俺ガイル勢はこれで卒業。
こちらはなかなかにテンションが上がり切りません。ヒッキー寝かせたままにしてごめんなさい……
とにかく、始まります。
――side 結衣――
「ゆいぃ……春休みめっちゃ遊びまくるかんね……」
「あ、あはは、うん。遊ぼうね、優美子」
卒業式が終わって、みんなで外にいる。あたしは三年も結局ずっと一緒だった隼人くん達や優美子達と別れて、一人ずつ、挨拶に行きたかった人の元へ向かおうと思う。優美子、泣きすぎだよ……
「結衣」
「隼人くん?」
「聞いたよ。比企谷、病院移るんだってな」
「……うん。ゆきのんも私も都内近くになるから、それに合わせてお見舞い行きやすいようにって。
SAO事件の被害者さんが多く入院してるみたい」
隼人くんは、ヒッキーがSAO事件に巻き込まれてからヒキタニくんと呼ばなくなった。
自業自得。なんて笑ったさがみんに対して、誰もが見たことないくらいに怒ったのも隼人くんだった。あたしにはわからないけど、あの二人にはあの二人なりに何かあったのかなって思う。
「そっか、引き止めて悪かったな。俺も見舞い行こうと思うんだ。それじゃ、またみんなで遊んだりしような」
「うん、それじゃ、ばいばい」
隼人くんと別れて、あたしはまず職員室へ行った。
最初に会おうと思ったのは、あたし達奉仕部の顧問――
「平塚先生」
「おお、由比ヶ浜か。さっき雪ノ下もいたんだ。卒業おめでとう。そして、大学でも頑張れよ」
「はい」
ヒッキーがああなってから、平塚先生も目に見えて弱ってた。平塚先生、なんだかんだヒッキーには優しかったもんね。
「……欲を言えば、三人全員の卒業が見たかったよ」
「……」
「すまないな。大丈夫、あいつはそのうち帰ってくる。
お前達に話があるんだろう? 比企谷はどうしようもなく外道だが、君たちとの約束を反故するような奴ではないさ」
「……はい」
「さ、行った行った。君がいたら泣くに泣けない。
改めて、卒業おめでとう。由比ヶ浜」
あたしに背を向ける平塚先生にぺこりとお辞儀をして、あたしは職員室を後にした。
……ヒッキー……
「さいちゃん」
「あ、由比ヶ浜さん。卒業おめでとう」
「さいちゃんもおめでとう。看護学校に行くんだよね?」
「うん。……看護師さんも、人手不足だからね」
さいちゃんは教室にまだいた。夢でもある看護師になりたいみたいで、看護の専門学校へ行くんだって。
さいちゃんも、ヒッキーが事件に巻き込まれたって聞いて、毎日お見舞いに行ってた。
男の友達はヒッキーくらいしかいなかったって言ってた。さいちゃん、可愛いから他の男子は変な色眼鏡で見ちゃうみたいで。
あたしも、あれから何回か告白されたりした。ヒッキーのいない隙間がどうこう、なんて意味のわからない人もいて、正直、男子が少し嫌いになった。
「また、八幡のお見舞い、行こうね」
「もちろんだよ!」
少し言葉少なく、あたしはさいちゃんと別れた。
「あ、結衣さん!」
「……由比ヶ浜か。卒業おめでとう」
「サキサキもおめでとう」
「……はぁ、いちいち訂正するの面倒になったよ」
あたしに飛び付いてくる小町ちゃんの頭を撫でて、あたしはサキサキに笑いかけた。やった、最後に勝った、かな。
小町ちゃんは、あれ以来、甘えてくることが増えた。
といっても女子にばかりこういったスキンシップをするけど、男子とは全然、話もしないみたい。
ヒッキーを足掛けにして小町ちゃんと親しくなろうって男子が多かったみたいで、小町ちゃんは多分あたし以上に男が嫌いになっちゃってるかもしれない。
「と言うか、あんたとは大学でもよろしく。か。まさか同じ大学とはね」
「あはは……うん、よろしくね」
私とサキサキは偶然同じ大学に合格した。学部は違うけど、友達が同じ大学っていうのは少し心強いな、なんて思う。
「……小町、あんたの兄貴のとこには行くからさ。早く帰って来いって言っときなよ」
「了解であります! あ、結衣さん。雪乃さんが部室にいるから、だそうです」
「ん、わかった。またね、二人とも」
みんなには一通り挨拶したかな? あたしはゆきのんが待つ部室へ小走りで向かったのだった。
―――――
「ゆきのん」
「由比ヶ浜さん、卒業おめでとう」
「ゆきのんも、おめでとう」
ゆきのんは、あれから元のゆきのんに戻った。
戻ったどころじゃない、びっくりするくらい素直になった。あたしとか限定、だけど。
陽乃さんに、もう二度と後を追わないって言ったり、隼人くんに対して、どんなことがあっても絶対に嫌いって言ったり……そして――
「私、今日は比企谷くんのところ、行けないわ」
「ゆきのんもなんだ。あたしも、なんだ」
夜は優美子達と打ち上げだから、今日はヒッキーのお見舞いに行けない。
ゆきのんは、家の人と出かけるのかな?
「さっき財津――いえ、材木座くんが来たわ。これから彼に卒業報告に行くそうよ。
彼、なんて言ったと思う?
"八幡は俺のたった一人の友達だから、どんなことがあっても待ってるし、何かがあったら助ける"だって。比企谷くん、凄く迷惑そうな顔をしそうね」
「でも、ほんとは嬉しいんだよね、ヒッキー」
「ええ、きっとそうよ。彼はいつだって自分すら騙してしまうから。一色さんもいらしたわ。
小町さんは任せて、とお伝えください。とのことよ」
「そっか……」
いろはちゃんも、ヒッキーが事件に巻き込まれたって聞いてから真面目に生徒会長をやってた。
ヒッキー曰く"あざとい"ってところもあまり見せなかったし。二年連続生徒会長なんてやって、今年の生徒会選挙までは生徒会長をやっているみたい。
「ねぇ、ゆきのん」
「何かしら、由比ヶ浜さん」
「……三人で、卒業したかったな」
泣きすぎちゃったのか、涙はもう流れなかった。けど、悲しくないわけじゃない。忘れたわけじゃない。
むしろ、前よりも全然、ヒッキーが好き。
「そうね。けど、彼は帰ってくるわ。しぶとさも、ずる賢さも並みじゃない。
もしかしたら、解決に向けて最前線にいたりして」
「あはは、ヒッキーらしくないなぁ」
けど、ヒッキーが何もしないなんて考えられない。
きっと、いろんなことを頑張ってるんじゃないかって思う。
「彼が戻ってきたら、私達の番ね」
「……うん」
――私、比企谷くんが好きよ。
ゆきのんの言葉は、不思議と当たり前だって思えた。あんなに頑張ってたヒッキーを見てた人が、ヒッキーを好きにならないわけがないって。
あたしがそうなんだから間違いない。
サキサキやいろはちゃん、それこそ陽乃さんだって怪しい。ヒッキー、なんでこんなにモテてるの?
目、腐ってるはずなのに。
「ゆきのん、あたし、負けないから」
「私もよ。いくら由比ヶ浜さんでもこれだけは負けられないわ」
どちらからというわけでもなく、私達は笑いあっていた。
さて八幡よ、目を覚ましたら大変そうだな。
彼女らは少し素直になるだけで一瞬にしてまちがってないラブコメになりそうなので、ヒッキーがいない現状と、失ってから気づく的なノリです。
俺ガイルヒロインて、どうしてこう発言が重くなってしまいがちなのか、謎です……