あれは嘘だ。
すみません。一話で終わらせるとか文量やばいことになるぞ?と思ったので分けました。
原作二巻に入るのに、あと二話使うかも。
では、どうぞ。
樹たちがひとまず戦闘を終え、続けて警戒していると、光が走ってきた。
「お父さん、みんな!大丈夫だった?」
「お、光。俺たちは大丈――」
「――光ッ!!」
「おっと」
樹の言葉を遮り、舞が光に抱きついた。
「ねえ光、大丈夫?怪我してない?痛みとかは?平気?」
「ちょ、どうしたの、舞?ほら、僕は大丈夫。怪我なんてないでしょ?だから、落ち着いて。ね?」
えらく動揺している舞を、光は何とか落ち着かせようとする。自身が無傷なのを見せて、舞を安心させるつもりだ。
「だ、だって、さっきパパが『
それにあの殺気、光のでしょ?光があんなの出すなんて、普通じゃないから心配で……。それに、あの爆発……」
舞には効果はないようだ……。不安を前面に押し出してくる舞を相手に、光は落ち着かせるようにゆっくりと説明する。
「あー、一瞬本気で殺気を放ったのは事実だよ。僕でも殺意を抑えられなかった。でもまあ、今は落ち着いてるから。それよりも、こっちは大丈夫だった?」
「ああ、俺たちの方には変なのは出てきてない。ガストレアも粗方狩りつくしたみたいだな」
光の問いに樹が答えた。
「そっか……。そうなると、この中で単独で行動した僕を狙ったってことなのかな」
「恐らくそうだろう。俺たちを監視してた方法は―――アレだろうな」
そう言って、樹は上を向いて上空を指差した。
――今もこの島を映しているであろう、偵察飛行中の
「てことは……敵は、やっぱり……」
「ああ。実のところ俺のコネを駆使しても情報が少なすぎて予想は全然つかねえが、かなり上の奴が関わってることはほぼ間違いないだろう。
―――そうだ。光、ガストレアの死骸は残ってるか?貴重な情報源になりえるが」
「あ、そのことなんだけど―――」
「ん?電話か」
光が説明しようとしたところで、樹の携帯に電話がかかってきた。何とも言えないタイミングである。
「もしもし――って、聖天子様かよ。どうしたんだ?」
電話の相手が聖天子だとわかって、樹は慌てて電話口を手で覆う。和と夏世がいるから、念のためだ。
樹がタメ口なのは、本人から許可を出されているからだ。理由は不明である。
樹の行動を見て、光と舞は電話の相手を悟る。
樹の意図もわかるが、和が全く不思議そうな顔をしていないので、これバレてるんじゃないかな、と光は思う。
樹が通話を終え、内容を端的に告げてきた。
「全員落ち着いて聞け。ステージⅤのガストレア、ゾディアック・スコーピオンが東京湾に出現したそうだ」
その発言に、光以外のメンバーに小さくない動揺が走る。
光は、どうせそんなことだろうと予想していたので、動揺はない。さらに、次の言葉も予想できる。
「つーわけで、今からあそこにある『天の梯子』を使って、里見君がスコーピオンを狙撃するらしい。
それが失敗した場合は―――光。全力を以て消滅させろ、だってよ」
――概ね予想通りだった。蓮太郎が『天の梯子』を使う所は予想外だったが。
『天の梯子』とは、ガストレア大戦末期の遺物で、一度の試運転すらもされることなく放棄された超巨大兵器。
またの名を、線形超電磁投射装置――有り体に言えば、レールガンモジュールだ。
「了解しました、お父さん。僕の出番がないことを祈りますよ」
子供っぽい口調が鳴りを潜め、光が任務遂行時の真面目な状態になる。
「それは俺も同感だ」
樹も苦笑いしながら光の言葉に賛同した。
そのすぐ後、一条の光が東京湾に向かって伸びていった。
この場からは東京湾は視認できない。だがそれでも、全員が視線を東京湾に送っていた。
――ヴーッ、ヴーッ、ヴーッ。
樹の携帯のバイブの音がやけに大きく響く。
樹以外の全員が、携帯から漏れる音を聞き漏らすまいと、固唾を呑んで見守る。
「――はい、もしもし――」
誰かが、ゴクリと喉を鳴らした。
「―――そうか。成功したか」
樹の口から漏れたその言葉に、皆がホッと胸をなでおろす。
ついに、影胤が引き起こした騒ぎは、終わりを迎えた。
事件の後。
ある程度の後始末を終えた『立花民間警備会社』の面々――正確には立花家の人間だけ――は、居間に集まっていた。
時刻は午前五時半。和はもちろん、華奈もまだ寝ている。
「さて、と。もう少しゴタゴタは残ってるが……ひとまずはこれで終わりだな」
樹が口火を切って、今回の件の終わりを告げる。
樹が続けて言葉を発する。
「で、だ。色々あって聞けてなかったが、光、何故ガストレアの死骸が残ってなかったんだ?」
そう。あの時光は説明できずに、そのまま機会が来なかったのである。
樹たちは、光がそんな単純な失敗をするはずがないと確信しているので、その真相を確かめようと思ったのだ。
「うん、説明するよ。あの時、ボクは一人で三体を相手にしていた。だから、三体とも瀕死の状態に留めてたんだ。
そして、反撃がないと確信できる時まで待ってから、確実性を取って『百花繚乱』で始末した」
「おう、悪くない判断だな。それで?」
樹は光の説明に頷いて、先を促した。他の皆は静かに光の話を聞いている。
「『百花繚乱』が決まって確実に殺した、後は放置でいいや、って思った時に嫌な予感がして。
咄嗟の判断で『斬渦牢』を使ったのと同時に、三体のガストレアが爆発した」
「………どういうことだ?」
樹が皆の気持ちを代弁する。
皆が疑問に思うのも無理もない。『百花繚乱』に、相手を爆発させる効果などないのだから。
舞は『百花繚乱』を使えないため、そこまで強い違和感を覚えているわけではないが、全員の反応から妙な事態であることは察している。
「わからない。でも、殺した直後に爆発したから、何らかの方法で起爆スイッチと奴らの生命反応がリンクしてたんだと思う。
あれは、完全にこっちを殺す気の威力だった。ヤバいのは全部『斬渦牢』で防いだけど、爆風にバラニウムの金属片が混じってた。
それでも、爆発の威力が凄くて、他の瓦礫とかを防ぎきることはできなかった。肉片も残さずに消滅していたよ」
恐らく、ガストレアの体内に仕込んだ爆弾の内部に、バラニウムの破片を混ぜていたのだろう。
外側を普通の金属で覆えば、ガストレアに影響はない。
これと似た構造をした手榴弾も開発されている。……『対呪われた子供たち用』に使われたりもするが。
「………奴らは、証拠を残さないように準備してたってことか。そんな威力のもんまで用意して」
「……うん。瀕死の状態まで追い込んだけど、殺してはいなかったわけだから、あのまま放置して肉片を採取するのは危険だった。
遅かれ早かれ、殺すことになってたと思う。ボクしかいない時にきちんと殺したのは、ある意味幸運だった」
光の考えは正しい。バラニウムでいくら再生を阻害していると言っても、あくまでも阻害だけだ。
ガストレアの超回復力を妨げるだけであり、自然治癒まで妨害することはできない。
仮に採集チームが出向いたときにある程度回復していたら、そのチームは全滅を免れなかっただろう。
「そうだな……。で、それだけか?」
「え?なにが?」
光が怪訝そうに眉を寄せる。
樹はその様子を気にも留めず、淡々と告げる。
「光が言いたいことはそれだけか、と聞いている」
光は顎に手をあてて少し考えると、再び口を開いた。
「そうだね………。
なんか相手のやり方が露骨になってきたし、和ちゃんと華奈お姉ちゃんにも詳しい事情を話しておいた方が――」
そこまで言った時、樹がテーブルを叩いた。
その力強い音に、光が口を閉ざす。
「……俺はそういうことを言いたいんじゃない。光、逃げんなよ」
光は長く悩んだ末に、ため息を吐いてから言葉を発した。
「……………。夏世ちゃんを、会社のイニシエーターとして雇いたい」
「やっぱりそれ考えてたんじゃねえか。なら躊躇ってんじゃねえよ」
「……ならハッキリ言うけど。ボクはお母さんのイニシエーターとして、夏世ちゃんを雇ってほしいと考えてる」
その言葉を聞いて、樹は面白そうに口の端をつり上げる。
縁は、片眉をピクリと動かして今まで纏っていた真面目だが柔らかい雰囲気を一変させた。
空気が、ピリピリし始める。
「ほう……。なら、夏世ちゃんを雇いたい理由と縁のペアに薦める根拠、そしてこの提案を躊躇った光の想いを聞かせてもらおう」
そう言い放つ樹は、いつものふざけた態度は鳴りを潜めて、一家の主らしい威厳に満ちていた。
「まず、雇いたい理由から」
「わかった。ボクは直接訊いてないから確証はないけど、夏世ちゃん、人を殺したことがあるよね?お父さん、知ってる?」
「ああ、あの子から聞いたよ。愚問だと思うが、なんでわかった?」
「目でわかるでしょ、そんなの。でも、気配がそういうタイプの人間のものじゃなかった。
彼女は自分の意志で積極的に殺しをするような人間じゃない。
となれば、命令聞いてやらされてたってのが一番有力だ。
今回の件で、それをやってただろう伊熊将監は死んだ。今彼女はフリーだ。IISOに戻される前に引き取ることは不可能じゃない。
それならボクは、もし彼女が望むなら、彼女を救いたい」
それを聞き、樹は深く頷いた。
「お前らしい意見だな。じゃあ次だ。なぜ縁なんだ?彼女に直接会った俺でなく、縁を薦める根拠は?」
「彼女は後衛だ。お父さんと合うのは、前に出て一緒に暴れられる人。
それに対してお母さんなら、どんな相手でも合わせて相手の力を引き出せる。前衛だろうと後衛だろうとね。
それが根拠だよ」
樹は笑みを深める。
「………さすが光、よくわかってるじゃねえか。俺もそう考えてた。提案に矛盾点はねえな。
最後だ。躊躇ったお前の想いは?」
「………そんなの決まってる。ボクだって、羽美たちのことは悔しいんだ。今でもあの時の自分の不甲斐なさに怒りが湧く。
でも、それはお父さんたちの方が強いでしょ?ボクはお父さんたちの姿をずっと見てたんだからわかるよ。
それなのに、ボクの自己満足のためにお母さんを苦しめたくなかった」
「光……。それは、子供が考えて遠慮することじゃねえな」
樹は、光の大人っぽさ――子供らしくないところとも言う――に対する苦笑を浮かべる。
「かもね。でも、躊躇うなって言われたし、ガンガン行くよ。
お母さん、まあお父さんもだけど。立ち止まってちゃダメだと思う。
ただの推測だけど、あの子たちも自分のせいで二人が縛られることは望まないよ。
――でも、お母さんは新しくペアを組むのは嫌なんでしょ?羽美以外と組むつもりがないから」
「ええ、嫌よ。私のパートナーはあの子だけ」
縁が光の眼を見据えて断言する。
光も、縁から目を逸らさずに言った。
「それでも、ボクは強引にでもお母さんと新しい人を組ませる。
復讐はボクも必ずするからそれはいいとして、先に進まないのはよくないから。
夏世ちゃんなら、大丈夫だとボクは思ったし」
光と縁の間にピリピリした空気が蔓延する。
その睨み合いを破ったのは、樹だった。
「はい、注目。二人とも、譲る気はないな?」
「ええ」
「もちろん」
「なら、わかってるよな?」
「うん。後に禍根が残りそうなこと、もしくは重要だと考えられることで意見が完全に割れたときは」
「その者たちの決闘によって、決着をつける。立花家家訓の一つね」
光と縁は睨み合ったまま、不敵に笑う。
「じゃ、道場行くぞ。審判は、俺、親父、舞の三人でいいか?」
「「いい」」
二人は同時に頷いて、道場に向かう。
舞と厳も立ち上がり、移動を開始した。
「ねえおじいちゃん、前に決闘があったのっていつだっけ?」
「―――
「――そっか。そうだったね」
厳の返答でしっかり思い出したのか、舞の表情が翳る。
「ほれ、暗くなってても仕方ない。行くぞ」
「あ、うん」
「ふわぁ……。あ、おはようございます。皆してどうしたんですか?
光君に至っては
道場に向かう道すがら、離れから歩いてきた華奈に出くわした。
そして光は、華奈が言うようにフル装備だった。
背中に長槍を背負い、腰には短槍が四本、鞘に入った状態で差してある。
縁もだ。連結長槍を片手で弄びながら歩いている。
その腰には、どこからどう見ても
「ちょうどいい、華奈ちゃんも来るといい。これからうちの家訓に則った決闘をする。
縁の本気の戦闘、見たことないだろ?」
光と縁が華奈に全く反応しなかったので、樹が対応した。
だが、華奈は返ってきた言葉にキョトンとしている。
「……え?決闘?で、でも、あれ訓練用のじゃないですよ?本物ですよ?」
華奈が二人の持っている武器を指差して少々かすれた声で喋る。
だが、樹はなんてことない、といった体で返した。
「そうだな。それがうちの決まりだ。ついでだ。舞、和ちゃんを呼んできてくれ」
「うん。わかったよ、パパ」
目を白黒させている華奈を特に気にも留めず、樹は舞に和を呼びに行かせた。
『立花家』に住んでいる全員に見せるつもりなのだろう。
「……樹よ、見せる必要はあるのか?」
「うんにゃ、必要はねえと思う。だが、縁の戦闘センスは俺とは違う方向でピカイチだ。
和ちゃんが見ることで得るものもあるだろう。和ちゃんもセンスはかなりのものだしな。
――それに、うちのやり方はこうだってことを正しく知っておいてほしいからな」
「………そうじゃのう。うちは色々荒っぽい上に、
厳は頷いて同意を示した。
そこへ、舞が和を連れて戻ってきた。
「呼んできたよ、パパ」
「みゅ〜。眠い………。社長〜、なに〜?」
「ああ、ちょっとな。もう着いたから説明するより見る方が早い」
道場に入った全員が見たのは、剣呑な雰囲気で向かい合う光と縁だった。
この道場は土足なので、靴を脱がずに中に入る。
樹は、向かい合う二人に声をかけた。
「さて、二人の主張を確認するぞ。
光は、縁に新しくペアを組ませたい。できることなら夏世ちゃんと。
縁は、嫌だ。断固として拒否する。
これで間違いないか?」
「ええ、私はいいわ」
「僕もいいよ。この停滞を壊せそうだし」
「よし。―――では、始めッ!!」
樹の合図があって試合が開始しても、光と縁は一切動かなかった。
光は長槍を構えて微動だにせず、縁は連結長槍をゆるく持ってじっとしている。
空気は痛いほどに張り詰め、誰かが喉を鳴らした音がやけに大きく響く。
「ふ――っ」
光が大きく息を吐く。
が、それでも縁は動かない。
ただじっと待っている。
「―――ちぇっ、あんなに大きな隙を作っても来ないか」
縁は何も返さずに光を見つめる。
くそっ、厄介だ――という考えが光の中で渦巻く。
道場の端っこで二人の対峙を見ている華奈と和は驚きを隠せない。
光の戦闘スタイルは、俊敏な動きで相手を翻弄しつつ戦うヒットアンドアウェイを主軸にしたものだ(と二人は思っている)。
その光が、全く動こうともしない。驚きだった。
驚きの対象は光に対してだけではない。縁にも相当驚いている。
華奈と和は離れに住んでいるため、この一家の稽古を見ることもよくある。
その時は、皆が動き回ってさながら演舞のように戦っていたのだ。
その内の一人である縁が、完全に待ちの一手。しかも、微塵も隙がない。それどころか、隙を無理矢理作ることも難しそうだ。
それに、今放っているオーラが稽古の時とは全く違う。
――これが、自分たちのいる会社の副社長の本気なのか――二人は、戦かずにはいられなかった。
縁の本質は、完全な防御型。
戦闘スタイルは防御しつつカウンター、もしくは防御し続けて相手が一瞬でも隙を作ればそこを突く、のどちらかだ。
縁は、経験から相手に合わせてそのどちらかを選ぶ。
防御しつつカウンターの方なら、縁には僅かな隙がある。
相手に狙ってることを気づかせずにそれとなく誘い、手痛い反撃を食らわせるのだ。
だが、防御し続ける方だと縁には一切隙がない。
相手は迂闊には動けず、緊張感に耐えられなくなって集中が一瞬でも途切れたときがその者の最後だ。
かといって、無理に攻撃を仕掛けても、縁を崩せなければ即座に負けに繋がる。
縁の集中力が尋常ではないため、このスタイルを取られると相手は切り口がわからなくなる。
樹はもちろん、あの厳をして『こうなった縁は一筋縄じゃいかない』と言わしめるほどだ。
縁に対して、虜力など意味を持たない。
光はこの状態の縁を過去に見てはいたが、対峙して初めてわかった。――確かに、一筋縄じゃいかない。
どうすれば切り崩せるのか、全くビジョンが見えない。
――どうしたものか――光は、頭を光速で回転させながら構える。
華奈と和は、光のスタイルがヒットアンドアウェイだと思っているが、本質は違う。
光も、どちらかと言えば防御型なのだ。
自身から攻撃を仕掛けることでアクティブな隙をわざと作り、そこに食いついてきた相手を痛い目に合わせる。
―――能動的なカウンタータイプ。分類するなら、光はそうなるだろう。
樹と舞はガンガン行こうぜタイプなので、縁を相手にするなら、厳を除けば光が一番相性がいいだろう。
その光を以てして、突破口が全く見えない。
一番最近にあった、樹と縁の決闘は縁の圧勝だったのも頷ける。
―――
光は、縁と対峙しながらも戦々恐々としていた。
厳のすごさが身に染みてわかる。これは、無理だ。
だが、諦めるわけにはいかない。今回は、退けないのだ。
――自分の母親が先に進む後押しをするためにも、退くことはできない。
――そんなことを自分がするのは、許せない。
――――光は、覚悟を決めた。
「セイッ!」
無理だろうが何だろうが、抉じ開ける!
光はそう心に誓い、縁に向かって長槍を突き出す。
立花流槍術一ノ型四番『
それこそ、槍の本領。純粋な突き。
だが、純粋な突きであるからこそ、その威力を侮ることはできない。
一瞬で引き絞られた槍の持つ威力は、空気の層を貫く。
長槍の周囲に空気を纏い、縁を貫かんと光が肉薄する。
ちなみに、技の名前を発声するのは、イメージを掴むためだ。
これから使う技のイメージを確固たる物にするために、言葉にして集中を深める。
つまり、発声しなくても完璧にイメージできるなら声に出す必要はない。
まあ、周りの仲間に、これからどんな技を使うか知らせるという目的もあるが、それは今は必要ない。
喋ってる暇があるなら、その時間すら攻撃に充てる方がいいのだ。
というより、充てなければならない。そんな余裕はないのだから。
だが、彼我の距離を一瞬で詰めた光の攻撃も、縁にとっては大したことではない。
この程度の距離を一瞬で詰められるなど、縁にしてみればよくあることだ。
瞬時に連結長槍を構えて、立花流槍術三ノ型一番『分水嶺』で受け流す。
ここで、『縁に』と強調していることからわかるかもしれないが、普通はそんな簡単なことではない。
光が詰めた距離は、どう頑張ってもそのまま近接戦闘ができる距離ではない。
スピード特化の『呪われた子供たち』なら、容易に稼げる距離だが。
――閑話休題。
『分水嶺』で受け流された光は、もちろんあれしきで終わるとは思っていない。
『分水嶺』か『新月』のどちらかで対応してくるだろうと予想していたため、すぐさま反応できた。
縁に受け流された時に追加された勢いで迫り来る壁に足を向け、衝撃を全て脚で吸収しエネルギーに変える。
そのまま壁を蹴り、再び縁に接近する。
――再度『穿月』。
自分に背中を向けていようが、こんな攻撃が通るわけがない。
反撃は何で来るか――それに合わせて対応を変えようと目論んでいたところに、縁の対処が飛んできた。
「げっ!?」
つい呻き声を上げてしまったのも無理はない。
なぜなら、
縁が厄介な理由はここにもある。
縁のメイン武器は連結長槍だが、縁は無手と刀でもかなりの実力者だ。
さすがに連結長槍で戦っている時の方が強いが、無手や刀でも似たようなことができる。
――すなわち、防御に徹して反撃する――
縁は、武器が手から離れても、ほぼ変わらぬ戦闘力を誇る。
ただでさえ強いのに、その事実が厄介さに拍車をかけている。
今も、光が何とか引き戻して盾にした長槍が、ポッキリ折れてしまった。
舞が持っても平気なように、槍の持ち手部分はカーボンを基にできている。
いくら靴を履いているとはいえ、カーボン製の持ち手をへし折る縁のその戦闘力の高さが伺える。
吹っ飛ばされて大きな隙ができた光を、縁が逃すはずもなく。
刀に手をかけると、一気に振り抜いた。
「天童式抜刀術一の型一番『
静かにそう呟いた縁の放った斬撃は、光に向かって一直線に突き進む。
精神集中もなく放たれたその技は、本来の威力からすると児戯に等しいが、受けることのできない光からしてみれば十分に脅威だった。
警鐘を鳴らす自身の直感に従い、光は回避をなによりも優先する。
短槍を一本抜き放ち、躊躇うことなくボタンを押し込む。
短槍に仕込まれた火薬の力を借りて横に吹き飛び、斬撃の射線から逃れる。
壁に手を当てて衝撃を抑え、地に降り立った。
光が動き始めてから十秒も経ってない。
なんとも密度の濃い攻防だった。
縁が天童式を使えるのは、一時期天童家の下で修行したからだ。
先ほどの回し蹴りは、天童式戦闘術二の型十六番『
――恐ろしいほどの戦闘センスで、槍・刀・徒手格闘を使い分ける。
それが、全力を出した縁だった。
ふはははは、ここであえての引き!
………文字数、できれば一万超えたくないんですよね。
このまま戦闘終了まで書いたら確実に一万を超えるので、引きという形で分けることにしました。
――さあ、光は縁に勝つことができるのか!?
ぶっちゃけ救済という面で見れば、夏世は助かってるから仲間にする必要はないぞ!?
槍・刀・徒手格闘でオールレンジな縁!
こんな強敵を、はたして光は打ち破れるのか!?
乞うご期待!
………こんなノリ、ちょっとやってみたかった。
実際、光が勝とうが負けようがどっちでもいいんですよね。話は書けるんで。
一応、どちらにしようかは決めてますが。
テンプレ通りになるのか、ならないのか。
神のみぞ知る(笑)。
では、感想など、よろしくです。