ブラック・ブレット[黒の槍]   作:gobrin

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お久しぶりです、gobrinです。

色々忙しく、こんなに時間が空いてしまいました。ごめんなさい。
連載を勝手に中止するなんてことにはなりませんので、ご安心下さい。
これからも頑張ります。

では、どうぞ。




第十七話

 

 

「ただいまー」

 

「あらあら、お帰りなさい。舞は寝ちゃった?」

 

「うん。反省会(デブリーフィング)で疲れちゃったんだと思う。途中からウトウトしてたし」

 

光がおぶっている舞に視線をやって苦笑する。反省会という名の責任の押し付け合いは保脇とかいうアホが喚き散らすという無益なものだったが。

 

「このまま寝室に運んでもらっていい?ボクはお父さんに話があるから」

 

「ええ、いいわよ。いってらっしゃい」

 

「うん」

 

 

 

 

 

 

光はしっかり手洗いうがいを済ませた後で社長室を訪れた。

 

「お父さん、ただいま」

 

「おう。狙撃されたんだって?大変だったみたいだな」

 

「本当にお父さんは耳が早いね」

 

樹の情報収集能力は本当に目を見張るものがある。

 

「大変なんてもんじゃなかったよ……ボクの短槍二本が木っ端微塵さ」

 

「うお、マジかよ。何があった?」

 

「対戦車狙撃弾を『十字創』で迎撃した。炸薬も使って。色々吹っ飛んだけど」

 

「よくやったとだけ言っておこう。んで?俺に何か話があったから来たんだろ?」

 

世間話は今ので終わりだ。

 

「恐らく相手はティナで間違いないと思う。あそこまで鋭い殺気は久々に感じたよ」

 

「そうか……。って、俺に訊きたいことがあったんじゃないのか?」

 

樹が拍子抜けと言った様子で光に訊き返す。

光は首を振った。

 

「あるよ。目算一キロのビルの屋上から、精密狙撃四発を夜・雨・ビル風の影響下で成功させる方法に心当たりある?ボクの記憶が確かなら、そんなことはほぼ不可能なんだけど」

 

狙撃手が人である以上、呼吸と心臓の鼓動で手は震えるし、他にも外的要因が多く関わるので今回の条件下で成功させることはほぼ不可能なのだ。光の知識の中では。

 

「…………俺も心当たりはないな。調べてみる。一日……いや、多めに取って二日くれ」

 

「なら、ティナのことも徹底的に調べてほしい。前にも調べとくって言ってたけど、ガッツリ調べてはいないでしょ?一日追加して三日でお願いできるかな、お父さん?」

 

「わかった、任せてくれ。今日はお前も疲れただろう。ゆっくり休め」

 

「ありがとう。お父さんも根を詰めすぎないでね」

 

「おう」

 

笑顔を向け合って、二人は別れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

三日後の夜。

光と樹はまた社長室で顔を合わせていた。

 

「さてと、色々わかったぞ。ティナ・スプラウトのことと、狙撃のギミック。どっちから知りたい?」

 

「ギミックの方からで。ティナがそのギミックを使ってることは想像に難くないし。二度手間にならずに済むよね?」

 

「光の配慮がありがたいぜ……なら、これを見てくれ」

 

樹は操作していたノートパソコンの向きを変え、光にも画面が見えるようにした。

 

「これは……?」

 

映し出されたのは一つの動画。

目隠しをされたガタイのいいハゲが映っている。

映像が男の背後から撮ったものに変わり、光はそこで男が一挺のハンドガンを持っていることに気づいた。

十メートルほど先に三つの射撃目標が置かれており、これが目隠し射撃を行おうとしている映像だとわかった。

 

「見てろ、ここからだ」

 

樹が言ったのと同時に、男が動いた。

男はジャケットの内側から拳大の黒い球形物(ビット)を三つ取り出し、前に放り投げた。

それは地面に落ちることなく、男の頭上を旋回し始める。

男が腕を上げてから「行け」とでも言うように振り下ろす。

すると、ビットは前方に進み始めた。

ビットが目標の近くまで行くと男が唐突に右手を上げ、三発発砲する。

カメラの映像が切り替わり、ターゲットが三つとも撃ち抜かれていることが証明された。

それで映像が終了する。

 

「うわ、これはすごいね……これがその?」

 

「ああ、思考駆動型インターフェイス『シェンフィールド』って言うらしい。ブレイン・マシン・インターフェイス(BMI)って知ってるか?」

 

「あ、それなら何かの本で読んだ気が……確か、手足が不自由になったりした人の脳に電極を取り付けて、念じるだけでパソコンのカーソルを動かせるようになる技術だっけ?」

 

「光は本当に勤勉だよな……なんで知ってんだよ。その通り、これはBMIの発展版だそうだ。さっきのビットは偵察機で、狙撃地点から標的までの位置座標、温度、湿度、風速、角度などの各情報を無線で脳に送り込むらしい。映像はその結果だな」

 

光の知識量に、樹の深いため息が漏れる。感心はしている。感心はしているが父としての威厳が……と樹は思っている。光は今更だと思っている。認識の違いは悲しいことだ。

 

「なるほどね。でも、ティナはそれだけじゃないよね。金属製のバランサー……かな」

 

「恐らくな。それで心臓の鼓動と呼吸による腕のブレをシャットアウトしてるってところだろ」

 

「ボクが聞いた音もこれだったか……」

 

光が腕を組んで呻く。光の耳は、映像から微かに聞こえていたビットの可動音を捉えていた。虫の羽音のように聞こえる。

 

「だがな、これは失敗作らしいんだ」

 

「失敗作?これが?」

 

光は驚きに目を見開いた。十分成功していると思うのだが。

樹は頷きを返す。

 

「脳に埋め込んだニューロチップが高熱を発して脳を焼いてしまうらしい。だが、ティナが使ってることを考えるとエイン・ランドはそれを完成させたと見るべきだろうな」

 

「なるほどね……これの最大駆動数は?」

 

「これは調べた情報の中でも確証が取れなかったんだが……三つ、みたいだな。それ以上だと負荷に耐えられないそうだ」

 

「三つ、三つね……」

 

ふむ、と光は一つ頷いた。

 

「それで、ティナの方は?」

 

光がもう一つの話題を出す。

樹も頷いて話始めた。

 

「おさらいも含めて全部言うぞ。ティナ・スプラウト、序列九十八位。武器はライフル系統。ペアはエイン・ランド。調べた結果エイン・ランドには戦闘能力は皆無だとわかった。光の推測通り、『シェンフィールド』を使っていると予想される。モデルはオウル。夜間狙撃特化型と言える。だが、近接戦闘も軽くこなすと見ていいだろうな……」

 

「うはぁ……前にモデルを訊き忘れていたけど、オウルなんだ……そりゃ手強い」

 

「次回会談はまだ決定はしてないんだったな。気をつけろよ。絶対に次も狙ってくるぞ」

 

「うん。これは斉武大統領が繋がってるのは確実かな?」

 

「証拠はないけどな」

 

二人で苦笑い。

 

「……お前は、このことを知らせるのか?」

 

「…………迷ってる」

 

「…………そうか。だがそれを選ぶなら、犠牲は出すなよ。もし出したらお前の責任だ」

 

「……わかってる。ボクの傲慢で情報を知らせないんだからね」

 

「傲慢ねえ……お前の優しさだろ?里見君を傷つけないようにっていうな」

 

「そうだけど……傲慢には変わりないから」

 

「……そこは譲らないか。強情だなあ」

 

樹は苦笑いで光を見る。

ここで光が譲らないのは簡単に理解できた。父なのだから当然だ。

 

「ま、明日にでも未織ちゃんに頼んだ物ができあがるだろ。それに慣れてできる限り備えるんだな」

 

「うん、そうするよ。じゃあ、おやすみなさい」

 

「ああ、おやすみ」

 

光は自身の寝室に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

翌日。

 

光は司馬重工に一人で来ていた。しかも歩きで。

樹が忙しそうだったので、散歩してくると言って出てきたのだ。

 

光は門のところにいる守衛に話しかける。

 

「こんにちは。未織さんに武装を作ってもらっていて、完成したそうなので引き取りに来ました」

 

「おお、そうか。通っていいよ」

 

「ありがとうございます」

 

光は守衛に一礼してから中に入った。

と、そこで光の電話が鳴った。表示されている名前は司馬未織。どうやら、守衛が連絡してくれたらしい。

心で感謝を述べながら、電話に出る。

 

「もしもし、未織さん?」

 

『おお、光ちゃん。よう来たなぁ。ささ、早よ上がってきいや〜』

 

「了解です」

 

未織との通話を終了し、上を目指す。部屋の指定がなかったから、いつもの部屋だろう。

そう見当をつけて、光は未織の元に向かった。

 

 

 

 

光が扉をノックすると、未織の声で部屋に入る許可が出される。

お邪魔します、と声を出してから光は部屋に入った。

 

「未織さん、こんにちは」

 

「さっきも言ったけどよう来たな、光ちゃん。武器はちゃんとできとんで」

 

座ったまま光を出迎えた未織が椅子から立ち上がり、机に立てかけてあった二本の短槍の元に歩み寄る。

当然光もそれには気がついていて、新しい武器であろう短槍をしっかり見据えていた。

 

「……それが?」

 

「そうや。と言っても、見た目は前のとほとんど変わらんはずやけどね」

 

それは光も思っていた。木っ端微塵になった短槍と寸分違わぬ――いや、未織が手に取った短槍をよく見ると。

 

「……前の物に比べて、僅かに重心が刃先に寄っているみたいですね」

 

「……見ただけでわかるんか。その通り、前のは搭載できる炸薬は一発分だけやったけど、樹さんの要望で今回のは二発分積めるようになってるんや。その分ちょっと先端に近い方が重くなってるってことやね。これは試作やけど、光ちゃんがこっちの方がええって言うんやったらもう二本作れるで。時間はもらうけどな」

 

「ちょっと戦闘で試してみたいですね……あそこは借りられますか?」

 

未織から短槍を受け取って本当に軽く振ってみる。その感触は悪くはないが、やはり実戦で確かめたい。

 

「ちょお待ってな。……今は使ってない。でも二十分後に予約が入っとるから、使えるのは長くても十五分や」

 

「それだけあれば十分です。お願いします」

 

「わかった。ほな行こか」

 

 

 

 

 

 

 

 

光がやってきたのは司馬重工本社ビル地下五階。『VR特別訓練室』という名の直径一キロにもわたる広大なキューブ状空間だ。

部屋の壁全てが特殊なゴムでできており、実弾どころか各種爆薬まで室内で使用可能という世界最高クラスの仮想訓練施設である。全部の壁が真っ白で、目に痛いのが玉に瑕。

帰りが少々遅くなることは、地下に降りる前に樹に連絡しておいた。

 

『さてと。設定はどないする、光ちゃん』

 

「市街地でお願いします。ガストレアのステージ……Ⅲが複数体モノリス内に侵入してきたという設定で。痛覚はMAXで大丈夫です」

 

『了解や』

 

ヘッドセットから未織の返事が聞こえてきた直後、光の周囲の光景が変わっていた。

 

多くの家が建ち並び、空き地も点在している。少し遠くにはビル群も視認できた。

光は十字路の中心に立っていた。どこからか騒音が聞こえてきているため、周囲の音を探り辛い。

痛覚再現度をMAXで使用するため、死んでも責任は取らないという約款が記されたホロディスプレイのパネルが何枚も出現する。もちろん全て承認。

ディスプレイが全て消えていることを確認し、軽く槍を素振りする。

 

『ほな、始めるでー』

 

未織の声が耳に届き、『Mission start!』という合成音声が続いた。

光は一度瞑目し、自然体で二槍を握る。

もうどこから襲いかかって来てもおかしくない。

 

(……後ろ)

 

数秒後、背後から風斬り音が聞こえた。光は振り返り様に槍を振るい、その攻撃を打ち払う。そして敵の姿を視界に捉えた。

 

「……ハリネズミがベースなのかな」

 

光の後方にある十字路に、身体から棘を生やした四つ足の生き物がいて姿勢を低くしていた。

背中のみならず身体中から棘を生やしている点と手足が異常に太い点と尻尾が蛇の頭になっている点以外は普通の(?)ハリネズミだ。もちろんサイズは桁違いだが。今の攻撃は針の一本を飛ばしてきたものらしい。

 

(槍の感覚は、誤差の範囲かな。これなら問題なさそうだ)

 

今攻撃を弾いた時の感覚からすると、基本的な戦闘には全く支障のない範囲での重量変化だった。

問題は、威力よりも速度・精度を追求する立花流槍術を使う時にも同様にできるかという点だ。

 

「今度はこっちから行くよ――っと!」

 

それを確かめるべく、光はガストレアに向かって駆け出す。

ガストレアも勢いづいて突進してきた。

光は走りながら短槍を連結させ、接近する前に軽く一振り。その感触に笑みを浮かべる。

 

「ま、速度を追求するっていうならこれかな―――立花流槍術三ノ型五番『瞬菊』」

 

 

スパァァァンッッッ!!!

 

 

空気が爆発したような甲高い音がなったと同時に、ガストレアの身体が弾けた。

光は『瞬菊』を打ち終えた体勢で目をぱちくりさせている。

 

どうやら、光が思っていた以上に威力が出たようだ。

 

(…………ちょっと重くなって、その分威力が少し上がっている感触はあったけど……速さが桁違いだと、ここまで威力に差が出るのか)

 

先ほど棘を弾いた際にも威力が上がっている実感はあった。

が、これほどまでとは光にも想定外である。

 

(……ま、まあ気を取り直して行こう。もしかしたら、重くなった分威力は上がっても精度は下がっているかもしれないからね。それじゃあ本末転倒だし)

 

光はそう自分に言い聞かせ、次なる獲物を探して住宅街を走り始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………なんなんや、これ」

 

五分後。未織は光の模擬戦闘を見ながら呆然としていた。

 

いま未織が光にやらせているのは、戦闘場所、難易度、敵の種類など様々な項目を細かく設定できるステージ『リバティー』である。

今回、未織はちょっとした出来心で、光に指示されなかった項目に関しては全て一番難しいものを選択した。少し挙げるなら、難易度、敵の数、相手の攻撃パターンなどだ。

光が序列を誤魔化しているらしい、という情報は入手していた未織は、実力を軽く見るつもりで――いくらなんでもクリアはできないだろうから、何体敵を倒せるかでおおよその判断をするつもりだった――このステージに放り込んだ。

 

――――それがなんだ。この状況はどういうことなのか。

 

未織は驚愕に囚われながらも最初から思い返していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

光は、最初に出くわしたガストレアの不意打ちを余裕を持って対処し相手に駆け寄り、そのまま爆砕させたと思ったら、数秒停止した後に走りだして他の敵を探し始めた。

 

その次に接敵したのは、多種多様の虫が混ざったガストレアだ。大きさから見てステージⅣだろう。

そのガストレアから生えている多数の腕の内の五本が蟷螂の鎌になっていて、ガストレアはその鎌で光に斬りかかった。

 

これは終わった。未織はそう思った。

 

しかし、光の腕がブレたと思った次の瞬間には、その鎌の全てがガストレアの腹部に突き刺さっていた。

未織が目を見開いたのも束の間、また聞こえた何かが弾けるような音とともにガストレアの下半分が消滅。

すぐさま光が頭上で回転させた連結長槍に切り刻まれて、そのガストレアは物言わぬ骸となった。

 

その次に光に躍りかかったのは、肉食動物がベースだと思われる三体のガストレア。

一匹は恐らくチーター。俊敏な動きで敵を翻弄し攻撃する、というのを得意としているような動き方だった。

もう一匹はトラだろう。体格の良さと鋭い爪、牙を活かして相手を力技で押し切るというガストレアによくある戦い方をしそうだった。

最後の一匹はサメなのだろうか。足が付いていて気持ち悪いことになっているが、あの強靭な歯は一筋縄ではいかないだろう。動きも思いの外素早かった。

 

今度こそ光は負ける。未織はそう信じて疑わなかった。

 

が、光は連結長槍を前面に押し出し猛然とダッシュ。縦に連なるフォーメーションで突っ込んでくるガストレア三体とすれ違い様に槍を猛烈な勢いで振り回しガストレアを吹き飛ばし、無傷のままガストレアの間を駆け抜け反転、そこで槍の連結を解除してから槍をクロスさせて斬りつけること三回。三体のガストレアを絶命させた。

その瞬間、光の不意を突く形で上空から翼を生やしたガストレアが無音で飛んできた。光は一瞬気づくのが遅れ、回避一択。

背後に向かって飛び退り、左手の槍の刃先を地面に突き刺し押し出してバックジャンプに勢いを追加。続けて右手の槍も地面に突き刺してそこを支点に回転。ガストレアの突進を完璧に回避した。

着地してさっきの分を返すように突撃、二本の短槍を連続して何回も振ってガストレアを仕留める。

 

この時点で、倒されたガストレアは六匹。今回のステージに出現しているガストレアは十五体だから、既に三分の一は倒されている計算になる。

未織にはもう、光が負ける光景を思い浮かべることはできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うーん、なんて言うか……すごい」

 

五分程戦った光は、新しい短槍の使い勝手の良さに大層驚いていた。

速度を追求する『瞬菊』では先端の重さの分威力が跳ね上がり、精度を追求する『分水嶺』では両端の重さの分受け流しの安定感が増した。受け流した後に力強く押し出せるようになったのだ。

『双頭之龍撃』も特に変化はなく――強いて言うなら、振り下ろしや振り上げなどの振り回す攻撃の時の威力が上がっただろうか――三体のガストレアを連続で跳ね退けた技、立花流槍術三ノ型二番『百鬼夜行(ひゃっきやこう)』の威力は僅かに上がっていた。『十字創』の威力も言わずもがなだ。

連結長槍を頭上で回転させて攻撃・防御を同時に行う、立花流槍術三ノ型三番『月麟(げつりん)』も威力の上昇が認められた。

これは、他の技も威力などが上がっていると予想される。この戦いで確かめておきたいと光は考えていた。

 

「っと……殺気だ」

 

物思いに耽っていると、周りから殺気が。いつの間にか囲まれている。

 

前方の建物の陰に一。右に二。左にも二。後ろに三。そして―――。

 

(下から―――一体!)

 

光が前方に飛び込むのと同時に、先ほどまで光が立っていた場所の地面が弾けた。

そこから現れたのは、モグラのガストレア。ステージはⅢのようだ。

光は反転し一足で接近。右爪の振り下ろしに対して左足を軸に時計回りに回転することで回避を試みる。

 

(足りないか――!!)

 

回避しきれないことを横目で把握。百八十度回転したところで軸を右足に変更、そのまま同じ向きに回転。

 

(よし、躱せる!)

 

回転を利用して腕を身体に巻き付け、使うのはあの技。

 

「立花流槍術二ノ型四番『旋風』ッ!」

 

光は引き絞った腕を解放。回転の勢いのまま吹き飛ばされたガストレアはダメージが大きかったか、そのまま息絶えた。

 

(『旋風』も素晴らしいことになってるね。次は……誘き出して攻撃かな)

 

光は頭の中で次のプランを練ると、即座に行動に移した。

 

「いよっと!」

 

短槍を上空に投げ上げると、一つの家の塀を足場に空中に躍り出る。

光は動きようのない空中でくるくる回っているだけだ。

これを好機と見たか、光を取り囲んでいたガストレアのうちの四体がそれぞれ別々の方向から襲いかかって来た。

 

ウサギや猿など、跳躍力に長けた生物がベースになっているものが攻撃を仕掛けてくる。

 

「もうちょっと釣りたかったところだけど――まあいいや。立花流槍術二ノ型二番『大車輪』」

 

投げ上げた短槍を掴み取るや否や、向かってきた四体のガストレアを全て叩き落とす。

苦しげな鳴き声を上げて墜落していくガストレア目掛けて、光は追撃を仕掛けた。

短槍を連結長槍にして、片方の端を握りしめ空中で縦に一回転。

 

――この技はまだ未熟なので、元気よく発声!

 

「立花流槍術一ノ型五番『落月(らくげつ)』ッ!!」

 

回転しながら大上段の一撃を叩き付け、地面を陥没させるほどの勢いでガストレアたちを押しつぶす。

この一撃でガストレアを多数仕留めることには成功したが、光の体勢が崩れ完全な隙になってしまった。

 

「キシャァァァアアアア!!!」

 

奇声を発しながら、後ろから出てきたガストレアが何かを飛ばしてきた。

光はそれを視界に捉えたわけではないが、食らうわけにはいかないのに変わりはない。

 

「くっ……だ、らぁっ!」

 

光は身体が宙に浮いたまま、強引に連結長槍を持つ位置を端から中心に移し、立花流槍術三ノ型を使う状態に無理矢理変える。

そしてそのまま―――。

 

「立花流槍術!三ノ型四番、『斬渦牢』ッ!」

 

連結長槍の軌道を球状にし、斬撃の防御を作り出す。

 

「ぐぅぅ……!?」

 

何とか受けきることはできたが、相手の一撃が重い。

宙で受けたため、光は逆方向に吹き飛ばされてしまった。

 

(今のはなんだったんだ……?針か?―――って、いつの間に回り込まれた!?)

 

最初から前方にいた一体は、さっき光に釣り出されて始末されている。

今の一体は後ろから攻撃を仕掛けてきたため、光が吹き飛ばされた方向は敵がいなくなった方向のはず。

だが光の感知を搔い潜り、一体のガストレアが回り込んでいた。

 

(コウモリか!)

 

翼が四枚ほどあるが、あれは紛れもなくコウモリである。

どうやったのかは知らないが、光の感知を搔い潜った敵だ。侮ることはできない。

持つ位置を再び端に移し、何となく言葉を発する。

 

「今回は僕が突っ込む側だけど―――使えるから使わせてもらおう!立花流槍術一ノ型二番『新月』!」

 

『新月』は本来向かってくる相手に対してカウンター気味に打ち込む技だ。

今回は光は自分の推進力を相手の突進に見立てて、『新月』を叩き込んだ。しかし、誰の目にも見える程度のスピードしかでなかった。不完全だ。

待ち構えて完璧な状態で打てたわけではなかったので、コウモリに耐えきられてしまった。

 

「チッ!」

 

光は舌打ちを一つ零すと槍を更に右に振り、その反動を用いて右足でコウモリのガストレアを蹴り付ける。

流石に耐えきれなかったか、コウモリのガストレアは絶命した。

 

光は着地ざまに振り返る。

前方を睨みつけると、先ほど攻撃してきた敵のシルエットが見えた。

目を凝らすと、ゴリラをベースにしたと思われる個体が。その尻から蜂の腹部(?)が突き出ていて、針が搭載されている。先ほど撃ったのはこの針だろう。もう再装填されている。さすがはガストレア。常識が通用しない。

腕は六本。上段は蟹の鋏。中段はゴリラ本来の腕。下段は熊の腕だった。

 

「……あいつか」

 

光は次の敵を捕捉。ダッシュを開始。

ガストレアも狙われたことに気がついたか、尻の針を打ち出してきた。

それが光の元に届く前に針が再び装填され、また打ち出される。

 

――だが、こんな単純な遠距離攻撃が光に効くはずもなく。

 

「ふっ、はっ」

 

小さな掛け声とともに針を弾く。攻撃の形状と威力がわかっていれば、対処することは光に取っては容易いことだ。

その時、光に攻撃を仕掛ける存在がいた。隠れていた二体のガストレアだ。

ネズミと、猫だろうか?タイミングを微妙にずらし、歯と爪で光を傷つけようと飛びかかってくる。

 

「ま、来ることがわかっていれば対処は簡単、と。立花流槍術三ノ型五番『瞬菊』」

 

僅かにでもタイミングに差があれば、『瞬菊』の二連撃が余裕で間に合う。

甲高い音を二つ残し、ネズミと猫が消滅。その間も、光は針を余さず処理していた。

 

「さて、この場で残ってるのは君だけだね――!」

 

光は駆け寄りながらガストレアに殺気を叩き付け、一瞬怯ませる。

ガストレアは我に返ると雄叫びを上げ、光に向かって突撃してきた。

六本の腕を全て振りかざし、針を射出してくる。彼我の距離は十メートル。ついにガストレアの針の装填が間に合わなくなった。

 

「グオォォォォオオオオ!!」

 

「はあっ!」

 

光は急停止してガストレアを待ち構える。

ガストレアは立ち止まれないのか、針を装填しながら光に殴り掛かった。

 

(立花流槍術三ノ型一番『分水嶺』!!)

 

右の蟹の鋏を次の攻撃だと予測した左の熊の腕に向けて受け流してぶつけ、左のゴリラの腕を外側に受け流す。

右の熊の腕が飛んできたので、ガストレアの開いた身体の正面に向かって受け流し押し出した。

ガストレアは熊の腕を腹にめり込ませながらも、左の蟹の鋏を叩き付けようとしてくる。

光はそれを受け流すことで残った右のゴリラの腕に叩き付け、両腕を破壊する。

ガストレアは諦めることなく、外側に受け流されたゴリラの腕を内側に向けて振り回そうとした。

 

だが、それは光も想定済み。バックダッシュで少し距離を取り、『瞬菊』を発動。

ゴリラの腕を消滅させ、最後の攻撃に移る。

 

「立花流槍術三ノ型――おっと」

 

ガストレアの最後の足掻き――尻の針の攻撃を余裕を持って横に躱し、本当に最後の攻撃。

 

「危ないなぁ。立花流槍術三ノ型四番『斬渦牢』」

 

『斬渦牢』は基本的には防御の技だが、ここまで接近していれば十分な攻撃になる。

ゴリラのガストレアは原型がわからないほど細かく切り刻まれ、地に倒れ臥した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやぁ、これいいですね。未織さん、もう二本作ってもらっていいですか?」

 

十三分の戦闘を終えた光は、ニコニコしながら未織に話しかけた。

未織は半眼で光を睨んでいる。

 

「作るのは構わへんけど………なぁ、光ちゃん?」

 

「……なんです?」

 

「……どんくらいサバ読んどるん?」

 

「……何のことでしょうか?」

 

光は恍けてみるが……。

 

「恍けてもウチは誤摩化されんで。今の戦闘は、かなり難しいステージ設定にしとった。それこそ、IP序列一万なんぼの実力だったら一体も倒せずに瞬殺されるような難易度や。それがなんや?光ちゃんは瞬殺されるどころか何体もまとめて瞬殺したやないか。それに、あの動き……所々良すぎる反応やった。――光ちゃん、何を隠してるんや?」

 

まあ未織を誤摩化せるわけもなかった。

光は少々思案すると――。

 

「……ふぅ。未織さん、いつか話せる時は来ると思います。…………ですが、今は何も話せません。今は何も訊かずに、僕の武装を作ってくれませんか」

 

何も伝えることはできない分、真摯に頼み込むことにした。

光の真剣な眼差しを受けて、未織は――。

 

「…………はぁ。しゃあないなあ。今は言えんっちゅうことなら待つわ。――でも、いずれ教えてな」

 

ため息一つ零すだけで、光のことを追及するのを止めた。

 

「……ありがとうございます」

 

光は端的に感謝を述べる。

未織はそれには反応せず、光に質問を投げかける。

 

「今試しに使ったもんと全く同じもんをもう二本作ればええんやな?」

 

「はい、お願いします」

 

「了解や。一回作ったもんやから、また作るのは比較的簡単……二日もあれば十分や。できたら連絡するわ」

 

「わかりました。じゃあ、今日は失礼しますね」

 

「ほなな」

 

光は、司馬重工を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

立花家にて。

 

「いやぁ、未織さんに色々感づかれちゃった」

 

「……ああ、訓練室で全力でも出したか?」

 

光は今日あったことを樹に話していた。場所は社長室だ。

 

「そんなわけないでしょ。ボクがそんなヘマをするわけないじゃないか」

 

「ま、そうだな。でも、なんで感づかれるようなことになったんだ?」

 

樹も冗談だったのか、すぐに真面目な顔になって尋ねた。

 

「未織さんが、ボクに訊いた項目以外の難易度を難しさMAXにしたらしくてね……それに気づかず」

 

「なるほど、そこは光が未熟だったな。疑われていることを想定していなかっただろ?」

 

「……うん。ボクが未熟だった。途中で敵の攻撃パターンが結構えげつないことには気づいたんだけど、ちょっとノってきちゃってて」

 

「そんなに性能に差があったのか?」

 

樹がその質問を投げかけた瞬間、光の眼が輝いた。

 

「そりゃあもう!すごいなんてもんじゃなかったよ!技の尽くが良くなってたし、普通に振るだけでも威力がちょっと上がってたからね!それに、炸薬を入れ替えずにそれぞれ二発使えるっていうのはとても魅力的だよ!お父さんも使ってみなよ!」

 

「お、おう……。機会があったらな……」

 

軽く樹が引いていた。

 

「……こほん。それで?それならティナに太刀打ちできそうか?」

 

「うん、大丈夫だと思う。槍そのものの強度も上がってるみたいなんだ。未織さんのところはさすがだね」

 

「そうか、よかったな。もう二本はいつできるって?」

 

「二日もあれば十分だって。でき次第、受け取りに行ってくる」

 

「了解だ。さて、今日は光も疲れただろう。ゆっくり休め」

 

「うん。そういえば、お父さんは何をしてるの?」

 

ここ最近、樹が何らかの調べもので忙しくしていることを光はしっかり把握していた。その内容まではわからなかったが。

 

「ああ、誰が内通者なのか調べようとしてるんだがな……ちょっと難しくてな」

 

「お父さんでも調べきれないって……さすがはエイン・ランドってところかな」

 

「だな。痕跡が残ってない。ま、俺ももう少し調べてみる。光はやりたいようにやれ」

 

「わかった。お休み、お父さん」

 

「おう、お休み」

 

光は社長室を後にする。

光が扉を閉める瞬間も、樹はパソコンを操作していた。

 

 

 

 





というわけで、光のぶっ壊れた短槍を新しく作ってもらう話でした。

未織の情報収集能力もかなりのもんですからね。光も気をつけなければいけません。
まあ樹には敵いませんが。

今回は光が珍しくヒャッハーしてました。

次回は、原作話ですかねぇ。
なるべく早く書き上げられるように頑張ります。

では、また次回。


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