ヤンデレの友人に監禁されて墜とされた   作:ふぅん

5 / 7
特別な話なので短めです


五日目

 八重が監禁されて五日が過ぎ、脱出という希望を打ち砕かれた彼女の心は遂に折れてしまった。目覚めた彼女はそれまでの鉄のような硬さを失い、弱々しく震える小娘へと成り下がっていたのだ。

 あやせの足音一つにも怯えて縮こまり、姿を見ればぽろぽろと涙する。そんな八重に保護欲を燃え上がらせるあやせは一層寄り添った。

 何より、求めれば自ら唇を触れ合わせてくれるようになった八重に夢中なのである。慄く彼女を宥めすかしながら飽きもせず接吻や愛撫を繰り返した。

 

「好きだよ、八重。大好き。愛してる。愛してるよ。」

 

 最早拘束すらせず、生まれたままで八重を抱き締めるあやせは背中に回された腕の暖かさに息を漏らした。首筋を撫でた吐息で八重の体温が上がる。

 腰を前に動かして八重の太腿を湿った股ぐらでギュッと挟んだあやせは正しく目の前にある瞳を覗き込んだ。それは逃げるように振れ、やがて歪な笑みを作る。

 

「わ、私も……すっ好きだよ。」

 

 少し冷たい鼻先を擦り合わせると、八重は青ざめた唇をあやせのそれに重ねた。着けたまま唇同士で揉むように啄むと、二人の掠れた声が漏れる。

 五分十分ひたすらキスを続け、呼気が乱れて来たならば、ようやく本番と言わんばかりに歯列を開けたあやせの口内におずおずと舌が入り込む。擽るように舌先を舐められる彼女は瞼を閉じて陶酔した。

 

「ゃえ……ひゅき。ひゅき。」

 

「ん、んる。」

 

 好き好きと言う拍子に逃げる舌をにゅるりと絡め取って唇で挟んだ八重はちゅうちゅう吸い上げる。こうするとあやせの機嫌が良くなることは学んだからだ。

 思い切り抱き締められて眉を顰めた八重がゆっくり脱力したあやせの舌を放せば惜しむように唇が重ねられた。ぐいぐいと体ごとのしかかって唇を押し付けられる。

 

「んむ、ちゅ。んむ、むふー。」

 

「うぶ……んぐぐ。」

 

 キスに入り込んだ髪を煩わしげに取り除いたあやせは気が済んだのか体を起こして腹に跨った。眼下で荒い呼吸をする女神の腹に愛液を滴らせてあやせはにたり微笑する。

 長い黒髪が乱れた彼女は言語に絶する艶気を振り撒いて立ち上がると、ひょいと八重を抱えあげた。以前ならえっちらおっちら歩くのが精一杯だったはずが、軽々と抱えたまましゃんと背を伸ばしている。

 何か、外れてはいけないものを彼女は外してしまっている。

 トントン拍子に八重を姫抱きにして階段を降りる彼女は踊り場から晴れ渡る空を見上げて負けないくらい晴れやかな笑顔を浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっ、来た来た!」

 

 午後に1時間ほどの間を置いて宅急便が2回届いた。どちらもあやせの荷物のようで、久方ぶりに服を来た彼女は鼻歌混じりに対応しに行く。

 リビングに残された八重は玄関から聞こえる声をぼんやり聞きながら先に届いた2着ずつのウェディングドレスとタキシードを見ていた。テーブルの上の小箱も中身は明らか。

 流石に安物かそれらしい贋作なのだろうが、モデルで稼いだ金を惜しみなく注ぎ込んだようだ。

 

「間に合って良かったぁ。八重と結婚式がしたくて随分前から注文してたんだ。勿論ちゃんとしたのもいつか挙げるけど、待てなくて……えへへ。」

 

 そう言って笑ったあやせはガサガサとドレスをカバーから出して八重に当てた。着てみなければ分からないが、サイズはぴったりのように見える。

 ラックに掛け直したあやせに立たされ、コルセットを後ろから締められた八重は小さく呻いた。化粧をされた八重は純白の花嫁姿となった自分を姿見で眺めて頬を染める。女心がどうしようもなく高揚した。

 

「綺麗だよ、八重。」

 

「―――――――。」

 

 ビクリと振り向いた八重はお揃いのウェディングドレスを着たあやせを見て絶句した。同じドレスを着ていながら格を隔てる美しさ。奇しくも同じことを互いに思いながら、両者が抱いたのは恐怖と信仰であったが。

 手袋をした指を絡め、寄り添ったあやせは誰もが聞いたことのある祝詞を囁いた。

 

「誓いますか?」

 

「……ッ!」

 

「――誓うよね?」

 

 首が折れそうなほど激しく首肯した八重のベールを上げ、目で促して自分のベールを上げさせたあやせは紅を引いた唇をそっと落とした。

 数え切れないほどした中で一番優しく、それでいて残酷な くちづけ だった。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。