そんなわけで書いていきます。
「うす」
「やぁ、呼び立ててすまないね」
「そう思うなら呼ぶなよな。攻略はどうだ?」
ひとまず解散となった俺は、どういうわけかヒースクリフに呼ばれていた。
アスナから報告は聞いてるはずだってのにどうしてこう……つーか、なんで俺来てるんだろ。
「順調ではあるよ。軍も、今のところ素直に協力してくれている」
「そうか。つーか、報告ならアスナから聞いただろ。なんで俺にまで聞くんだよ」
「多視点から意見を聞きたいと思ってね。君の意見はアスナ君よりも率直で、裏表がない。
そういう点ではとても頼りになるよ」
「過大評価だな。まぁいい、大体アスナから聞いてると思うが――」
それからしばらくの間、ヒースクリフと情報交換を行っていた。
実際のところ、ヒースクリフとの情報のやり取りはかなり有用ではあるのと、こいつとの距離感は楽でいい。時おり何考えてるのかわからないのと、やたら詳しすぎてびっくりするが。
「……ふむ。して、二刀流の件はどう考える?」
「半信半疑……にすら信が足りてないな。お前はどう思う?」
「……そうだな、おかしいとは思わないかね」
「思ってるさ。ポッと出がユニークスキルを取れるとは思えないしな。まぁ、ユニークスキルかも怪しいわけだが」
「いや、他に情報を聞いたことがない。ユニークスキルと見ていいだろう」
「……なら、ユニークスキルとする。だとしても、いや、尚更おかしいだろ。今のところユニークスキルを会得、公開してるのはヒースクリフの神聖剣のみ。お前レベルでやっとなんだ」
「ならば、本来他に会得するのならば君やキリト君のような者でないとおかしいな」
……何か、小さくひっかかる。何かはまだわからないが、なんだ……これ、何かが……
「ハチマン君? どうしたのかね」
「……なんでもない。とにかく、俺としては胡散臭いことこの上ないってところだな」
「ふむ、私も同意しよう。ハチマン君、攻略しているときだけでいい、軍には気を付けていてもらえるか?」
「勝手にそうしてるっての。……意外だな、お前はこういうの、アスナに丸投げすると思ったんだが」
「今回は少し違ってね、まぁ……私にも許容できないことがある。大人の事情、というやつだ」
「安心してくれ、そこまで興味ないからな」
「ふ、君ならそう言うと思ったよ。だが、そんなに興味ない、で切り捨てていいのかね?」
「どういうことだよ」
「そうやって切り捨てていった先で、君は大切な物を失うぞ。そして、引き返せない孤独の道しかない」
「こんなゲームの中に大切な物なんてあるもんかよ。そんなものがないから、俺はゲームクリアの為に自分じゃ絶対やらないポジションにいてまで攻略をしてるんだ」
そりゃ死なれたら寝覚めは悪いが、奴らを大切な物とは断言できない。
奉仕部だって、俺にとってかけがえのない場所ではあるかもしれないが、まだ、大切な物になるのかまではわからない。
「本物を欲してる段階の俺に、大切な物なんてわからないな」
「……ハチマン君。これは、ゲームではあって遊びではない。意味合いは違うが、この世界は紛れもなく本物だ。異世界、とも言える」
「そんなのわかってる。それなりに楽しくはやらせてもらってるつもりだ、俺も」
イベントとか、そういうのはほどほどに参加してるからな。レアアイテムは欲しいし。
生産系のスキルを一切上げてないのは面倒なだけだからだが。
「どうしたんだヒースクリフ。お前、こんなこといちいち言うやつだったっけ?」
「君の言う"らしくない"と言う奴だろう。なんとなく君とは話が合ってしまってね。どうにも人生の先輩ぶりたくなってしまう。もっとも、君は私よりも遥かにまともなものだが」
「どうだかな」
「アスナ君は以前あった表情の険が取れて、だいぶ穏やかになった。本人からそれは君とクエストに行ったからと聞いたが。私には絶対にできないことだよ。
人を変えるということは難しいことだ」
「変えてない。変わる必要なんてない」
アスナは元あった形に戻っただけだ。キリトだって、本来あったものに戻れただけだ。人との距離感を掴めるようになったってだけで、俺のような人種ではなかったって話だ。
――なら、俺はなんだ。俺は俺として、ここにいる。
変わるつもりなんてないって言っているのに、そもそも周りの動きが違う。だから、ハチマンとしてここにいることを選んでいるはずだ。そもそも、八幡はあいつらの為に自分を多少なりとも変えようとしてて――
「……話はこれでいいか? この階層の攻略は任せた。
もうしばらくお前やアスナに付き合ってやるよ。じゃあな」
やめろ。やめろ。これ以上考えようとするな。
俺が求める物はここにはない。無い物ねだりをここでする必要はない。
「ああ、すまないな、ハチマン君。そして、最後に二つ、考えることをやめてはいけないよ。君は特にね。そして、時には受け入れることも大事だ。」
「前向きに検討しておく」
ヒースクリフの物言いは、無駄な重みがある。
だからだろう、あいつの言葉に僅かな違和感を抱きはしたものの、思考そのものを断ち切る為に全て丸呑みして歩き始めたのだった。
―――――
「……どういうことなんだろうな、まったく」
とは言っても、気持ち悪さを増して思考は離れてくれない。
一つずつ、ゆっくり整理してみる。
俺は、あいつらに言わなきゃいけないことがあるから、リアルへと戻らなきゃいけない。
この世界だけは、綺麗だ。クソゲーではあるが。
不本意ながら、俺はこのゲームにおける攻略組でトップのプレイヤーにされている。
俺が強いから、このような評価や周りからの反応が貰えてる。
これは、リアルとは関係ない。
なのに、あいつらはリアルに戻っても話したいと言っている。
チグハグ過ぎる内容に、俺は内心で頭を抱えた。
「のくせ、全員のフレンドを切るわけにもいかない、か」
誰も同情や憐れみなんてない。わかりやすく言えば俺達は仲間なんだろう。
友達だなんだなんて、そんなバカな――
「――そういや、そんなこと言ってるのがいたな」
あいつは俺を友達だと言う。友達なんてギルドの中にたくさんいるだろうに、何故そんなことを俺に言うのか。
考えが堂々巡りしてて気持ち悪い。
「ヒースクリフの奴、後で覚えておけよ……」
息を吐いて、俺はホームへと戻ることにしたのだった。
八幡の問題を明文化した回でした。
ある程度原作を知ってる前提で書いてますが、うちの茅場さんはちょろズルいです。
ゲームマスターとしての権限を使いまくりなので、ユニークスキルなんかも誰が持ってるとか把握してますが、その一方で会話させるとあんだけボロを出す体たらく。後々に八幡を苦しめる存在にならないといけないからですが……
八幡の問題としては、そろそろ最終兵器を投入して行こうかと思っています。ではでは。