私と契約して魔法少女になってよ!   作:鎌井太刀

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 去年書きかけたまどマギの二次作品です。PCの肥やしにするならと投稿。
 原作は今のところ行方不明です。



第一章 星に願いを 
第一話 私と契約して、使い魔になってよ!


 

 

 学校からの帰り道、私は謎の生命体と出会った。

 

「僕と契約して、魔法少女になってよ!」

 

 その白いナマモノは、まるでアニメのマスコットキャラのような台詞を吐いた。

 それを聞いた私の脳裏に電流が走り、私はここが前世で見たアニメ『魔法少女まどか☆マギカ』の世界なのだと気付いてしまった。

 

 私、古池凛音には前世の記憶がある。

 

 といっても大した記憶ではない。

 今世の私は女だが、前世は男でオタクな大学生だったというだけの話だ。

 

 私がその記憶を思い出したのは、十歳の誕生日のことだった。

 神様からの誕生日プレゼントと言うには、ユーモアがあるのかないのか。

 

 私としては他人の記憶を突然与えられたに等しく、そのせいで知恵熱を出して三日ほど寝込んでしまうハメになり、とんだ誕生日プレゼントだった。

 

 そんなわけで、その頃から私の人格が少々歪んでしまったのも仕方のない事だろうなどと、今のうちに自己弁護しておこう。

 

 十歳にして前世の記憶を思い出したとはいえ、それが何かの役に立つかといえば微妙な所だった。

 曲がりなりにも前世の大学生までの記憶はあったのだが、さりとて優秀な頭脳を持っていたわけでも、勤勉だったわけでもないオタク大学生の学力など、あってもなくても大して変わらなかった。

 

 大体今世の私は勉強に苦労したことなどなかったから、むしろ必要のない無駄知識が多すぎて、記憶を自分の中で整理するまで成績が下がるハメになってしまった。

 元々百点満点が当たり前という嫌味な優等生で通っていたので、両親に大層心配されてしまったのは不覚だった。

 

 そんな前世の記憶だったが、無視できない重大な呪いを一つ、私にもたらした。

 思春期の入り口で男性人格の記憶を思い出した影響なのか、嗜好に変化が生じていたのだ。

 

 有り体に言ってしまえば、私は女の子が好きになっていた。

 もちろん性的な意味で。

 

 別に男になりたいとか、男らしくしたいなどとは考えていない。

 あくまで私は女であることを自認し、だけど恋愛対象として女の子が好きになっていたのだ。

 

 どう考えても、前世の記憶が無意識でなんらかの悪影響を及ぼしたに違いない。

 

 だから私は悪くない。

 前世の記憶なんてプレゼントした神様が悪いのだと、現在進行形で責任転嫁を図っている。

 

 そんなわけで私は、可愛い子を見れば目で追いかけてしまうし、不意に同性同士の気安いスキンシップなんかされると、ドキッとしてしまう少女になってしまったのだ。

 

 前世の私は絶対に童貞だったと確信した。

 

 同じ魂を持っているのかもしれないが、私はすでに私という人格であり、前世の人格など親戚のオジサン並にどうでもいい。

 

 そんな普段は意識すらしないどうでもいい記憶だったが、今となっては感謝するべきだろう。

 

 目の前の白いナマモノ。

 宇宙のどこからか地球へとやってきた<インキュベーター>ことキュゥべえ。

 

 奴の正体も目論見も、出会った瞬間に思い出したのだから。

 

 前世の私は、よっぽどこのナマモノのことが好きだったらしい。

 記憶ではあまりに好き過ぎてこのナマモノのぬいぐるみを購入し、その顔を踏みつけることに快感を覚える変態だったようだ。

 

 ……繰り返し言うが、前世の私は、私であって私ではない。

 今世の私とは無関係だと切に主張したいところだ。

 

「あなたはなに? 喋るぬいぐるみ?」

 

 とりあえず目の前のナマモノは劇薬だ。

 

 肝心なのはすぐに「イエス」と答えないことだろう。

 答えたが最後、骨どころか魂までしゃぶりつくされる。闇金なんぞ目じゃない地獄に叩き落とされてしまうのだから。

 

「僕の名前はキュゥべえ! ぬいぐるみじゃないよ? 僕は魔法少女になって悪い魔女を退治してくれる女の子を探しているんだ。

 きみに叶えたい願い事はあるかな? 魔法少女になって魔女を退治する代わりに、どんな願い事でも一つだけ叶えてあげられるよ!」

 

 まさしくマスコットキャラに相応しい誘い文句だ。

 詐欺の手口としては極めて悪質だろう。

 

 こんなにもファンシーな外見をしているのに、中身はウ○ジマ君だなどと普通の女子中学生には見破れまい。

 

 だが残念だったな、インキュベーター。

 私は騙されてはやらん。むしろ騙す側だ。

 

「へぇ、なんだか面白そうね。詳しい話を聞かせて貰えるかしら? あなたこれから時間ある? 私の家で話の続き、聞かせて?」

 

 私ったら出会って間もない人を家に誘うなんて、なんという尻軽なのかと嘯いてみる。

 相手は人じゃなくてナマモノだけど。

 

「そうだね、それじゃお邪魔しようかな。よろしく古池凛音」

「ふーん……私の名前、知ってるんだ?」

 

 お得意のストーキングは健在か。

 一匹見たら無量大数個いると思え、それがインキュベータークオリティ。

 見張りの代わりはいくらでもいるのだろう。

 

「きみには魔法少女としての才能があるんだ。すまないとは思ったけど、気になってね。不愉快だったかい?」

「いーえ、別に。名前なんてどうでもいいもの」

 

 殊勝なことを言っているが、絶対にそんなことは思ってもいないだろう。

 私の記憶によれば、奴にあるのは計算だけだ。感情などは一切持ち合わせていない。

 

 奴は減少していく宇宙のエネルギーを、地球という牧場で収穫するための<孵卵器(incubator)>に過ぎないのだから。

 

 私が差し出した手から、キュゥべえは器用に駆け上がって肩に巻きついた。

 気分はジブリのナウ○カだ。

 

 キュゥべえの体は意外にも暖かく、温かくない内面とは大違いだった。

 

「なんだか、きみとは長い付き合いになる気がするよ」

 

 嫌な事を言ってくれる。

 だが短い付き合いと言われるよりはマシか。寿命的な意味で。

 

 私は表情に乏しい顔で、首を傾げてみせた。

 あなたが何を言っているのか、ワタシワカリマセンヨー?

 

「なにそれ、ぬいぐるみの勘?」

「だから僕はぬいぐるみじゃないってば。

 ……そうだね、数々の魔法少女を見てきた、僕の勘かな? きみは他の娘とは少し違うようだ」

 

 はいはい、お世辞乙。

 そんな煽てたって契約しないんだからね! なんて脳内で遊んでみたり。

 

 まったく伝説の宇宙企業戦士キュゥべえさんは、アニメと変わらず営業熱心でいらっしゃる。

 とりあえず契約内容を仔細に確認することから始めよう。

 

 聞かれれば答えてくれるよね? アニメでもそんなこと言ってたし。

 まぁ一週間くらいは軽く拘束して尋問でもしてみましょうか。

 

 その後、家に着くなり地下室へと入った私は、檻の中にキュゥべえを監禁し一週間に渡る拷も……もとい、OHANASHIをすることにした。

 今世の私の実家はわりと裕福なので、地下室があるのだ。

 

 まさか「地下室で監禁」という魅惑の組み合わせを実行する日が来ようとは、夢にも思わなかった。

 それに同意するかのように白いナマモノも言う。

 

「……きみにこんな趣味があるとは思わなかったよ。どうやら僕は、きみの物静かな外見に騙されていたようだ」

「あなた痛がらないのね。痛覚がないの? それとも我慢してるだけ?」

 

 キュゥべえは現在、我が家の地下で標本となっていた。

 顔面だけは無傷だが、それ以外は端的に言ってアジの開きだった。

 

 それでも問題なくこちらの質問に答えているのだが、声帯すらなく、口で喋っているようには見えなかった。

 一応声は頭部から聞こえるのだが、一体奴の体の構造はどうなっているのだろうか。

 

 いっそ徹底的に解剖してみたいが、機能停止してしまうと面倒だ。

 代わりを捕まえられるかどうかは、今のところ不明なわけだし。

 

 キュゥべえは奇怪なオブジェにされながらも、平坦な声で答えた。

 

「痛みという情報は、身体異常からくるただの警報に過ぎない。痛がるという行為は、対処を遅延させるだけの無意味な行いだと思うんだ。

 まぁ必要だと思えば演技くらいはするけどね。だけどいまは演技しないよ。きみに対して無駄なことはしないつもりだ。

 きみは僕に対してなんらかの疑念……あるいは、確信を持っているように見える。

 じゃなきゃ僕に対して、これほど執拗に尋問を繰り返したりはしないだろうからね」

「なるほど、それがあなたの素なのね。さっきまでの薄気味悪いマスコットキャラよりはずっと好感が持てるわ。

 以後、私の前で無駄な演技はしないように。あなたの嫌いな無駄なことよ」

「まったく、人間は物事を好悪で考えるのが好きだよね。好ましいか好ましくないか、感情によって仕分ける。時には効率さえ無視しても。まったくわけがわからないよ。無駄は省くもの、効率は追求するものだと決まってるのに」

 

 その無駄な部分があるからこそ、人間であると言えるのだが。

 そんな事を地球外生命体に言っても、それこそ無駄なのだろう。

 

「仕方ないわ、人間とは感情的な生き物だもの。そんな賢いあなたが、感情的で理解不能な人間と契約するのはどうして? あなた達にない、何を求めているのかしら?

 例えば……そう、あなたが理解できないと言った、感情が鍵になるのかしら?

 おかしな話よね。魔法少女なんてファンシーで感情的な空想上の存在になれと、あなたから言ってきたというのに。あなたの言う魔法少女って、ほんとに私の考える魔法少女と同じなのか、疑わしく思えるわ。

 もう少しで考えが繋がりそうなのだけれど、面倒だからあなたから教えてくれない?

 あなた達がどんな目的でここにいて、魔法少女とはどういう存在なのか、魔女とはどういうものか、修飾を省いて事実だけを教えなさい」

「……古池凛音、きみは異常だ。とても人間とは思えない」

 

 その言葉に、私は思わず笑ってしまった。

 

「あなたがそれを言うの?」

 

 幸いにも、キュゥべえは普通の人間の目には見えないらしい。

 つまり我が家で助けを求める事は不可能だ。

 

 まぁ理解不能な地球外生命体なので、その気になればどうとでもなるのだろうけど。

 奴が一週間も大人しく監禁されていたのは、私がキュゥべえを観察していたように、向こうも私を観察していたからなのだろう。

 

 どう私を利用して、効率よくエネルギーの回収をするか。

 契約して魔法少女にし、絶望させ、魔女へと転化させる。

 

 まるでライン作業をするかのように、奴らの思考にはそれしかないと言っても過言ではないだろう。

 尋問の結果、私はそれを深く確信するに至った。

 

 根負けしたのか、あるいは私を試しているのか、キュゥべえは驚くほど素直に真実を話してくれた。

 と言っても、アニメで鹿目まどかに説明した以上の内容は出てこなかったが。これでようやく交渉の席に着けるというものだ。

 

 見た目的には尋問した私の勝利だろうが、連中相手に勝つのは不可能だ。

 いわばゲームマスター相手にプレイヤーが戦闘をしかけるようなもので、戦うステージがそもそも違うのだ。

 

 人類にインキュベーターと対抗できる技術力がない以上、一介の少女にできることなど、相手のルール上で踊る事しかできなかった。

 

 もし彼女なら――因果の特異点となった<鹿目まどか>なら、その内に秘めた規格外の因果で舞台をぶち壊し、ルールを再構成することもできるのだろうが、私はただの平凡な少女に過ぎない。

 

 キュゥべえの話だと魔法少女としての才能は多少あるらしいが、良くて原作における<巴マミ>クラスが関の山だろう。

 

 つまりまともに契約すれば、いつか死ぬ。

 

 魔女になるかどうかは運次第だろうが、それは些末な問題に過ぎない。

 そんなのはまっぴら御免だった。

 

 私はもっと長生きしたいし、可愛い女の子達に囲まれたハーレムを築きたいという、前世からの童貞を拗らせたような野望があるのだ。

 

 悲劇も絶望もお呼びじゃない。

 頭の悪そうなハーレム展開を私は望んでいる。

 

 そのためには人類の敵となることも辞さない。

 だから私は真の意味で、悪魔と契約する忌むべき魔女となることを決めた。

 

「ねぇ、キュゥべえ。私と契約して、使い魔になってみない?」

 

 人類史上初めて、私はインキュベーターを驚かせた……のかもしれない。

 そうして私は白い悪魔と契約し、銀貨で人類を裏切る魔女になる。

 

「本当にこの内容で契約するよ? いいんだね?」

「しつこいわね。あなたらしくないわよ。さっさとしなさい」

 

 数日後、私はあの契約中毒者キュゥべえに、契約を躊躇わせるという快挙を成し遂げていた。

 

 キュゥべえから搾れるだけの情報を全て搾り取った後、穴だらけになった個体は、解放するなり新しいのがやってきて捕食されてしまった。

 その時見た奴の体内はどこも白く、血とか肉とか骨とか真っ当な生き物なら持っているはずの物がなかった。

 流石は地球外生命体だと感心したものだ。

 

 今私の目の前にいる新しいキュゥべえは、私が地下室で戯れていた個体とは別物だが、外見も中身も全く見分けが付かなかった。

 

 私は気持ち悪く耳の触角を伸ばしたまま確認してくるキュゥべえに、呆れたように言った。

 

「あなたが種を植え、私が芽吹かせ育てて収穫し、それをあなた達に上納する。

 こんなのただの雇用契約と同じじゃない? なにを躊躇っているの?」

「……古池凛音、正直にいえば僕は……いや、僕達は決めかねているんだ。確かにこの契約は僕達の利益となるだろう。

 だがきみにとって、それはいわば人類への裏切りだ。

 僕達はまがりなりにも知的生命体としてこれまで人類を尊重してきたつもりだけど、きみみたいな対応をしてきた人間は一人もいなかったよ」

 

 人間で言うなら、キュゥべえは今まさに困惑しているのだろう。

 そこには理解できない思考を持つ人間への怖れがあるかもしれないが、合理的思考からくる判断は感情的な判断に時として一歩遅れる。

 合理的思考の権化であるキュゥべえが、私を理解できないのは当たり前のことだ。

 

「あなた達の価値観からすればそうでしょうね。あなたという個体は、統一された意思のただの端末に過ぎないのだから。私という個体が、人類という集合体を裏切ることを理解できないのは当然の話よね」

「……古池凛音、きみはこれから数多の少女達を絶望に陥れ、魔女へと仕立てあげるだろう。

 人でありながら人を食い物にするきみは、魔女よりもおぞましい存在へと変貌する。

 その覚悟が、きみにはあるのかい?」

 

 なんともまぁ、今日のお前が言うなスレはここですか? と尋ねたい気持ちで一杯になった。

 

「くどいわ。あなたは大人しく私の使い魔になればいいのよ」

 

 キュゥべえは溜息を付いた。

 それはもちろんポーズなのだろうが、有史以来人間と付き合ってきただけあって中々堂に入った演技だった。

 

 インキュベーターの触角が私に触れる。

 途端、体の中から熱が生まれた。

 

 それは銀色の輝きとなって結晶化し、魂の形を現す。

 私は宝石となった自身の魂を手にとる。

 

 ――ソウルジェム。

 

 私の魂の宝石は銀色に輝いていた。

 キラキラと光を反射していて、まったく似合わない事この上ない。

 

 まぁ腹の中と同様、真っ黒だったら穢れと見分けが付かなくて不便だろうから、これはこれで良かったのかもしれないけど。

 

「――ここに契約は結ばれた。

 古池凛音、今日からきみは魔法少女であり、僕達インキュベーターの同業者だ。

 きみの活躍を僕達は期待しているよ」

 

 まったく心が籠っていないだろう祝福だったが、私は笑顔で受け取った。

 

「お仕事はちゃんとするわ。そういう契約ですもの」

 

 私が望んだのは、そう難しいことではない。

 インキュベーターの定めたルールに、私という存在をねじ込んだだけだ。

 

 まず私は通常の魔法少女と同じ、魔法で修復が容易な体と、ソウルジェムという携帯可能な魂に分離される。

 そしてインキュベーターから<契約>に関する魔法技術を提供してもらう。

 

 それを使って私は少女達と契約を結び、同じ存在へと導く。

 やがて魔法少女として成熟した暁には、少女達を絶望に叩き落とし、魔女へと転化させ、そのエネルギーを収穫するのだ。

 

 キュゥべえの説明では、魔法少女になってすぐに魔女になるよりも、魔法をバンバン使って魔法少女として高みに到達した少女の方が、転化した際のエネルギーが大きいようだ。

 

 そう考えると、改めて<鹿目まどか>は規格外だったのだと痛感させられる。

 魔法少女になってすぐに世界を滅ぼせる魔女となり、それでいてエントロピーを超越する膨大な回収ノルマが達成させられたというのだから。

 キュゥべえがキモいくらい干渉していたのも納得だろう。

 

 それはさておき、魔法少女を魔女にした時点で私のエネルギー回収作業は終わり、後は魔女を放牧して数を増やすなり、倒してグリーフシードを回収するなり好きにして良いそうだ。

 

 実はソウルジェムには一つの意図的な欠陥があるらしい。

 それは高い魔力を持つ者ほど、状態が不安定になることだ。

 

 鹿目まどかが超弩級魔女『ワルプルギスの夜』を倒してすぐ魔女に転化した世界が作中にあったが、どうやらあれはそういう訳だったようだ。

 もっともまどかは極端な例で、普通は気付かないような差しかないらしいが。

 

 私は勿論、そんな不良品を押し付けられるのは我慢ならないので、回収業務を手伝う代わりにちゃんとした改良品を与えられることになった。

 魔法少女のソウルジェムは意図的に穢れを溜めやすい仕様になっているらしいが、それもなくしてもらった。

 

 もちろん魔法を使えば穢れが溜まることは避けられないが、普通に生活している分には穢れが借金の如く嵩んでいくことはなくなるようだ。

 

 ここまでが私の願い事の範疇で、いわば契約の前金だ。

 私は奇跡の代償に、契約後の優遇を約束してもらったわけだ。

 

 契約内容はさらに続く。

 私が回収したエネルギーは特製ソウルジェムへと保管され、インキュベーターへと上納される。

 その際、対価として一割のエネルギーが私にキャッシュバックされることになっていた。

 

 そんなもの貰っても仕方ないと思うかもしれないが、そのエネルギーは<願い事>という形で還元されることになっている。

 

 つまり九割のエネルギーを代価に、一割分の願いを叶えてくれるのだ。

 魔法少女という製品の始まりから終わりまでを私がプロデュースするので、私が得られるだろうエネルギーも多い事を考えれば、悪くはない取引だ。

 

 もともと奇跡とは、少女が魔法少女になる際の余剰エネルギーで叶えられるものらしい。

 私はこれから魔法少女の誕生から絶望まで丸々回収することができるのだから、魔法少女を二三人程ロールアウトすれば奇跡一回分にはなる計算だった。

 

 たった一回分と思うかもしれないが、普通は奇跡などそうやすやすと起こせないものだ。

 まったく「奇跡を安売りしている」とは誰の言葉だったか。

 

 正直、奇跡なんて高い買い物をしなくても、小さな願い事程度ならたった一回の契約で稼げるだろう。

 そう考えると一割というのは、決して低すぎることはないはずだ。

 

 

 

 私はソウルジェムを輝かせ、魔法少女に変身した。

 地下室にある姿見で自身の姿を確かめると、黒髪は銀髪へと変わり、瞳も紅くなっていた。

 

 どこの踏み台転生者様かと吹き出しそうになるが、女なのでセーフだと堪えた。

 

 服装はセーラー服に似ており、手甲や胸当てなど少々厳つい装備がついている。

 運命の白セイバーに似てなくもない。今世の冷めた表情のすまし顔と左目下の泣き黒子もあって、型月世界にいそうなビジュアルになっていた。

 

「中学二年生の女子としては、中二病と呼ばれるのは不本意ね」

「一体きみは何を言ってるんだい?」

「なんでもないわ。気にしないで」

 

 武装は銀の指揮杖が一つだけ。

 まったく、棍棒にもなりはしない頼りない武器だ。

 

 これで突き刺せとでも言うのだろうか。

 エクスカリバーくらいはサービスして貰いたいところだ。

 

「楽しそうだね、リンネ」

 

 だが内心の愚痴とは裏腹に、キュゥべえにも分かるくらい浮かれていたようだ。

 我が事ながら、つくづく理解しがたい。

 

「あら、私のことフルネームで呼ばなくなったのね?」

「きみはもう魔法少女になったんだ。それをサポートするのが僕の役目なわけだから、何時までも他人行儀でいるのは非効率だろう?」

「そうね。なら私もインキュベーターではなく、キュゥべえと呼ぶことにするわ」

「そうしてくれると助かるよ」

 

 私は肩に孵卵器を乗せ、歩き出した。

 自らの口が笑みを作っているのを実感する。

 

「さて、まずは魔女でも狩ってみましょうか。最低限の力は持っておかないと、他の魔法少女達にも信用されないでしょうし」

 

 さぁ、獲物を食らい尽くす旅に出よう。

 

 

 ――全ては、私の欲望のために。

 

 

 

 

 

 

 

 


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