ブラック・ブレット[黒の槍]   作:gobrin

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ひと月更新みたいになってる…。


誰だよ一週間で更新するとか言ってた奴。
俺だよ。


この作品にしては文字数がえらいことになりました。
すみません。




第九話

島に降り立った光と舞は、自分たちを運んできたヘリを見送りながら、待った。

 

「ふみゅう。見つけた」

 

「よ。そんなに遠くに降ろされてなくてよかったぜ」

 

「そうだね。和ちゃんも捜索ありがと」

 

民警たちはペア毎に島に降ろされ、それぞれ決められた区画をしらみ潰しにして影胤と小比奈を探す手筈になっていた。

 

「パパ、この後はどうするの?合流するのは決めてたけど」

 

そう。光たちはヘリの中で、和の高い索敵能力を応用して、ひとまず四人で合流することに決めていた。

 

「今日のリーダーは光だ。俺は付き添いでしかない。光、どうすんだ?」

 

「……少なくともこんなところに影胤さんはいないと思う。この辺りは視界が悪いからね。

近くの街に出よう。ガストレアは落ち着いてるから、極力音を立てないように」

 

「「「了解」」」

 

 

 

少し後に、大きな爆発音が島中に轟いた。

 

 

 

「みゅう。血の臭いがする。結構近い」

 

嗅覚がとても優れている和が異常を捉えた。

正確に言うと、かなり前から捉えていた臭いに接近したため報告したのである。

 

「さっきの爆発と関係があるのかな。和ちゃん、どっち?」

 

「みゅ。こっち、ついてきて」

 

和に案内されたところは、ガストレア対戦時に築かれた防御陣地(トーチカ)だった。

明かりが灯っていて、誰かがいるのは間違いないようだ。

 

「僕が行くよ」

 

「なら、あたしも……」

 

「大丈夫。ここで待ってて」

 

「……わかった。待ってる」

 

「光、警戒は怠るなよ。気を付けて行ってこい」

 

「わかってる。行ってきます」

 

光は長槍を構えながら、気配を断って近づいていった。

入り口の側で身を潜め、中の気配を探る。

 

(………中に一人。じっとしてる。恐らく光源は部屋の真ん中。揺らめきから見て焚き火。位置と距離的には優位とは言えないか。

まあ、このくらいなら何もさせないけど)

 

光は気配を断ったまま溜めを作り、飛び出した。

 

「動くな」

 

「ッ!!」

 

光は一瞬で相手に肉薄し、長槍を突きつけた。

相手はいきなり現れた光に何も対処できず、息を呑むことしかできなかった。

だが………。

 

「あれ?夏世ちゃん?」

 

「光………く、ん……?」

 

なんと、中にいたのは伊熊将監のイニシエーター、夏世だった。

 

 

 

 

「いやぁ、ごめんね。どんな人がいるかわからなかったから。驚かせちゃったね。はい、包帯巻き終わったよ」

 

「ううん、大丈夫です、ありがとう。初めまして、皆さん。

私は千寿夏世。伊熊将監のイニシエーターをしています」

 

光が謝った後、初対面同士の自己紹介が始まった。

包帯というのも、夏世が怪我をしていたためである。獣にやられたのか、傷は大きな歯形に抉られていた。

 

「あたしは立花舞。光のイニシエーターで光の双子の妹。よろしくー」

 

「ふみゅ。和は穏田和。ここにはいない人のイニシエーター。

今回は社長に臨時でペアを組んでもらってる」

 

「俺のことは覚えてるかもしれねえな。『立花民間警備会社』社長、立花樹だ。

和の言ったように臨時のプロモーターだ。民警ライセンスは持ってるから安心してくれ」

 

「ねえ、お父さん。なんで毎回ちゃんとした人を演じるの?

いつものちゃらんぽらんな感じを出せばいいのに」

 

「………あのな、光。俺にも威厳って物がな」

 

「基本ないじゃん。無理してると後々キツくなるよ?」

 

「………光は俺に恨みでもあるのか?」

 

「別に。ただいつも威厳出してる人だと近づきづらいよ。僕たちにますます嫌われたいの?」

 

「それは嫌だ!今でさえ尊敬の度合いが低いのに……」

 

「うるさい。なら真面目な戦闘の時だけキリッとしてればいいんだよ」

 

「しくしく」

 

「………ふふっ」

 

光と樹がコントをしていると、夏世から小さな笑いがこぼれた。

 

「……やっと笑ってくれた」

 

「え?あ、私ったら……」

 

「いいんじゃない?あまりにも暗い顔をしてるよりは―――」

 

「?どうし――」

 

「しっ」

 

不自然に会話を切った光を怪訝に思い、何があったか聞こうとした夏世を光が遮った。

指を口に当てて、『静かに』のジェスチャーもしている。

 

(人の気配だ。裏手から入ってくる奴は僕とお父さんが。前から入ってくる奴は、舞と和ちゃん、頼むね)

 

(((了解)))

 

アイコンタクトだけで今の指示を交わしあう光たち。

夏世はアイコンタクトが理解できずキョトンとしている。

 

(タイミングは……3、2、1、ゴー!!)

 

光は指を三本立てて一本ずつたたんでいき、相手の飛び出すタイミングに合わせて迎え撃った。

 

「動くなぁッ!?」

 

「動くな。……ってなんだ、里見先輩か。つまりそっちは延珠ちゃん?」

 

「うん、延珠だった」

 

突入しようとしてきたのは、蓮太郎と延珠だった。

 

「蓮太郎!大丈夫か!?」

 

「ああ、俺は大丈夫だが……」

 

「すみません、里見先輩。誰なのかわからなかったので念のためだったんですけど……」

 

「ああ、気にしないでいいけどよ。タイミングが完璧だったな。どうやって俺たちに合わせたんだ?」

 

「え?気配ですけど。里見先輩、わかりやすかったですよ。呼吸音は抑えないと」

 

「………そうか。ところで、そいつは………光が飴あげてた奴か?」

 

「はい。千寿夏世といいます、伊熊将監のイニシエーターです。

あなたは、里見蓮太郎さん……であってますか?」

 

「おう、俺は里見蓮太郎。そいつは俺のイニシエーターの藍原延珠だ」

 

「うむ!藍原延珠だ、よろしくな!」

 

「よろしくお願いします」

 

「さて、そろそろその怪我の原因を聞きたいんだけど……。

どうせあの爆発が関係あるんでしょ?」

 

光は聞こうと思っていたのにタイミングが合わなかった質問をやっとこさ繰り出した。

 

「………はい、実は――」

 

 

 

 

 

 

 

「ふうん。それは大変だったね」

 

「はい。将監さんともはぐれてしまいましたし」

 

夏世の話によると、森の中に短く点滅する明かりを確認し、他の民警だと思い近づいたら、その光を発していたのはガストレアだった。

それは植物の因子も持ったガストレアだったのか、腐臭も放っていた。

それは夏世たちが近づいてきたのを見て、歓喜を表すかのように震えたという。

その行動に恐怖を覚え、咄嗟に榴弾を使ってしまったそうだ。

そのせいで森のガストレアが起きだし、逃げる途中で腕を噛まれた上に将監ともはぐれたらしい。

 

「そうだったのか……。俺たちもあれのおかげで近くにいたでかいのに襲われて大変だったぜ……」

 

蓮太郎が遠い目をして呟く。そうとう大変だったことが伺えた。

 

「すみません。頭ではわかっていたのですが………」

 

「ま、やっちゃったものはどうしようもないから。ところで、夏世ちゃんのモデルは?」

 

光は空気を変えるためにも話題を変えることにした。

 

「そういえば言ってませんでしたね。私はイルカの因子を持っています。

特徴として、通常のイニシエーターより知能指数(IQ)と記憶能力が高いですね」

 

「ああ、それで銃器を武器にしてるのかな?身体能力がそこまで突出しているわけではないから」

 

「はい。他の因子を持つイニシエーターに比べて得意な攻撃というものが特にありませんから。

将監さんと組んでいるというのも理由ですが」

 

「……なるほど。確かに脳筋っぽかったね、あの人」

 

「それは同感だ。で、お前らは何の因子を持ってんだ?」

 

蓮太郎が舞と和に水を向けた。

 

「あたしはカンガルーだよー」

 

「みゅ。和はシャーク」

 

「シャ、シャーク?全然ぽくねぇな……」

 

「延珠はどうなの?」

 

「ん?妾か?妾はモデル・ラビットのイニシエーターだぞ!」

 

「……うん、なんかすごくしっくりくる」

 

「みゅう。納得」

 

 

そこで、会話が一旦途切れた。

 

そしてその直後、夏世の傍らに置いてあった機械から音声が流れてきた。

夏世がすぐさまそれに付いていたつまみを回す。

どうやら無線機のようで、徐々に鮮明な音を伝えてくる。

 

『………い………おい!生きてんだったら返事しろ!』

 

夏世がすかさず全員に目配せする。

喋るな、という意味を汲み取り、頷きを返した。

 

「音信不通だったのでご無事なようで安心しました、将監さん」

 

『たりめぇだろうが!それよりもだ。いいニュースがあるぜ』

 

そこで将監は勿体ぶるように言葉を切ってから続けた。

 

『仮面野郎を見つけたぜ』

 

この場にいる面々に緊張が走る――と思いきやそうでもなかった。

蓮太郎と延珠は緊張感を露わにしていたが。

 

『場所は海辺の市街地だ。近くにいる民警総出で奴を奇襲する手筈になってる。報酬は山分けだってよ、お前も早くこいよ』

 

言いたいことだけ言って、将監は一方的に通信を終えた。

 

それを聞いた全員が移動の準備を始めた。

夏世が荷物を畳み、焚き火を踏み消して準備が完了した。

 

「夏世ちゃん、腕は大丈夫?」

 

「うん、もう大丈夫。ほら」

 

光が念のため尋ねると、夏世は腕の包帯を解いてみせた。

傷は既に塞がっていた。ガストレア因子を持つ者の回復能力は、常人のそれとは比較にならない。

 

「じゃ、行こうか」

 

 

 

 

 

午前四時。

 

トーチカを出た光たちは、街を見下ろせる広場まで来ていた。

 

明かりなどがないか見渡すと、教会のような建物だけ明かりが灯っている。

全員がそれを確認した直後、戦闘音が響き渡った。

 

「始まったな」

 

「蓮太郎ッ!!」

 

「ああ、俺たちも行くぞ!」

 

「その前に。―――立花流槍術一ノ型二番―――」

 

勢いづく蓮太郎たちとは逆の方向に進み出た光が、立花流槍術の構えを取った。

 

「何をッ!?」

 

蓮太郎が振り返ったのと同時に、今歩いてきた道からガストレアが飛び出してきた。

ぎょっとする蓮太郎を尻目に、光の技がガストレアを迎え撃つ。

 

「――『新月』」

 

スパンッと高い音だけが聞こえ、ガストレアが吹っ飛んだ。

何が起こったか視認できた者は、一人しかいない。

 

「ほう。やっぱ『新月』は完璧だな、光は」

 

理解できた者は、さらに二人。

 

「うわ〜!光が『新月』使ってるの久々に見たな〜」

 

「ふみゅう。やっぱり速くて見えない」

 

 

『新月』は、長槍を使った純粋なカウンター技だ。連結長槍を使ってもできる。

相手の攻撃に合わせて、視認も侭ならないような速度で槍を振り抜く。ただそれだけである。

 

今樹が言った完璧、というのは以前説明した立花流槍術の特徴が関係している。

以前言ったように、立花流槍術は全ての技を使えるようになると一段と見なされ、そこから技の習熟度によって昇段していく。

光は『新月』を樹たち免許皆伝者と同レベルで扱えるため、『新月』が光の昇段に貢献している。

そのため樹は、光の『新月』を完璧だと評したのだ。

 

ちなみに、同レベルとは言っても使い手によって差は存在する。

純粋に『新月』の技量だけなら、光の方が樹よりも上だ。

しかし経験の差か、使うタイミングなど他の観点をふまえて総合的に評価するなら、樹の方に軍配があがる。

ついでに言うと、縁は単純な技量でも総合的な判断でも、光と樹を上回る。

厳は言わずもがなだ。

 

 

「さて、周りにはガストレアがいっぱいだが?どうするんだ?」

 

樹が光に問いかける。

今はお前がリーダーなんだから、お前が決めろと言うように。

 

「夏世ちゃんは、どうするの?」

 

「私は残るよ。誰かが食い止めないといけないだろうし」

 

そう言うや否や、夏世は予備弾倉を地面に並べ始めた。

 

「わかった。なら指示を出すよ。

舞と和ちゃんは、ここに残って夏世ちゃんと協力してガストレアを食い止めて。

お父さんも念のためこっちのサポートよろしく。基本的に夏世ちゃんのフォローで」

 

「任せて!」

 

「みゅ」

 

「了解だ」

 

状況を把握し、戦力を振り分ける。

足止め組が余剰戦力な気がしないでもないが、気にしない。

 

「僕は里見先輩のフォロー。何か起こらないとも限らないからね。

終わったら戻ってくるよ。夏世ちゃん、指揮を頼んでもいい?」

 

「……わかった。こっちは任せて」

 

「うん。お父さんがいるから大丈夫だと思うけど、引き際はしっかりね」

 

「うん」

 

「よし。行きましょう、里見先輩」

 

「あ、ああ」

 

光は蓮太郎と延珠を促して、街に向かって走り出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、流石にここからは真面目にやらないとな。

舞、和、夏世ちゃん。来るぞ」

 

「うん、パパ!」

 

「みゅ!」

 

「はい」

 

三人が力を解放する。

 

「お前らが敵を殲滅、夏世ちゃんが取りこぼしの排除、俺が夏世ちゃんの護衛兼最終防衛ラインだ。

指揮は状況が変わる度に夏世ちゃんがやるってことでよろしく」

 

「わかったよ!」

 

「ふみゅ。社長の言うことに従う」

 

「私も異論はありません」

 

 

そして舞と和が勢いよく飛び出した。

 

「最初っから飛ばしてくよ!立花流槍術二ノ型一番!『双頭之龍撃』!」

 

舞の目にも留まらぬ連撃が舞の前方に存在するガストレアを蹴散らしていく。

 

「みゅふふふふ〜!」

 

和はにこにこしながらトンファーをものすごい勢いで振り回し、ガストレアを肉塊に変えていく。

 

「…………」

 

夏世は黙々と弾幕を張り、舞と和が処理しきれなかったガストレアを駆除している。

 

「ふわぁぁああ〜」

 

樹は夏世の横で暇そうに欠伸を漏らしていた。

まあ、ガストレアは舞と和が粗方葬っている上、夏世が残りを完璧に打ち取っているのが原因で、樹には仕事が回ってこないため暇だと感じても仕方がないと言えば仕方がない。

最も、最終防衛ラインに簡単に仕事が回るようでは困るが。

 

 

「………樹さん、お聞きしたいことがあるのですが、よろしいですか?」

 

「ん?別にいいぞ、なんだ?」

 

ガストレアに油断無く銃弾をばらまきながら、少し余裕ができたので夏世は聞きたかったことを聞くことにした。

今までは舞や和、延珠が側にいたため、話題にする事が憚られたのだ。

 

「…………貴方は、イニシエーターのことを道具だと思っていますか?」

 

何となく予想できていたことを聞かれて、ふと樹は舞と和に目を向けた。

 

「どんどん行くよー!立花流槍術二ノ型三番『十字創』!」

 

「みゅふふふふ〜!駆除駆除駆除〜!」

 

樹は、こんな戦いの中にいて辛そうな、感情を殺した顔をしていない彼女たちを見て、心が荒んでいないことを嬉しく思った。

 

「俺はそんなこと間違っても思わねえよ。伊熊将監はそういう考え方の奴ってことか?」

 

「………はい。将監さんは私のことを殺すための道具以上の存在としては見ていません」

 

「はぁ………」

 

予想通りすぎる答えが返ってきて思わずため息をついてしまう。

 

「予想通りだが。その発言、絶対に光の前でするなよ」

 

今までとは違い、どこか真剣味が増した声音でそんなことを言ってくる樹に怪訝な顔をする夏世。

 

「光君ですか?彼はそういう考え方があることを許容していると思っていましたが」

 

「全然違う。あいつは『呪われた子供たち』のことを第一に考えて行動してる。

あることは理解しているが、許容なんて全くしていない。むしろ潰す気満々だ。

だから光の前で絶対にそのことは言うな。伊熊将監を殺しに行きかねない」

 

「………何と言うか、歪ですね。綺麗ごとを言っている割に、自分の手を汚すことを厭わない、ですか」

 

「ああ、歪だ。あいつは色んな意味で歪んでる。あんなことがあったんじゃ、しょうがないとは思うけどな」

 

その台詞で、夏世は何かあったことを察した。

 

「………そうですか。でも彼の瞳は澄んでいて、人殺しなどしたことはありそうにないのですが………」

 

夏世の言葉に、樹はある程度納得する。

 

「そりゃ、あいつがそういう風に振る舞ってるからな。あいつと軽く関わったくらいで、それを見破れる人間なんてほぼ皆無だろう。

そしてそれを他人に悟らせないから、光は歪んでるんだ。あいつの感情制御は一級品だからな。

基本的にあいつは感情をわざと露にしてるんだ。光が普通に感情を隠そうと思ったら、俺でもその機微を読み取れるかわからん。

んで、その口ぶりだと、夏世ちゃんは人を殺したことがあるんだな?」

 

衝撃的な内容に、夏世はしばしの間言葉を失う。

無意識に弾幕は張っていたが、樹の質問に答えられたのはガストレアを五体程殺した後だった。

 

「……あ、はい。今までに二回……」

 

その回答を聞き、樹はどう言ったものかと頭をかきながら思案する。

 

「ん〜とだな。そのとき、恐怖を感じたか?」

 

「……はい。怖かったです。手が震えました」

 

「なら、その感情は忘れちゃダメだ。やむを得ない状況もあるだろうから、殺すなとは言わない。

だが、絶対に殺人に慣れるな。じゃないと歪んじまう。

………ま、俺は人のこと言える立場じゃないんだがな」

 

そう言って、樹は自嘲気味に笑う。

その妙に哀愁漂う雰囲気に、戸惑う夏世。

だが、夏世が何か声をかける前に、樹の携帯が鳴り響いた。

 

「っと、電話か。相手は……光?どうしたんだ?

ほい、もしもーし」

 

まさか、もう影胤を倒したとかじゃないだろうな、と気楽に電話に出た樹だったが。

 

「なに!?本当か、それ!?」

 

その余裕は、一瞬で吹き飛んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時は少し遡り、光たちが街に向かって駆け出した直後。

 

「里見先輩、影胤さんと戦うとき、どうします?」

 

「………すげぇ勝手な言い分だと思うが、俺たちだけでやらせてほしい」

 

少し悩んでから、蓮太郎は正直に言うことにした。

その言葉を受けて、光はわかっていたかのように頷いた。

 

「里見先輩ならそう言うと思ってましたよ。リベンジしたいんでしょう?」

 

「ああ。自分勝手なのはわかってっけどな」

 

「いいですよ。でも、これはもうダメだってなったら介入しますからね」

 

「おう、それでいい」

 

それで会話は途絶えた。

周りにガストレアの姿はない。

民警たちが影胤に奇襲をかけたはずだから、当然と言えば当然だが。

 

 

状況は、街に入った後建物の間を縫うように進んでいた一行が、一旦広い道路に出たとき急変した。

 

その異変に気がついたのは、光だった。

 

「………ッ!?里見先輩、延珠ちゃん、危ない!」

 

駆ける速度を上げて一瞬で蓮太郎たちに追いつくと、長槍を投げ捨ててから二人を思いっきり突き飛ばした。

 

「うわっ!?」

 

「ぬおっ!?」

 

急に突き飛ばされた二人は、回転受け身を取って何とか衝撃を和らげる。

光は二人を突き飛ばした勢いで自分の勢いを殺すどころか、反動で後ろに飛び退りさえした。それだけの力で二人を突き飛ばした。

 

「おい、光!何すん――」

 

すぐさま起き上がった蓮太郎が、抗議の声をあげた。

否、あげようとした。

だがその言葉は、上空から光と蓮太郎の間に降ってきた生物によって遮られた。

正確には蓮太郎が驚いて声が出せなかっただけなのだが。

 

二人を突き飛ばした光は何かが迫っていることを把握していたため、すぐに指示を飛ばすことができた。

 

「里見先輩と延珠ちゃんは、早く行って!この状況なら、僕が何とかする!」

 

「で、でも、こんなでかいガストレア、一人でなんて……」

 

「早く!!影胤さんにリベンジするんでしょ!?どの道僕はもう囲まれてるからすぐには行けない!

里見先輩たちは無事なんだからさっさと行くべきだ!お願いだから、早く!」

 

光は短槍二本を取り出し、繋げて連結長槍にして構えをとる。

光の言葉通りに、光はすでに囲まれていた。

光と蓮太郎の間に出てきたガストレアの他に、後ろにも新しいガストレアがいて、さらには上空にも一匹いる。

 

光の切迫した叫びを聞いて、蓮太郎たちは光を置いていくことを心に決める。

 

「……わかった。すまねぇ、ここは頼んだぞ!終わったら助けにくる!行くぞ、延珠!」

 

「う、うむ!」

 

そんな言葉を投げかけて走っていった蓮太郎を見て、光は苦笑を浮かべる。

 

「そんな甘い相手じゃないと思うな………。

……………ッ!?」

 

そこで、光は違和感に気づいた。

 

(何故だ!?何故こいつらは里見先輩を追わない!?ガストレアなんて無差別に人を襲うだけの存在だ!

それなのに、こいつらは里見先輩に見向きもせず、ボクを狙っている。ってことは……!)

 

光は連結長槍を油断無く構えながら、袖口のマイクの側に付けているボタンを殴るかのように押す。

 

いま光が押したボタンは、緊急連絡用の樹に連絡を取るボタンだ。樹の携帯に電話をかける設定になっている。

 

(今も、ボクの構えを見て無闇に襲いかかっては来ない。隙を探ってる。やっぱりこれは……)

 

『ほい、もしもーし』

 

イヤホンから樹の声が聞こえるや否や、光はマイクが声を拾えるように怒鳴りつけるかのように声を発した。

マイクに口を近づけて会話できる隙などない。

 

「お父さん!変なガストレアが出てきた!

もしかしたら()()()()と関係あるかもしれない!!」

 

『なに!?本当か、それ!?』

 

「うん。里見先輩には見向きもしなかった。

その上、どこから来たのかもわからない。

ボクが気配に気づけたのは、襲撃かけられてからだった。

念のためだけどお父さん、ガストレア三体に抜かれた記憶は?」

 

光はこの会話中もずっと三体のガストレアを警戒している。

 

『んなもんあるわけねぇだろ。俺はやることはやるぞ』

 

「だよね。ボク、そこはお父さんを信頼してるから。

ということはつまり、こいつらはどこかに潜伏していて、()()()狙っていたことになるね」

 

『念のため、襲われたときの状況を詳しく教えてくれ。その余裕はありそうか?』

 

「それくらいならなんとか。こいつら、かなりボクを警戒してるから。

街の中で広い道路にでなきゃいけない状況になったんだけど、そこを狙っていきなり上から降ってきた。

一体はボクの前進を妨げるように。もう一体はボクの後退を防ぐのが狙いみたい。最後の一体は上への撤退を阻止する役割っぽい」

 

『…………そうか。一人でやれそうか?』

 

「うん。これくらいなら大丈夫。もしかしたらそっちにも出るかもしれないから、お父さんはそっちにいて」

 

『……わかった。なら最後に言っとくぞ。―――調べるから肉の破片くらいは残しとけよ。

それだけ気を付けてくれれば何をしても構わない。俺たちの怒りの分も頼んだぞ』

 

「――了解。木っ端微塵にはしないように頑張るよ」

 

『任せた』

 

通話が切れた。

 

 

ここで初めて、光は三体のガストレアをよく観察した。

 

光の前にいるのは、ゴリラがベースだと思われる個体。

ゴリラにしても異常な程、筋肉がついている二本の腕。

さらに肩から分かれて蟷螂の腕だと思われる物も生えていて、かまの腕が上になっている。

足は恐らくカンガルーのものなのだろう。見るからに健脚だ。この脚力でここまで跳んできたんだろう。

加えて何故か蠍の尾のようなものまで伸びている。確実に毒持ちだろう。

 

後ろにいるのは、蜘蛛だと思う。多分。キモすぎて詳しい分類はよくわからない。

蜘蛛の要素は、太い脚が八本あってそれが蜘蛛と同じように胴体についていることのみ。

背には蜻蛉の翅が四対生えているし、牙は肉食獣のそれだ。

こいつにも尻尾が生えていて、爬虫類を連想させる。

 

上にいる一体は鳥……だと思う。光には全然自信がないが。

骨格は鷹などの猛禽類の物と酷似している。鋭い爪を備えた足も同様だ。

だが、それだけだ。翼はファンタジーに出てくるドラゴンのような感じだし、頭は完全に鰐だ。身体は鱗に覆われていて、中々に硬そうだ。

そして、尾羽?があるべきところには、蜂の針だろうか。それが付いている。

大きさがあまりにも巨大なため、ぱっと見はドリルにしか見えない。

 

どれもかなりの大型だ。この混ざり具合から見ても、ステージⅢは堅いだろう。Ⅳの可能性もある。

 

 

「さて……。お前らどうせ、()()()()と関係あるだろ?全員毒持ちみたいだし。

ということは、ボクたち一家の恨みの対象なわけだ。―――容赦はしない。覚悟しろ」

 

光が殺気を全力で解き放つ。

それに恐れを成したか、ガストレアが警戒をかなぐり捨てて雄叫びをあげながら光に襲いかかる。

光の眼が、一瞬赤く輝いたように見えた。

 

 

 

光との通話を終えても、樹の表情は険しいままだった。

 

(………今回、俺たちがこの作戦に参加したのを知っている奴はどのくらいいる?

聖居にいる奴ら。政府の奴ら。それと民警会社が多数。パッと思いつくだけでもかなりいる。特定は難しいか。

だが、少なくともここに()()を送り込む手段を持つ奴だ。それと恐らく比較的大きな研究所と関わりがある奴。

とはいえ、ここに送り込む方法はいくらでもある。取りあえず、光が残すだろう肉片を調べる他ないか)

 

そのとき、街の方角から強烈な殺気が飛んできた。

それを感じ取ったのだろう。ガストレアは怯えたのか動きが単調になり、先ほどより簡単に舞たちがガストレアを骸に変える。

 

(俺はお前の冷静さを信じてるから大丈夫だとは思っているが……。絶対に無茶はするなよ、光)

 

樹は、街で戦闘を開始したであろう光の身を案じた。

 

 

 

 

光はガストレアが三体とも襲いかかっているのを気配で捉え、相手の移動速度と自分との相対距離を鑑みて、どの順番で攻撃を仕掛けてくるのか瞬時に把握した。

 

(後ろ、上、前!)

 

蜘蛛が太い八本の脚が生み出した突進力と四対の翅が生み出す推進力を存分に活用し、いの一番に突っ込んでくる。

鷹が力強い羽ばたきと自身の重量を活かして大迫力の急降下による突進を敢行する。

ゴリラが脚に溜めた力を爆発させ、三体の中では一番のスピードで突撃してきている。

スタートが遅れたため一番最後の攻撃となったが、勢いを全て乗せた右腕のパンチでこちらを殴り潰そうとしているらしい。

この攻撃をもらえば、イニシエーターでも一撃で肉片すら残さず殺されるだろう。

 

三方向からの脅威に全く動じずに、光はこの状況に最適な技を使うために目を閉じて心を静めた。

 

「立花流槍術三ノ型一番」

 

「「「グオォォォオオオ!!!」」」

 

光の高い声が、静かに響き渡る。自然な動作で、スッ……と連結長槍を構える。

ガストレアたちが怯えをごまかすかのように大声で吠えて攻撃を仕掛ける。

 

「―――『分水嶺(ぶんすいれい)』」

 

直後、激しい爆発音が轟き、光の姿が爆風によって巻き上げられた砂で見えなくなる。

 

 

数秒経って砂煙が晴れたそこには、身体の向きを百八十度入れ替えた光が無傷で立っていた。

一方、攻撃を仕掛けたガストレアはというと―――。

 

「…………ふぅ、中々の威力だったな。思ったより大変だった。

しかももう回復が始まってるのか。大した物だね」

 

目を開けた光が見たのは、傷だらけになりながらも回復が始まっていた三体のガストレアだった。

今の光から見て後ろから迫っていたゴリラは、光の正面で、大破した街の建物の瓦礫を被りながら砕け散った右腕を再生させていた。

光の横手では、その地点を陥没させ粉砕し、広範囲をひび割れさせた鷹が破れきった翼と損耗が酷い身体を回復させながら埋まってしまった地面から脱出しようとしていた。

光が後ろに視線を送ると、蜘蛛がゴリラのパンチで消し飛ばされた右半身を再構築しながら、糸を吐き出して体勢を立て直していた。

 

 

こんな状況になったのは、もちろん光の使った技が原因だ。

 

『分水嶺』。それは、受け流しの極地。

 

化け物であるガストレアといえども、一応は生物だ。

生物をベースにしている以上、どんなに規格外な使い方をしようとも、筋肉の動きというものが存在する。

『分水嶺』は、心を静めてその動きを観察と感覚で読み取り、それができる最小限の力で受け流す技だ。

先ほど光は、蜘蛛を受け流してゴリラにぶち当て、鷹は近くに墜落されると自分も被害を受けるので少し強めに力を加えて遠くに放り出し、蜘蛛を殴って拳が砕けたとはいえ十分強力な図体で突撃をかましてくるゴリラを建物に衝突するように方向を逸らしたのだ。

ちなみに光は、『分水嶺』も完璧だ。しかも、この技では光が家族で一番である。

技量も、使用判断を含めた総合評価も、厳を含む一家の全員を上回る実力なのだ。

 

 

「バラニウムによる負傷じゃないとはいえ、この速度で回復できるのはすごいけど………。

今回は容赦はしないと決めてる。さっさと死ね」

 

光はそう呟いて、連結を解除して装備を二本の短槍に戻した。

即座にそれを鞘にしまい、構える。

 

「立花流槍術二ノ型三番『十字創』」

 

視認も侭ならない速度で振り抜く。

すると、瓦礫に埋まっていたゴリラの再生した腕も含めた右腕二本が千切れ飛び、ゴリラの顔と胸にも深い切り傷が刻まれた。

 

『十字創』は基本は短槍二本を十字に振り抜くだけの技だが、鞘にしまうと技の本質を変える。

基本はただの二連撃。だが、鞘のしまえばそれは、居合い切りとなんら変わらない。

槍の振り抜く速度は跳ね上がり、この技はX字の斬撃を飛ばす技に早変わりする。

しかも、バラニウム製の武器で斬撃を飛ばすとその性質が乗るのか、ガストレアの回復をしっかりと妨げる。

 

 

ところで、立花流槍術の型は使用する武器によって分類されている。

一ノ型は普通の長槍を使う型だ。ただ、連結長槍でもやりづらいというだけで出来なくはない。

二ノ型は短槍二本を使う型である。

言うまでもなく三ノ型は連結長槍を使う型だ。三ノ型は槍の両端を用いる技が多い。というかそれしかない。

 

そして、光と舞は二ノ型は全て完璧に仕上げている。

舞は基本的に短槍で戦うし、使うとしても連結長槍までだ。しかも一ノ型もそれで事足りるため、舞は装備の軽さを重視して短槍二本の装備で戦っている。

光は長槍、短槍、連結長槍を比較的満遍なく扱えるが、やはり乱戦になると短槍の方が小回りが利く。

結果として光も短槍は頻繁に使うが、基本装備は長槍一本と短槍四本だ。

長槍を持っておけば連結させる手間なしに一ノ型を使えるし、短槍の予備があると様々な状況に対応しやすい。

 

 

そして、今回もこの装備が功を奏した。

 

斬撃を飛ばし終えた短槍二本を勢いに逆らわずに頭上にリリースし、すぐさま予備の短槍を掴む。

 

「もう一発。立花流槍術二ノ型三番『十字創』」

 

再び光の手が動く。

ゴリラの左半身も右側と同じ末路を辿る。

これでゴリラはしばらく脅威になり得ない。

 

「先に処理するのはお前だ!立花流槍術二ノ型五番『一気通貫』!」

 

光はすぐに後ろを向くと、最初から一番に倒すと決めていた蜘蛛に対して突進技を仕掛ける。

左の短槍でブースト、右の短槍で蜘蛛を貫く。

そのまま貫通して蜘蛛の吐いた糸を切断しつつ、蜘蛛の方に向き直る。

 

光に貫かれた以外に既に外傷が見られないガストレアの再生力に驚嘆しながら、続けて攻撃を仕掛ける。

 

「立花流槍術二ノ型三番『十字創』!」

 

蜘蛛の顔に十字の傷を刻み付け、行動不能にする。

敵が他にいなかったらとどめを刺すのだが、そこまでの余裕はさすがにない。

 

素早く連結長槍にして、回復して上空から突撃をかけてきた鷹を迎え撃つ。

 

「立花流槍術一ノ型二番『新月』!」

 

長槍を使ったときに比べると劣る速度かつ少々ぎこちない動きで、それでも視認に難があるレベルで鷹を跳ね上げて追撃を狙う。

地に伏した蜘蛛を踏み台にして高く跳躍。その途中で連結を解除しつつ左の短槍に予備のカートリッジを叩き込み声を張り上げる。

 

「立花流槍術二ノ型二番『大車輪(だいしゃりん)(ごく)』!」

 

そのとき光は両腕を前後に突き出して短槍を腕に対して直角になるように水平に構えていた。

下から見れば、角張ったS字に見えたことだろう。

その構えでタイミングを計っていた光は、ここだと思った時に声を張り上げると短槍に付いているボタンを同時に押した。

爆発的な推進力を生むような火力のものを、空中で自分を中心にして対称の位置で逆向きに使ったらどうなるか。

 

―――簡単だ、回転する。

 

通常、『大車輪』は空中で回転しながら二槍を振るうだけの技だ。

しかし、ブーストを使える二ノ型では、技のドーピングが可能だ。

ブーストした技は、『極』の名がつく。

 

尋常ではない速度で回転しながら、まだ空中で体勢を立て直すに至っていない鷹のガストレアに向かって突き進む。

その触れるもの全てを切り刻むと言わんばかりの状態で鷹のガストレアをズタズタにする。

光が着地した時には、鷹はすでに地面に墜落していて虫の息だ。

 

これで残す所はゴリラ一体のみ。

と言っても、ゴリラができることといえば健脚を使って蹴るか、蠍の尾で刺すくらい。

光の相手ではない。

 

ゴリラに向かって駆け出した光は、先ほど投げ上げた短槍を走りながら回収する。カートリッジを使ってしまった短槍はすでにしまってある。

ゴリラの攻撃範囲に入った途端、ゴリラは必死に抵抗してきた。

蠍の尾を連続で突き出してくるが、光は物ともせず斬り飛ばす。

 

「立花流槍術二ノ型三番『十字創』」

 

蠍の尾を犠牲に隙を作って力を溜めたのか脚力を使って突進してくるが、最初のような威力はない。

 

「終わりだ。立花流槍術二ノ型一番『双頭之龍撃』」

 

一瞬で蜂の巣になるゴリラ。

戦闘は終わった。

 

 

 

 

 

「…………よし、反撃はないな」

 

武器を連結長槍に変え、最後の悪あがきがないか警戒していた光。

しばらく待って三体とも反撃できるような体力が残っていないことを確認すると、ガストレアにまとめてとどめを刺すために力を溜める。

 

「これ、時間がかかるのが難点だよな……。最近覚えたばっかだから余計に……」

 

愚痴りながらも連結長槍を身体の横につけて徐々に力を溜めて完璧な状況へ近づけていく光。

 

 

 

 

 

―――そして、ついにその時が来た。

 

「――よし、行くぞ。立花流槍術三ノ型奥義『百花繚乱(ひゃっかりょうらん)』」

 

溜めた力を解放し、身体の捻りを戻すのも利用して連結長槍を百八十度以上回転させる。

その結果、スパンッ!と高い音を残して衝撃波が水平に飛んでいき、ガストレア三体を上下に分けた。

衝撃波の余波で周囲の建物のコンクリートの破片やガラス、瓦礫が巻き上げられ吹き飛ばされる。

その光景はさながら、多少風情がない桜吹雪と言うようなものだった。

 

 

――立花流槍術三ノ型奥義『百花繚乱』。

溜めに時間がかかるため実戦には向かないものの、時間をかけている分連結長槍の旋回速度は『新月』の比ではない。

 

立花流槍術の奥義は、その型の技を完璧に仕上げた場合に教わることができる技だ。

その型の技の技術を組み合わせて作った物が奥義なので、技を手足のように扱えるなら教わった直後に放てるようにはなっている。

 

 

「ふぅ、終わった。早くお父さんに合流しよ――」

 

その瞬間、光の身体を嫌な予感が駆け抜けた。何故かはわからない。

だが光は、その直感に従って少し慌てながら連結長槍を構える。

 

「立花流槍術三ノ型四番『斬渦牢(ざんかろう)』!」

 

カッ――――ドォォォオオオン!

 

光が本能の命ずるままに技を使ったのと同時に、それは起こった。

完全に絶命したガストレアの身体がほんの一瞬膨張したかと思うと、突如爆発して身体を欠片も残さずに消し飛んだ。

三カ所からの爆風が光に襲いかかるが、『斬渦牢』で何とか凌ぐ。

 

 

『斬渦牢』は、連結長槍を振る軌道で自分を中心にした半球状のドームを描き、多方向からの攻撃に対応する技である。

『分水嶺』で捌けないような攻撃を防いだり、同時に攻撃する時に使うのだ。

 

 

――だが、いくら光でも無傷というわけにはいかなかった。

と言っても、身体が多少切れて血が流れているだけで抑えたのだから流石だが。

 

「くそっ……。今のは自爆だよね……。でも、どうやって…?

………ま、一人で考えててもしょうがない。早くお父さんのところに戻ろう。心配させてるかもしれないし」

 

 

呟くというより吐き捨てるという表現が適切な態度でそう言うと、光は舞たちが戦っているはずの広場に向かって走り出した。

 

 

 




読んでいただきありがとうございました。

あと一話書いて、原作一巻の内容は終わります。
書く時間がないのが恨めしい。

感想、意見、批評、質問その他、お待ちしております。


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