この都市がおかしいのはどう考えても転生者が悪い!   作:あまねぎ

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第9話 都市戦争と外道たち

 朝の日の出の時間、海現都市フェグラウドの外縁部に集まった武芸者たちはエアフィルター越しから、肉眼で捉えられるほど近づいた都市を見ていた。

 

 二年にごとの周期で行われる都市の動力源である金属――セルニウムの鉱山の奪い合う戦争。通称、都市戦争が始まろうとしていた。

 

 今まさに、都市の生存を掛けた殺し合いが始まろうとしているのにフェグラウドの武芸者たちは緊張、闘志を巡らせているものは少なく、大多数の武芸者は油断と慢心しきっていた。

 その原因はこれから戦う都市の旗――再誕都市コルベニクの旗を見て、海現都市フェグラウドの武芸者は誰もが勝利を確信していた。

 

 

 

 

 正義もなく、人を守るため天に与えられた剄を私利私欲に使う誇りなき武芸者。

 

 

 

 

 これがコルベニクの武芸者の一般的な評価だ。事実、コルベニクに住まう武芸者は武芸をアニメキャラクターの成り切り、ごっご遊びに使っている。

 武芸者の規律に関しては『犯罪行為をしなければ好きにしていい』という一文のみ。さらに言えば、前回の都市戦争でもフェグラウドはコルベニクと戦ったことがあり、その時は剣を一合も交わさずにセルニウム鉱山を渡して降伏した。そんなふざけた戦士とすら呼べない臆病者どもに人々を守るため、鍛練を積んだ我々が負けるはずがない。

 数時間後。日が登り太陽の光で夜の寒さが溶け出した時刻、フェグラウドとコルベニクの外縁部が繋がった。

 都市がぶつかったことで二つの都市全体が揺れ、衝突音が鳴り響く。

 その音が開戦の合図となり、フェグラウドの武芸者たち第一の先陣部隊が駆け出した。

 

「カイザーフェニックス!」

「ラーの第三の能力発動! ゴッドフェニックス!」

 

 外力系衝剄の化練変化 カイザーフェニックス

 外力系衝剄の化練変化 ゴッドフェニックス

 

 刹那、二羽の炎を纏った巨大な不死鳥が空に舞い上がり、先陣部隊に突っ込んだ。

 突如として現れた燃え盛る不死鳥に先陣部隊は飲まれ――否、喰われた。化練剄で産み出された圧倒的熱量を持つ不死鳥が武芸者の血肉、骨を喰らいつくす。不死鳥が過ぎ去った場所に先陣部隊の姿はなく、黒い塊と焼けた大地だけだった。

 

「…………………………………………………………………………は?」

 フェグラウド武芸者の一人が呆けた声を上げる。

 仮にフェグラウド武芸者に油断なく、カイザーフェニックスとゴッドフェニックスの威力が低く、仲間の焼け焦げた臭いや死体、断末魔が残っていたなら、恐怖や怒りの感情を湧き上がらせていただろう。だが、誰も見たことのない高威力剄技を前にフェグラウドの武芸者たちの思考は止まった。

 そしてその一瞬が隙となった。

 

「終の秘剣 火産霊神(カグヅチ)

 

 外力系衝剄の化練変化 火産霊神(カグヅチ)

 

 全身包帯の男が持つノコギリのような刀から炎の竜巻が創り出される。男はさらに刀身に剄を注ぎ込むことで赤く光り、それに呼応して炎の竜巻も渦を上げて肥大化する。

 最早、技を超越した天災にも等しい一撃がフェグラウド外縁部に振り下ろされた。

 炎の暴風が外縁部の炎の木々が、防衛用に作り上げた防護壁が吹き飛ぶ。――当然そこにいた人間も。

 風切り音に混ざるは死の絶叫。肉が焼け、風が巻き上げた建造物にぶつかり、骨が砕ける音が響く。なまじ、一般人よりもはるかに優れた視覚、聴覚のおかげで仲間たちの死が鮮明に映ってしまった。

 

「……ッ!? 全部隊、十人隊長の元に集まり、陣形を立て直せぇ!!」

 

 いち早く再起した百人隊長が活剄を限界に高めてフェグラウド武芸者たちに叫ぶ。

 その言葉に反応し、生き残った武芸者たちは己の隊長の元に集う。先陣部隊が全滅し、炎の竜巻に包まれながらも、そこにいるのは何年も戦争をして生き残った歴戦武芸者。百人隊長の言葉で命令を聞ける程度には冷静になっていた。

 二年前とは全く違う状況の焦りながらも、百人隊長は陣形が立て直されるわずかな時間で状況を確認する。

 二羽の不死鳥に炎の竜巻。化け物と呼ばれる実力者が少なくとも三人はいる。だが、追撃が来ないことからそれなりに剄を消耗しているはずのだ。

 不幸中の幸いに炎の竜巻の中心に大部分の部隊がいたおかげで被害は最小限で済んでいた。炎の竜巻は今も我々を囲んでいる……囲んでいる?

 

「ッ……! 正面に衝剄を放って突破しろ!」

 

 百人長は敵の狙いを理解し、全力で叫ぶ。

 この炎の竜巻は我々を殺す災害ではなく、逃がさない檻なのだと。しかし、それに気がつくのが致命的なまでに遅かった。

 炎の檻の中、影が差した。

 

「ちっちぇえな」

 

 見上げるとそこには化練剄で創り出された20メルトルはあろう、炎の巨人の肩に乗った長髪の少年がフェグラウド武芸者を見下ろしていた。

 

 外力系衝剄の化練変化 スピリット・オブ・ファイヤ

 

 炎の巨人……否、炎の大精霊の拳が振り下ろされる。

 その日、海現都市フェグラウドは炎に包まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「かはっ!? ……うぐっ」

 

 百人隊長が目を覚ます。しかし意識を取り戻しただけで体は回復しきっておらず、耳から捉える音は掠れ、瞳から映し出す光景も霞んで見えた。周りから溢れ出す殺気と呼吸する時に送られる熱い空気から戦争はまだ終わっておらず、自分はまだ戦場の只中にいるということだけが理解できた。

 活剄を全身に巡らせて回復にかかる。

 彼の最後の記憶はスピリット・オブ・ファイヤの拳が振り下ろさせる所まで。あの時、百人隊長は全力で自身の前に衝剄を放ち、回避と防御を同時に行うことで九死に一生を得た。傷も軽く、やけどと打撲程度ですんだのはまさしく奇跡と言えるだろう。

 あと数秒もすれば全快とはいかないが戦える程度には動ける。まだ戦える。戦争は終わってない。フェグラウドは負けちゃいない。仲間を助けに向かわなければ……!

 状況確認をするため、内力系活剄で視力を強化する。百人隊長が最初に目にしたのは炎に包まれたフェグラウドだった。都市の外延部の森は焼けてない木々がないほど燃え盛る。この都市を滅ぼそうとしている獄炎は「世界最後の海」と呼ばれる水と陸が混ざり合う街にまで広がり、軒並みの建造物が炎によって崩れ落ちていた。

 次に見えた光景は仲間がコルベニク武芸者に蹂躙されている姿。

 

「北斗剛掌破ッ!」

 

 外力系衝剄の変化 北斗神拳 北斗剛掌破

 

 世紀末覇者の掌から放たれる衝剄と言う名のビームにフェグラウド武芸者は粉みじんにされ、背後にあった建造物は吹っ飛ばされる。

 

「お前もしかしてまだ、自分が死なないとでも思っているんじゃないかね?」

 

 内力系活剄の変化 100%

 

 上半身裸の、紫色の肌をしたB級妖怪が繰り出す拳にフェグラウド武芸者は放物線を描きながら都市外まで飛んだ。仮に生きていたとしても都市外の汚染物質で腐り、焼け死んだだろう。

 

「絶対に許さんぞ、虫けらども! じわじわとなぶり殺しにしてくれる!」

 

 外力系衝剄の変化 デスビーム

 

 白い肌に尻尾が生えた、宇宙の帝王の指先から赤い光線が放たれる。フェグラウド武芸者は迎撃しようと剣から衝剄を放つが、デスビームは衝剄ごと貫通し、彼に突き刺さる。

 

「お前はこのディオにとってのモンキーなんだよォォォォ―――ッ!」

 

 外力系衝剄の化練変化 気化冷凍法

 

 悪のカリスマにして帝王な吸血鬼がフェグラウド武芸者の腕を掴む。掴んだ手から絶対零度の化練剄がフェグラウド武芸者に送り込まれ、数秒もしないうちにフェグラウド武芸者は悲鳴を最後に血液の一滴も残らず、凍らされた。

 

「滲み出す混濁の紋章 

 不遜なる凶気の器 

 湧き上がり・否定し・痺れ・瞬き・眠りを妨げる

 爬行する鉄の王女

 絶えず自壊する泥の人形 

 結合せよ 反発せよ 地に満ち己の無力を知れ

 

 破道の九十 『黒棺』!」

 

 外力系衝剄の化練変化 波動の九十 『黒棺』

 

 崩玉と融合した死神が無駄にカッコいい、剄技をするうえで全く意味のない詠唱を終えた瞬間、フェグラウド武芸者たちが剄の黒い箱に閉じ込められる。中から響くのは断末魔。『黒棺』解かれた時、残ったのは血だまりだけだった。

 

「何故なら私は魚雷だから――!」

 

 魚雷に手足を生やしたナマモノがフェグラウド武芸者に突撃する。

 ……もうなんかいろいろと酷かった。効率を無視して無理やり剄技に昇華させたコルベニク武芸者が大暴れしていた。宇宙人といい、魚雷のナマモノといい、明らかに人間じゃないやつもいた。

 百人隊長は現在の戦況からぼんやりと思う。

 この戦争は我々の負けなのだと。

 動ける程度に回復した身体を殺剄で気配を消しながら、百人隊長は立ち上がる。負け戦だ。だが、まだ戦争終了の鐘は鳴っていない。ならば一人でも多く仲間たちが生き残れるように敵と戦わなければ……!

 呼吸を止め、足音を消し、剣を構える。脚に活剄を込めて、瞬速で近くにいるバスケユニフォームを着た赤髪の少年に向かい唐竹に切りかかる。完璧なタイミングだった。勢いも剣速も怪我人とは思えないほどの流れに乗った一撃。だが、赤髪の少年は後ろに目があるかのように軽く右に一歩、横に進んだだけで百人隊長の一撃を躱し切った。

 

内力系活剄の変化 天帝の眼(エンペラーアイ)

 

「頭が高いぞ」

 

 赤髪の少年は振り向いて右手に持っていたハサミで一突き。吸い込まれるように百人隊長の胸に刺さった。痛みよりも先に感じたのは全身に巡る剄路が途切れて全身の感覚が消える。

 ――――徹し剄か!?

 たった一突きで百人隊長は正面に倒れ伏した。それも錬金鋼でもなんでもないハサミで。都市の隊長が反応できない速度で剄脈を破壊する程の技量。それも自分の半分も生きていないであろう少年が。

 赤髪の少年は止めを刺さずに立ち去る。彼からすれば目の前に飛ぶハエが邪魔だったから手で払っただけで殺すほどではなかった。それに徹し剄の流した感覚からハエは再起不能に違いなかった。

 去ろうとしている背中を見ながら百人隊長は叫ぶ。

 

「待て! それだけの強さがあったなら何故2年前、無条件降伏なんてしたんだ!?」

 

 それはフェグラウド武芸者が誰もが疑問に思っていたことだった。他都市とは比べ物にならないほどの力を持ちながら一切抵抗せずに都市の生命線とも入れるセルニウム鉱山を渡したのか。

 その理由は一つ。

 赤髪の少年は振り向いて答える。

 

「あの日、夏コミがあったからだ」

 

 単にコミケに参加したいから武芸者の大半が都市戦争をボイコットしただけである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これはひどい」

 

 コルベニクの外縁部の後方防衛部隊にいる私は活剄で強化した目から見える数キルメルトル先のフェグラウド外縁部の戦場を見て口に出す。これがこの都市の普通の戦争風景なのがさらにひどいです。

 

「オロロロロロロロロ……おぇっ」

「…………大丈夫ですか?」

 

今年、戦名を授かり一人前の武芸者になったニャル子さんは戦争初参加のためか、初めて見る人の中身や風から流れる血の臭いを肌に感じ、吐瀉物を吐き出す。

 口から乙女が出しちゃいけない物質を出しまくってるニャル子さんの背中を優しくさすり、口元をハンカチでぬぐう。

 

「だ、大丈夫――ッぷっ…………アインハルトちゃんは平気なんですか?」

「私は6歳のころから見ていますからね。吐かない程度には見慣れています」

 

コルベニクの武芸者は前世の記憶があり、精神が成熟しているためか戦名があれば幼少のころから戦争に参加させられる。18歳までは前線部隊に入れず、大体は後方部隊での見学ですが。

私も戦争初参戦の時はゲロゲロと吐きましたけど、かれこれ三回目の戦争。人の死に動じない程度には耐性できています。

 

「それにしてもみなさん、ためらいなく殺してますね……本当に前世、ただのオタクだったんですか?」

 

 成り切りしてる世界出身でも驚きませんよ。とニャル子さんが怯える。

 

「これは師匠の受け売りなんですが……私たち転生者は死生観における倫理が崩壊してるらしいです」

「どういうことですか?」

「ニャル子さんは死ぬのは怖いですか?」

「え、そりゃ、怖いに決まってますよ」

「本当に? 痛いのが嫌、友達と別れるのが嫌、程度じゃないですか? 前世の時みたいに未知への恐怖、本能からの絶対的な死の恐怖はありますか?」

「…………………………………………………………」

 

 私の言葉にニャル子さんは考え込む。10秒、20秒と彼女は考えますが、返答はない。それがニャル子さんの答えだった。

 当時、師匠に言われたことをそのまま伝える。

 

「『私たち転生者は死が何かを理解している。故に死の恐怖はなく、死ぬとどうなるか理解しているからこそ、殺しへの忌諱が少ない』」

 

 転生者の最大の強みは前世の記憶じゃない。死への恐怖ないこと。死の恐怖がないこそ命のチップが軽く、文字通り命がけで鍛錬し、遊び感覚で命を掛けられる。

 

 ですが、倫理観抜きにしてもコルベニクには戦える転生者が多い気がする。元々そういう才能がある人間を選んで呼んでいるのか、コルベニクが何かをしているのか。

 ……師匠やジョゼフ武芸長あたりはと何か知っていそうですが。

 思考を切り替えて戦う武芸者たちを見る。

 私はまだ人を殺したことはありませんが殺す時……ためらいなく殺せると思う。誰かに恨まれるのが面倒。返り血とか臭いが着いたら嫌だなぁ程度の忌諱しかない。

 これが私たち。人間の姿をした転生者(かいぶつ)

 ニャル子さんがぽつりと呟く。

 

「…………私たちとこの世界、どっちが狂っているんでしょうかね?」

「どちらも……じゃないですかね」

 

 人間と誤魔化しながら生きている私たちも、汚染物質に満ちて都市の中でしか生きられず、二年ごとに殺し合いを強制させる現実味のない世界。どちらも狂っている。

 私とニャル子さんは真っ直ぐと戦場を見つめる。フェグラウド武芸者、コルベニク武芸者、互いに血を流しながら戦っている。

 数十分後、フェグラウドの一番高い建造物に白い旗が立ち、降伏の鐘が鳴り響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 転生者たちがいつも通り都市戦争で遊んだ数日後、私は師匠に呼ばれて練武館の会議室に来てパイプ椅子に座っていた。

 正面には都市の頂点である八相が座っていた。

 ……超帰りたいです。だって会議室は何故か電気を消しており、全員ご丁寧に机に両肘を立てて両手で口元を隠す『ゲンドウポーズ』をしているんですもん。嫌な予感しかしません。

 ジョゼフ武芸総長が口を開く。

 

「よく来た。アインハルト」

「はぁ……。それで何のようでしょうか。八相のみなさんに呼ばれるようなことをした覚えはないのですが?」

 

 私の質問に答えたのは阿笠博士。阿笠博士の眼鏡が黒幕だと信じるくらいにあやしく光る。

 

「アインハルト君が何かしたというわけじゃないから安心するといい。……君は選ばれたんじゃよ」

 

 師匠が椅子から勢いよく立ち上がり叫ぶ。

 

「〝ぼくのかんがえたさいきょう転生者をツェルニに送ろう計画〟及び、〝ぼくのかんがえたさいきょう転生者育成計画〟に!」

「おめでとう」

「おめでとう」

「おめでとう」

「おめでとう」

「ミクダヨー」

「おめでとう」

「おめでとう」

 

 八相全員が立ち上がり、パチパチパチと喝采の拍手。

 エヴァ最終回ばりのおめでとうコール。

 ルリさんが念威端子から『翼をください』を流す。

 

 

 ………………………………………………………どういうことですか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ぼくのかんがえたさいきょう転生者をツェルニに送ろう計画。

 

 よくある二次創作のように、この世界の原作である『鋼殻のレギオス』の舞台である学園都市ツェルニに私たち転生者をぶち込んで原作介入させる計画。送り込むのはツェルニの小隊人数の最大人数の7人。原作介入するであろう都市外転生者の排除も目的に入っているらしい。

 

 ぼくのかんがえたさいきょう転生者育成計画。

 

 〝ぼくのかんがえたさいきょう転生者をツェルニに送ろう計画〟と並行して行う計画で原作介入させる転生者一人に、コルベニクに現存する数万にも及ぶ剄技を習得させる計画。原作介入できる現在、10~15歳の転生者の中で総合的に一番優秀な私が選ばれたとのこと。

 

 二つの計画を軽く聞いた私はバッサリと一言。

 

「お断りします」

 

 私が断ることを予想していたのか、八相たちは驚いた様子はなかった。

 眉を潜めたジョゼフ武芸総長が理由を訊く

 

「ふむ……何故じゃ?」

「私、原作知りませんし、興味もないので。それに妹を一人にさせるとかありえません」

 

 私が『鋼殻のレギオス』で知っていることと言えば、転生者たちが言うツェルニとグレンダンという都市と『天剣』と呼ばれる称号と武器だけ。さらに加えると妹のケイトは前世の記憶があるとはいえ、精神年齢は肉体と同じ小学生程度。原作時期の五年後でもケイトは14歳。とても一人にさせる年齢ではありません。

 師匠が思いついたように人差し指を立てる。

 

「じゃあ、ツェルニに行っている間、私がケイトちゃんの面倒見るってのは?」

「師匠……料理できるんですか?」

「これでも長い間『高町なのは』の成り切りやってるからね。和食から洋食、お菓子も作れるよ」

 

 師匠が自慢げに胸を張る。

 ……そういえばこの前一緒に皿洗いしていた時、結構手際よかったですね。

 

「それでもお断りします」

 

 断固拒否! という態度を取っているとジョゼフ武芸総長が困ったかのように呟く。

 

「それなら仕方ない。少し強引な手を使うしかないかの。この話を断るというなら―――」

 

 その言葉に私はジョゼフ武芸総長を睨み、軽く殺気を散らす。

 もしケイトに何かするようなら……。

 

「アインハルト家の庭にミントの種をばら撒くぞおおおぉぉぉッ!!」

「小学生ですかッ!?」

 

 何て地味な嫌がらせを……! 

 ミントは匂いが強くて雑草並みの繁殖力あるんですよ。そんなものがばらまかれた日には我が家の庭の土から作り替えないといけない事態なってしまいます。

 私が苦々しい表情をしていると海馬社長が口元に笑みを浮かべてしゃべる。

 

「アインハルトくん、最近、君の住んでいる家の両隣に引っ越してきた人がいるだろ?」

「ん? はい。そうですが……」

 

 あれ? 私の名前を呼び捨てではなく君付け?

 

「――ってまさか……!?」

 

 海馬社長の口調や声の高さに違和感を覚えて社長を見てはっ、と気づく。

 暗くてわかりませんでしたがよく見ると海馬社長を髪の色が茶色じゃなくて緑色。あの姿は遊戯王初期の海馬社長。通称――キャベツ。

 

「あの家は我が社の社員、磯野と中島の家でね……」

 

 そう。『遊戯王』原作初期に置いて武藤遊戯の祖父が持つ青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイトドラゴン)を破り捨てたのを始めに青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイトドラゴン)を手に入れるため、所持者を破産や自殺にまで追い込んだ外道キャベツ。

 

「そして今夜の磯野家と中島家の夕飯は庭でくさやとシュールストレミングでバーベキューだぁぁぁッ!!」

「この人最低だああぁぁぁッ―――――――!!」

 

 わざわざ両隣の家を購入してまでやることですか!?

 海馬社長は愉悦顔で笑う。

 

「僕たちの計画を受け入れなければ、君の家がミントとくさやとシュールストレミングに汚染されるぞぉ! そしてその臭いが原因でサザエさん成り切りの磯野君と中島君が学校でいじめられるかもしれんなぁー!」

「磯野家と中島家まで巻き込むのやめましょうよ!!」

 

 自分の部下まで人質に取りますかこのキャベツ。

 しかもこの人たち、私の沸点を見抜いてやっているのが腹立ちます。

 仮にケイトを人質に取る等の単純な作戦でしたら、コルベニク全てを敵に回す覚悟でケイトを助け出して都市外に逃げますが、こんな嫌がらせでこいつらを殺すほど殺る気は起きない。

 臭いテロなんて起こされたら、我が家は数カ月、人が住める家じゃなくなります。

例え引っ越して逃げても、間違いなく追ってきてシュル缶テロ起こすでしょうし……。

 この状況を脱しようと八相たちを見る。

 なのは師匠、ジョゼフ武芸総長、阿笠博士、海馬社長を見ると愉悦顔。――この外道どもを説得するのは無理ですね。

 ルリさんは――眼逸らされました。

 ミクダヨー――論外!

 夜神さんは―――。

 

「警察にも……捕まえられない人間がいるんだ……ッ!」

「警察が権力に屈さないでくださいよ!」

 

 男泣きするあたり、本気で言っていますね。

 まずい。味方が誰もいません……!

 完全に詰みに入った状態でジョゼフ武芸総長は止めとばかりに言う。

 

「もう一度言おう。アインハルト、この計画を受けてくれるかね」

「それは……」

「磯野、七輪の準備はできたな? なら――」

「受けます! 受けさせていただきます!」

 

 磯野家と電話している海馬社長の言葉を遮るように叫ぶ。海馬社長は携帯電子機器のボタンを押して通話を切る。

 イェーイとハイタッチする八相たち。

 私の承諾の言葉を聞いて話は終わったのか、八相たちはぞろぞろと会議室を去っていく。

 

「じゃあ、明日から〝ぼくのかんがえたさいきょう転生者育成計画〟始めるからねー。あ、ツェルニに行ったらケイトちゃんの事はしっかりと面倒見てあげるから安心してね」

「最初は剄技を速く身に着けるためにコピー能力を習得してもらう。鑢七実を始めとしたコピー能力者たちと特訓じゃ」

「ミクダヨー」

「我が社のアクションフィールドを使い、どんな環境でも戦えるように鍛え上げてやるから期待していろ」

「錬金鋼の調整はワシ等がしっかりとするから安心するといい」

「私もツェルニに行くことになりましたので一緒に頑張りましょう」

「…………すまない。ぼくは警視総監失格だ」

 

 夜神さんの言葉を最後にパタンと会議室の扉が閉まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……………………………………この日、私は生まれて初めて慟哭の叫びを上げた。




やっぱこの作品の転生者たちは頭おかしいよね!


補足ですが、フェグラウドで壊れたのは一区画で都市の大部分は無傷です。一般人も
シェルターに避難していたため、一般人に死傷者はいません。


QなんでNARUTO、ワンピースのボスキャラいないの?
A最初はうちはマダラ出そうと思ってたけど、暁の設定出してせいで矛盾が生じる可能
性があったため出せなかった。ワンピは……なんか作品を代表する悪役と考えていいのが出ませんでした。

Q夜神さんが良心すぎる
A最初はもっと腹黒キャラだったのに書いているうちにこんなキャラに……。

Q夏コミに行かなかった転生者たちは戦争参加しなかったの?
A転生者「いや、お盆に殺生はするなって前世から言われてるし……」



12月21日 アインハルトとニャル子の会話部分を編集。

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