運命上の魔王   作:a0o

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 魔王、発つ


運命との契約(下)

 -172:38:15

 

 

 契約から丸一日、夕刊の見出しやニュースではガス漏れや謎の昏睡事件といった話題で持ちきりだった。無論、下手人はキャスターである。竜牙兵と言う骨の兵士を使い市民を襲い魔力を溜め込んでいるのである。

 

 しかし、当のキャスターはそんな事は無関心に水晶より投影された映像を注視していた。ちなみにマスターである魔王は、我関せずといった感じでサンマの蒲焼を頬張っていた。

 

 映像の中では冬木市の名家である遠坂邸に骸骨の面をした男―――アサシンが黄金の鎧を纏った大層偉そうな男――――アーチャーに虐殺されているのが映されていた。

 

「うますぎるな」

 

 横目でチラリと見た魔王が呟き、キャスターが顔を向けた。

 

「この蒲焼の話だ。スーパーで安売りした割には中々に美味い」

 

 子供騙しな言い訳だが、あえて追及せずキャスターは思案した。

 

 魔王と名乗ったこの男が只者でない事は既に察している。出来ればその実力の程を見てみたいものだが、先ほどの呟きには落胆の色が含まれていた。聖杯戦争への興味がまた一つ失われたのなら本格的に腹を括り自分一人で戦わなければならない。

 

(なら更に大量の魔力が必要になるわね。)

 

 先ほどの映像は腑に落ちないところがあったが、何をするにしても魔力が多いに越した事はない。しからばもう少し大胆に動いてみようとキャスターは魔力集めを加速させようと決意した。

 

 

 

 

-154:09:25

 

 

 すっかり日が暮れた冬木市の倉庫街―――――

 

 そこに二本の槍を構えた男―――ランサーと対峙する銀の鎧を纏った金髪碧眼の少女―――セイバー、そしてその後方にいるカシミアのコートを着た銀髪の女性。

例によって水晶投影で見ていたキャスターは透き通った()()()()()()()で言った。

 

「一見するとこのお人形(ホムンクルス)がマスターだけど、これはダミーね」

 

 しかし、魔王には興味を示した様子はなくコーヒーをすする。そんな二人にお構い無しに戦いは始まっていく。

 セイバーが目に見えない剣を振るいランサーも二本の槍を縦横無尽に操り、獲物がぶつかる度に大気が振るえ火花が散る。拮抗した戦いを続ける二騎を観察しながら、キャスターは狙撃銃を構える一人の男を捕らえた。

 

「パスの流れからすると彼がセイバーのマスターのようね」

 

 そして、その男を映し出した瞬間、魔王は驚愕に目を開いた。

 

「・・・・・衛宮切嗣」

 

「お知り合いですか?」

 

 興味津々と尋ねてきたキャスターに魔王は努めて冷静に答えた。

 

「正確には知り合いの知り合いだ。一度は会ってみたかったがこんな形で会うことになるとはな――――――――――確認するが、あの銀髪の女はダミーでこの男、衛宮切嗣が本当のマスターなんだな?」

 

「ええ。彼がセイバーのマスターです」

 

「そうか」

 

 魔王は港の地図を思い出し、彼の意図を測った。

 

「キャスター、近くにデリッククレーン、港を監視できる高い機械がある。そこを映せ」

 

 瞬く間に映像が切り替わり、そこには先日消滅して果てたはずのアサシンが陣取っていた。ミスリードを疑っていた魔王はさして驚かなかった。キャスターも同様であり直ぐに戦場の方に映像を切り替えた。

 

 セイバーとランサーの拮抗した戦いを見ながら魔王が口を開いた。

 

「キャスター、お前はこれからどうするつもりだ?」

 

「今はまだ打って出る時ではありません。魔力の貯蔵も不十分ですし今回は様子見に―――」

 

「温いな」

 

「コーヒーの話ですか?」

 

 言葉を切り捨てた魔王にワザとらしく言った。しかし当人は然して気にした風でもなく、

 

「相手が二流三流(アマチュア)ならともかく、あの男は超一流(プロ中のプロ)だぞ、そんな消極策を取っていては勝てない」

 

「それほどまでに脅威だと?」

 

「聞いた通りならと言う注釈付だが、真ならリスクを承知して攻めに転じるべきだ」

 

「真偽が定かでないなら慎重を期するべきでは、幸い私には陣地作製と言うスキルがあります。こと防戦においてはアドバンテージが ――――――」

 

「つまらん!そんな情報、敵も知っているだろう。なら対応策を練って来るのも必然、大した強味にならない。いいか我々(・・)は最初から圧倒的不利にある。魔術師でない俺は魔力の供給も敵のマスターを調べるコネもない。あらゆる物が不足している、悠長に構えてる余裕など微塵もないのだ」

 

 一度ならず二度も発言を切られ流石にムッとなるが魔王は構わず続ける。

 

「確かに物事にはそれを成すタイミングがあり、それを見定める事は重要だ。しかしそれと同様に優先順位を常に念頭に置いておく事も重要なのだ。お前の目的はこのゲ-ムに勝利して聖杯とやらを手に入れることなんだろう?」

 

「ええ、その通りです」

 

「ならば目の前の事に呑まれ優先順位の低いほうに固執し、高いほうを蔑ろにしては足元を掬われるぞ。勝ちたいなら詰まらないプライドに拘るはやめろ」

 

「魔術師の面目を捨てろと?」

 

 些か棘のある言葉にも魔王は臆さない。

 

「大事を成すなら小事に目を瞑るのは当たり前のことだ。まさか何も犠牲にせず全てを手に入れるなんてメルヘンを口にするのではあるまいな」

 

「あなたなら必ず勝てると?」

 

「それはお前の持つ情報次第だ。現段階では答えようがない」

 

 正直な魔王の言い分に少し溜飲を下げたキャスターに更に畳み掛けた。

 

「ああ。それと言っておくが、このゲームでの俺の目的は生きてこの冬木市を出ることだ。だから基本的にはここを動かず采配を振るうだけ、ぶっちゃけ言えば安全な所から指示するだけだ。まず、それを了承してもらう」

 

 元よりこの二人には共感はあっても仲間意識はない。共に命を賭け戦うなどと言うより遥に納得できるので、そこには反駁せずに慎重に言葉を選んだ。

 

「その為には、いくつか確認したいことがあります」

 

 水晶投影が再び衛宮切嗣を映し出す。

 

「あなたが態度を180度変えた理由は、この男と戦いたいからですか?それともこの男をそのままにしておいたら自分の命が危ないと考えたからですか?」

 

「両方だ。付け加えるならどちらも建前であり本音でもあるな」

 

 清々しいほどの即答、それを聞いたキャスターの心は決まった。

 

マスター(・・・・)、あなたも戦闘のプロであることは疑いません。しかしそれだけで無条件に従えるほど私はお人好しじゃない。従うのならそれに見合うメリットも求めさせて頂きます。もし見合わないと判断したときは・・・・・」

 

 言葉と共に殺気がこもるが魔王の態度は一向に変わらない。

 

「だから、きっちり値踏みさせていただきますよ」

 

「フッ、上等だ」

 

『我が名は征服王イスカンダル。此度の聖杯戦争ではライダーのクラスを得て現界した』

 

 戦場の方では新たなサーヴァントとそのマスターらしき少年が乱入して、おかしな展開になっていった。

 

「では早速情報の開示を始めよう」

 

 それを見つつもキッチリ話し合いを続ける。何とも器用な限りである。

 

「まずは君自身の事についてだ。現在までに集めた魔力で俺の指定する人間を操ったり周りに気付かれないよう工作するのをメインに使うとして、どの位の余裕がある?」

 

「その前提なら一週間は大丈夫ですが、戦闘は行わないので?」

 

「極力は避けるつもりだ。それでも不測の事態が起こり戦闘になった場合、どの様に対応する?」

 

 キャスターは歪な短剣を取り出し自らの宝具と魔術について、それらを組み合わせた戦術について説明した。

 

「では次に敵のマスター達について、どこまで分かっている?」

 

 キャスターは竜牙兵や探査魔術、今起こっている戦場、現界した時に得た聖杯戦争の知識から集まった情報を簡潔に説明した。

 

 セイバーのマスターは言うまでもなくライフルを構えた男―――衛宮切嗣であり、セイバーの後ろに居る女はダミー、また別所に潜んでいる同じくライフルを構えている小柄なボーイフィッシュな女も協力者であると思われる。彼らの拠点は冬木市郊外の森にある古城で森そのものが結界である。

 アーチャーのマスターは冬木の名家である遠坂の現当主であり、窓際に立っている映像を別に出した。現在、邸に居るのは彼一人であり、ずっと穴熊を決め込んでいる。

 ランサーのマスターは倉庫の屋根の上に居るデコの広い踏ん反り返った男。拠点は冬木ハイアット・ホテルの最上階で協力者と思われる女魔術師も滞在している。尚、この女性ランサーの魅了に掛かっており、本人も抵抗する意思が感じられないと言う。

 ライダーのマスターは、ついさっきサーヴァントと共に現れた少年。拠点は不明だが姿を現した以上すぐに突き止められる。現在、その少年はランサーのマスターに威圧されており、名をウェイバー・ベルベットと言うようだ。協力者が居るかどうかは不明。

 バーサーカーのマスターは、消去法から遠坂と同じく冬木の名家、間桐邸に出入りしているフードを被った今にも死にそうな男であることになる。邸には彼の他に二人と後一つ何かが居るようだが詳細は不明。

 最後にアサシンのマスターはガタイのいい神父で、サーヴァント脱落により冬木教会に保護されていることになっている。

 

 魔王が保護の(くだり)について質問すると、聖杯戦争には本来部外者である聖堂教会という組織が監督役を派遣し、戦闘の痕跡の隠匿やサーヴァントを失ったマスターが殺されないように保護しているのだと言う。

 マスターを失ったサーヴァントと再契約し戦線に復帰をする可能性があるから無力化だけでなく殺そうとするからだ。

 

 戦場の方ではライダーに続き、アーチャーがその直ぐ後に黒いオーラとフルプレートアーマーを纏ったサーヴァント――――バーサーカーが加わり一層張り詰めた空気が伺えた。

 

 それを見ながら、キャスターからの情報を検証しながら、魔王は現在時刻を確認し携帯電話とパソコンを取り出して指示を出した。

 

「キャスター、これから俺が指定する人間たちに暗示をかけに行け」

 

「戦いはまだ終わってないのに、何を始めるつもりで?」

 

「何度も言うが我々は圧倒的に不利な状況にある。この形成から逆転する為に主導権を手に入れる。だから行動は迅速でなければならない」

 

 そう言いながらパソコンからある資料を取り出し、携帯で人を呼び出していた。

 

 

 

 




 
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