ブラック・ブレット[黒の槍]   作:gobrin

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遅くなりました、すみません。

前回の最後、キモイ奴で終わったので、光たちの気分は悪くなっています。

では、どうぞー。



第十五話

聖居を出ると、空が綺麗な茜色に染まっていた。

不愉快な気分になっていた二人は、心が洗われる様な感覚を得た。

 

「ああ、あの汚物に害された気分が浄化されていく……」

 

「俺も光に同感だ。清々しい気分になれるな……」

 

 

 

 

 

 

 

幾分マシな気持ちになった二人は、帰ろうと歩き始めた。

そして、奇妙な物を目にする。

 

自転車に乗っている女の子だ。歳は光や舞、延珠と同じくらいだろうか。

それだけなら奇妙でも何でもないが、その子の服装と行動が問題だった。

 

まず、行動。

自転車に乗って、聖居前に据えられた噴水の周りをずっと周回している。

エンドレスで。さながら無限ループのように。

 

そして、服装。

夕陽に煌めく美しいプラチナブロンドを際立たせるのは、黒を基調としたドレス―――などではなく、ぶかぶかのパジャマ。

足に引っ掛けているのは何故かスリッパだし、寝癖で髪はぼさぼさ。

口は半開きで、眼も焦点を結んでいるようには見えない。

要するに、どこからどう見ても寝起きの少女だ。

 

周囲の人々は、関わりたくないという表情で足早に去って行く。

光がチラリと隣を見ると、蓮太郎も似た様な表情をしていた。

 

「えーっと、里見先輩?僕、あの娘に声をかけてこようと思うんですが」

 

光がそう言うと、蓮太郎はギョッとした表情を見せる。

 

「光、正気か?ああいうのは、触らぬ神に祟りなしだろ……」

 

「確かにそうですけど……」

 

光もそう思わないでもなかったが、正気を疑われるのは心外だ。

二人が立ち止まって会話している間も、少女は噴水の周りで自転車をこぎ続ける。

 

と、そこで光が危険に気づいた。

 

「あ、危な―――」

 

「ってぇなコラァ!!どこ見てんだてめぇはよぉ!?」

 

金髪の、不良みたいな少年三人が少女に絡んでいた。

 

茫洋と自転車をこいでいた少女が、少年の内の一人にぶつかってしまったのだ。

まあ、現場を見ていた光に言わせれば、少年が明らかに当たりに行っていたが。

 

ぶつかった時の衝撃で自転車から投げ出された少女は、何が起こったのかわからないのか左右を見渡している。

光は少女を助けるために歩き出そうとし―――一瞬で判断を変更、一気に駆け出した。

 

「あ、おい光!?」

 

蓮太郎が呼びかけてくるが、光に返答する余裕はない。

 

 

「オラァッ!!」

 

「フッ!!」

 

「ぎゃあっ!?」

 

集団に駆け寄った光は、少女に蹴りをかまそうとしていた少年の脚に拳を叩き込み、少女を少年から守った。

 

先制で攻撃を仕掛けてしまった光は、誤魔化すのも面倒なので素の口調で諭す。

 

「あのさぁ、お兄さんたち。こんな幼気な少女に当たり屋みたいなことして、恥ずかしくないの?」

 

「んだとてめぇ!?」

 

「ガキは引っ込んでろ!!」

 

「それともてめぇもまとめてやってやろうか、アァ!?」

 

完全にヤンキーである。埒が明かないと悟った光は、さっさと黙らせることにした。

 

「はぁ……これを見ても同じことが言える?」

 

そう言って光が取り出したのは民警ライセンスだ。民警と事を構えると基本的に一般人に勝ち目はないので、退いてくれると考えたのだ。

不良三人組はそれをポカンとした表情で見つめていたが、不意に我に返り、嘲笑し始めた。

 

「はっ、てめぇみたいなガキが民警?笑わせんなよ」

 

「おこちゃまは早くお家に帰んな」

 

「それにしても、よくできてんなコレ」

 

全く信じていない。光は自分の力で三人組に対処するのを諦めた。民警ライセンスは偽造できるようなものではないのだが。

力ずくでやってしまう手もあるが、この場で叩き伏せるのは得策ではない。

 

よって、取る手段は――――人任せである。

 

「はぁ…………里見先輩――、こっち来てくれませんか――?」

 

先ほどより長いため息を吐いて、蓮太郎を呼び寄せる。

あのくらいの歳の民警は数多くいる。彼が民警ライセンスを持っていれば、三人組も信じるはずだ。

蓮太郎が来てくれるかは賭けだったが――果たして彼は、頭をガシガシ掻きながらこちらに向かって歩いてきた。

 

「ったく、俺を巻き込むなよ」

 

「すみません、信じてもらえなかったもので」

 

「まあお前には借りがあるし、これぐらいのことならいいけどよ……」

 

ぼやきながら歩み寄ってきた蓮太郎は三人組のリーダー格の男の肩を叩き、民警ライセンスを見せつけた。

そのトンガリ頭の少年はそれを見て、舌打ち一つすると仲間を連れて去って行った。

 

 

三人組が去って行ったのを見届け、光と蓮太郎は少女に目をやる。

少女は光と蓮太郎を交互に見て、ポツリと言葉を紡ぐ。

 

「正義の、ヒーロー……生まれて、初めて見ました……」

 

「礼はいいから、さっさと家に帰れ!じゃあな」

 

「え、里見先輩、その言い方はないです」

 

「うるせぇよ!ほら、行くぞ」

 

「あの」

 

蓮太郎が光を促し光も立ち去ろうとすると、小さな声が二人を呼び止めた。

この場で二人に声をかける人物など一人しかいない。

 

蓮太郎は面倒くさそうに振り返り、声をかけてきた少女に声をかけ返した。

 

「…………なんだ?」

 

「ここ、どこですか?」

 

その質問に、蓮太郎は力なく項垂れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「里見先輩、タオル絞ってきてください」

 

近場の公園のベンチに少女を座らせた光は、蓮太郎に指示を出す。

何だかんだ言って、蓮太郎は動いてくれるという確信が光にはあった。

 

「ったく、わかったよ」

 

「よろしく」

 

蓮太郎に頼みを終えると、光は彼女の身体を軽く触って怪我がないか確かめる。

少年の蹴りは防いだが、その前に彼女は転倒している。怪我をしていないとも限らなかった。

 

「大丈夫?痛いところとかない?」

 

「はい……それにしても、手慣れていますね……」

 

「ああうん。僕には元気な双子の妹がいるから。うん、大丈夫そうだね」

 

「光、持ってきたぞ」

 

「あ、ありがとうございます。じゃあ、顔を拭くからじっとしててね」

 

「はい……」

 

彼女は目を細めて気持ち良さそうにしている。

 

「――よし、綺麗になった」

 

少女の顔を拭き終え、光は満足がいったように頷く。

彼女はペコリと一礼して――そのまま動かなくなる。

疑問に思った光が彼女の顔を下から覗き込むと、彼女は夢の世界に旅立とうとしていた。

 

「ちょいちょいちょい!起きて!こんなところで寝ちゃダメだって!」

 

慌てて光が起こすと、彼女はハッとなって頭を左右に振り、ポケットから英語のラベルが付いた瓶を取り出した。

中の錠剤を口に放り込む少女を見て、光はラベルの文字を確認する。――カフェイン。ラベルにはそう書いてあった。

 

「私……夜型なので、こうしていないと、昼は、起きてられないんです」

 

言葉を細かく切りながらそう申告する間も、錠剤を取り出して口に放り込み続けている。明らかに規定量を超えて服用している。

 

(もしかして――?)

 

ある考えが光の脳裏を過るが、ここには確認する手段はない。

家に帰ったら確認しようと予定に組み込んだ光の後ろから、声が投げかけられる。

 

「……お前、どこから来た?名前は?保護者は?その服装の理由は?」

 

次々に質問を投げかける。彼女は自分の服装に視線を落とし、可愛らしく首を傾げた。

 

「さあ?」

 

まさかの返答に、光も蓮太郎も即座に反応できない。

 

「ここでその返答はありなのかな……?」

 

「さあってお前……じゃあ名前」

 

「それは……」

 

名前を訊かれた少女の目が泳いで、僅かに言い淀む。

今の反応で何故少女がそうなったかを悟った光は、少女の表情の変化を見逃さないように集中した。

少女は諦めたように顔を上げ、蓮太郎の問いに答えた。

 

「ティナ……です。ティナ・スプラウト」

 

「里見蓮太郎だ」

 

「立花光。よろしくね」

 

光は今のは本名だと判断、特に反応することなく自分も自己紹介する。

 

「ティナ、で」

 

「じゃあ俺も蓮太郎でいい」

 

「光で」

 

「光君……蓮太郎、さん?」

 

名乗った二人の名前を反芻するように口に出すティナ。

光はただ口に出しただけだと考えたが、蓮太郎が律儀に反応した。

 

「なんだよ?」

 

「呼んでみた、だけですが?」

 

蓮太郎が光の背後で肩を落とす。

光は質問を蓮太郎に任せ、自分はティナの挙動を観察することにした。

 

「じゃあティナ、もう一度訊く。保護者はどうした?」

 

「いません」

 

(嘘は言ってない。表情に変化が少なくてわかりにくいけど)

 

「ならどこから来た?覚えてる範囲で」

 

ティナは寝ぼけ眼を擦り、頭をゆらゆら揺らしながら顎に人差し指を当ててゆっくり喋り始めた。

 

「確か、今日はアパートで目が覚めて、歯を磨いて、シャワーを浴びて、服を着替えて、颯爽とお出かけしたところまでは」

 

「堂々と嘘吐くんじゃねぇよ!服も着替えてねぇしシャワーも浴びてねぇ、っつーか寝起きだろお前!」

 

「おお〜」

 

気の抜ける様な声を出し、ぽふぽふと余りまくったパジャマの裾を叩き合わせる。

 

「私より、私のことを、ご存知、なのですね」

 

「……なあ、あそこに置いてきちまった自転車は、お前のなんだよな?」

 

「自転車?私、そんなものに、乗っていたのですか?」

 

光は吃驚した。ティナは、これも本心で言っている。

蓮太郎の顔にどんどん疲れが見えてくる。

 

「……わかった。お前、交番行け。そんで、道訊いてこい」

 

「それは、ちょっと……」

 

渋るティナに、蓮太郎は催促を続ける。

 

「いいから。俺にお前の相手はできないことがわかった」

 

「そんなこと、仰らずに」

 

何と言うか、どっちも可哀想になってきたのでそろそろ蓮太郎と代わろうか、と光が考えていると、蓮太郎がポケットからメモ用紙を取り出し、おもむろに何かを書き殴った。

 

「ほれ、もし道がわからなくなったら電話していいから交番行け。マジ頼むから」

 

何と、蓮太郎はこの場を乗り切ることに成功しそうだ。

光は密かに驚嘆していた。まさか、蓮太郎にここまでのコミュニケーション能力があったなんて。

 

「じゃあ、今からテストで電話を掛けてもいいですか?」

 

「……なんでだよ?」

 

蓮太郎はわけがわからないといった様子だったが、光には意味が理解できた。

嘘の番号を教えられたかもしれないと危惧しているのだ。そこまでやる必要があるかどうかは別として。

 

「蓮太郎さんが、偽の番号を教えたかもしれません」

 

「…………」

 

光の想像通りだったが、蓮太郎は言葉を無くしていた。何とも言えない表情をしている。

ティナは後ろを向いて、今手渡された番号に電話を掛ける。それに呼応して、蓮太郎の胸ポケットが震えた。

 

「突然ですが、蓮太郎さんは十歳の少女に興味がありますね?」

 

「……な、なに?」

 

光は話の内容を聞き咎め、蓮太郎を半眼で睨む。

 

「私のパジャマから覗く肌をちらちら眺めていたのを、ひしひしと感じました」

 

「眼科行け」

 

光の半眼が、汚物を見る物へグレードアップする。先ほど、保脇とか言う名称の汚物に向けていた物と同じ視線だ。

蓮太郎がやっと光の視線に気づき、慌てて弁解してきた。

 

「いや、光!そんなことないからな!?俺はそんな目を向けてないぞ!?」

 

「……ロリコンめ」

 

「いやだから!」

 

「それと、面と向かって言うのは憚られたのですが、蓮太郎さんは、本当に、不幸そうな顔をしていますね」

 

光の蔑み百%の視線を受けた蓮太郎は必死に弁解を続けようとするが、マイペースなティナの発言に遮られる。

蓮太郎はロリコンだという考えが、光の中で急速に固まっていく。元からあったものを強化したような強固さになっていくイメージが光の中にあった。

 

「うるせぇ。どうしてくれる、お前のせいで光に誤解されたんだぞ」

 

「それはそうと、これも言いそびれていましたが、私、アパートの場所、わかります」

 

「ってオイ!」

 

蓮太郎がずっこけそうになるのを堪えながらツッコミを入れる。

そして弁解する機会を失われたため、光の侮蔑の視線が解けることはない。

 

「今日は、とても楽しい、一日でした」

 

ティナは携帯を折り畳むと、振り返って嬉しそうに笑った。

ティナはベンチから降りると、ゆっくりと微笑んだ。

 

「また、会えるといいですね」

 

「そうだね。またどこかで」

 

光は言葉を返した。蓮太郎は諦めたように大きく頷き、手をお座なりに振ってティナを追い払う素振りを見せる。

 

「では、さようなら、光君、蓮太郎さん」

 

ティナは丁寧にお辞儀をして去っていく。

光と蓮太郎は、その姿が公園を出るのを見送ってから別れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいまー」

 

「おう、おかえり。遅かったじゃないか、どうした?」

 

光が帰宅すると、樹が偶々玄関を通りかかったようで光に声をかけてきた。

 

「ん、ちょっとね。そうだ、訊きたいことがあるんだけど。あ、依頼は受けてきたよ」

 

「了解だ。んで?訊きたいことってのは?」

 

「ティナ・スプラウトってイニシエーターに心当たりある?」

 

「誰だそれ?まあ、一応調べてみるが。さらっとやるが、いいよな?」

 

「うん、ボクもその名前のイニシエーターがいるかどうか知りたいだけだし」

 

ティナの行動を見て光が気になったのは、カフェインの錠剤をものすごい勢いで食べていたことだ。

あれは、普通の人間がやったら確実に身体を壊す。しかしティナの言い方だと、あのようなことを幾度かやっていると考えられる。

あんなことを何回もできるのはガストレア因子を持っている者だけ――光はそう考えた。

 

 

 

 

 

 

 

そして、社長室にて。

樹が調べてきた内容を聞いて、光は驚愕した。

 

「ティナが―――あの娘が、序列九十八位?本当に?」

 

樹も真剣な表情で光と相対している。

 

「ああ、しかもそれだけじゃねえ。ついでにプロモーターも調べたんだが、あのエイン・ランドだった」

 

「エイン・ランドって、あの『四賢人』の!?」

 

その名前を聞き、光が再び驚きを露にした。

 

エイン・ランド。ガストレア大戦時に四カ国共同で行われた『機械化兵士計画』。

その日本支部『新人類創造計画』の最高責任者室戸菫に並び、アメリカ支部『NEXT』の最高責任者をしていた人物だ。

そしてオーストラリア支部『オベリスク』最高責任者アーサー・ザナック、それらを統括していたドイツのアルブレヒト・グリューネワルトの四人を総称して『四賢人』と呼んでいた。

 

しかし、その『四賢人』の一人がプロモーター?菫を見ていると、そんな研究者に戦闘力があるとは思えない。

なのに、何故ペアを組んでいるのか。

 

「お父さん、なんで『四賢人』がペアなんかを組んでるんだと思う?」

 

「それはさすがに俺にもわからない。だが、ここで問題なのはそこじゃない」

 

樹が表情をさらに険しくする。光も樹が問題にしていることを理解し、硬い表情で頷いた。

 

「うん。――――何故、この東京エリアにいるか、だよね」

 

「そうだ。さっき合わせて確認したところ、民警に登録した場所はアメリカだった。そんなペアのイニシエーターが何故こんなところにいる――?」

 

「わからない。でも、彼女はアパート住まいみたいなことを言ってた。あの言い方だと多分、エイン・ランドは東京エリアにはいないと思う」

 

「ああ、それには俺も同感だ。そんな情報もないしな。……目的がわからねえ以上、打つ手はないか」

 

「だね。…………そういえば、登録武器はなんだった?」

 

「スナイパーライフルだ。だが、他のライフル、例えばアンチマテリアルライフルなども使えると見ていいだろう」

 

登録武器とは、民警ライセンスを取得する時に申告する使用武器のことだ。

もちろん、他の武器を使うこともできる。

 

スナイパーライフルにアンチマテリアルライフル。それらの言葉を聞いて、光の中で一つの可能性が浮かび上がる。

それはほんの僅かな可能性。いつもの状況なら、もしくは元から東京エリアで登録した民警だったなら気にも留めない様な可能性だ。

しかし、今この時期と外からの来訪者という二つの事実が、その可能性を僅かにでも()()()()可能性にする。

 

「ねえ、それってもしかして……」

 

「俺も()()は考えた。だが証拠がない。今は動けねえ」

 

「そう、だね。何も起こらないことを祈るしかない、か」

 

「そうだ。だが光、警戒はしておいてくれ。このことは舞には伝えない。余計な負担をかけたくないからな。確定したら伝えるが。負担を光にばかり押し付けて悪いが……」

 

樹が本当に申し訳なさそうな顔をする。

光が精神的に成熟している分、光に多大な負担をかけてしまっていることを自覚しているからだ。

 

「ボクなら大丈夫。これくらい負担でも何でもないし」

 

「すまねえ。だが本当に注意しろよ。もし俺たちの予想通りなら、単体で序列九十八位まで上り詰めた奴と戦うことになる」

 

「いざとなったら全開で行くよ」

 

光が気負いなく呟く。

光の言葉を聞いて、樹が表情を和らげた。

 

「ああ、それはお前の判断でやってくれ。俺に止めるつもりはない」

 

「まあ、今までも自己判断でってなってたのに今回はダメだ!ってなったら吃驚だけどね」

 

「それもそうだな」

 

そう言って光と樹は笑い合う。緊張していた空気が、やっと弛緩した。

 

「さ、もう夜も遅い。早く寝ろよ」

 

「うん、わかってる。お父さんの方でも、できるだけ情報を集めておいてもらえる?」

 

「了解だ。俺はこれからもう一仕事あるから、ここに残る」

 

「あ、そうなんだ。頑張って。最近真面目だね、なんかあった?」

 

光に問われ、樹が目を逸らした。

 

「…………いや、夏世が来たからな。無様な姿は見せられないだろう?」

 

「ああ、なるほど。しっかりした姿しか見せてないもんね」

 

樹の言い分を光はしっかり理解した。

樹と夏世があったのはあの影胤テロ事件のときだ。あの時は樹もふざけたりしなかったため、その印象を守り通そうと必死なのだろう。

前までも仕事はきっちりやっていたが、ここまで真面目な態度ではなかった。

 

「無駄な努力だと思うけど、一応、応援しとくね。頑張って。じゃ、おやすみー」

 

「あ、おい!無駄な努力ってどういう意味だ!?おい、ひか――」

 

パタン。樹が何か言っていたが、光は無情にも扉を閉めた。部屋の防音性能が遺憾なく発揮され、樹の声は光には届かない。

 

「さて、寝よ寝よ」

 

光は自分たちの寝室に向かって歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――その頃、ティナは夜道を歩いていた。

 

車がヘッドライトを点けて行き交う中、歩道をしっかりとした足取りで歩く。

 

そんな中、ティナの携帯が震える。ティナは送信者の名前を見て、耳に当てた。

 

「マスターですか?」

 

『定時の報告をせよ』

 

とても事務的な声音がティナの耳に届く。

 

「無事、東京エリアに潜入。一度トラブルがありましたが、大事には至っていません」

 

『そうか、できる限り他人との接触を避けるんだぞ。それと、名前も極力偽名を使うように』

 

「…………はい、問題ありません」

 

『ティナ・スプラウト、お前の任務は何だ?もう一度私に聞かせておくれ』

 

ティナは顔を上げ、空で輝く月を見据えた。

 

「ご安心下さいマスター―――聖天子抹殺は、必ずや遂げられます」

 

その目には、決然とした光が宿っていた。

 

 

 




てな感じで、ティナ初登場の回でした。

最後のシーン、光以外の人間の描写を初めて入れました。
本当はやりたくなかったんですが、あのシーン入れないとティナの目的わからないし……。
というわけで泣く泣く入れました。

途中の登録武器うんぬんは、適当です。あんなのあるかなと思って書きました。
もし原作で言及されてたら、教えていただけると幸いです。あの部分書き直します。

樹の情報収集能力はすごいです。もう本当にもんのすごいんです。復讐するためにめっちゃ頑張ったんです。
今回の収集はその成果ということにしておいてください。序盤で色々わかりすぎだろなどのツッコミはなしでお願いします、マジで。

感想などあればお願いします〜。
では、また次回。

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