 

「あー。この艦は現在バスクチュアルがフルコントロールしているので他に人員は必要ない。別に密談をするつもりはないのでそこまで構えないでくれ」

「こ、このクラスの艦船をそちらの方一人で制御されているのですか……」

 

――まりもと安岡少佐は改めてWILLに対して自身の持つ常識が通用しない相手であると実感したのであった。

 

 ふむ、神宮寺少佐は母性があふれるバディが素晴らしいなぁ。

 

「マスター?」

「ゲフンゲフン! あー気にしないでくれ。それで、現状の状況としては丁度友軍の横っ腹に仕掛けられている所なのだが、このような状況に対する戦訓やBETAの以後予想されうる行動パターン等を戦訓を踏まえて教えていただきたい」

 

――まりもはカイエンの視線に少し困惑しながらも質問に答えた。

 

「戦訓と申しましても、状況から見て南九州のBETA群が集結しながら北上しているだけのようですが……」

「つまり、今までのパターンではこの団体はそのまま佐賀関港に向けて前進すると?」

「ええ、現状人類がもっているBETAの行動パターンは集結しての集団突撃と地下侵攻の2パターンです。状況から見て地下侵攻ではなく集団突撃であると考えられます。さらに同一水平以上にある飛翔体には光線級の攻撃もありますのでこの艦が浮遊状態になった場合は集中砲火を浴びることになります」

 

 侵攻パターンがたった2パターンって事はよっぽど戦力差が大きいのかね? 戦術や兵器なんてものは戦力が拮抗していたり劣っていたりしている場合こそ発達するものだからな。……そういえばこのBETA侵攻がなかったら今の主力兵器である戦術機は開発されていなかったらしいし。

 

「アトロポス、現状を整理すると南九州のBETAが九州奪還部隊の戦力を感知し、集合して進行中ってことでいいな?」

「イエス、マスター。BETAが湧き出したりしない限りはあの戦力は鹿児島と宮崎に居たBETAを集合させないと数が合いません」

「神宮寺少佐、安岡少佐。あの規模のBETAが佐賀関に到達すると貴君らを上陸させることが困難になるのでこちらから攻撃しようと思うが問題ないか?」

「「了解いたしました。至急戦術機の準備を開始します」」

 

――『攻撃』この言葉をカイエンから聞いた両少佐はいよいよ上陸戦が始まると感じ身構えた。しかし……

 

「え? 戦術機は出撃させるつもりはないが?」

「「え?」」

「こちらの兵器で攻撃する予定だが?」

「そのとおりです。現状地球の兵器群との連携を行うためには客観的に見て、我々の地球での戦闘経験値が不足しています。今後の事を考えてもこちらの兵器群の対BETA戦における効力を把握しないことには有効な作戦行動に支障が出ます」

「と、いう訳で貴君らは観戦武官としてこのブリッジで見学だ」

「「は、はぁ」」

 

ずいぶんしょぼくれているなぁ? とはいえこちらの兵器がどの程度BETAに有効かは実際に使ってみないとな。ある程度はシミュレートしているがそれでも実戦経験は必要だ。

 

「バスクチュアル! 第一戦車大隊出撃をさせろ」

「イエス・マスター。第一戦車大隊ヲ・出撃・サセ・マス」

「え? ここは海上です。戦車を展開させる場所はありませんし、砲弾が届くような距離ではないと思いますが?」

 

――まりもがそう発言したとき、イールの脇から空中戦車(・・・・)E-75が次々と浮上し海上約10m付近まで浮かび上がった。その数30台、有機的にフォーメーションを組み始めた。

 

「な、戦闘機ですか? 戦車ではなく? しかしどう考えても砲弾では50km先のBETA郡には届かないのではないですか? しかも水面から顔を出した途端に撃墜されてしまいます。」

「これが我々の戦車なのさ。まあ、見ていると良い。貴君らの仕事は観戦することだ。バスクチュアル!」

「イエス・マスター、ター・ゲットノ・選定ハ・私ガ・トリ・ガーヲ・ソチラニ」

「わかった。アトロポス少佐たちへの解説を頼んだぞ」

「かしこまりました」

 

――そう言うとカイエンは提督席に座り、ヘッドセットを被って座席に誂えられているトリガーグリップを握った。本来はカイエンが態々トリガーを引く必要は全くなかったが、初めての砲撃ということもあり、射撃訓練も兼ねているのであった。

 

――そうしてバスクチュアルがE-75の姿勢を制御しながら順番にターゲットに向けて砲身を合わせ、カイエンが微調整と発射トリガーを引くという分業で瞬く間にBETAが殲滅されて始めていた。

 

――その光景を見ていて違和感を覚えたまりもは思わず声をあげてしまう。

 

「え? 相手は50~60km先にいるのに発射から着弾までのタイムラグが……なさすぎる……」

「我々の戦車E-75の主砲は185mmブラストガンランチャーというエネルギービームを砲弾とした光学兵器ですので当然弾速は光速となり、タイムラグはわずかな時間しか存在しません」

「こ、光学兵器……でも、光学兵器だと水平面より下にある物体には攻撃できないはず!」

「その件に関しましては原理の公開できませんが、弾道曲線を設定しての砲撃が可能です」

「………………」

 

――まりもが絶句している間も次々とBETAが撃破されていく、とうとう重光線級が全滅した。最初の数秒こそ体の様々な部位に当たっていたが、照射粘膜に当てると1擊で撃破可能と判明した途端に弱点部位にピンポイントで砲撃し、殲滅速度が更に加速していった。

 

「マスター・重光線級ノ・殲滅ヲ・確認・シマ・シタ。第二・優先・目標・ノ・光線級・ニ・ター・ゲット・ヲ・変更・イタ・シマス」

「わかった。光線級殲滅後の操作は全てバスクチュアルに委譲。以降は直接照準にて敵を殲滅せよ。但し九州の北部・西部に存在が予想される光線級と同一水平にならない様にしろ」

「イエス・マスター」

 

――『15分』これは2000年3月24日に、空中戦車E-75用いたカイエンとバスクチュアルが軍団規模BETAの重光線級並びに光線級合計約700体を全滅させるまでに要した時間である。なお、この砲戦において重光線級と光線級はただの一発もレーザー照射を行っていない。

 

――結局九州南部に生息していた軍団規模BETA群は2時間程で壊滅した。E-75の砲撃は60km程離れた地点では大気によって減衰され、地球の120mmHESH(粘着榴弾)と同レベルの破壊力であったが、光線級の壊滅と共に1~2km付近で砲撃が開始されはじめると非常に高い耐久力を持つ要塞級といえども2発程度で沈むことになった。また、小型・中型種は副砲の37mmレーザーマシンガンで殲滅された。

 

――後年、神宮寺まりもは当時の心境を述懐する言に「もう全部アイツ等だけでいいんじゃないかなぁ」がある。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。