僕ってこんなに忙しかったんですねorz
頭の中に構想はあるのに形にする時間のない悔しさ(笑)
今日ならなんとか時間取れるかも?
ってことで頑張ります。
翌日。
光たちが学校に着いたとき、なにか空気が変だった。
何が、とハッキリ言うことは出来ないが、なにかが変だった。
「なにかあったの?」
光は近くにいたクラスメイトに尋ねた。
「わたしも今来たところだからわかんない」
「そっか、ありがと」
原因がわからない者もいるようだ。
だが、この一部の者から発されているのは、恐れや怯え、その他もろもろの負の感情だ。
それを光たちは鋭敏に感じ取っていた。
向けられている対象は、延珠だと思われる。
光は、昨日の大人たちが発していた気配と似たものを感じ取り、とてつもなく嫌な予感に駆られた。
「ねえ、光………」
「大丈夫。僕が何とかするよ」
舞の不安を受けて、光は力強く頷く。
光は自分の家族を悲しませたくないのだ。
「さ、授業が始まる。席に着こう」
「……うん」
「……みゅ」
光に声をかけられ、舞と和は不安げな表情を残しながらも、席に着いた。
光が感じた負の感情の原因は、『延珠が『呪われた子供たち』なのではないか』という噂がどこからともなく立ち上がったことによるものだった。
光がそれに気づいたのは二時間目が終わった後。
その直後から光は頭を働かせていた。
(何故だ!?何故延珠ちゃんが『呪われた子供たち』だとバレた!?
……いや、落ち着こう。この噂の感じからして、バレたわけじゃない。疑いがある。その状態で留まってる。
……つまり、誰かがこの噂が流れるように仕向けた?でも一体誰が。
…………違う、そうじゃないだろ!今は犯人探しをしている場合じゃない!
考えろ!この状況を打破する方法を考えるんだ!!)
だが、光の健闘と決意もむなしく、状況は一気に動いた。給食のときだ。
――延珠への嫌がらせが始まった。
「おい、藍原。オマエ、『呪われた子供たち』なんだって?なら給食もいらないよな」
「そーだよ!『呪われた子供たち』って異常に頑丈らしいし!てか人じゃないから給食なんてあげるだけ無駄でしょ!」
噂を事実として、延珠を責め立てる子供たち。
彼らも、本当に延珠が『呪われた子供たち』だと思っていたわけではなかったのかもしれない。
ただの悪ふざけだったのかもしれない。
延珠が否定したら、それで終わったのかもしれない。
――だが、延珠は否定しなかった。
辛そうな顔をして、俯くだけだった。
光は見ていられなくなって、延珠の前に立ち、声を張り上げる。
「なんだよお前ら!そんな根拠のない噂で延珠ちゃんが『呪われた子供たち』だって決めつけて、酷いことするのか!?
延珠ちゃんと仲がよかった奴らも、そんな噂に惑わされて延珠ちゃんを除け者にするのか!?ふざけるなぁ!!」
光が歳相応の態度で叫ぶ。
だが、それに応えて態度を変える者は、いなかった。
「……光、もういい。………妾は、大丈夫だ」
「………延珠ちゃん……」
延珠の、明らかに大丈夫ではない声に、光が停止する。
そこで、見かねた担任が、こう言った。
「藍原さん、今日はもう帰りなさい」
……彼は、辛そうな延珠を想って、こう言ったのだろう。
彼は大人だ。噂が本当だったらという忌避感は多少なりともあっただろうが、子供たちよりは幾分冷静だった。
だから、延珠を想って、ショックを受けているのではと考えて発言することが出来た。
が、しかし。延珠はそう受け取らなかった。
自分が学校にいることを否定されたように感じたに違いない。
悲嘆の表情を浮かべ、ランドセルを引っ掴み、教室を駆け出して出て行った。
「あっ、延珠ちゃん!……くそっ。先生、僕も早退します!」
「えっ!?だ、駄目だよ、理由もなく早退なんて!」
担任の制止が入るが、光は聞く耳を持たない。
「理由なら友達を追うからで十分だ!それが駄目ならもういいよサボリで!」
「あっ、コラ!待ちなさい立花くん!」
「舞、和ちゃん!二人は普通に授業を受けたら帰ってていいから!じゃあね!」
光は最後に舞たちに言葉を残し、延珠の後を追って駆け出した。
「延珠ちゃん!待って!」
幸い光はすぐに延珠を見つけることが出来た。
延珠が校門へ向かってトボトボ歩いていたからだ。
「………光……?」
「僕も早退してきた。一緒に帰ろう?」
「妾は……今日は帰りたくない」
延珠はゆるゆると首を振る。
心身ともに打ちのめされているのは明白だった。
「……じゃあ、どうするの?」
「……妾の故郷である第三十九区に行く。匿ってくれるところもあるだろう」
「……なら、一旦延珠ちゃんの家に帰って必要なものを持っていこう。送っていくよ」
「いや、これ以上迷惑はかけられない。光は今からでも戻って――」
「いいから。ほら、行こ?」
光は延珠の手を取り、多少強引に歩き始めた。
延珠の家で服などを用意した二人は、電車に乗っていた。
「僕は延珠ちゃんを送り届けたら帰るからね」
「……うむ。ありがとう、光」
「どういたしまして。僕は大したことはできないけど、延珠ちゃんの味方だから」
「うむ!……それにしても、光は民警だったのだな。全然知らなかったぞ。妾のことも知っていたのか?」
「うん、知ってたよ。藍原延珠、里見蓮太郎との民警ペア。天童民間警備会社所属。モデルは……ラビットだったっけ」
「……本当に良く知っているな。驚いたぞ」
「まあ、僕のお父さんのおかげだよ。かなりの情報収集技術とツテがあってね。自分たちの周辺情報は逐一集めるようにしているんだ」
光はそこを履き違えてはいない。
これは光の力ではなく、樹の────親の力だ。
「そうなのか。妾たちも見習わなければならないな」
「そうだね。情報は大事だよ。────そろそろ着くね」
二人は終電で降りて、外周区に向かって歩き始めた。
「ここだ」
「ここ?」
延珠が立ち止まったのは、一つのマンホールの前だった。
光が首を傾げ、理解した。
「そっか。下だっけ」
「うむ」
延珠がマンホールをノックする。
少しして、重い音と共に上蓋が持ち上がり、一人の少女が顔を出した。
「なにー?」
「妾は『呪われた子供たち』なのだ。しばらく匿ってもらいたい。できるか?」
「長老に確認しなければなりませんですので。呼んできますので、中でお待ち下さいですので」
「僕も行って大丈夫かな?」
「かまいませんですので」
不思議な言い回しをする少女の後について、光と延珠は地下に降りていった。
「ここでお待ちくださいですので」
少女はそう告げると、奥へ歩いていった。
「……初めて来たなあ、下水道」
「まあ、光たちのような者には縁のない場所だろうしな」
確かに、親に愛されている光や舞のような人間には関わりの薄い場所だろう。
「まあね。こう言ったら悪いけど、思ったよりも綺麗だ。……ところで、落ち着いた?」
「………うむ。まだ整理がつききってはいないが、ひとまずは大丈夫だ」
「そっか、よかった。そんな簡単に結論の出る問題じゃないと思うけど、なにかあったら連絡ちょうだいね」
「わかった」
会話の区切りのいいところで、奥から杖をついた男性がやってきた。
白髪だが背中は曲がっていないので、長老と言うにはまだ早いように思える。
光が、いち早く挨拶した。
「こんにちは。僕は立花光と言います。民警です。あなたが長老さんですか?」
「おお、しっかりとした子だね。長老は愛称だよ。名前は松崎と言う。よろしくな、小さな民警君」
「松崎さんですか。よろしくお願いします。今日はちょっと用事がありまして」
「なんだね?」
「出来るなら、この子――藍原延珠ちゃんを、しばらくここに置いてやってほしいんです」
「藍原延珠だ」
延珠が自己紹介を挟む。
「……?それはかまわないが、どうしてだい?」
「それは……」
延珠が言い淀んだので、光が代わりに松崎に事情を話す。
「僕たちは同じ小学校に通っているのですが、今日学校で彼女が『呪われた子供たち』だという噂が立ちまして。
それで嫌がらせのようなことが起きて……。学校は早退したんですが、彼女が帰りたくないと言うので。
気持ちに整理をつけるためにも、しばらく彼女をここに置いてくれないかとやってきた次第です」
「そうだったのか……。だが、それは………」
松崎は事情を理解し、難しい顔をする。
一度学校でそんな噂が立ってしまったら、普通それが最後だからだ。
光も同感だった。
光は松崎に近づき、小声で告げる。
「確かに厳しい状況です。でも、彼女は今後どうするのかも含めて、一度考えるべきなんだと思います。
僕は彼女の味方ですけど、まだ子供です。人生経験が豊富な松崎さんが相談に乗ってくれると延珠ちゃんも助かると思います」
「そうだな……。よし、わかった。私も出来る限り力になろう。お嬢ちゃん、何かあったら何でも相談していいからな」
「……うむ。感謝するぞ、長老!」
延珠が明るく返事をする。
空元気かもしれないが、それくらいには回復してくれたことに光は安堵した。
松崎は長老呼びに苦笑い。
「じゃあ延珠ちゃん。僕はもう帰るね」
「あ、うむ!ありがとうなのだ、光」
「うん。じゃあ松崎さん、延珠ちゃんのこと、お願いします」
「ああ、任された。君も気を付けて帰るんだよ」
「はい。ありがとうございます」
光は、出迎えた少女に再びマンホールの蓋を開けてもらい、今度は見送られて外周区を後にした。
「結構時間経ってたんだな……」
光は一人、駅まで歩きながら呟く。
外の景色は赤くなり始めていた。
「でも、なんでいきなりあんな噂が立ったんだ?」
光は今日の出来事を思い出す。
「昨日まではそんな空気は全くなかった。
今日、突然噂が流れ始めたんだ」
ぶつぶつと呟きながら、頭を働かせ、情報を整理する。
「そもそも、延珠ちゃんが『呪われた子供たち』だって知ってる人間はそんなにいないはずだ。
延珠ちゃんは学校でも上手くやってたから、気づいた人がいるとも思えない」
客観的に見たら大分怪しい奴だが、幸いここには光以外の人影はない。
「となると、そんなにいない『知ってる人』の中の誰かが、意図的に噂を流したってのが妥当かな?
噂を流すことによって、その人物に直接、または間接的に利益がある人間の仕業、かな」
光の頭の中に、様々な人間の顔が浮かぶ。
延珠のことを『知っていそうな人間』だ。
その中で、絶対にそんなことはしないであろう人間、する利益を見出せない人間が除外されていく。
数名、頭の中に残った。
「あと絞り込む条件は………あ、そうだ。
情報を流せそうな人ってのが必要────いや、これ大して意味ないな」
ある程度のコネがあればそんなことは簡単か、と思い直す光。
……手詰まりか。
が、一人どちらかと言えばやりそう、というか必要であればやりそうな人物が思い当たる。
「これ以上は無理か。あとはまあ会ったら聞いてみよう」
独り言が終わった。
気がつけば、光は電車に乗っていた。
乗客は光以外にはいない。
無意識のうちに電車に乗り、思考を垂れ流しにしていたことに気がつき、光の顔が青ざめる。
(―――やらかしてなくて、よかった)
自分の集中力を誇ると同時に、集中しすぎな自分に猛反省な光だった。
外周区がその名前で呼ばれるだけのことはある。
さすがに遠い。
帰ってくるのに時間がかかった。
すでに周囲は暗くなり、道を照らすのは月明かりと街灯の明かりのみだ。
「あーあ、家が遠いよ」
――愚痴をこぼしたその時をきっかけにして、自分に視線が向けられた。
この視線の持ち主は、道の陰に隠れて視線を放ってきているようだ。
――――とはいえ、隠れている人たちには悪いが、それはほとんど意味を為していない。
この気配は、あの人たちのものだった。
(念のため、人気の少ないところへ行くか……)
近くにあった公園に入った光は振り返って声を発した。
「ここまでくれば大丈夫でしょう。出てきたらどうですか?」
光の声に応えるように、暗闇から二人の人物が出てきた。
――蛭子影胤と、小比奈だ。
「ヒヒ、こんばんは光君。やはり気づかれていたか」
「あまり隠すつもりもなかったみたいですけど?」
「クク、違いない」
「パパ、光斬りたい!」
「ダメだ」
「うぅ……パパ嫌い!」
はしゃぐ小比奈を一蹴する影胤。
「それはどっちでもいいですけど。約束もありますし……でも、とりあえずその銃はしまってくれません?僕、丸腰ですよ?」
「おっと、これは失礼」
そう言って影胤は手に持っていた銃をホルスターにしまった。
彼が持っていた銃はトゲトゲしいスパイクがいたるところにつけられたカスタム銃だった。元はベレッタのようだ。
他にも接近戦にも対応できそうな装備など、正規品と比べ、より実戦向きな銃のように見える。
しかも影胤は今しまったのと色違いの銃をもう一挺持っていた。
「こっちの黒いのは
同じく銀色のほうは『サイケデリック・ゴスペル』と言ってね。私の愛銃だ」
「痛そうな銃ですね」
光は淡々と返し、質問をぶつけることにした。
「延珠ちゃんが学校でああなったのは、あなたたちの仕業ですか?」
「ほう、よく気づいたね。その通りだ」
色々合点がいった光は、ため息とともに言葉を紡ぐ。
「多分あなたは小比奈ちゃんたちのことを新人類とか進化した人類とか思ってるクチでしょ?
普通の人間に紛れ込ませて生活させる必要はないってね」
「よくわかっているじゃないか。そこでだ、光君。私の仲間になりたまえ」
「何故?」
「私が君を仲間にしたいからだ。そうした方がいいと私の勘が告げている」
「メリットは?」
「金でも力でもなんでも好きなものを好きなだけ与えよう」
「その程度のメリットで東京エリアに大絶滅を引き起こせと?」
「……このメリットをその程度と言うか」
「僕にとってはそうですね。僕は『呪われた子供たち』の願いを叶えられればそれでいい。
確かに多くの『呪われた子供たち』が虐げられているこの状況には腹が立ちます。
この状況を打開してほしいと願ってる子供たちも多いでしょう」
「ならば何故」
「僕にとっての一番の優先事項は、僕のペアの願いを叶えることです。
彼女の願いにそぐわない提案なら、どんなメリットがあろうとそんなものはゴミです。
貴方の提案は彼女の意に添わない。だからどんなメリットがあろうとも僕は貴方にはつきません。
ま、その分僕は彼女の願いを叶えるためならなんでもしますけどね」
光はぶれない。この信念を持ち続ける限り、光が目指す目標は変わることはない。
そして、そのためなら光は何も躊躇わない。
「……そうか。ならば次に会う時は完全な敵同士だ。覚悟したまえ」
「ご親切にどうも。悪いね小比奈ちゃん。そういうわけだから、戦うのはまたの機会に」
「えーっ!やだやだ!光斬りたい!」
「何度も言っているだろう愚かな娘よ。ダメだ」
影胤は立ち去りながら小比奈の駄々を切り捨てる。
小比奈も、渋々ながら去っていった。
「ただいまー」
「おかえりっ!光、大丈夫だった!?なにもなかった!?」
何事もなかったかのように帰宅した光を待ち構えていたのは舞だった。
遅くなったのもあり、もの凄く心配していたようだ。
光の姿を認めるや否や飛び込んできた。
光は舞をしっかりと受けとめて返事をする。
「うん。大丈夫。なにもなかったから安心して」
実際は影胤との遭遇とかあったがそんな些事、今はどうでもいい。
今の光にとって一番優先させるべきことは、舞を落ち着かせることだ。
光の柔らかい笑みと力強い言葉で、舞は落ち着きを取り戻した。
「はぁぁぁ……。よかったぁ……」
「ごめんね、心配かけて」
「ほんとだよ、まったく。プンプンだよ!罰として、今日は一緒に寝てもらうからね!」
舞は大きく息を吐き出すと、ぷりぷりし始めた。
その様子が可愛らしく、光はつい笑ってしまう。
「ハハ、いつも一緒に寝てるじゃないか」
「それはそうだけど。もう!」
光に軽くあしらわれ舞は少々ご立腹の様子。
それを見て光はからかうのを止めた。
「ま、からかうのはこれくらいにして。心配かけて本当にごめんね。
ありがとう、心配してくれて」
「そんなの当然。それで、延珠はどうなったの?」
「ああ、延珠ちゃんはね―――」
光は舞に連れられて風呂場に向かい、一緒にお風呂に入った。
どれだけ心配だったのか、舞はその間もずっとべったりだったが。
光は嫌な顔一つせず、延珠がどうなったかを話して聞かせたのだった。
風呂を終えた光は、樹に影胤のことを報告していた。
こんなでも一応家長で立花民間警備会社の社長だ。
舞には先に寝室に行ってもらっている。
「てな感じで、面倒事を起こしそうだった。そろそろ仕掛けてくるかも」
「そうか、わかった。報告ごくろうさん。今日はもう寝とけ」
「うん、そうする。おやすみ、お父さん」
「おう、おやすみ」
「お待たせ。もう寝ちゃった?」
「一緒に寝るって言ったのにあたしだけ早々に寝てるわけないでしょ。馬鹿」
「ごめんごめん。じゃ、寝よっか」
「うん!」
二人はベッドの上で向かい合い、他愛もないことを話しながら眠りについた。
舞は、絶対に離さないというように、ずっと光の手を握りしめていた。
久々の投稿いかがでしたでしょうか?
光は『呪われた子供たち』を助けたいと願ってますが、自分の力不足も理解してます。
そんなわけで妥協して、できるだけ『呪われた子供たち』の望みを叶える手伝いをする、という行動を取っています。
今回あんな行動を取ったのもそれが理由です。
感想、意見、批評、質問その他、お待ちしております。