ブラック・ブレット ―緋天を繋ぎし者―   作:橘 柚子

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『第II話・狂人との邂逅』

「早く乗れ、蓮は先に現場に行ってる!」

 

俺たちの通う高校近くの小学校に校門に一旦止まると、2人の少女が俺に駆け寄ってきた。

 

「分かっておるわ! じゃが、何故毎回迎えに来るのがお主なのじゃ!?」

 

「おかえり、剣?」

 

この古めかしい日本語を使い、俺に対してケンカ腰の口調の少女は相原(あいはら)延珠(えんじゅ)という。

綺麗な栗色の髪の毛をツインテールにまとめている美少女だ。

だが、美少女の部類に入るには入るのだが、毎度俺に対してケンカ腰なので多少、じゃねぇや結構ムカついている。言葉を言い換えるなら、こどもじゃなかったら絶対に殺す。

しかし、コイツは『呪われた子供たち』の一人であり、蓮の相棒で驚異的な脚力が持ち味の『モデル:ラビット』のイニシエーターだ。

 

「まだだ。これから仕事だっての」

 

そして、延珠の隣で斜め上の発言をした子は俺の相棒の鳥海薫だ。

こちらも綺麗な長髪で、色は黒に近い焦げ茶。

性格は延珠の真逆で、大人しい天然ボケ、だな。うん、一応。

ごく稀に相棒の俺でも意図を悟りづらい行動を取る時もあるが、基本的には俺の補助役だ。

そんで、コイツは『モデル:イーグル』のイニシエーターだ。

 

さして、『呪われた子供』というのは、本来生物の体液を媒介としたガストレアウイルスが様々な要因で妊娠中の母体へ感染して胎児の身体にガストレアウイルスの毒素が蓄積して生まれた子どもたちのことだ。それも何故か生まれてくる子どもたちは全員女の子らしい。

 

彼女たちはガストレアウイルスの抑制因子を持ち、浸食の進行速度が一般感染に比べ緩やかだ。その上、身体能力もある程度強化されていて、ガストレア特有のふざけた再生力も健在らしい。

だから、俺がいくら勝負を挑もうと“素手ならば”十中八九完膚なきまでにボコされて、その後、長くヤジられる。それがウザいから絶ッ対にやらないけどな。

 

ただ、生まれた時既に両親との血縁関係――具体的に言えばDNAだ――すら不透明になってしまうので、それを気味悪がった親たちは彼女たちを外周区に捨てた。

そして、ガストレアウイルスの進行をより抑制するために、『呪われた子供』たちは一日一回の浸食抑制剤の注射を義務付けられている。

 

イニシエーターというのは、またの名を『開始因子』。

先に言った呪われた子どもたちが生来の再生能力と身体能力を生かし、ガストレアと闘うために民警に就いた少女たちのことだ。

 

プロモーターは、イニシエーターと対比して『加速因子』という。

まあ、簡単に言えば、俺たちのような純粋にガストレアに対して効果のある攻撃法や戦闘力を持たない一般人がバラニウム製の武器を持って戦闘員としてイニシエーターをサポートしたり、保護者役や監督役を務める者を一般的にそう呼んでいる。だが、哀しいことに中にはイニシエーターを道具の様に扱うプロモーターもいる。

俺? ちゃんと子ども扱いしてるさ。たまに不機嫌になられるけど気にしないさ。だってコイツらはまだ子どもだしな。年相応という言葉があるじゃないか。

 

プロモーターとイニシエーターは二人一組のペアで必ず動き、そのペアは国際イニシエーター監督機構(通称、IISO)が総括的に管理したり、ペアの仲介もしている。

また、登録されているペアのランク付けなんかもしている。

・・・本当に暇な奴らだよな、自分たちもガストレア倒せっての。

 

ちなみに俺たちのランクは2000番台、蓮たちは1万2000台だ。

 

 

――おっと、閑話休題(話しすぎた)

 

 

「別に構わねぇだろうが! それにお前がアイツに自転車(チャリ)しかねぇの良く知ってんだろ!」

 

俺は延珠の不満に対して、口が悪くなってしまうのは、俺が幼稚な所為だろうか。

まあ、小学生のガキに対してこうなってしまっているのは、俺としても不甲斐ないが、いつか反省すればいいか。

 

「それは知っておるが、それならなぜ! お主がバイクなぞ持っているのじゃ!?」

 

「地道に副業(バイト)してるからだ! 文句あんのか!?」

 

周りの下校中と思われる小学生のガキたちは俺を見て、あからさまにビビっている。

中には、もうすぐ泣き出してしまいそうな感じの女子もいやがる。

だが、大半の奴らは、見ないふりをしているようだ。

まぁ、何度も来てるしな。色んな用件があったし。その内馴れてくれんだろ。

 

「……剣、早く行かなくて大丈夫なの?」

 

薫が急かすように俺の制服の袖を引っ張る。

気付けば二人ともいつでも発進できるように準備を終えていた。

延が俺とバイクのハンドルとの間に乗り、薫が俺の背中側のシートに座っている。

全く以て違法な三人乗りだが、今は非常事態だ、警察もとやかくは言わねぇ。

 

「そうだった、ありがとうな薫。さ、二人ともつかまってろよ!」

 

「「分かった(のじゃ!)」」

 

二人が返事をしたのを合図に、俺はもう一度バイクのエンジンを吹かした。

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

みなさん、どうも。里見蓮太郎と言います。

 

俺は今、ウチの民警の社長の命令で連絡のあった住所まで、自転車で飛ばしてます。

俺の相棒たちは、剣志が後々連れてくると言っていたから、心配はないけど。

アイツは、やるべきことはしっかりとこなすヤツだからな。

 

 

キキッーーーー!

 

 

やべ、いつの間にか通り過ぎてたみたいだ。

すぐに引き返して、10階建てだと思われるマンション横にある、4階建てのエントランス近くに停車していたパトカーに近付いて、軽く腰をかがめて窓を叩いた。

すると、ベージュのジャケットを着込んだ壮年の男が頭を掻きながら一人で車内から降りてきた。

 

「アンタは?」

 

「ただいま到着しました、天童民間警備会社の者で、里見蓮太郎と言います」

 

「あぁん? お前が応援に駆け付けた民警だぁ?」

 

何と言うか、この刑事さんには信じられていないようだ。

だがまあ、仕方ないだろうな。服装が制服のままだし。

 

「バカも休み休み言いやがれ。オメェはまだガキ、それも学生じゃねぇか?」

 

「ハァ……そんなこと言われましても」

 

俺はそれを内心呆れながらも答える。

年上や上司に対しての敬語や本心を隠す技術は剣志仕込みなのでそうそうばれないだろう。

アイツは、スイッチが入ると身内にも本心を隠すから厄介だ。

まあ、反対にブチ切れると誰にも手を付けられなくなるから、そっちよりかはマシだが。

 

「分かった分かった、なら許可証(ライセンス)出せ」

 

俺が胸ポケットから生徒手帳を出して中からライセンスを取り出すと、刑事さんはライセンスを俺の手から半ば奪い取るようにして一瞥した後、俺に返してきた。

 

「俺は多田島だ、階級は警部だ。今回は頼んだぞ」

 

「はい、分かりました」

 

「だが、その前に仕事の話だ。俺たちが頼んだのは『<竜閃>』の筈なんだが、お前がそうなのか?」

 

「いえ、それは同僚の緋川です。諸事情で遅れてきます」

 

「そうか。なら、オメェはどれほど強い?」

 

「自分はまだまだ未熟者で、緋川の足元にも及びませんよ」

 

俺は苦笑いで自分の顔の前で、平手を横に振った。

 

アイツは、名実共に強者と言われるが、いかんせん周りの被害を考えていない。

それが一番の原因で2000番台に甘んじてしまっている。

 

「そうかい。ま、せいぜい頑張ってくれ」

 

「分かりました、微力を尽くします」

 

その時、多田島さんは何かに気付いたように、その岩の様に厳つい顔をずいっと俺に近付けてきた。

 

「そういや、お前相棒の『イニシエーター』はどうした? 

 毎度ガストレア絡みの事件には普通、二人一組で動くんだろ?」

 

「えぇ、そうですが。ウチの相棒も緋川と同じく来ると思います」

 

「そうかい、なら構わねぇんだがな――行くぞ」

 

「よろしくお願いします」

 

ぶっきら棒に、多田島さんは俺に首で合図を出した。

そういって軽く頭を下げた俺は、多田島さんと現場のマンションに入った。

 

階段を上っていると、多田島さんは徐に喋りだした。

 

「先にいっておくが、事件(ヤマ)はこのマンションの401号室で起こった」

 

「発見は?」

 

「今のところ誰も部屋には入らせてねぇから知らんが、現場の真下の部屋の住人から雨漏りがしているって悲鳴を上げながら電話してきてよぉ」

 

「雨漏り、ですか?」

 

昨日一昨日と雨は降らなかったし、今日も雨の予報は無かった。

 

「ああ、それも『血』だそうだ」

 

「ッ!」

 

さっきまでなら可笑しい、と笑い飛ばしそうだったのだが、そうもいかなくなった。

 

「そんで、情報を統合してみれば」

 

「案の定ガストレアという訳ですか。通報者はその血液には触れてないですよね?」

 

「当ったり前ぇだろうがよ。んなこたぁ、一番始めに言ったわ、阿呆が」

 

「その処理はどうしたんですか?」

 

「特殊部隊に投げてやったよ、何か悪りぃか?」

 

「いえ、賢明な判断だと思います」

 

これで二次被害の危険性は、限りなく低くはなったか。

 

「ケッ、言ってやがれ。――おい相楽、会田何か変化は?」

 

多田島さんに呼ばれた二人は、顔を青く染めてこちらに振りむいた。

 

「そ、それが、たったいまポイントマン二名が、懸垂降下にて窓から侵入。

 その後、連絡が途絶えました」

 

会田と呼ばれた警官隊の発した言葉によって、現場の空気は凍りついた。

すると、多田島さんは憤慨した様子で会田の襟首を掴んだ。

 

「馬鹿野郎がッ! 何で民警の到着を待たなかったッ!!」

 

「我が物顔で現場を荒らすアイツ等に手柄を横取りされたくなかったんですよ!

 主任もその気持ち、分かるはずでしょう!」

 

多田島さんに呼ばれた二人のうち、掴まれてないヤツの方が声を上げた。

その声色は、憤慨が良く分かった。

 

さっきも言ったが、所轄と民警の仲の悪さは折り紙つきだ。

それは、民警が法律でガストレア絡みの事件限定で捜査権を認められて(持って)からだ。

それもこれも、右肩上がりの天井知らずだった警察の殉職者を減らす名目もあった。

しかし、今までその場を取り仕切っていた――好き勝手できたともいう――所轄の刑事たちは心底嫌がった。

それでもまぁ、相楽の様にこれ程あからさまで露骨なことをされると、俺も思う所は無くはない。だが、こんなことを一々気にしているほど俺も子供じゃない。

 

「んなこたぁどうでも良い! それよりも――」

 

「――どいてろボケ共! 俺が突入するッ!」

 

いきなり怒号を上げた俺に周囲は軽くざわめいたが、多田島は顎をしゃくりあげて警察隊の二人をドアの前に配置された。

その二人が手に装備していた全長の短くされた扉破壊用散弾銃(ドア・ブリーチャー)が音もなく蝶番(ヒンジ)に押し当てられる。

それを横目に俺は、腰の後ろ側から拳銃――スプリングフィールドXDを抜いて、遊底(スライド)を引いて銃弾をいつでも撃てるようにする。

次いで、ポケットからインカムを取り出して右耳に装着し、電源を入れる。

それはすぐに圏外から受信状態に繋がった。これで、こっちの状況音声は剣志にも聞こえるだろう。

 

「これより作戦を開始、現場に突入する」

 

『ジジッ――了解、周囲を警戒しておく』

 

短い雑音(ノイズ)剣志の返答を聞いた後、大きく深呼吸をして頭の中をクリアにしていく。

何度やっても慣れない緊張とそれによって掌に滲んできた汗を制服のスラックスで拭う。

そしてもう一度、小さく息を吐き出した。

 

「やってくれ」

 

二挺のショットガンが銃弾を撃ち出したのと、俺がドアを蹴破ったのはほぼ同時だった。

 

(おかしい、何故いない? どこに隠れてやがる?)

 

廊下を一気に駆け抜けて、リビングに出た。

視界に飛び込んできた西日の眩しさに一瞬、目を細めてしまいそうになる。

夕焼けの中に浮かび上がるように、六畳ほどの小部屋が朱く染まっていた。

その映画の一幕のような光景に我を忘れそうになったが、それ以上の信じがたい光景を確認した時、俺は目を見開いた。

 

それは、壁に叩きつけられて絶命している警察隊の二人。

加えて、名状しがたいほど濃密な血の臭いが充満していた。

その元だと思われる赤い鮮血は、リビングの床に流れていた。

 

そして、部屋の中央に長身の男が立っていた。

 

身長は190に届くかそれ以上、随分と細身で不健康そうな四肢と胴体。

細かく縦縞の入ったワインレッドの燕尾服とシルクハット。

極めつけは中世西洋の舞踏会用の仮面(マスケラ)を付けた奇怪な怪人。

 

俺がその姿を確認した次の瞬間、仮面の男は薄ら笑いを浮かべて俺の方へ鋭い視線を寄越してきた。

 

「ふむ・・随分と遅かったじゃないか、民警くん?」

 

「ッ!?」

 

その男の口から漏れた声は、俺にとっては何故か生理的な嫌悪感を生み出すモノだった。

 

「アンタ、一体何者だ……同業者か?」

 

「確かに、私も感染源ガストレアを追っていた。しかし君の言う同業者ではない。

 何故ならね――」

 

もったいぶるように、仮面の男は言葉を切った。

その挙動はまさしく猿芝居を演じる酔狂者のそれであった。

だが、隙だらけのように見えるが全くない。

俺は不測の事態に備え、身体を構えておく。

 

「――彼らを殺したのが、私だからだよ」

 

両腕を広げながらおちゃらけたように話す仮面野郎の言葉を最後まで聞かずに、俺の身体は無意識で動いていた。

 

「ッ!」

 

一瞬で彼我の間合いを零にすると下から顎を掬い上げるような掌打を繰り出す。

敵なのだから、殺してしまおうが気にしない。

というか、その意気でやらなければこちらが殺されてしまうだろう。

 

「オ、なかなかやるね」

 

野郎は軽々と俺の拳を掴むと感心し、楽しそうに呟いた。それも俺に聴こえる程度の音量で。

そして、上にいなされたと思った瞬間に腹部に鋭い痛みと衝撃。

その所為で俺は、絶命している警察隊の反対側の壁に吹っ飛ばされた。

壁に激突したために息が詰まり、空気が肺から全て抜けていく嫌な感覚。

少しでも気を抜けば意識が途絶えそうになるのを我慢し、閉じてしまっていた目を開ける。

 

「なッ!?」

 

その刹那、至近距離で仮面野郎が拳を振りかぶっていた。

慌てて俺は乗っていたテーブルから転げ落ちると、けたたましい破砕音と共にガラス製だったテーブルを叩き割っていた。俺は勢いを殺さずに距離を取ろうとしたが、仮面野郎は俺の回避する位置を予測していたように側頭部を狙った回し蹴りが飛ばしてきた。

ガードをしようと腕を交差(クロス)させたが、その蹴りは重く、ガードした腕ごと弾き飛ばされてモロに回し蹴りを受け、また壁に吹き飛ばされた。

 

「ぐァッ!」

 

それを見ていた野郎は、俺を小馬鹿にしたように鼻で笑いやがって、元いた部屋に戻った。

 

一体何なんだ、コイツは。

 

そう思った時、場違いな着信音が部屋に鳴り響いて、仮面野郎が電話に出る。

 

「小比奈か……ああ、うん。そうか分かった、これからそちらに合流する」

 

「――こっちを向け化け物! 仲間の仇だ!」

 

――バンッ! ババンッ!!

 

おいやめろ、という俺の声は、仮面野郎の抜き撃ち(クイックドロウ)で放たれた、3つの銃声でかき消されてしまった。

そして、当の警察隊は防弾らしき濃紺のタクティカルベストをいとも容易く貫通され、鮮血が床に散っていく。

 

ちきしょうがッ!!

 

心の中で突入してきた警官隊に悪態を吐きながら、仮面野郎との間合いを詰め、床を踏みしめる。

 

「ん?」

 

天童式戦闘術二の型十六番――

 

「『陰禅・黒天風』ッ!」

 

今までのお返しのつもりで放ったのだが、仮面野郎は首を軽く振ってさらりと避けた。

 

「おっと、惜しい」

 

「惜しくねぇ!」

 

これだけだと思うんじゃねぇ!

 

俺は即座に足を踏みかえ、反動をそのままに使い2撃目をブチかます。

 

天童式戦闘術二の型十四番――『陰禅・玄明窩(げんめいか)』!

 

――メキメキッ!

 

俺のハイキックが狙い違わず当たった首から、骨の折れる音が鳴る。

やった、と反射的に叫びそうになるが野郎の手を見てそんな気持ちは微塵に吹っ飛んだ。

 

「なっ!?」

 

なぜなら、野郎の手には全く傷ついていない携帯電話が握られてたからだ。

そして、野郎は空いている左手をあらぬ方向を向いた首に当てる。

次の瞬間、ゴキンッ、と嫌な音を立てて仮面野郎の首がこっちに向く。

 

その様相は何とも不気味で、非現実染み過ぎていた。

 

「いや、何でもないよ小比奈。ちょっと立て込んでてね。すぐそっちに行く」

 

野郎は携帯のフリップを閉じると、じっと俺に視線を向けたまま微動だにしない。

俺は全身の血液が凍りついてしまうような錯覚に陥りかけた。

野郎は位置がずれたのか、仮面を押さえて、キキキと奇妙に笑い出した。

 

「いやいやお見事、油断していたとはいえまさか一撃もらうとは思わなかった。

 ここで殺したいのは山々だけど、今はちょっとやることがあってね」

 

そこで野郎は一旦言葉を切って、キロリと仮面の奥から俺を睨み「ところで君、名前は?」と聞いてきた。

ここで名乗らないのも手だが、

 

「‥‥里見、蓮太郎だ」

 

「サトミ、里見くんね……」

 

俺の名乗りを聞くと、野郎は値踏みするような口調でブツブツ呟いた。

そして、割れた窓ガラスをくぐってベランダに出ると、手すりに足をかけた。

 

「待ちやがれよ、アンタ。このまま帰れると思うのかよ」

 

「ああ、思うね。実際、君は今、僕を捕える術がないと見た。違うかい?」

 

「……」

 

俺は内心、舌打ちをした。

やはり、この野郎に俺程度のハッタリはすぐに見破られるか。

何の準備も無しじゃ、コイツに俺は秒殺される。いや、一瞬も持たなさそうだ。

 

「沈黙は了承と取っていいね? いずれまたどこかで会おう里見蓮太郎くん。

 ああ、そうだ。君の最初の質問に答えておこう」

 

「ア?」

 

「私は世界を滅ぼす者、誰にも私を止めることは――出来ない」

 

そう言って、奇怪な仮面野郎はベランダを一足飛びに飛び降りていった。

 

思わぬ敵の圧力に強張った俺の身体はしばらくの間、縫い付けられたように動かすことが出来なかった。いつの間にか汗ばんでいた手を一度、めいっぱいに開いた後、強く握りしめていると後ろから声がかけられた。

 

「お、おい大丈夫か、民警」

 

「そうだ、インカムはッ……無事か」

 

俺はそれを素で無視して、インカムがないことに気が付いた。

無傷でテーブルの瓦礫たちに埋まっていたインカムを見つけ、すぐさま耳に当てる。

どうやら、中の回線も大丈夫なようだ。

 

流石は次世代型の超強化プラスチック製、いや、アイツの作ったものだ。

 

「剣志、大丈夫か。状況は!」

 

『うるせぇな、もう少し静かにしてくれや。

 ――現在、感染者と思われる単因子ガストレアモデル:スパイダーと交戦中。

 応援はいらないが依頼主を連れてこい。場所は事件現場(そこ)より5時の方向300だ。それまでには片づけておく』

 

一秒もかからずに返ってきた減らず口に、ホッと胸を撫で下ろした。

 

「分かった、すぐに行く。――多田島警部、付いて来て下さい」

 

「お、おう、分かった。……お前ら! 怪我人、搬送しとけ!」

 

「ハッ、ハイ!」

 

俺は多田島警部を引き連れて、瓦礫の海となった部屋から立ち去った。

 

 

 

 

 

 

 

 




どうも、こんばんわ。橘柚子です。

長く書いていなかったので、どうやら創作スキルが落ちたようです。すいません。


批評や感想、誤字脱字等々何かありましたらメッセージをよろしくお願いします。

最後に、この拙い駄文で楽しんで頂ければ、こちらとも幸いです。

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