ぼっちアートオンライン(凍結)   作:凪沙双海

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Episode3,part7

「これが、プネウマの花……」

 

 

「これで終わりだ。念のため、街に戻ってから使うぞ」

 

 

あれからシリカと二人で進んで、やばそうなのは俺がやるものの、ほとんどの戦闘はシリカがこなしていた。

途中、シリカがあわや触手プレイ――もといモンスターの蔦に絡まった時はさすがに最速で倒したが。そんなけしからんもの、お兄ちゃん許しません。

そんなこんなで辿り着いた最深部。目的の花はしっかりあって、シリカと俺はそれを無事回収した。

道中、キリト達に言われていたオレンジギルドの襲撃を警戒してはいたものの特に何事もなく、このまま折り返しになるものである。

 

 

「……あの、ハチマンお兄さん」

 

 

「どうした。何かいたか?」

 

 

「いえ、あの、その、ハチマンお兄さんはリアルでもお兄さんなんですよね?」

 

 

「そうだな」

 

 

とびっきり天使のな。とはさすがにこのくらいの子供には言えない。キリト辺りになら躊躇わず言えるんだが。

 

 

「その、なんとなく、本当にお兄さんだな。って思います」

 

 

「……そうか」

 

 

どうにも、あまりよろしくない勘違いをされている。

キリトやケイタ達にも言えることだが、あいつは俺をなんか普通に普通の人間だと思ってやがる。

俺には基本的にぼっち。というタイプがつく。全てのタイプの攻撃がもれなく"こうかはばつぐんだ!"だ。なにそれ弱すぎる。

 

 

「あのな、これはフレンドとか、それなりに付き合いのある連中にも言いたいんだが、お前たちが思ってるほど俺は凄くもないし、大したこともできない。

リアルの話なんかしたら特にそうだ。俺は自分が切れる手札を全部切ってるが、周りから見たら自己犠牲に見えたり、気にくわないものが多いみたいでな。それなりに意を汲んで急拵えで解消すれば怒られ、自分の意思を曲げてまで、居場所を守ろうとしてみればやっぱり失敗。どちらかと言えば負け組だ」

 

 

首を傾げるシリカ。と、思わず話してしまったが年齢的にも聞けるものじゃなかったか。

 

 

「難しい話をしたな。――本当、調子が狂う。とにかく、今こんな扱いを受けてるけど、俺は別に凄くない。やれる能力、見合った場所、あとは偶然とかで上手くここにいるんだ。ゲームだから、ってのが一番大きいかもな」

 

 

「……確かに、難しいことはよくわからないですけど、私はハチマンお兄さんは凄いと思います。

さっき黒猫団の皆さんにお聞きしたけど、ハチマンさんともう一人、キリトさんて方は攻略組の中でもトップの方なんですよね?

ゲームの中でも、ここでは命がかかってます。そんな中で一番危ないところにいるんですよ? 凄くないわけないじゃないですか。誰がなんて言っても、攻略に関わる人はハチマンお兄さんが戦ってるのを知ってるんです。私も知りました。お兄さんが戦うのを見ました。それを見て、凄いと思うのは変なことですか?

今、私は、私達はここにいるんです。ここで凄い人は、凄い人なんです」

 

 

……なるほど、そうだったのか。なんかいろいろすっきりしたわ。

 

 

「ハチマンお兄さん?」

 

 

「……いや、お前のおかげですっきりした。ありがとな、シリカ」

 

 

思った以上に礼を素直に言えた。ああ、だからなのか。

俺は思った以上にリアルをこのゲームに持ち込んでいたらしい。顔がリアルのままだから。ぼっちだから。なんて、な。間違いではないが、俺は"比企谷 八幡"ではあると同時にこっちでは"ハチマン"だ。だから、他のプレイヤーから話しかけられるし、キリトやケイタに対して"悪いやつじゃない"なんて感想を抱ける。

このゲームの中に生きる"プレイヤー"として、全員と初対面からやり直してるからだ。

 

 

「……っは」

 

 

笑みが漏れる。俺もいろいろ見間違えていたらしい。

このゲームが始まってから見たあの風景は、確かに俺の中にまだある。つまりそれは、このゲームに生きているってことだ。

 

 

「……だからと言って、クリアしないわけにはいかないがな」

 

 

雪ノ下と由比ヶ浜に会って、話す。小町や戸塚にも会う。

それは俺の最終目標だ。大きな寄り道をするつもりはない。ない、が。

――もう少し、このゲームの"住人"として振る舞ってもいいかもしれない。そう、思えた。

 

 

「何か、後で礼をさせてくれ、シリカ」

 

 

「え? お礼なんて、むしろ私の方こそです!」

 

 

「いや、俺の方こそだ。何がいいか決めておいてくれ、な?」

 

 

このシリカは、俺よりよっぽどこのゲームの理解度が高いな。

まさか、こんな簡単なことに気づかないなんてな。

 

 

「そろそろ入り口ですね!」

 

 

「そうだな」

 

 

ふむ、襲撃は全然ないし……これはキリト達がもう抑えたのか――

 

 

「――なんて、簡単に済むわけでもないか」

 

 

索敵範囲内に一気にアイコンが増える。

これのうち、前方に増えたのが知らない奴らで、後方に増えたのが知ってる奴ら。つまり月夜の黒猫団だ。

 

 

「……やぁシリカ、お求めの物は手に入ったのかい?」

 

 

「っ……! ロザリア、さん」

 

 

目の前に立つきつそうな女と、それを睨むように見つめるシリカ。

……つまりあれがオレンジギルドのリーダーか。なるほど、確かにアイコンは普通だな。

 

 

「まーた新しい男ひっ捕まえてパーティ組ませたのかい? 可愛い女の子は楽でいいねぇ」

 

 

「おい、何不名誉なこと言ってるんだよ。いくら可愛かろうがなんだろうがシリカの見た目考えろ。こんなのに粘着してる男はマジでこえぇぞ。俺はたまたま乗り掛かった船で行動してるんだ。犯罪者予備軍と一緒にすんじゃねぇ」

 

 

なんというか、吹っ切れたせいか言いたいこともはっきり言える。凄い!

もう、何も怖くない!

 

 

「……ハチマンお兄さん……」

 

 

……前言撤回。なんか隣のシリカがめちゃくちゃ怖い。

 

 

「私とパーティ組んでて、そんなこと思ってたんですね……」

 

 

「……同じ連中と思われたら困るとは、思ってた」

 

 

「そしたら私が否定しますから大丈夫ですっ!」

 

 

「あー、わかったわかった」

 

 

今一応真面目な話だから静かにな。小町にやるように棒読みで答えると、俺は雷切丸の鍔に手をかけた。

どう転んだって何事もなく素通りは無理だろうな。キリト達がどう出るかもわからないし、ひとまず俺から話を切り込むか。

リアルなら、ってのはもう無しだ。こういうのが、少なくともここでの俺の適所だからな。

 

 

「……で、だ。そんなに雁首揃えて何しに来たんだ、お前ら」

 

 

「は?」

 

 

「惚けても意味ないぞ。俺の索敵スキルの中にはお前を囲むようにして結構な数のアイコンが見えてる」

 

 

「……ほー、最近あたしをつけ回してたガキ共といい、どうしてこう、生意気なのが多いのかしらね。

おら、出てきなお前ら」

 

 

おーおー、わらわら出てきやがる。ずいぶんと感覚が麻痺ってきたのかゲームに馴染んだのか、竦みもせずに現れる男共を見ている。そのアイコンは全てオレンジ色。つまり、PKとかそういうのをやったことがあるって証だった。

 

 

「……この、人殺し共が」

 

 

「ずいぶんな物言いだねぇ。所詮ゲームだ。本当に死んでるかわからないだろう?」

 

 

俺には珍しいことに、こいつらには憤りを感じているようだった。

全員、同じのはずだった。ゲームオーバーは死で、俺にもあるくらいだから、このゲームのプレイヤー達にはみんな帰らなきゃいけない場所や理由があるはずで。志半ばや、自殺なんていう救いのないものはこの際目を瞑るとしても、こいつらは自分の意思で他のプレイヤーを殺している。

修学旅行の件で、リア充と言えど居場所を守るためにはかなり苦労していることを知った。こいつらは、それを、半信半疑のまま遊び感覚でそいつらを殺して、更にはそのプレイヤーの居場所に、帰る場所にいる人間達をも絶望に追いやってるわけだ。

 

 

「……ならよ」

 

 

"ハチマン"は、このゲームで他者との距離感を計れるから、居場所はいらない。

"比企谷 八幡"は、何よりも本物が欲しかった。どちらの俺も、それは許せない。このゲームでは、みんな必死に手を取り合う。俺のようなぼっちですら、そうせざるを得ない状況になる。

リアルの俺は、まだ眠ったままだ。少なくとも、雪ノ下と由比ヶ浜、戸塚や材木座だって俺を待ってくれているかもしれない。……川崎もな。だから、やっぱりどちらの俺も許せない。

……まだ、リアルが混同するな。仕方ないか、どちらも俺であることには変わらないからな。

 

 

「お前らが、今この場で俺に殺されたって、死なないかもしれないから大丈夫だよな?」

 

 

どうしちゃったんだろうな、俺。

後ろからぞろぞろ出てくる黒猫団のメンバーを横目に、俺は雷切丸を抜いたのだった。




ちょっと強引かな、とも思いますが、ある意味八幡覚醒回でした。
本人としてはこれでゲームはゲームと割りきれていくつもりです(笑)

しかし命がけのゲーム。八幡の苦悩はまだ続く。
おそらく次回でこのエピソードは終わりとなります。

ではでは、ありがとうございました。

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