私と契約して魔法少女になってよ!   作:鎌井太刀

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第九話 私と契約して、星になってよ!

 

 

 

 キュゥべえという白いナマモノを解剖した結果、奴を構成する肉体のほとんどが解析不能という結論に達した。

 

 元々勢い余って微に入り細を穿つように腑分けしたのが始まりだったのだが、思った以上に謎だった。

 

 内部が全部真っ白なのは知っていたが、単純なたんぱく質じゃなくある種のナノマシンである可能性が生まれてきた。

 

 今回立てた私の仮説は、キュゥべえの体は極小の機械群で構成されているというものだ。

 小動物的マスコットキャラに擬態するだけじゃなく、魔法少女以外に見えない謎のステルス機能の他、端末としての役割を果たし、経口摂取した有機物やグリーフシードの分解を行う機能まであるというのは、人類の最先端技術でも再現できまい。

 

 私にできる限りの魔法的、科学的手法問わずに調査したが結論はやはり不明。

 もはや未元物質で出来ているのではないかとすら思えた。

 

 まあ、そんなことは実の所どうでも良いのだ。

 奴の体のことなど知っても大した意味はない。

 

 キュゥべえだけに効くウィルスでも作って散布できれば、少しは人類の未来も明るくなるかも知れないと思ったが、それで滅びるようならとっくに滅びているだろう。

 そもそも白いナマモノの体が、インキュベーターの本体だという保証すらまったくないのだ。

 

 無駄な努力はすべきではない。

 あくまで余興、本命の情報は一時間足らずで収集し終えているというのに私ときたら。

 

 まったく、勢いというのは怖いものだ。

 

 そんなわけで早朝からさっそく黒球内部で濃密な時間を過ごしてしまった私だが、月曜日の朝食にようやくありつくことができた。

 

 アリスは和洋中なんでもござれの鉄人だが月曜の朝は洋食と決めているので、ハニートーストとコーヒー、それからマッシュポテトとウィンナー、それからサラダというお決まりメニューが並んでいた。

 

 足元では新しいキュゥべえが刺し身となった自分を食べていた。

 酷くシュールな光景だったが、遠目から見れば白いマシュマロを食べているようにも見えるだろう。

 

 だがつい先ほどまで間近で観察していたのが裏目に出てしまい、奴の食事風景は私の食欲を著しく減衰させた。

 

「……あなた、よくそんなの食べられるわね。というかあなたの体って食用なの?」

「その質問はわけがわからないよ。それにうんと答えたらきみは僕を食べるのかい?」

「非常食にはなるかな、と思う。人間、死ぬ気になれば食べられないものなんてないんじゃないかしら?」

 

 土だってガラスだって○○だって、うぇーっと思ってしまう物でも食べた人はいる。

 ならば白いナマモノくらい余裕ではないだろうか。

 

「まったく、これだから人間というのは理解できないよ。単純に僕が食べているのはもったいないからさ。資源の無駄は避けるべきだ。

 そういえばこの国の標語だよねMOTTAINAI。この国に籍を置く身として、きみも見習うべきじゃないかな?」

「なんだろう、あなたに言われるとイラッとくるからやめてくれる?」

「ひどいよリンネ。あと僕を食べるのは色んな意味でお勧めしない」

「消化に悪いどころか食中毒起こしそうよね。というか人間には毒物? あ、食べなくてもそうだったわね。ごめんなさいね人類敵性種さん?」

「きみも意外としつこいよね。昨夜の魔女の件の代償はもう支払ったじゃないか。これ以上は契約違反だよ」

「なに可愛い事言ってるの、キュゥべえのくせに。こんなのは軽い親愛表現よ、覚えておきなさい」

「……そう言われてしまえば、僕たちは頷くしかないね」

 

 感情を理解できないので人間的な感情によるジョークだと言えば、理解できない連中はそういうものだと納得するしかない。

 というわけで、その後も私はキュゥべえをネチネチとイジメて存分に憂さを晴らした。

 朝食を終えた後は、アリスにいつものお出かけのキスをして学校へと向かう。

 

 さて今日も一日、外道に頑張るぞー。

 

 

 

 

 

「リンネちゃん、おっはよー!」

 

 教室に行くと真っ先にニボシが出迎えた。

 思えばこの数日で急接近した私達だが、当然それを不思議そうな顔でクラスメイト達が見ていた。

 だがそんなことは関係ないとばかりにニボシは笑顔で私に話しかける。

 

「リンネちゃんは休日どうしてたの?」

「ちょっと片付けなきゃいけない雑用が溜まってたの。引っ越しの荷物も実はまだ整理し切れてなかったし、いい加減片そうと思ってて。遊びに誘ってもらったのに悪い事したわね」

「あ、いいのいいの! 気にしないで! そういえばリンネちゃん一人暮らしって言ってたもんね。やっぱり家事とか、自炊するのとか大変?」

 

 家事その他諸々は我が家のスーパー家政婦アリスたんがやってくれるので、大変なわけがない。

 だがそれを馬鹿正直に教えるつもりはなかった。

 

「大変とか、意識したことはないかな。ただ自分の世話をしてるだけだしね」

「へー、私はお母さんに甘えっぱなしだからなぁ。リンネちゃんって自立してる感じがしてすっごい大人だよねー」

「大人ねぇ……それって褒められてるのかしら? なんだか老けてるみたいで素直に喜べないわ」

「えー、大人っぽいって褒め言葉だよー」

「まぁニボシはそうよね」

 

 ぽん、とニボシの頭に手を置く。

 身長差もあって手が置きやすかった。

 

「え、それどういう意味!?」

 

 愕然とした顔を浮かべるニボシの頭をぐりぐりして強制的に誤魔化す。

 バカな子ほど可愛いものだ。

 

 そんな風にニボシが私に付きまとうせいで、クラスメイトからも積極的に声を掛けられる様になってしまった。

 

 正直面倒だが、優等生の仮面を被った私はそつなく受け答えをする。

 大抵の場合隣にニボシがいたので、面倒な質問などはニボシに放り投げた。

 

 そんなこんなで、ついこの前まで休み時間ぼっちだった私からは想像もできない女子女子した会話の輪に入り、若干気疲れしながらもニボシを構って癒されることでどうにか乗り切った。

 

 昼休みになるとクラスメイト達からも昼食に誘われたが、ニボシとともに先約があると伝えて断った。

 その際に「あー、あの人達ね。それじゃあしょうがないか」と意味深なセリフで納得されていた。

 

「……ニボシ、アイナ先輩達のグループって結構有名なの?」

「うーん、どうだろ? 人助けとか困っている人の力になったことが何度かあって、それから目立ち始めたような気がする。なんだか非公式なボランティア部? みたいな集まりだと思われてるみたい」

 

 困ったことがあれば即見参! あなたのお悩み解決します! とでも広告しているのだろうか。

 

 まあ魔法少女としての能力があれば大抵の問題はどうにかできるだろう。物理的に。

 ふと気になったことがあったので私はニボシに聞いてみた。

 

「非公式って話があったけど、みんな部活とかには参加してないの?」

「……魔法少女だからね。真面目に頑張ってる人達に比べてズルい気もするし。それに町の平和を守る使命があるから部活してる時間はないかなー」

 

 ニボシは退屈そうに言った。

 その顔がどこか寂しそうだったから、私はつい無粋な質問をしてしまう。

 

「後悔、してない?」

「してないよ。するわけないじゃん」

 

 力強い声でニボシは言った。

 

「誰かがやらなきゃいけないんだ。魔女を倒す、私にはそのための力があって、頼れる仲間もいる。だから、魔法少女になって後悔したことなんかないよ。

 魔女に、使い魔に殺されそうな人を助けられた時は心底魔法少女になってよかったと思うし、こんな私でも、誰かの役に立てるんだって実感できるんだ」

 

 ニボシは正しい魔法少女としての使命感を胸に、熱く語った。

 正しくない魔法少女筆頭の私としては、実に耳に痛い言葉だ。

 

 誰かの役に立つだなんて、考えたことすらない。

 私は私の役に立つかどうかで世界を見ている。

 

 私達は相容れない価値観を持っていた。

 だから悪い魔女に食い物にされるのも仕方ない事だと、私は自らの唇を舐めるのだった。

 

 

 

 昼休みの屋上で、私は彼女達にあることを尋ねた。

 

「私達のグループ名?」

「はい。そういうのないんですか? 『アイナ先輩と愉快な下僕たち』とか『マジカル☆アイナとその他大勢』みたいな、自己主張の激しい奴は」

「そんなのいやよ! もうリンネちゃんったら、私のことなんだと思ってるのかしら! ……でもそうね。リンネちゃんのチーム名はともかくとして、名前を付けるというのは悪くないアイディアよね」

 

 アイナ先輩は考えるように腕を組む。

 山が形を変えた……だと?

 

 慄く私をよそに、それまでイチゴオレのパックをちゅうちゅう飲んでいたアリサが、さっと挙手して言った。

 

「では『アイナ先輩とその奴隷たち』で決まりですね」

「アリサちゃーん? どーしてそーなるのかなー?」

 

 泣きそうな顔でアイナ先輩がアリサに問いかける。

 だがアリサはまったく堪えた様子はなかった。

 

 私とアリサは目と目で通じ合う。

 ここにアイナ先輩を弄る同盟が結ばれた。

 

「アリサを責めないでやってください。これもひとえにアイナ先輩をリスペクトすればこそですよ、ね?」

「リンネ先輩の言う通りアイナ先輩がいてこその私達、つまりもう私達はアイナ先輩なしでは生きていけない体に……不潔です!」

 

 だがアリサは早々に自爆してしまった。

 なんという耳年増か。

 

 だが顔を真っ赤にした生意気な後輩という餌を見逃すほど、私達は甘くなかった。

 

「にははー、アリサちゃん自分で言ってて照れてるー!」

「どこでそんな知識仕入れて来たんだ? おじさんにちょっと教えてくんない?」

「……ぷっ」

 

 アリサは、ニボシが顔を覗き込もうするのを迎撃し、

 マコがわざとらしくハァハァと変質者の真似をすればその頭を叩き、

 思わず吹き出してしまったユリエの頬を抓る、という八面六臂の活躍を見せた。

 

「リテイク! リテイクを所望します!」

 

 そしていつの間にか私は監督になっていたらしい。

 

 よろしい、ならばリテイクだ。

 

「つまりアリサは先輩の肉奴隷だったということね。お二人とも仲が良くて羨ましいですわ」

「ちょっ、リンネ先輩! ここで裏切りますか!?」

「手を組んだ覚えはありませんね」

 

 おほほと口に手を当てて笑って見せる。

 気分は似非お嬢様。一般人との約束なんて存じませんわ、なんて。

 

 その後も大いに話は脱線に脱線を重ね、話題がぐるりと一周して戻ってきたのはだいぶ後になってのことだった。

 

「それでチーム名なのだけど、誰か案はあるかしら? ネタ禁止で」

 

 きりっとした顔でアイナ先輩が言った。

 不満の声が前衛コンビから上がるが、散々弄られて涙目になった先輩の視線に黙らされていた。

 

「魔法少女隊とか?」

「安直だなー」

 

 などと掴み合いを始める前衛コンビは、まったく役に立ちそうになかった。

 それらを華麗にスルーしてアリサが思案する。

 

「戦隊物から考えるとしても、アイナ先輩が翠色、ニボシ先輩が白黒、マコ先輩がオレンジ色で、ユリエ先輩がピンク、そして私が水色なわけですが……一応レンジャー名乗れますかね? レッド、グリーン、ブルーがやや薄色ですが」

「え、その理屈だと私、ブラックとホワイト兼任するの?」

「ニボシ先輩ならできますよ。表向き善人で、その実腹黒キャラを目指せばいいのです。仇名はオセロで、味方がピンチになれば敵方に裏切り、最終的にラスボス前で改心して仲間になるようなウザキャラを目指してください」

「わー、物凄くやりたくないなー」

「あらリンネちゃんを仲間外れにしてはいけないわ。ぜひともシルバー枠で入れてあげましょうね」

「アイナ先輩、変な気を回さなくてもいいです……それに、シルバーというなら」

 

 ゴールドもいるのですかと茶化そうとして、黄金の少女アリスのことを思い出す。

 私さえいなければ、彼女は今でも大勢の人に囲まれていたのだろうかと、ふとした感傷に襲われた。

 

「……どうしたの?」

 

 急に言葉を切ってしまった私を、アイナ先輩が心配するように見ていた。

 大したことではないと首を振る。

 

 まったく、昨晩は文字通り悪夢だった。

 どうせならハーレムの夢でも見せてくれればよかったのに。

 

「いえ、突然アイディアが閃いてしまったもので。これはもう天の意思だとしか思えません」

「……ゴクリ。リンネちゃんがそう言うなんて……嫌な予感がぷんぷんするよー」

「失礼な」

 

 ニボシは芝居がかった様子で額の汗を拭ってみせた。

 

 ……まったく、私をなんだと思っているのか。

 名前くらい真面目に考えるというのに。

 

 だって、それが貴女達の墓標となるのだから。

 

「――『エトワール』。フランス語で<星>というのはどうです?」

「そうね……うん、とっても素敵な名前だと思うわ。でも、どうして私達が星なのかしら?」

「だって魔法少女はみんなの希望の星なのでしょう? 願いを叶える流れ星、そんなに的外れじゃないネーミングだと思うのだけど」 

 

 メンバーは各々、思案する表情を浮かべる。

 やがて結論が出たのか、マコが口火を切った。

 

「……良いんじゃないかな? 私的にはちょっと恰好良すぎな気もするけどさ」

「まあ、これを逃したらいつまで経っても決まらなさそうですし、エトワールでいいんじゃないですかね?」

「フランス語とか、リンネちゃんすごーい!」

「……エトワール。可愛くていいと思う」

 

 マコ、アリサ、ニボシ、ユリエの順に、それぞれ賛成してくれた。

 それを見たアイナ先輩も笑顔で頷く。

 

「なら決まりね! 今日から私達、魔法少女グループの名前は『エトワール』よ!」

 

 パチパチパチと一同は拍手した。私も一緒になって手を叩く。

 なんだか変な感じで、みんな笑顔になっていた。

 

 こんな風に、お馬鹿でお気楽で、調子が良くて。

 なんだか居心地のいい場所だけど。

 

 ここは私の居場所ではない。

 

 絶望の汚泥の中、冷たい風の吹く場所こそが私のあるべき場所だ。

 夜空を見上げれば届かない場所にある星を、私は堕として見せよう。

 

 そうすればきっと、星を掴むことだってできるのだから。

 

 

 

 

 

 

 それから一月ほど、時は穏やかに過ぎていった。

 

 私は魔法少女ではない彼女達の仲間として、魔女狩りに同行し一緒に夜を駆けることもあった。

 純粋な傍観者として思い付いたアドバイスをしたり、私はメンバーの中に溶け込んで潤滑剤としての役割を担うようになっていた。

 

 マネージャーみたいなものだ。

 私も某アイ〇スの薄い本みたいに、アイドル達とにゃんにゃんしたい。

 

 そんな私の爛れた欲望はさておき、私は前世でやったギャルゲーのように彼女達の好感度を上げていった。

 目指すべきは当然ハーレムルートであるべきだが、そんな夢のようなエンディングは存在しないだろう。

 

 目指せ鬱エンド。

 バットエンドがインキュベーター的に最善の結末とは、まったくもって救いようがない世界だ。

 

 私はユリエに積極的に構い、彼女と趣味の話ができるくらいには親しくなった。

 彼女も結構オタク趣味なところがあり、私も前世がアレだったので話題には困らなかった。

 

 マコとは趣味の話ができないらしく、あんな風に溌剌と喋るユリエは初めて見たとマコに驚かれた。

 オタクに気兼ねなく趣味を語らせたら、普段抑圧されている分饒舌になるのだろう。

 

 そんなある時エトワールのメンバーと私で、二人組になって魔女の痕跡がないか警邏を行っていた。

 すでに現界している魔女ならアイナ先輩によって見つけることもできるのだが、魔女よりも力の弱い使い魔全てを見つけるのは難しいらしい。

 

 だが使い魔が魔女より弱いと言っても、普通の人間にとっては変わらぬ脅威だ。

 

 使い魔は幾人かの人間を食べるとやがて蛹のようにグリーフシードになり、最後は魔女として羽化する。

 

 純粋なグリーフシード狙いの魔法少女なら、あえて使い魔を見逃してグリーフシードを孕むのを待つだろう。

 卵を産む鶏を殺さないのと同じ理屈だ。

 

 だがしかし、エトワールの面々は正義の魔法少女達だ。

 使い魔が人を襲うなら事前にそれを防ごうと行動する。

 それが自分たちの首をしめているのだと、彼女達は知っていてなお他者の為に戦っていた。

 

 私もその警邏に参加するようになっていた。

 使い魔程度なら相方となる魔法少女一人でどうとでもできるし、魔女を発見したら無理せず全員に知らせる手はずだ。

 

 それにいざという時のため常にキュゥべえが傍にいるため、魔法少女になって撃退すればいい。

 ――という変身した際の言い訳作りも容易だった。

 

 そんな何度目かの警邏の時、私はマコとコンビを組むことになった。

 

「マコはどんな願い事をして魔法少女になったの?」

 

 警邏中、私はマコにキュゥべえとの契約内容を尋ねた。

 

「うーん……私のは、わりとつまらないことだよ。他のみんなみたいに胸を張れるもんじゃない」

 

 最初は言い渋っていたマコだったが、私の顔を見て「まぁ、リンネになら言ってもいいか」と頷いた。

 

「私さ、陸上やってたんだ。自分でいうのもなんだけどいくつか賞をとれるくらい努力してたし、なにより走るのが好きだったんだ。

 だけどスランプっていうのかな。ある時から急に記録が伸びなくなったんだ。最初は私も大して気にしてなかったんだよ。

 でもね、私より遅かった子が私を次々と追い抜いて行く。その怖さってわかるかな? 下手に賞なんかもらってたからプレッシャーとかも結構あって、気付いたら走ることが辛くなってたんだ。

 そんな時、キュゥべえがやってきたもんだから、私『足が速くなりたい』なんて馬鹿みたいなお願いをしちゃったんだ。それで私の足は、奇跡の力で速くなって記録も伸びた……だけどそれってズルじゃんって気付いたらもうダメだった。

 奇跡っていうインチキ使って私はいま表彰台に上ってるんだって考えたら、足が竦んじゃった。

 ……その後すぐに退部したよ。真面目に走ってる人達の邪魔だからね。

 魔法少女になってみんなと魔女退治することに不満はないんだけどね。思いっきり体を動かせるし。

 だけどやっぱり未練があるのかなぁ。私はやっぱり、契約したこと後悔してるんだ。

 みんなには内緒だよ? まだリンネが魔法少女じゃないから、参考にってことで。

 まぁリンネなら、私みたいに馬鹿なお願いなんてしないだろうけど」

 

 そう言ってマコは微笑む。

 そこに普段ニボシと一緒に馬鹿をやってるような、お気楽な様子は微塵もなかった。

 

「マコのそういう真っ直ぐなとこ、尊敬するわ」

「うぇ?! ど、どうした急に?」

 

 私の素直な称賛を受けて、マコは驚いて咳き込んでしまった。

 

「あなたはなにも悪くないし、弱さを言い訳にして力に溺れもしなかった。それってすごく立派なことだと思う」

 

 もし私がマコの立場だったら、他人のことなどガン無視してあらゆる賞を掻っ攫っていただろう。

 そうでもしなきゃ契約の対価として釣り合わない。

 

 きっと元を取るため、最大限奇跡の力を利用しただろう。

 ズルだとかインチキだとか、罪悪感を覚えることもなく。

 

 そんな外道な私だから、人として正しい道を歩くマコの姿が眩しかった。

 

「……さんきゅ。なんかリンネって不思議な奴だよな。昔を思い出して少し沈んだ気持ちだったのに、リンネの言葉を聞いたらなんだか軽くなったよ。リンネって実は魔法使い?」

「魔法少女なら、私の目の前にいるけど?」

「そうだった!」

 

 私達は笑い合った。

 知り合って一月が経ち、私達はようやく心を許せる友達になれた。

 

 

 

 ――気がするだけの、もちろん錯覚なわけだが。

 

 

 

 私はすでに大凡の計画は立て終えていた。

 あとは実行に移すだけ。

 

 私がなんで一月もの間、お友達ごっこに付き合っていたのかお忘れではないだろうか。

 彼女達を絶望させ、エネルギーを搾り取るためだ。

 

 その最初の犠牲者はマコ。あなただ。

 

 前を歩くマコに気付かれないよう、私は魔法少女へと変身する。

 

「なぁ、リンネ。私達ってけっこう……」

「<支配(ドミナシオン)>」

 

 振り返ったマコの額に銀杖を突き付ける。

 幾多もの絶望を吸い上げ、願いにより強化された私独自の魔法は、即座にマコの自由を奪う。

 

「銀色は橙色を支配する。心も体も、魂すらも私の物。あなたは私のお人形」

 

 戦闘中は格下相手の、しかも肉体しか支配できない魔法だが、不意打ちならば結果はご覧の通り。

 今の完全支配状態だと長時間は操れないためリスクも大きいが、彼女が目覚めた時には全てが手遅れだ。

 

 

 さぁ、絶望の舞台を幕開けよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 茶番は終わり、舞台は絶望へ向かって加速する。
 笑うは銀の魔女、ただ一人。



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