ここからはSAO組は大体出揃う感じになります。
伏線もちりばめて、読みつつ察していただければ幸いです。
「あー、そろそろ春か」
現在三月。俺は57層で気に入った部屋を買い取って、そこをホームにしていた。
そのホームから見える景色を見ながら、なんとも言えないため息を溢した。
卒業式が近いな。……あいつら、みんな卒業か。
雪ノ下はどんな大学へ行ったのだろう。由比ヶ浜は大学へ行けたのか。
小町は総武高校でやっていけてるのか、そもそも総武高校にいるのか。
川崎も、あんなことがあったから進路は気になってはいる。上手く行けてるといいが。
葉山軍団はまだみんな仲良くしてるのだろうか。三浦とか、卒業式に泣く奴の筆頭っぽそうだな。
戸塚は……ああ戸塚、お前に会えないのがまさかこんなにも心苦しいとはな。
一色も、ちゃんと生徒会長やれてるのだろうか。葉山とはどうなったのか、告白できたのか。そういや、これで春からあいつも三年か。 実質先輩だな。
平塚先生は……まだ結婚できてないだろうな。戻ったらネトゲ婚活でもおすすめするか。
「……くっそ」
ガラにもなく、感傷的になった。意外なことに、奉仕部だけでなく、あの学校生活をもそれなりに楽しんでいたらしい。
……置いていかれる感覚が、無償に俺を攻めてくる。
「あれからこんなのばっかりだ」
俺は確かにこのゲームを認めた。ハチマンというプレイヤーの存在はこのゲームのプレイヤーとコミュニケーションを取れるし、必要とされ、頼られ、頼ることも覚えた。
したらどうだ、ずいぶんメンタル弱くなったんじゃないか、俺。
このままではダメだ。リアルに戻って絶対に苦労する。
「俺はぼっち。孤高の存在。ロンリーウルフ」
……何やってるんだろうな、俺。
抜刀術の熟練度も粗方上げたし、何もやらないとやることがない。
攻略階層は現在62層、順調に攻略は進んでいる。そういやキリトの奴、この前ダークリパルサーとか言う剣を持ってたな。魔剣に匹敵するステータスの剣らしいが、なんでそんな剣を持ったのかは頑なに教えてくれなかったな。
けど、どうやらあれは手製の物で、俺も武器を新調したいと言ったら紹介してくれると言っていたし、近いうちに聞いてみるとしよう。
「……の前に、とりあえずエギルの所に行くか」
ストレージに溜まったアイテムの山を見て、鍛冶屋に頼みそうなもののみ置いて、俺はエギルの雑貨屋へ向かったのだった。
―――――
「うす、エギル」
「おお、ハチマンか。よく来たな!
ってわけだ、悪いが俺はパスさせてもらう」
エギルが営む雑貨屋に来ると、あまり会いたくない先客がいた。
SAO最強ギルド、血盟騎士団のトップ二人である。
「ふむ、ならば致し方ない。お客のようだし、引かせていただくよ。
――やぁ、昨日ぶりかね、ハチマンくん」
「そうなるな、お前俺の行く飯屋にいる確率高すぎるんだよ、ヒースクリフ」
どうやら攻略組でまだ俺と同じソロプレイヤーであるエギルを勧誘に来ていたようだった。
攻略組の様相は、あれから洗練された。くらいにしか言い様がない。ソロプレイヤーは軒並み血盟騎士団か聖龍連合に入り、他は他でギルドを組んだりして活動するようになった。ここに来てボスや雑魚のステータスもだいぶ上がって来たからか、攻略も慎重さが増した。入念に偵察などを行ってから攻略に臨むようになった。
これは大きな変化と言える。
「なんだ、二人は結構話すのか?」
「世間話が多いがね。年が近そうな者はいくらでもいるが、攻略のことまで入れて深く話せる者は彼くらいなものだ。味覚も通じるものがあるみたいだがね」
「なるほどな、まぁ、四強ともなりゃ話す内容も凄そうだが……」
「そこまででもないさ。最近、ハチマン君は話しやすくなったからね」
「それは俺も思ったな。壁が小さくなったというか……」
「お前らの思い込みだ。ほらエギル、これ」
「おう。って、ずいぶんレアアイテム持ってるな」
「いろんなところ回って狩りまくったからな。気がついたら溜まってた」
抜刀術の訓練がてらだが……俺にはいらない物が多すぎる。
「キリトも同じこと言ってたな。武者修行でもしてるのか?」
「まぁ、そんなところだ」
「なら」
ついさっきまで黙っていた女が口を開いた。血盟騎士団のナンバー2。閃光のアスナ。
攻略の鬼とか言われる一方で見た目はいい、一応気遣いはできる、肩書きも抜群と大人気は止まらない。
アスナ様。とか呼ばれてる姿を見てて笑い死ぬかと思った。すっかり攻略組のシンボルだ。
……俺も"影纏い"とかって名前を呼ばれないでそれを呼ばれることが増えて、少し死にたくなったが。
「その武者修行、攻略しながらやって欲しいものね」
「攻略は攻略でやってる。別に何をしようが俺の勝手だろ」
「そうね、せいぜいゲームを楽しんでればいいんだわ。団長、失礼します」
「……すまないね、ハチマン君。どうも彼女は君には厳しいな」
「別に気にしてねぇよ。あいつがどうしてああなのかなのはなんとなく、わからなくもないからな」
どうして、あそこまで攻撃的な反応をするかまでは俺も理解できないが。
他人に失望したら切り捨てるか、自己嫌悪するもんだと思ってたが。
――雪ノ下は、あのときどんな気持ちだったんだろうな。
「と、メールだ。シリカからだな……エギル、査定は後日取りに来るわ」
「どうしたんだ?」
「レベル上げ付き合えだとよ。俺じゃなくてギルドメンバーに頼めっていいたいんだが……まぁ、行ってくる」
シリカはあのあとピナを蘇らせて、月夜の黒猫団に入った。
伸び伸びやらせてもらえてるみたいで、ボス戦は参加しないものの、攻略組の仲間入りは少しずつ果たせている。
あいつの望むお礼は俺とのフレンド登録だったのだが、こうして暇なときにレベル上げに付き合わされている。面倒な時とかは断ってるんだが、今回ヒースクリフがいたからな。あいつといると長話になりかねないから脱出の意も込めて俺はシリカの待つポイントへ向かったのだった。
やっと大まかな八幡の方向性が掴めたせいか、他キャラを書こうというゆとりがより大きくなった。
自分だけ取り残されて卒業されてしまうってどんな気持ちなんでしょうね。僕はヘラヘラしてられる余裕は無さそうです。
というか、気がついたら奉仕部よりも長くSAOにいることになるのか……
書いててしんみりする回でした。はい。