キリトがあまり戦闘に積極的に参加しなかった理由や、ちょっとしたネタや伏線を挟んだ都合合わせでもあります。
次回からエピソード3になります。
「はーい、では現在攻略組の四強の皆さんにインタビューです」
35層のとある宿屋の一室で、二人の女性と向かい合うハチマン、キリト、アスナ、ヒースクリフ。女性二人はアインクラッド新聞なる物を発行するギルドの人間で、アインクラッド全プレイヤーの注目の話題である攻略組の、その中でも四強と呼ばれるトップクラスのプレイヤーにインタビューを行ったのだった。
愛想のいい笑みを浮かべるアスナと、普段となんら変わらない佇まいのヒースクリフ。そして緊張した面持ちのキリトと、とんでもなく引きつった顔のハチマン。四者四様の表情に、記者は妙な気分になった。
これが、攻略組のトッププレイヤーなのかと。
「では、最近の話題からですね……えと、この中では誰が一番強いのか。という話題ですがどうでしょう。
巷では25層の強ボスを二人で長い間相手にしたハチマンさんとヒースクリフさんとの話もありますが……」
「そりゃ勘違いだ。あのときはたまたま、あの中で被弾しづらいのが俺とヒースクリフだったってだけだ」
謙遜など感じさせぬくらいはっきりと否定するハチマンに、記者は内心で驚いた。このハチマンは辛辣な物言いも多く、反感を覚えるようなことも平気で言うとのことで、てっきり実力に物を言わせているのかと思っていたのだ。
「ま、全員同じくらいだろ。キリトは25層くらいの時から自分のギルドに合わせて動いてたから少し遅れ気味だったが、今ギルドそのものが攻略組に入ったから元のペースでレベル上げてるしな」
「……でも、あれよね」
帰りたい意思をひしひしと見せながら、簡潔に話を纏めるハチマン。嫌そうな表情が印象的で、彼が人との関わりをあまり好まないという話は本当だとメモに付け足した。そして、そんな彼にアスナはどこかイタズラっぽく笑う。
「もし決闘するなら、ハチマンくんとだけはやりたくない」
「私も同意しよう」
「それは俺も」
「……お前らな……」
示し合わせたようににやりと笑うキリトに、楽しそうに笑うヒースクリフ。
四強の仲は、思ったよりも良いようだ。と更にメモに追加する。
「そもそも俺は、晴耕雨読してたい孔明タイプなの。何が悲しくてこんな特攻隊長みたいなことしてるのか自分でもわかんねぇけど。決闘なんか挑まれた時点で敗北になってやるよ」
「ふむ、それでは困るな。君への最終手段が上手く使えなくなりそうだ」
「……あ? どういうことだよヒースクリフ」
「いや、来るべき時が来たら、私はギルドを作ろうと思っていてね。ハイレベルの攻略組を集めたギルドだ。今の攻略組のソロプレイヤー達を誘おうと思っているのだよ。君や、アスナ君もね」
おお! と記者が身を乗り出すが、ヒースクリフはやんわりと笑ってこれはオフレコで。と付け足した。
記事にできないのかと肩を落とすも、自分達が貴重な場面にいることは間違いない、と二人は彼らの話に耳を傾けた。
「私もですか?」
「……そりゃ、無理な相談だな。俺が完全なチームプレイだなんてできるかよ」
「だからこそ、決闘で勝ったら。と思ったのだが……それすらも願えなさそうだな」
「そんなもん、絶対にバックレるからな」
うわぁ。と記者二人はハチマンの言葉に露骨に引いていた。
ギルドに誘われ、決闘してまでしても欲しいといわれるほどに評価されているにも関わらず、完全拒否体勢のハチマンは仏頂面で天井を見ていた。
「本当はキリト君もと思っていたのだが、既にギルドにいる以上は諦めよう。
ハチマン君とアスナ君には、その時が来たらまた声をかけさせてもらうよ」
「返事は変わらないだろうがな」
「私は……その、何とも言えません」
それでいい。とヒースクリフは小さく笑うのみだった。
「では、最後に、攻略組になっている以上クリアを目指すのは当然として、リアルへ戻ったらどうしたいですか?」
「……私は、まだそこまで考えれてません。けど、このゲームからクリアして、解放されたいって思う人がいる。その人と、その人達と一緒にこのゲームをクリアしたい。悪夢のようなこんなゲームから、解放されたい」
「私も、クリアすることが目的だからそれしか考えてはいないな。アスナ君ほどではないが」
アスナはチラとハチマンを盗み見て、ヒースクリフは瞳を閉じた。
二人の心の内はわからぬままである。
「俺は……家族に会いたいな。妹とも疎遠だったから、また、ちゃんと話したい」
「そうだな、妹とは仲良くしておけ、キリト」
珍しく同意してうんうん頷くハチマン。リアルでのシスコンぶりを知らない他の三人はハチマンの思わぬ言葉に目を丸くした。
「俺も妹に謝らないとな、心配かけてるだろうし。あとはあれだ、あらゆるものを使ってこのゲームがいかにクソゲーだったか書く。で、茅場に届かせる。
自慢げにインタビューなんか受けて、それでこんなクソゲー作りやがって。ゲームのなんたるかをわかってなさすぎだからな。もうぼろっくそにこき下ろしてやる」
今度はアスナとキリトも記者と一緒にうわぁ。と引いていた。
復讐の度合いがリアルで、かつ小さい。ある意味それはとても"八幡"らしいものでもあるが。
「……はは、なるほど、それはいいかもしれないな。君なら開発者に言葉を届かせそうだ」
「全国にばら蒔いてやるからな。こんなガキに自慢のゲームをバカにされて、精々イライラしとけってことだ」
ドヤ顔で語るハチマンに引き気味の一行。何故かヒースクリフだけがとても楽しそうに笑っていた。
「あとは……いや、これはいいか。終わりだ」
一瞬、何かに想いを馳せるように何もない所を見つめてぽそりと言って、強引に話を切り上げる。
聞かれても答えないだろう。彼は誰とも視線を合わせなかった。
「あ……えー、では、時間が時間ですのでありがとうございました。
私達は戦えない非攻略プレイヤーですが、少しでも攻略組が快適に進めるよう、サポートしていきたいと思います。頑張ってくださいね」!
その言葉を最後にして、とある一日のインタビューは幕を閉じたのだった。