ぼっちアートオンライン(凍結)   作:凪沙双海

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次のエピソードで終わると言ったな。あれは嘘だ。

予想以上にいろいろ長くなったのでアインクラッド編はエピソード8までやります。
では、エピソード6最終話、どうぞ。


Episode6,part10

――side アスナ――

 

 

74層の酒場で、迫るデュエル大会に向けて各ギルドやプレイヤー達が集まっていた。

参加こそしないもののいて欲しいという理由で私も呼ばれていて、団長は一人座り、私はと言うと、どこに座ろうか悩んでいた。

団長、あのオウルって人が絡むと少し攻撃的になるからあまり近寄りたくないのよね……

 

 

「おお、来てくれたんだね。影纏い君」

 

 

「大切な話もあるっつーから一応、な。大会には出ないぞ、俺は」

 

 

既に来ていたキリトくんや団長、私に遅れてやってきたハチくんに周りの視線が集まった。四強の最後の一人にして、参加してれば優勝候補だったかもしれない、"影纏い"のハチマンがわざわざ来てるんだから、仕方ないかもしれない。

ハチくんは一瞬嫌そうな顔をして、それから少し離れた席に座る。ついでにその隣に私も座ることにした。

 

 

「こんにちは、ハチくん」

 

 

「うす」

 

 

ラフィンコフィン討伐戦からハチくんは一時期ホームに籠ってしまった。

クラディール、あの裏切り者のせいでハチくんが殺人をしてしまって……無理もない。私も、あの裏切り者に気づかなかったどころか連れて来てしまった自分に怒りがじわじわと来ていたくらいだから。

ハチくんはきっと頭がいいから、一人でいるとどんどん考え込んでいってしまう。

それは絶対に避けなくてはいけなかった。きっとあのままにしていたら彼は自分の求めてるはずの"本物"すら求めなくなってしまう気がして……私自身もどうにかなってしまいそうな心を振り払うためっていう気持ちもあって、ハチくんを無理矢理連れ出すことにした。

私がそうしたいからする。いつかのハチくんが言っていた言葉を自分に言い聞かせて彼を連れ回した。

上手くいったかわからないけど、彼がこうして来てくれているのは少しでも効果があったからって思いたい。

 

 

「ハチくんはやっぱり出ないの?」

 

 

「当たり前だろ。ああいうのは俺の担当じゃない。お前こそ出ないのか? いい広告塔になりそうだが」

 

 

「私だって、別に戦いたいわけじゃないからいいわよ。……個人的にデュエルしてみたい人はいるけど」

 

 

「そうか。まぁ、そこは好きにやってくれ」

 

 

相変わらず、こういうところには興味の欠片も示してくれない。

私が戦ってみたい相手が君だって言ったら、更に嫌な顔をされるのも目に見えてる。

以前言ってたけど、ハチくんはきっと私のリアルにも、私にも本当に興味がない。キリトくん達だって、彼らがハチくんに近づいてるからこうして成り立ってるわけで、やっぱり興味は抱かれてない。

……前途は多難だなぁ……

 

 

「みんな、今日は来てくれてありがとう。デュエル大会について、大まかなルールを説明して行くよ」

 

 

主催であるオウルの言葉から、ルール説明が始まった。

武器は本来の物ではなく、鍛冶師に頼んだ攻撃の数値が極端に少ないもの。事故を防ぐ為でもあるみたい。

 

 

「ハチくんの抜刀術でもこれなら行けるんじゃないの?」

 

 

「抜刀術は武器の耐久を結構削るんだよ。焔雷だって結構な頻度でリズベットにメンテを頼んでる。

すぐに壊れるだろうし、なんにせよ俺の戦い方は大会には合わない。一生後ろから一方的に攻撃されてみろ。会場が冷めるぞ」

 

 

あくまで速さで戦うことに特化したハチくんは、確かに対人戦では無類の強さを誇るかもしれない。

後手から先手を取れて、その先手は基本的に不意打ち。ずるいとしか言えない。

完全なタンクの団長はともかくとして、他の四強の三人のうち、総合ダメージはキリトくん。次点で私。最後はハチくん。単発ダメージだとハチくんで、次点が私。キリトくんが最後の順番になる。どっちでも次点である私は、やっぱり他の三人ほど強くはないかもしれない。

ハチくんやキリトくんには「お前が一番怖い」なんて言われたけど。

 

 

「以上がルール説明だ。優勝候補はわかりやすいが、何が起きるかわからない。健闘を祈るよ」

 

 

いつの間にかルール説明が終わっていたみたい。でも、話はまだ終わらないようで、オウルはハチくんをチラリと見てから、軽く咳払いをした。

 

 

「そして、ここからも大事な話だ。先日、ハチマン君と会って話す機会があってね、その時のふとした話から俺達は、このゲーム内に茅場がいるんじゃないかって話が出た」

 

 

「えっ……」

 

 

「おい、あくまでそれは推論だ。結論付けるんじゃねぇよ」

 

 

ざわざわと騒がしくなる店内で、ハチくんがオウルを睨むようにして返した。

けれど、オウルは笑みを浮かべたまま止まらない。

 

 

「みんな! このゲームに俺達を閉じ込めた犯人を、見つけたいと思わないか。命がけの攻略じゃない、リスクも少なくリアルへ戻れる方法の一つかもしれない。

だから、俺に力を貸して欲しいんだ。みんなで、俺と一緒に茅場 晶彦を見つけないか?」

 

 

「……あのバカ……結局はそこに行き着くのか……」

 

 

騒然となって、みんながそれぞれ話し合う中でハチくんは一人呆れたようにため息を吐いていた。

 

 

「どういうこと……?」

 

 

「あいつの発言はな、わかりやすくこれからの方針の主動を自分に向けようとしてるんだよ。茅場を見つけるから俺に力を貸せ。つまり自分を中心に茅場を見つけよう。ってな。そうすればこれから先はあいつがメインで茅場探索だ。しかも、それでリアルへ戻れればその名声までいただける。思い切った方向転換ではあるが……そこで自分への評価しか考えないから、浅はかなんだよ、あいつは。これは問題しか起きない」

 

 

「問題?」

 

 

私が尋ね返すと、それにハチくんが答えるよりも早く団長が立ち上がっていた。

 

 

「オウル君、もしハチマン君が君と言っていたであろうことが事実だったとする。するとして、ここに茅場がいて、聞いているかもしれない可能性は考慮しないのかな?」

 

 

「だとしてもだ、ヒースクリフさん。そのリスクを背負ってでもやる価値はある」

 

 

「……お前は何かの主人公かっつの……」

 

 

よくわからない言葉を小さく言って、ハチくんは周りをキョロキョロと見回した。

……あ、もしかして。

 

 

「帰るつもり?」

 

 

「当たり前だ。不毛だろ、こんなもん」

 

 

周りの会話も、茅場を探すのに賛成か、このまま攻略をするべきかの話題で話し合っていた。

一瞬で、さっきまで一丸だったみんなが崩れそうになっていた。

 

 

「極限状態のここに、そんな甘い話があればこうもなる。ふとした拍子に出た話だからこんなことになるとは思わなかったけどな」

 

 

心底面倒そうな顔で、ハチくんは天井を見上げた。

冷静に分析して話してるけど、同時に苛立ってるようにも見える。

それは、そうよね……どうしてあの人――オウルはここでこんな足並みを乱してしまうようなことを言ったんだろう。やっぱり、ハチくんの言う通り自分が目立ちたいから、なのかな。

 

 

「……なぁ、ひとまずはデュエル大会を終わらせよう。中層とかの人たちにまでこんな話が触れ回ったら大混乱だし、まずはせっかく企画したこのイベントを終わらせよう。それまでに、各自で決めておけばいい」

 

 

ずっと座ってたキリトくんが立ち上がって、みんなに聞こえるように少し大きめの声で話していた。

 

 

「私もキリト君に賛成だな。ひとまずは保留でいいだろう。

――ハチマン君、君はどう思っているのかね?」

 

 

「……いるかもはしれないが、見つかるとまでは思ってない。まぁ、余計な混乱振り撒くよりはここで止めておくべきではあるだろ」

 

 

「…………わかった。ではみんな、デュエル大会ではよろしく。

そして、力を貸して貰えるって、信じてるからな」

 

 

急速に不安な空気となった店内は、オウルの言葉でお開きになって解散することとなった。

わざわざ隠蔽スキルまで使って我先にと出ていくハチくんと、それを見送る私。

……クォーターポイントも近いのに、こんなので大丈夫なのか、今まで以上に楽観視できなそうだった。

 

 

――Episode6,Fin.




次回からエピソード7ですが、主に軍のことと75層解放までですね。
ラストエピソードはヒースクリフの正体、そしてアインクラッド編の終わりとなります。
皆様、ここまでお付き合いいただきありがとうございます。
まだまだ全体の半分に差し掛かったところですが、もうしばらくお付き合いくださいませ。

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