ブラック・ブレット[黒の槍]   作:gobrin

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こんにちは、gobrinです。

今回は残りのメインオリキャラの紹介、といった感じです。

では、どうぞ。


第二話

少し季節が進んで世間で言うところの春休み。

 

 

朝のまだ肌寒い中、立花家の広大な庭に四人の人影があった。

 

光、舞、樹、縁の四人だ。

冬でも毎日行っていた朝の槍の稽古である。

 

もちろん、使うのは槍とは言っても普通の棒だ。

光たちがいつも装備しているような、槍頭があるものを、ましてやバラニウム製の槍を使うわけにはいかない。

 

 

「ふっ、はっ!」

 

「ははっ、どうした?全然当たらないぞ〜」

 

 

光が突き出した長槍を、樹が右手の長槍――真ん中の部分に切れ目がある――を使って受け流す。

当然だが、実戦を想定しているため、いつもの自分の武器と同じ大きさ・重量・重心のものを使って稽古している。

 

光が使っているのはただの長槍。

樹が使っているのは短槍二本を連結して長槍並みの長さにした、連結長槍だった。

しかもそれの二刀流。普通はそんなことできない。

この家でもそんな芸当ができるのは二人しかいない。

 

 

「このクソ親父………!」

 

「こらこら、そんな言葉使いをしちゃいけないゾ☆」

 

―――イラッ!

と、表情には出さないが、光の心に青筋が浮かぶ。

 

光の攻めをニヤニヤ笑いを浮かべながら躱す樹が不要に光を挑発するのはいつものこと。

これでも樹は立花流槍術の免許皆伝なのだ。

 

 

立花流槍術は少し特殊で、免許皆伝になる=技がたくさん使えるようになっている、というわけではない。

この流派は、全ての技を使えるようになってやっと一人前と認められ、初段の称号を得る。

その後、技をどれだけ極めたかによって昇段していく。

 

免許皆伝は、槍が手足のように使えるようになり、技のことを熟知し、技の全ての力を引き出せるようになった者にのみ与えられる称号だ。

その免許皆伝の樹に対し、光は十一段に相当する。

そのことから考えると、樹が光の技に対応しきれるのは道理ではある。

――道理ではあるのだが、ニヤニヤ笑いながら躱されると腹が立つというものだ。

 

 

「死ねっ、クソ親父ッ!!」

 

「はっはっは!キレながら攻撃しても当たらないよ〜だ!」

 

「ああもう腹立つ!」

 

 

光もかなりの速度で槍を突き出して攻めているのだが、樹はそれらを全て読み切って時に避け、時に逸らし、時に弾く。

その対応、というよりも態度に、光は益々苛立つ。

いつもの平和な朝の光景だった。

 

 

 

 

二人から少し離れたところでは、舞と縁が同じように稽古をしていた。

 

 

「うふふ、今日もやってるわね、あの二人〜」

 

「毎日やっててよく飽きないよね」

 

「うふふ、そうね。樹さんはあれくらいしかあの子に勝てるものがないから〜って言ってたわ。そのせいで冷たく当たられているんだけどね」

 

「パパ、気づいてないの?そんなわけないよね?」

 

「ふふ、そうね。もちろんあの人は気づいてるわ。でも、親として子供には簡単に負けたくないんでしょう。その思考が悪循環の始まりよね」

 

「ママのやり方を見習えばいいのに、もったいないよね。ママ、こんなにも上手なのに」

 

「あらあら、ありがとう。うふふ」

 

 

こんなやり取りを交わしながら、二人は槍での応酬を繰り返している。

 

舞は力を解放せずに槍を全力で打ち込み、それを縁が捌いている。

 

力を解放せずとも、それなりに力がある舞の攻撃を迎撃するのは下策だ。

それも女の細腕では普通なら不可能に近い。さらに言えば、躱しきれるとも限らない。

 

縁は全くもって普通ではないが、下策であることを理解している縁は先ほどから最小限の力で舞の攻撃を受け流し続けていた。

 

こちらの二人が使っている武器は、短槍二本の二刀流だ。

連結していないためリーチは短いが、その分軽いし手数が増える。

 

連結長槍の二刀流など樹がおかしいだけだ。

 

その手数が増える装備で舞が怒濤の攻撃を繰り出しているのだが、それをことごとく逸らす縁。

しかも稽古の最初から微笑を崩していない。

だが、嫌味なものではない。我が子の成長が嬉しいといった類の微笑みだ。

 

 

「うーん、ダメだ!やっぱりママには敵わないや!じゃ、今日の稽古ラストね!」

 

「ふふ、ええ。かかってきなさい」

 

 

舞が構えを取る。

この流派は一部を除き構えから技は読めないが、技名を発声するのでそこから対応しようと思えばできる。

――技名と同時に飛んでくる攻撃に対応できれば、だが。

 

 

「よーし、行くよ!

立花流槍術二ノ型一番!『双頭之龍撃(そうとうのりゅうげき)』!」

 

 

 

『双頭之龍撃』は使う者によって攻撃の軌道が変わる。

最初の三発は型通りだが、そこから先は使う者が打ち出しやすい軌道に打つためだ。

そして、その速度はこれまでの攻撃とは比べ物にならない。

上下左右から、槍が縁に襲い掛かる!

 

 

――が、それでも縁には届かない。

 

縁は鮮やかな槍捌きで、愛娘の攻撃をことごとく捌ききった。

 

 

「うっはー!今日はフェイントも混ぜてみたんだけどなぁ。ダメかぁ」

 

「うーん、あのフェイントはやめたほうがいいかもしれないわね。舞の持ち味のスピードがあの一瞬無駄になってるわ。それと、わかりやすかった。フェイントにしよう!って狙いすぎ。もっと自然体でできるようになるか、フェイントを諦めるかのどちらかね」

 

「そっかぁ。うん、わかった!今のアドバイス参考にして頑張るね!ありがとうございました!」

 

「ふふ、ええ。ありがとうございました。お風呂に入ってらっしゃい」

 

「うん!ひかは?」

 

「あとで行くように言うわ。先に行きなさいな」

 

「はーい!じゃ、ママ!またあとでね!」

 

「ええ」

 

 

舞は風呂場に向かって駆け出し、縁は穏やかに手を振っていた。

 

ちなみに、舞は立花流槍術八段であり、縁は樹と同じく立花流槍術免許皆伝である。

 

 

 

 

そして戻って光と樹はというと、

 

 

「はぁ、はぁ…………。くそっ、今日も勝てなかった」

 

「はっはっは!まだまだだな!」

 

「うるさい、ちくしょう。………くそぅ」

 

 

光が地面に仰向けに倒れていた。

 

 

「あそこでの『新月』はよかったぞ、うん」

 

「くそっ、そのニヤニヤ笑いと完璧に返されたっていう事実があると、馬鹿にされてる気しかしない。それも当てつけみたいに『新月』で返してきてさ」

 

「はっはっは!拗ねるな拗ねるな!」

 

「そんな風に大人げないからボクに冷たくされるんだ」

 

 

ボソッと呟いた光の言葉は樹には効果は抜群だった。

 

 

「うぅ……。だって、だって。俺がお前に勝てるのこれくらいしかないんだもん」

 

樹は地面に座り込み、のの字を書き始めた。

完全にいじけている。

親の威厳などどこにもなかった。

 

「いっぱいあるじゃん。年齢、権力、金、背丈、体重、座高、戦闘経験値、etc………ね?」

 

「ね?じゃねーよ!それ勝っても自慢できることじゃないじゃん!勝てて当たり前じゃん!お前わかってて言ってるだろ!?」

 

「もちろん」

 

「もうお前なんて嫌いだー!!」

 

樹はオイオイ泣き始めた。親のプライドなどなんのその、である。

全くかっこよくないが。

 

 

「やれやれ、またやっとるのか。今日も朝から元気だな」

 

「あ、おじいちゃん。おはよう」

 

「ああ、お早う。加減してやれ、樹の泣き声なんざ朝っぱらから聞きたくないわ」

 

 

立花 厳(たちばな げん)。光と舞の祖父で、樹の父。

昔はかなりの強者だった。――今も、筋力の衰えを経てもなお樹に引けを取らない戦闘技術の持ち主だ。

 

妻をガストレアに殺されてしまったが、呪われた子供たちを恨むことなく、むしろその境遇に同情している人格者である。

 

 

「その言葉をどうかおじいちゃんの息子に言ってあげてよ。また今日も性懲りもなく大人げなくやってきたんだから。それよりも、今日こそボクに稽古つけてよ、おじいちゃん」

 

「昨日も光が風呂に入った後に言ったんだがなぁ……」

 

その言葉を聞いて肩を落とす光。

わかってはいたが、樹には何を言っても無駄なようだ。

 

「あと、わしに稽古つけてほしいなら早く樹に勝つことだな。樹に勝てんようじゃまだまだ。かっかっか!」

 

朗らかに笑う厳。

そんな厳を見て、『前から思ってたけどお父さんより強いとかどんだけ強いのおじいちゃん?』と思わずにはいられない光だった。

 

「お話はその辺りにして、お風呂に入っちゃいなさ〜い」

 

「はーい!わかった!じゃ、おじいちゃん。また後でね」

 

「うむ。汗を流して、身体の疲れを少しでも取っておくように」

 

「うん。わかってる。では、お父さん。本日の稽古、ありがとうございました」

 

最後は礼儀正しくきちんと礼をする。

いつの間にか復活していた樹もそこはしっかりしていた。

 

「はい。こちらこそありがとうございました。…………いぇーい!今日も俺の勝ちー!!」

 

礼をきちんとしたら後はどうでもいいとばかりに踊りだす樹。

それを見て、光はかなりいらついていた。

 

「…………ちっ。悔しいけど、おじいちゃん。お願いしてもいいかな?」

 

「かかっ!わしを誰だと思っておる。可愛い孫のためなら息子をしばくなど何回でもやってやるわ、任せておけ。早く風呂に入らんと風邪を引くぞ」

 

「うん。じゃ、今度こそ行くね。よろしくお願いします」

 

けじめのため厳にも礼をしてから立ち去る光。

光が風呂場に着く前に、光の耳に樹の悲鳴が聞こえてきた。

 

 

 

 

 

さっぱりした光と舞が風呂を出て髪の毛を乾かしていると、おいしそうな匂いが漂ってきた。

朝食だ。

 

「舞ー、乾かし終わった?」

 

「あ、待って。もうちょっとだから」

 

「わかった」

 

「…………はい、おまたせ。終わったよ」

 

「ちゃんと乾いてる?」

 

「大丈夫だよ。心配なら触ってみる?」

 

「ん、いいよ。舞が断言するなら大丈夫でしょ。さ、行こうか」

 

「うん」

 

手を繋いで二人は仲良く食堂に向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

「あ、光君、舞ちゃん」

 

「華奈お姉ちゃん。おはよう」

 

「おはよ、華奈姉」

 

「うん、おはよう。相変わらず仲いいんだね」

 

 

この人は吉井 華奈(よしい かな)

高校生で、立花民間警備会社の社員でもあり、社宅という名の離れに住んでいる。

余談だが、華奈の食費は給料からきちんと差っ引かれている。これは光たちも同様だ。

 

 

「そりゃね。和ちゃんは?またいつものパターン?」

 

「そう。うちが起きた時にはまだ寝てたわ。ホントにお寝坊さんよね。そろそろ起きてくると思うけど」

 

「朝ご飯の香りがするもんね」

 

「ふわぁぁぁ〜〜〜〜。おはょ……」

 

「噂をすれば。おはよう、和ちゃん」

 

「おはよ、和」

 

「おはよう。起きるのが遅いわよ、和」

 

「ふみゅう。朝は眠る時間……」

 

 

この子は穏田 和(おんだ のどか)

名前の通り穏やかな性格で、話し方ものんびりしている少女だ。

華奈と一緒に社宅に住んでいる。

食費は以下略。

 

華奈と和はペアを組んでいる民警だ。

序列は二千七位。かなりのコンビネーションを発揮する実力コンビだ。

 

 

「皆そろったわね〜」

 

「え?副社長、社長がいませんけど」

 

華奈と和は樹を社長、縁を副社長と呼んでいる。

 

「ああ、あの人ならいいのよ〜。庭に干されてるから」

 

「ああ、いつものですね…………」

 

「みゅ。いつもの」

 

華奈たちは、社宅に住むようになってから、この家の無茶苦茶加減を嫌というほど味わっている。

その結果から、ここはスルーが最適解だと判断した。

 

「いやいや華奈ちゃん、和ちゃん!仮にも社長相手に酷くない!?俺社長よ!?」

 

華奈が予想した通り、樹はどこからか復活してきた。

 

「うるさいぞ、樹」

 

「黙ってください、あなた〜?」

 

厳と縁の迫力にたじたじになる樹。

縁も殺気を飛ばしていることから、今日は縁も参加したんだと判断する面々。

その全員が密かに樹が何をしたのか気になっていたが、見事にスルー。

 

 

 

こうして、立花家で平和な日常が過ぎていく。

 

 




樹は意外と強い。
あんなに威厳の無い父親ですが、強いは強いんです。

それよりも厳さんの方が強そうですけどね。

全員のモデルを明かしていないのはわざとです。
モデルは予想していただいてもいいかもしれません。

次回から物語が動き始めます。
一話だと、僕の大好きなハレルゥゥヤァァァァァァァァァさんは出てこないと思いますが。



感想、意見、質問その他、お待ちしております。

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