極東の騎士と乙女   作:SIS

35 / 45
code:30 動き始めた時間

「それでは、皆さんに転校生を紹介します」

 

 IS学園の朝。

 

 HRを取り仕切っていた山田先生は、クラスに集まった生徒達にそう告げた。

 

 季節はずれの転校生。それも二度目。

 

 普通なら、珍しい事おもしろい事大好きな花の十代女子の群。騒ぎになってもおかしくないのだが、しかしクラスに集った女子生徒は皆、しんと静まりかえって先生の言葉を待っていた。ちなみに、一人だけ混じっている男子生徒は、何故か全身包帯ぐるぐる巻きでぐったりと机の上につっぷしていた。

 

「それでは、入ってきてください。」

 

 がらり、と引き戸が開け放たれ、一人の女子生徒が教室に入ってくる。

 

 山田先生の胸ぐらいまでの低身長に、長く延ばした黒髪のツインテール。勝ち気な瞳を好奇心に輝かせて、にっと笑う様子はいかにもいたずら娘といった感じだ。その手には、赤と黒に輝くアクセサリの姿がある。

 

 その姿は、少し前に別のクラスにやってきた転入生とうり二つで……それでいて、どこか違う雰囲気だった

 

「鳳鈴音よ! みんな、よろしくね!」

 

 そういって、彼女はにかっと笑う。それに答えてクラスメイトの皆が拍手で彼女を迎え……その中で、ひっそりと一夏は彼女と目を併せて、ほがらかに笑った。

 

 

 

 

 何故、鳳鈴音本人がIS学園に入学する事になったのか。

 

 それは一言でいえば、”扱いに困った不発弾を隔離した”、という表現が一番適切だろう。

 

 その不発弾、とはズバリ、甲龍の事。

 

 IS学園近海での戦闘により、甲龍が現状のIS技術の常識を逸した超技術を組み込まれたオーパーツである事は、その日のうちに各国の熱心な諜報活動によって明らかな事実となっていた。

 

 だが、それは同時に、かのISの出自がブラックすぎる危険物だったという事も明らかになっているという事だ。

 

 中国崩壊後の調査によって、かの国に甲龍を開発した記録すら存在しない事が明らかになったとあっては、甲龍は”未知の超技術を有したテロリストによって製造された”という、現状の安全保障を揺るがしかねない危険物でしかない。

 

 無論、龍吼という超技術はほしい。が、それを抱え込んだ事で、今回の事件の裏にいた謎の集団に干渉されるのはどこもごめん被る。また、その前提であまり積極的に動けば、「お前の裏にもその集団がいるんじゃないのか」という要らぬ腹のさぐり合いが起きる可能性もある。そういった、相反する二つの事情により、どこの国も動くに動けないのが現状だった。

 

 さらに言えば、IS委員会によって厳正に統治されている状態とはいえ、いつか中国は政府を復権し、機能を回復するのは明確な未来である。それまでの間に、自国の権益をどこまでかの国に食い込ませておくか、という国家間の権力闘争もあって、甲龍という厄介者の優先順位は下げられていた。

 

 それに加え、前の主人によって甲龍には厳重なプロテクトが仕掛けられており、鳳鈴音にしか起動できず、彼女しか甲龍のシステム系を認識できない現状もある。つまり甲龍を手に入れるという事は彼女の身柄を預かると同義であり、その場合彼女とつながりのある”世界最強”やら”世界唯一の男のIS乗り”を下手すれば敵に回す危険性もある。

 

 これでもか、といわんばかりに、甲龍を特定国家が確保するには問題がありすぎたのだ。下手につつけば、文字通り国ごとふっとびかねない。

 

 ならどうするか。どこも欲しがらないからといって、IS委員会に預けるのはそれこそ業腹ではあるし、かといっていつまでも無所属の宙ぶらりんだと、件の謎集団なんなりに鈴音ごと奪われる可能性もある。

 

 そんな模索の結果、いつものようにIS学園に押しつけておいて、研究データだけ提供させる、という流れになったのだった。

 

 困ったときのIS学園、といわんばかりだが、正直今までもそうだったので仕方がない。国のお歴々達は、今までどおりどうぞよろしくな、と鈴音と甲龍をIS学園に丸投げして、自分たちは旧中国を巡る策謀にどっぷりだった。

 

 

 

 国を牛耳る狸達。彼らは知らない。

 

 IS学園が設立された、裏の理由。それこそが、まさに鈴音と甲龍のような存在を救うためだったという事も。

 

 本当の策士は、果たしてどっちだったのか。

 

 

 

 

 しかしながら、はてさて。

 

 大人の事情は大人の事情。子供には子供の事情がある訳で。

 

「そういう訳で。鈴音さんにはこれからみっちり、IS学園の授業についていく為の基礎学力をつけていただきます」

 

 皆であつまった食堂の一角。

 

 輝くような笑顔で、セシリアはにっこりと言い放った。

 

 そう。鳳鈴音は、現状、その一身上の都合からIS学園に放り込まれてしまった生け贄の羊。当然、IS学園の超絶高倍率を突破してきた事を前提に行われる授業についていけるだけの学力を、当然もっている筈がなかった。一応、国民審査でIS適正はそこそこあるのが分かってはいるが、それだけでやっていけるほどの数値でもない。

 

 故に、学力向上は必須であった。

 

 しかし、問題もある。それはもちろん、鈴が世の中の学生の、大部分に該当するという事である。

 

 セシリアによる宣言直後。なにをするのか聞かされずやってきていた鈴は、反射じみた行動で逃走を計った。目指すは食堂の出入り口。そこにいけば自由があると信じて。

 

 しかし回り込まれてしまった!!

 

「ちょ、どきなさいよ!?」

 

「残念だがそれはできない。一夏に、お前が逃走を計った時は阻止するよう厳命されている」

 

「く……! だ、大体今の動きなによ? アンタ確かに向こうに座ってたじゃないの!?」

 

「自慢じゃないがISに乗ってない状態なら一年でも五本にはいる自信がある」

 

「……ISに乗ったら下から五本だけどね」

 

「簪!?」

 

 勝ち誇った所を、まさかの味方からの痛撃で狼狽える箒。それを冷徹に見下ろすように愛でる簪。この女、最近箒に容赦がない。嵐の夜に彼女が無茶をやらかしてから、何やら考えを改めたらしい。「言っても止めても修羅場に自分から突撃するんだからもう開き直るしか」とは本人の弁。

 

 やや歪んでいるような気もするが、これも友情なのだろうか。

 

 唐突に始まったコントに毒気を抜かれて立ち尽くす鈴。その肩を、背後からぐわしとセシリアが鷲掴みにした。国家代表候補生の握力が、メリメリと音を立てて鈴の骨格を圧迫する。

 

「いたたたたたた!?」

 

「まさかいきなり逃走に移られるとは、流石に吃驚ですわ」

 

「いや、ちょ、ギブギブ! 骨! 骨が砕ける!!」

 

「うふふ。逃げ出したいほど不安なのは分かります。でも私もお兄さまに貴女の事に関して、全権を預かっている以上は全力を尽くす限りですわ」

 

「そういう事じゃなくて、その! 箒! ちょっと助けて! ほらほら、お互い無理矢理入学組なんだし、一夏の幼なじみ同士、同郷のよしみで!」

 

「……すまん。だがきっとそれは鈴本人の為になる事なんだ。そう簪がいってた」

 

「そう。勉強は鈴本人の為。箒は彼女の為に鬼になるべし」

 

「そうだ。私は鈴の為に、鬼になる! ここにいない一夏の分まで!」

 

「ちょっと待ちなさいよあんたー!? なんか遊ばれてる! きっと遊ばれてるわよそれ!? 自分の意志をはっきりもちなさ……痛い痛い痛い!? ちょ、オルコットさん、握力いくつですか!?」

 

「うふふふふふふ」

 

 わいわいと姦しい。

 

 にこにこと輝く笑顔のセシリアに、両手でひきはがそうとしてはがせず引きずられていく鈴。それを、悲壮な表情で特攻兵にそうするかのように見送る箒に、その横で無表情のままご満悦の簪。

 

 実にカオスである。

 

「ところで箒。この間の学力テストの結果、なに?」

 

「う゛」

 

「……セシリア。お願い」

 

「ま、まってくれ簪。それだけは……うわぁあああああ!?」

 

 そして地獄に一名追加。

 

 その一部始終を見送った他の生徒達は、彼女たちの姿が扉の向こうに消えるのを見送った後、何事もなかったかのように談笑に戻った。

 

 とりあえず、見なかったことにしたらしい。

 

 

 

 

 

 さて。

 

 賑やかな女子一行。その中心にいるべき少年が、今、果たしてどこでなにをやっているかに話は移る。

 

 IS学園中央部、機密区画。

 

 その一角の、情報解析室に、彼の姿はあった。その隣には、山田先生の姿もある。

 

 そして二人が前にしているのは、巨大な立体映像だ。部屋の四隅にあるプロジェクターによって、空間に3Dで映像が映し出されている。

 

 表示されているのは、部屋の空間を空中に見立てた複数のIS同士の戦闘の様子。そのうち、常に中央にあって複数の敵と渡り合っているある機体に、二人の目は向けられていた。

 

「これが、中国国家代表と、それを鎮圧すべく追撃した中国所属機の戦闘の様子。そして中央にいるのが……」

 

「そう、揺池金母です。ある意味では史上初めて、”実戦”で単一仕様能力を使った機体になるんでしょうか」

 

 山田先生の言葉とともに、映像が拡大される。

 

 揺池金母は、機動性を重視したタイプの機体だ。中国の伝説上の人物の名前を頂いたその機体は、言葉からうけるイメージ通りに全身に羽とも着物の帯ともとれるスラスターを備えた曲線の流麗な機体で、長い黒髪をたなびかせる装着者の美貌もあってまるで幻想の神話から現実にやってきた仙女を思わせる。

 

 だが、その美貌は冷徹に固められ、極寒の殺意を振りまいている。それに相反して周囲に放たれるのは、鋼鉄を一瞬で蒸発させる超高熱だった。

 

「揺池金母の単一仕様能力”天砺五残”の能力は、分子間結合力の低下。それがどういう意味かは、織斑君、分かります?」

 

「えっと……早い話が、普通よりもずっと低いエネルギーで物質が変化を起こす。この機体の場合、低温でも相手を蒸発させてしまう事ができる、という事ですか?」

 

「その通りです」

 

 さすがは織斑君、とにこにこと頷く山田先生。映像の中では、それを示すかのように飛来したミサイルやら何やらが、揺池金母のまとうプラズマにふれた瞬間、一瞬で蒸発し消滅していた。

 

 だが、一夏はふと疑問に思った。自分の経験と、少し話が食い違うような気がしたのだ。

 

「でも、おかしくないですか?」

 

「? なにがです?」

 

「いやだって、ISのもつシールドバリアシステムは、熱変化をほぼ完全に遮断するんですよね。それに、PICは分子変化を押さえ込むのにも使える。いくら単一仕様能力の影響下にあるとはいえ、近接攻撃ではない熱攻撃がISにそんな致命傷を与えられるとは思えないんですが……」

 

「ええ。ですので、揺池金母は、生成した熱量を直接攻撃には利用していません」

 

「え?」

 

「ほら、今から動きがありますよ。よく見ていてください」

 

 いわれて、映像に一夏は集中する。

 

 折しも、言葉通りにちょうど揺池金母が、周囲を飛び交うISの一機にねらいを定めた所だった。

 

 繊手を掲げ、彼方にいる敵に手のひらを向ける。その瞬間、揺池金母を取り巻いていた超高熱かつ大規模なプラズマ帯に変化が起きた。

 

 巨大な蝶のような形をしていたプラズマ。それが羽ばたくような形状変化をしたと思うと、その一部を高速で射出。認識できないほどの刹那の後に、空の果てで激しいスパークが散った。直撃を受けたISが撃墜されたのだ。

 

「……え?」

 

「ちなみに今のは、分子単位まで分解された金属粒子、それらを加速して粒子砲として射出した感じですかね?」

 

「ちょっとまってください。えっと……それって、あの単一仕様能力は”疑似的に運動エネルギーを増大させる”効果もあるってことですか!?」

 

 そう。つまりそういうことだ。

 

 すこし違うが、蒸気機関を連想してほしい。蒸気機関は、水を加熱し、水が液体から気体になった時の体積変化を利用してタービンを回し動力を得る機関である。そして水のから気体への状態変化の時、水、すなわちH2Oは分子結合が切れて水分子と酸素分子になる。この分子結合の切断に必要なエネルギーを低くすることができれば、、蒸気機関の出力はかわらないが蒸気機関を動かす為に水を加熱するのに使うエネルギーは大幅に経る。すなわち、出力はそのままに消費が激減する。

 

 そう。一夏のいう”疑似的に運動エネルギーが増大する”というのはそれと同じこと。恐らく、膨大なエネルギーをもってすれば、今映像で揺池金母が見せた粒子砲と同じことは可能だろう。だがそれには、リミッター解除したISが全力を傾けなければできないほどのエネルギーが必要なはずだ。それを、単一仕様能力によって大幅に消費エネルギーを減少させることで、あの仙機はこともなげに繰り出して見せたのだ。

 

「まあ、すごいです織斑君! これだけの情報と今の映像だけでその結論にたどり着いちゃうんですか!」

 

「いや、まあ。なんていうか、俺も……」

 

 そこで、一夏は言葉に詰まった。そう、山田先生が今回、こうして自分を呼んで映像を見せた意味に気がついた為に。

 

 一夏はこう続けるつもりだった。すなわち……。

 

 

 

 

 俺も。単一仕様能力を発動できるから。

 

 

 

「悟ってくれたようですね」

 

 山田先生が語りかけてくる。その顔は、普段やまちゃんと親しまれている様子からは想像できないほど、まじめで、張りつめた、”大人の女”の顔だった。

 

「織斑君。貴方は、世界でも数えるほどしかおらず、日本では二人目の”単一仕様能力発動者”です。今、織斑先輩の代理として日本代表をつとめている方も、単一仕様能力に目覚めてはいません。その意味が、重さが、今の貴方には分かると思います。いいですか、貴方は同じか、それ以上のことができるんです。”コレ”と」

 

 映像の中では、まさに”コレ”……揺池金母が、その最大能力を発揮した瞬間だった。爆発的に増殖した炎の蝶の翼が、取り囲むISを飲み込む。その翼の中は、超高温のプラズマ帯であり、同時に膨大な量の分子が、壊滅的速度で飛び交う嵐の中である。熱ではなく、規格外の運動エネルギーの荒波に揉まれて、取り込まれたISが一瞬にして粉砕され、紫電を纏った状態で吐き出される。

 

 一方的な虐殺だった。

 

 国家代表と、その予備。肩書きに差はあれど、かの中国国家代表のたたされていた苦境を思えば、彼女の代役を希望されていた者達の実力が大きく劣っていたとは思えない。中国政府としては、本命はむしろ彼女らのはずだった。

 

 にも関わらず、戦いにもなっていない。

 

 単一仕様能力に目覚めた者と、目覚めていない者。その差。

 

「何故、織斑君に先輩と同じ”零落白夜”が発動したのかはわかりません。姉弟だからなのか、別の要因なのか、さっぱり。そして零落白夜についても、先輩が罰則でISに乗れない今、研究はさっぱり進んでいません。それでもこれだけはいえます」

 

 

 

 

「かつて、織斑先輩を世界の頂に押し上げたのは、零落白夜の力があってこそ、だと」

 

 

 

 

「でもそれは、千冬姉の実力があって」

 

「ええ、ええ。それは比定しません。先輩が、世界最強を名乗るにふさわしい実力を持っていることは、誰にも比定できません。でも、織斑君。貴方だって知っているでしょう? 世界には、先輩に比肩しうる怪物が、最低四人も存在する事を」

 

 そう。だからこそ、世界は彼女達の事をこう呼んだのだ。

 

「……ビッグファイブ」

 

「そう。そしてそのうちの一人、シェリー・アビントンを貴方はよく知っている。その上で聞きます。シェリー・アビントンは、織斑千冬に勝てませんか?」

 

「…………」

 

 沈黙は肯定ではない。否定でもない。

 

 一夏は、全力で想像してみた。自分の知る最強の剣士と、最強の狙撃手が、そのもてる力をすべて発揮して戦う様を。

 

 想像して、想像して、想像して……。

 

 しばしの時間の後に、彼は首を横にふった。

 

「わかりません。時の運、としか」

 

「そうでしょうね。そして、あと三人、シェリー・アビントンと互角の者がいます。それぞれ得意分野は違うけども、間違いなく総合力で互角の者達が。その彼女たちを下して、先輩は世界最強の座にたったのです。そしていえる事はただ一つ。あの時先輩には単一仕様能力があって、彼女達にはなかった」

 

「…………」

 

「よく考えてください。貴方の手に入れた力は……貴方の立場には、重すぎる」

 

 その言葉を最後に、山田先生は部屋を出て行く。

 

 一人残された一夏は、ぼんやりと部屋に映し出される立体映像を眺めていた。

 

 映像は切り替わり、IS委員会から派遣された討伐隊と揺池金母の戦闘の様子を映し出していた。色とりどりのISが、音速で宙を飛び交い、ぶつかり合う。

 

「……俺の立場、か」

 

 つぶやくが、実感はない。彼はまだ年若く、そして巻き込まれるままで、成し遂げられた事は少ない。よって立つべき経験と実績が、彼にはまだない。

 

 ふと、轟音に顔をあげる。

 

 映像の中。無敵であるかのように猛威をふるった古の仙機が落ちる。それを成したのは、天駆ける神鳥の爪。

 

 その機体の名はガル・スレーンドラジッド。

 

 ”インドラを滅ぼす者”・”飲み込む者”、神鳥ガルダの名に繋がる言葉を二つ連ねたのは、果たしてどういう意味が込められているのか。

 

 そしてその操り手。世界最年少のビッグファイブ、サーラ・ラオ。年齢を理由に現在国家代表でこそないが、IS学園に所属するインド国家代表候補生。そして、単一仕様能力を持つ数少ない一人。

 

 世界最高の目をもつとされる彼女の一撃が、プラズマの鎧を抜いて揺池金母を穿つ。瞬間、プラズマが爆発するように拡散し、画面すべてを埋め尽くし……そこで映像が途切れた。

 

 映像の終了によって、部屋が明るくなってくる。そのなかで、一夏は今しがたみた映像を目に焼き付けようとするかのように、中空を睨み続けていた。

 

 

 

 

 

 彼の前に道はまだなく。

 

 されど、彼が踏みださなければならない日は、着実に近づいてきている。

 

 

 

 

 傷ついた年若い騎士は、まだ己が剣を捧げるべき相手を見いだせずにいた。

 

 

 

 

 これから、始まる前夜祭。

 

 人類の最後の晩餐、その貴賓席に立つ者達。彼らがまだ、その過酷な運命を知らないままに……世界は素知らぬ顔で回り続ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふっふー。単一仕様能力、発動したかあ、しちゃったかー!」

 

「さーすがは天才の束さん、計画通りに着実進行ー! いや、ちょーっと不安だったけどねえ。データはあっても実験できなかったし」

 

「いやあ、しかし焦ったよ。ちーちゃん過保護すぎ! 少しぐらい刺激を与えないとだめなんだってば。いやその気持ちもわからないでもないけどさー。いやいや、完全不可視モードでずーっと張り付いてた束さんも大概過保護だけどさ? あの子絶対気づいてたよねー……」

 

「まあいいや、終わりよければなんとやら、ってね! 箒ちゃんも元気みたいだったし、うんうん」

 

「………………」

 

「……いや、まあ、うん。嘘。終わりよければどんな目にあってもへっちゃら、なんてそんなのありふれた英雄譚の主人公だけだよね。私たちは現実に生きてる人間なんだから」

 

「あいたいよぅ、ちーちゃん、ほうきちゃん、いっくん……」

 

 

 

 

 

 

 

 けれど、世界すら知らない。

 

 傍若無人に踏み卸すその足先で、小さなこびとが画鋲を逆さに並べてる事を。

 

 それは、小さな嫌がらせ。

 

 

 

 

 

 でもきっと、その意志こそが、全てを変える最初の一歩。

 

 

 

 

 

 

 

 

to be NEXT STORY.

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。