風雲の如く   作:楠乃

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 二ヶ月で更新は頑張った方だと思う()





リバイバル

 

 

 

「えっ、熱で倒れているから看病する?」

「ああ……私、そんなおかしなことを言ったか?」

「う……その、彩目には悪いが……その……あの詩菜、だからな?」

「………………まぁ、そうだな……」

「いや、そんな遠い目にならなくても……」

 

 

 

 翌朝、詩菜の容態が少し落ち着いたのを確認してから、いつも出勤している時間よりも早く、まだ子供たちが居ない時間帯を見計らって、慧音の寺子屋に来た。

 落ち着いたとは言え、熱はまだまだ高いし、汗も尋常ではないほど出ている。

 何とか聞き出した結果、呪いの効果は数日らしいが、それでも油断はできない状態だと思う。

 

 

 

 呪いの期限が決められていて、詩菜が言う通り、これは『罰』で、死に至るようなものではない────そうと知っていなければ、寺子屋に直接来て説明するということはしない。

 

 それほど、傍目から見て、詩菜の状態は怪しい。

 幾ら念話では通常通り話せていても、口を動かすのも億劫な様子で、手足はまるで動かせない状態で、あんな奇妙な感謝までして……心配できない方がおかしい。

 

 

 

 思い返して、より不安になってしまう。

 

 あの、文字通り軽薄で、ニヤニヤヘラヘラと緩みきった、信用できない、信頼ならない顔が────もし、もう見れなくなってしまうと思うと……それより先は、もう考えたくない。

 

 

 

「……本音を言うと、今週は預かる子が増えそうでな。彩目以外にも人手が欲しいぐらいなんだ」

「う、そうなのか……」

 

 だが、慧音の申し訳無さそうな顔を見ると、こちらもまずい状況ということが分かる。

 

「だが、彩目のその様子だと、安心できない状態なんだろう? 医者は? 永遠亭に連れて行くのはどうだ?」

「詩菜がな……自分が背負うものだと言って、動こうとしない……そもそも動けもしない状態だが」

「病気をか? ……それなら尚の事、背負ってでも医者に行った方が良いんじゃないか?」

「いや、背負った際に何をしてくるやら……」

「ああ、確かに……んん? 動けないんじゃ────

 

 

 

 

 

 

「どうせ、何を言っても動かない状態でしょ」

 

 そこで、一言も喋らなかった妹紅が、この話題を出して初めて喋った。

 

 

 

 彼女と詩菜が、決別してまた再会するまで、1300年。

 ほんの少しだけ近付いたりしたかと思えば、急に遠く離れたりする彼女達の関係は、いつ聞いても、いつ見てもハラハラする。

 

 だがそれでも、声色は呆れたような物言いでも、彼女も心配していると分かる表情をしていた。

 

 

 

「1日ぐらいなら看病、代わろうか?」

 

 だから────妹紅の話題を出しても、彼女は落ち着いていたから────私としては、渡りに船だったんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▼▼▼▼▼▼

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわ、本当に寝てる」

「……」

 

 

 

 なん……な、なんで……?

 何故に妹紅がここに……?

 そしてなんで他の人、彩目とかの気配(衝撃)が感じれない……?

 

 困惑している私を(表情まで出ていたかどうかは分からないけど)よそに、どっかりと私の枕元、右隣へと彼女は腰を下ろした。

 

「えー……寺子屋で彩目と逢ってね。お前、詩菜が重病だっていうから、彩目の代わりに看病をしに来たんだ……やっこさんは、忙しい寺子屋で授業中だよ」

「……」

 

 それはそれは、なんとまぁ……年明け直後の寺子屋って忙しいの……?

 

 何にせよ、妹紅のその言葉への反応すら現在の私の肉体はできない。

 能力関係の知覚とか、聴覚なんかは割とハッキリしているし、視覚は頭が動かず落ち着いて視線を動かせば何とかなると、ここ数時間で分かりはしたけれど、体がダルすぎて動かせる気がしない。

 

 念話をしようにも妹紅との繋がり(パス)なんてものはないし……ああ、いや、まぁ、京で師匠してた時の志鳴徒がちらっと作ってたかなぁ……でもあれは、どっちかって言うと師匠をする上での生存確認用で、そこまで通話専用回線ではなかったかなぁ……。

 

 今の私にできることは、多少目蓋を見開いて暗号を伝えるぐらいしかない。

 

 

 

 ……過去、一時は酷く恨まれていた相手に、まばたきで意思を伝えようとしているこの状況。

 一体なんだってこんな事になってんの?

 

 

 

「……」

「……あー、まぁ、彩目から聞いていた通り、喋れないのは分かった」

 

 聞いてたんかい!?

 今の私の頑張り返しなさいよ! 無駄に恥ずかしい思いしただけじゃないの!?

 

 思わず半目で睨み付けると、妹紅は悪い悪いと笑って、布団を少しめくって手を伸ばしてきた。

 ……念話の繋げ方も知ってる辺り、彩目にしっかりと状況聞いた上でここまでやってきて、今の意地悪をしたな……?

 

 弱々しく握ったり開いたりするぐらいしかできない右手に、妹紅の右手が重なる。

 呪いの影響は肉体や物理的な範囲のみで、妖術や能力関係に一切支障はない。

 

 ……実に馴染みにある、妹紅の妖力が伝わってくる。

 ………………そういえば、頭に縫い付けたのは、志鳴徒の妖力だったっけね。

 

 

 

 手のひらを通じて、妹紅とのパスを開く。

 

【────いきなり意地悪するね?】

「うわ」

 

 ……なんで数分の間に、同じリアクション、同じ引かれ方されなきゃならんのだ。

 

【ひどくない?】

「目の前の重病人が、いきなり元気に喋り始めたら『うわ』って言うだろ……念話とは言え」

 

 ……それは、まぁ……そうかもだけども!

 

 

 

「体調はどうだ? 喉は渇いてないか? 食欲は?」

【とりあえず今欲しいものはないよ。身体が異常にダルいだけで】

「……見た感じ、汗がやばいくらい吹き出てるように見えるけど?」

【拭っても止まらないし、何度も彩目に拭わなくても良いって言ったけど、途中から諦めた】

「ええ……」

 

 と言うか、彩目にだって恥ずかしくてあまり見られたくないのに、妹紅相手とか、断固拒否だ。

 

 そんなことを考えていて、彩目にそう言って拭かなくても良いって言ってたとしても、動けないイコール抵抗もできない状態だから、彩目の時も諦めて拭かせていた、というのが本当は近いんだけど……まぁ、言わなくて良いよね! 嘘も言ってないし!

 

 

 

【だからまぁ、拭かなくて良いよ】

「……ま、お前がそう言うなら、分かった」

 

【うん────ついでに言うと、手、離したら? めっちゃ熱くない?】

 

 布団の裾から入ってきている妹紅の右手は、未だに私の右手を握っている。

 

 私としては、何か水袋にでも触れているかのようで冷たくて気持ち良いんだけど……私がこうも冷たく感じるってことは、妹紅からすれば相当熱く感じているんじゃないかと思う。

 妹紅の顔、視線の位置からして、私の肉体に痣として浮かび上がっている絞め痕は多分見えていないだろうけど……いや、さっき重病人って言ってたな?

 

 もしかして……彩目は呪いじゃなくて、風邪か何かとして、妹紅に伝えている?

 

 

 

「……この感じ、病気じゃなくて、何かの呪いか?」

 

 あらまぁ……いや、私の罪であるし、彩目が他人に吹聴しないというのは、正しい行為か。

 

【……ちょっとやらかしてね。罰を受けてる】

「罰?」

【ん、神罰】

「……私は昔から、神も仏も恐れない、天に唾する奴だと思ってたけど、本当にそうだったのか?」

【いやその慣用句は自業自得の意味で……いや、まぁ、合ってるか……】

 

 真上に向かって唾を吐けば、重力に従い自分に返ってくる。

 今回は私が自暴自棄になりすぎて、昔やらかしたことを再度やらかそうとしたから、こうなっている訳で……たまたま運が良くて、早苗と諏訪子が優しかったから、この罰で反省をしろという状態なんだから。

 

【……昔やんちゃした時にやらかしたことを、再度やらかしそうになってね】

「ふぅん……?」

 

 そんな興味なさげな相槌を打ってくれる。

 まぁ……言いたくないなら聞かない、というのなら、これ以上話すつもりもない。

 

 ……彩目にも関わってくるような話になっちゃうし、私抜きで仲良くなってくれたのに、私のことで仲違いさせるのは嫌だ。

 

 

 

 そして、結局私の右手は離してもらっていない。

 

【あの……妹紅?】

「ん?」

【いや、ん? じゃなくて、手、離したら?】

「ああ……詩菜と、師匠の妖力は、やっぱり似てるんだな、って」

 

 そう言って、妹紅はようやく手を解いてくれた。

 まぁ、似てるっていうか、大本は同一人物というか……。

 

 ……ていうか、似てるって言われると、妹紅の大本を思い出しちゃうんだよなぁ……。

 もしかすると思い出してるかもしれないんだっけ……喫茶店で話した記憶のこと、怖くて今更聞けないんだよなぁ……。

 

【……無茶苦茶熱いだろうに。そんなじっくりと触れる程度なの?】

「いや、熱いのに慣れてるだけ。見せたことなかったか? 不死鳥」

【不死鳥?】

 

 そう言って、左手を上に向けて妖術の火を灯した。

 はぁ……まぁ、言われれば少し似てるかもねぇ。私達の妖力と、妹紅の妖力の質。

 いや、そんなことを話してるんじゃないんだけどさ。

 

【……不老不死を元に、不死鳥の真似ってこと?】

「……ま、そうだね。アレから一三〇〇年、炎を操るのが得意って分かって……いや、違うな」

 

 そこで妹紅は、得意気に喋ろうとして、その気勢を押し留めた。

 

 

 

「……ごめんなさい」

 

 一転して、彼女は神妙に私へと頭を下げた。

 

 ……これは私が僻んでるだけの感想でしかないけど、布団で寝ている重病人に、逃げることを許さず謝るってのは……まぁ、中々に卑怯だな、とは思った。

 

 先々週の永遠亭のことを、謝っているのは分かる。

 あれは、私が妹紅の言葉を、咄嗟に受け止めきれなかったから、すれ違いが起きてしまった。

 大丈夫。多分……大丈夫。

 

【……ううん。こちらこそ、ごめん】

「……昔はさ、見境なしに恨んでたよ。詩菜と輝夜や、父上……馬鹿藤原氏も、恨んだ時があった」

 

 私の言葉に頭を上げて、落ち着いた表情で妹紅は語り始める。

 やっぱり、あの呟きは聞こえていたらしい。

 

「不老不死が良いとは決して思いはしないけど、幻想郷はこんな人間も受け入れてくれるし、当時に起きた問題については……おかしなことに当人と話ができる環境だからね」

【……私としては、死んで終わったことだと思っていたけどね】

「はは、残念ながら関係者の半分以上が死なない存在だよ」

 

 むしろ妹紅と輝夜、永琳以外じゃあ、死ぬ存在は私ぐらいなもんだろうに。

 そう思いつつも、妹紅のゆっくりと話す語りを止めることはしない。

 

「鬼との話も、聞くつもりはなかったけど最後の会話が少し聞こえていた。多分、仲直りできたんだろう?」

【まぁ……ね】

「……父上のことで、私が言うのはおかしいけど、託したものはもう開放していい。重いのは、私だって、嫌だ」

【……】

「ああ、いや、こうじゃないな……なんて言えばいい……」

 

 言葉に詰まる妹紅というのは、京にいた時代から考えると少し面白く感じる。

 当時はどうも、自分の意見を押し通そうとする印象が強い。

 

【……許しはしない、けれど、歩み寄る理由にはならない、だったっけ】

「ん? ああ……そうだ」

【……ふふ、今にして思えば、藤原氏によく似てきたね……アイツも、許さないとか言ったくせに、託しちゃってんだからさ】

 

 それでも、当時はあのすっとんきょうな人柄に助けられていた部分も多くあった。

 今の妹紅には、あんまりそういう面が見えないけれど……これはまぁ、互いにそういう部分を見えないようにしているというか、お互いに萎縮しちゃってしまう所があるかも、とは思う。

 

「私と父上がか? ……当時ですら親子か少し疑ってたのにか?」

【あははは。まぁ、ズボラな親父だったねぇ……奇想天外なことをしては、私すらも出し抜く時があった】

「ほら、私にはそういうのはないだろう?」

【どうかなぁ……不老不死になってる辺り、突発的な部分は多少似通ってるんじゃない?】

「まじかぁ……」

 

 

 

 普通に、会話できてる。

 それも、彼女の父親のことで。

 

 少なくとも、今の私達は、前進できている。

 

 

 

 




 








 あ、自ブログでバッドエンド更新しました。私のユーザーページからどうぞ。

 個人的に、『周囲にとって地獄でしかなくとも、当人だけには仄かな幸せや、少しだけ価値を見出だせた』、というようなビターエンドが好きなんですけど……今回のIFエンドはだーれも救われてないと思います()
 感想下さると嬉しいです。

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