ヤンデレの友人に監禁されて墜とされた   作:ふぅん

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四日目夜&???

「新垣さん」

 

「…………何っ?」

 

「帰りたい」

 

 かれこれ何時間も話さず動かず死体のようになっていた八重の谷間に顔を埋めていたあやせは柳眉を歪ませた。全く変わらない想い人の態度に、あやせの心が焦燥で揺れる。

 何処か遥か遠い地平を見ているような瞳で天井を凝視したまま動かない八重の乳房の上から耳を当てると、心臓が早く強く脈を打っていることが分かった。

 心揺れていることは確かなのだ。

 しかし、肝心の一線を越えてきてくれない。

 腰のラインを撫でていた腕で八重を抱き締めて密着したあやせは肌を擦り合わせて這い上がり、上から何度目かも分からない接吻をした。

 

「(でも、やっぱりここまで。)」

 

 差し込んだ舌先で歯茎を擽っても唇を甘噛みしても絶対にキスを深くさせてくれない八重の固さに焦りが強くなる。

 指で無理矢理こじ開けてしまえば舌を絡ませることは容易い。一度そうして欲望を満たしたことがあり、優しい八重は噛み付いてまで拒絶することはなかったから。

 しかし、それでは意味がない。あやせは自ら受け入れて貰いたいと願っているのだから。

 小さく溜め息を漏らしたあやせは黒いレースのブラジャーを着けた八重の乳房を撫でた。この世のあらゆる存在より神聖と信じている体を磨くように丁寧な手付きで。

 自然と肌が暖かくなり、蕾が布地を押し上げる。

 

「うふふ」

 

「楽しい?」

 

「ううん。嬉しいの」

 

「そう。遂に最後までスるつもりなんだ」

 

「えぇ!?!? け、結婚もしてないのにそんなの不潔よ!! 八重のエッチ! スケベ!」

 

 真っ赤にした顔を手で隠したあやせはよほど恥ずかしかったのか、バタバタと部屋から飛び出していった。軽快に階段を駆け下りる足音が八重の耳にも届く。

 胡乱な目で天井を睨んでいた八重は長い溜め息を吐いた。解せなかった。

 

「何はともあれ、多分最後のチャンス。」

 

 緩い手錠から手を抜き、あやせの脱ぎ捨てた服から鍵を漁った八重は足の手錠も外して久しぶりに自らの足で立った。

 力が上手く入らないが、壁に掛けてあった服を着た彼女は取り上げられた携帯電話で家に掛ける。

 

「出て……お願い……」

 

 窓に格子が嵌っていることを確認すると、静かに部屋を出て階段を降りていく。弱った体では二階からの脱出は難しいと考えたからだ。

 家に繋がらないと分かると、アドレス帳を出して母に掛けた。父は仕事中に繋がらない。

 慎重に慎重に階段を降りながら、七回目の呼び出しで切った八重は迷った末に高坂桐乃へ掛けた。

 

「外に出ればきっと……。」

 

 最後の一段を降りた八重は玄関へ向かい、呼び出しを切ってアドレス帳をスクロールした。警察に掛けるか迷い、あやせが警察に連行される姿が浮かんで踏み切れなかった。自分のことが好き過ぎてこんなことをしてしまったのなら、解り合えると信じたかった。

 赤い電池残量を見て涙を浮かべた八重は忍び足で急ぎながら振り返るも、あやせの気配はまるで感じられない。

 幸い片付けられていなかった靴に足を突っ込んで玄関扉のドアノブを握り、八重はゆっくりと鍵のつまみを回した。カチンと微かに音がして心臓が跳ねる。

 

「(大、丈夫。良かった)」

 

 安堵の息を零した八重はドアノブを下ろして外に飛び出した。

 

「あぎっ!?」

 

 飛び出す、はずだった。

 

 拳一つ分開いた扉は、そこでガッチリと止まって八重を跳ね返した。扉の彫りの縁に額をぶつけた彼女のこめかみに鮮血が流れ出した。

 呆然と尻餅を突いたまま扉を見上げる彼女の手の中で携帯電話が震える。はっとディスプレイに目を移した瞬間、彼女は携帯を放り出した。

 “新垣あやせ”と着信相手を示す携帯が震える。細かい砂がついた床と擦れてジャリジャリと音を立てて。

 

 恐怖で噛み合わない歯を打ち鳴らす八重の振り向いた先で、凍てついた面持ちのあやせが壁に寄り掛かって見詰め返していた。唇でキスを投げたあやせはただじっと観察している。

 

「うぅぅぅぅ……!!」

 

 扉に縋り付き、もう一度押し開いた八重は“外側に設置されている”チェーンが掛かっていることを確認して泣き出した。気丈に振舞っていた影などまるでなく、大粒の涙を零して咽ぶ。

 中からでは、幾ら引っ張ろうと幾ら押そうと、チェーンは外れる気配すらない。

 ならばせめて助けをと息を吸った彼女をひんやりした腕が絡め取り、唇が待ち受ける上へ顎をぐいっと持ち上げた。

 

「あっ、んむっふぅうう!?」

 

 逆位置で唇が重なり、躊躇なく滑り込んだ舌が八重の舌にぺっとりと張り付いたまま自らの口内へ引きずり込んだ。舌を吸い上げられ、無防備な首を撫でさすられ、背中から抱き締められ、限界に達した八重の意識は霧散した。

 ぐったりと力を失った彼女は刻み込まれた恐怖で体を震えさせる。愛おしい肉体を抱くあやせは完全に八重を手に入れたことを直感しながら絶頂に達した。

 一気に体温を上げたあやせは恍惚に細めた瞳で八重の股から広がる染みを認め、くすりと笑う。吸い付いた彼女のものと舌を丹念に擦りつけあって臭いと味を混ぜ合わせて、また笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 新垣あやせは天海八重に心惹かれる切っ掛けとなった日のことを思い出していた。

 高校に進学するための入試会場だった。当時未だ失恋の痛みを少し引き摺っていたあやせは表向き変わらぬ様子でいたが、胃の辺りにもやもやするものを抱えていたように思う。そんな事情もあって、一人になろうと御手洗いに入った時だ。

 これでもかというほど緊張していた八重と会った。

 

 入って最初に目にしたのは、手を洗っている八重の“尻”だった。苺柄のショーツに包まれた形の良い尻を、触り心地が良さそうだと冷めた頭に浮かんだ馬鹿な感想。

 どうしてそうなったのか、スカートがウェストに挟まって大変なことになっている可愛いお尻の子の鏡越しに見た顔は顔面蒼白、表情は強ばって唇を噛んで泣き出しそうだった。控え目に言って、この可愛いお尻もしくは苺ぱんつの子は落ちるだろうとしか思えない様子なのだ。

 

「……? あ、あの、何ですか?」

 

「えっ? あぁ、えっと。お尻丸見えだよ」

 

 ぎょっとした可愛いお尻の子がスカートの様を確認して真っ赤になるまであやせはぼんやりと眺めていた。スカートを戻し、顔を手で被ったその苺ぱんつの子はあやせに礼を言ってとぼとぼと御手洗いから出ていく。

 それまで何でもなかったが、苺ぱんつの子の髪から覗く赤い耳を見た時、あやせは感情で可愛いと感じていた。

 

 結局、その日はもう一度会うこともなく、可愛いお尻の子は落ちて二度と会わないだろうとあやせは思っていたのだが……。

 入学して同じ教室に二人はいたのだ。

 奇跡的に親友―――……中学時代の恋愛沙汰で少しぎくしゃくしているが――高坂桐乃と同じクラスになり、もう一人の親友を探していた時、八重と再会した。お互い目を円くしていたらしい。

 初対面の時を思い出したのか、八重は直ぐに赤面して俯いてしまった。その時目にした耳とうなじにあやせはやはりどうしようもなく惹かれていた。

 

「私の名前は新垣あやせ」

 

「…………天海、八重です」

 

「綺麗な名前だね」

 

「ぁ、ありがとうございます……」

 

 二人は出会った。


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