間桐雁夜は救われませんので、彼のファンの人は戻ったほうがいいかも知れません。
そのことに対する批判も受け付けません。あしからず。
-37:59:52
冬木市深見町―――――――
すっかり日が落ちた。葵は新都に戻った後も犯人の指示で市内を走り回らされた。タクシーに続き、バス、電車、徒歩と移動手段も様々な物を使った。
そして、ついさっき犯人からやっと明確な場所が提示された。目的地である
何度もインターホンを押し、扉をたたき早く出てくるよう呼びかける。しばらくして中から銀髪と金髪の外国人が出てきた。葵はアタッシュケースを差し出し狂乱気味に叫んだ。
「ダイヤはここにあります!娘を!!凛を返して下さい!!!」
開口一番の葵の剣幕に面食らうも、つい先日似たような訪問を受けた二人は顔を見合わせた。
「アイリスフィール、このご婦人は・・・・」
「私も同じことを考えていたわ。セイバー、結界を強化するから辺りを警戒していて、私はこの人を落ち着かせるから」
例え敵の妻であっても、罠であろうとも、同じ娘を持つ母親としてアイリスフィールは目の前の人物を捨て置けなかった。そうして遠坂葵に手を伸ばそうとした時――――――
「彼女に触るなーーーーー!!!」
突然の怒鳴り声にその方向に顔を向けるとフードを被った今にも死にそうな、それでいながら物凄い怨嗟いや怨念に満ちた目をした男が彼女らを捉えていた。
「どうやら時臣は本当に殺られたようだな・・・・・だが魔術師なんてのは、どいつもこいつもみんな同じだ・・・・俺はお前らを赦さないッ!皆殺しにしてやる!!」
次の瞬間、男の影から黒い何かかが姿を現した。男に劣らない凶悪な殺意を撒き散らす存在、バーサーカーである。その手には三又の槍が握られており顕現がなった瞬間、マスターの命令も無くセイバーに襲い掛かった。
「■■■■■■■■■■!!」
バーサーカーが手にしたことにより槍は黒く染まり宝具の域に達していた。その槍を跳躍と共に振り下ろし縦横無尽に一撃を繰り出す。セイバーも受け、往なし、隙を見ては反撃の斬撃を放つが巧みな槍捌きで防御する。
港で戦った時は左手が利かず敵の猛連撃に凌ぐのが精一杯だったが、ハンデが無くなり敵が狂化されてもなお達人の技量を有すると判っていたので心身共に余裕を持って対応が出来た。
そんなセイバーが今抱いているのは必勝の気迫ではなく疑念にも似た違和感だった。
(この太刀筋、どこかで?)
一進一退の攻防を続けながらセイバーは更にバーサーカーの相手に情報を与えない全身を纏った黒いオーラ、手にした全てを宝具として使用する能力を間近で受けて違和感が焦燥へと変わっていった。
(まさか・・・・奴は?・・・・・・いや、そんなバカな事が・・・・・・)
それは振るう剣にも如実に現れ剣閃の切れが鈍り、反対にバーサーカーはどんどん勢いが増した槍捌きを持ってセイバーを押し始めた。先の港と同等かそれ以上のピンチに陥ろうとした中、遂に致命的な隙を見せたセイバーにバーサーカーが一撃を放つ。
「セイバー!勝って!!」
その時、アイリスフィールの声がセイバーの耳に綺麗に響いた。
「!!ハァァァァァーーー!!!」
その激励に応えるようにカウンターを合わせ、バーサーカーを槍ごと両断しかねない一撃を放つ。しかしバーサーカーは透かさず獲物を手放して飛び退き、剣は兜を掠めるに留まった。
しかし、それは反撃の狼煙にはならずセイバー自身の心を叩き折る結果に繋がった。
バーサーカーの兜は間合いを取る最中に割れ落ち、黒髪の素顔が露になった。その瞬間、黒いオーラは消え去り右手には怜悧な刃の剣が握られていた。
「・・・・Ar・・・アー・・・・サー・・・・・・」
「貴方は・・・・・・サー・ランスロット・・・・・」
この時、最優のサーヴァントたる少女は完膚なきまでに敗北した。
もう守ると誓ったアイリスフィールの言葉も届かず、ただ死を待つだけの木偶でしかなく、その死は数秒先に迫っていた。
「殺せーーーー!!!!バーサー・・・・・」
目の前にある勝利に令呪を発しそうな声で叫ぼうとした間桐雁夜は最後まで言う事無く絶命した。
倒れた背後からは銃を構えた久宇舞弥が立っていた。しかし幾らバーサーカーとは言えマスターを失っても十秒は現界できる、セイバーの危機はまだ去っていない。
しかし、セイバーに迫ろうとするバーサーカーとは違う方向から三又の槍が投擲される。投擲点には衛宮切嗣が固有時制御の状態で投げた状態で構えており、同時に右手を掲げ叫んだ。
「令呪を持って我が傀儡に命ずる!セイバー、何も考えず敵を討て!!」
バーサーカーより一瞬早くセイバーの元に届いた槍を持って、意識すら定かでない形相で槍を突き出した。その刃は黒い甲冑を貫通し、この戦いに決着が付いた。
「私は聖杯を獲る・・・・でなければ誰にも何も償えない・・・・・」
令呪の縛りが消え震える声で言うセイバーに、狂化の呪いが解けたバーサーカーが応じる。
「・・・王よ・・・・・私は貴方自身の怒りで・・・・・・・裁かれ・・た・かった」
そして、湖の騎士は報われること無く消えていった。
-37:20:23
アイリスフィールはセイバーに掛ける言葉が見つからず、切嗣は一瞥もせずに遠坂葵に近づいて行く。戦闘の余波で吹っ飛んだ彼女は意識を失っているが返って好都合だ。魔術的暗示を掛けて、どういう経緯でこうなったのか有体に言えば背後で糸を引いているだろうキャスターとマスターの手掛かりを得ようとしていた。
仮に魔術に対する備えがあったとしても拷問でも何でもして聞きだす。やっと巡ってきた手掛かりに切嗣は一切容赦するつもりはなかった―――――――響いて来る雷鳴が無ければ―――――――
雷電に乗って駆けて来る戦車は一直線にこちらに向っている、言うまでも無くライダーだ。十中八九、キャスター達の策略だろう。
切嗣に焦燥が浮かんだ。セイバーは心身ともに、かなりのダメージを抱えている状態、令呪を使って戦わせることは可能だろうが時間稼ぎにしかならないだろう。マスターであるウェイバーは戦車に同乗しているだろうから、そちらを狙う事はまず不可能、無謀に見えて隙の無い敵を打破する術も逃げる時間もない。
絶望的な状況の中、それでも終わるまいと切嗣は頭を巡らせるもライダーはお構い無しに降り立った。
「ぬぅ。どうやら一足遅かったようだな」
膝を突き、打ちひしがれているセイバーを見たライダーは、辺りを見回し大声で叫んだ。
「どうせ見ているのだろう!これも貴様の計画通りか?!魔王!!」
魔王と言う一言に切嗣は内心どころか目を見開いて驚愕する。
(なんで今、その名前が出てくる!?)
ウェイバーは息を呑み携帯電話を握りしめ、ついさっき殺し合いがあったばかりの現場を見ている。程なくして携帯の電子音が鳴り、着信及びスピーカーボタンを押す。
『それは買いかぶりだよライダー、騎士王の仮面の下がただの少女だなんて見抜けるほど、私は彼女の事を知らない。
私が使おうと計画したのは、そこに転がっている死体と寝ている女のほうだ』
その説明に全員の注目は俯せになって死んでいる雁夜とアタッシュケースを抱いている葵に集まる。
『そこの男が女のほうに恋慕を抱いているのは見え見えだったからな。女が虐められている場面に出くわせば保身もそっちのけでブチ切れると思ってな』
「その為に母親の情まで利用したって言うの!」
アイリスフィールの怒りのこもった剣幕に携帯を持っていたウェイバーが怯む。
『実際にあれだけ身を隠すことを最優先していたバーサーカーのマスターが上手く釣り上がっただろう』
ここで興奮する妻を制し切嗣が口を開いた。
「ではアタッシュケースの身代金は?」
『演出をより効果的にする為の小道具』
「今日一日、彼女に市内を走り回らせたのは?」
『バーサーカーのマスターとそれを監視している者の目に晒して、その家に誘導する為』
「全ての動きに意味、いや罠が含まれているわけか」
『貴方ほどの男に褒めていただくとは、光栄だな』
切嗣の皮肉めいた言葉を賞賛と返すやり取りは顔見知りであるかのニュアンスが伺える。その場の空気が変わり、各々が身構える。
『では、そろそろ本題に入ろう。先程、バーサーカー、アサシンが倒され、残るのは我々三組だけだ』
アサシンの健在を既知だったセイバー陣営は始まりから動揺した。しかし、フェイクの可能性もあり魔王の言葉に警戒を強めようとしたが、続くライダーの発言で疑う余地がなくなった。
「なにを抜けぬけと、余に始末させたアサシンに限らず脱落した輩は全て貴様が罠にかけて潰させたのだろうが」
『ライダー、文句は話が終わった後にしてくれ。とにかく残りが三組で今戦うのは君達には望むところでは無いはずだ。ならば全員が一同に会し決着を付けるのが最善だ。よって私は柳洞寺に陣を構え、決戦の場と聖杯降臨の儀式の準備を執り行おうと思う』
「わざわざ場所を指定するという事は余程の罠が待ち受けているのだろうな」
ライダーの胡散臭そうな発言に、その場に居る全員が同様の感想を抱く。
『ご想像にお任せする。なんならセイバーと一緒に乗り込んできても構わないぞ』
「フン、こんな腑抜けた小娘と肩を並べて共闘など考えられんわ。が、このままダラダラと振り回されるのも敵わん。いいだろう、まとめてケリを付けてくれよう」
『豪胆なことだ。それでセイバー達はどうする?私からの提案、受けるか否か?』
アイリスフィールは逡巡するも切嗣は直ぐに前に出て答えた。
「受けよう。その提案」
『よし決まりだな。決戦は明日の夜、合図は空に魔力の信号を上げる。これが聖杯戦争の終わりを告げる戦いになる。では、その時に逢い見舞えよう』
通話が切れ不通音がなる。ウェイバーは電源を切ってポケットにしまうと改めてセイバー達を見る。
港で会ったセイバーのマスターだろう銀髪の女と目付きの悪い女と魔術らしからぬ風体の男、ライダーが言っていた傭兵だろう。彼らもこちらを見て臨戦態勢を解いておらず、なんとも嫌な空気が流れるがライダーが手綱を引いて帰路に着こうする。
「そう、身構えるな、さっき言ったとおり今宵は戦うつもりは無い。ただ、セイバーのマスターと傭兵よ。明日までには、そこの
言いたいことだけ言って去っていく。本当に戦うことはもう無いようだが、色々な思いが錯綜するひと時が過ぎていく夜は安堵とは程遠いものになっていった。
上記にも書きましたが、間桐雁夜の扱いに関しての批判は受けませんので、ご容赦のほどを・・・・