かなでの碁   作:ヴィヴィオ

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かなでの威圧感放ってる状態はSakiの魔王姉妹みたいな感じ?


第7話

 

 奈瀬明日美

 

 

 

 

 私は順調に勝ち上がっている。お昼になり、院生やプロ専用として用意されている部屋の一つに向かったんだけど、なんだか沈んでる。

 

「ど、どうしたの?」

「そ、それが……庄司が負けたみたいで……」

 

 庄司君が負けたのか。でも、どうしたんだろ?

 

「プロの人並の人は居るんだから、負けるのは当然じゃないの?」

「えっと、どうやら同じくらいの女の子に負けたみたいで。それも初心者みたいな綺麗な女の子だって」

「へぇ……」

 

 岡君が教えてくれたけど、どんな子なのかしら?

 

「あとちょっとだったのに……」

「まあ、とりあえずご飯を食べて元気だしなさい」

「くそぉ~」

 

 置かれているケースからお弁当を取り出して、皆に配って食べていく。お茶も配って席に座って食べていく。庄司君はやけ食いみたいに食べてる。私も食べだすと、部屋の扉が開いて入ってくる人がいた。

 

「よぉ」

「あれ、和谷じゃない」

「和谷プロっ!?」

「悪いな。奈瀬、ここ空いてるか? 3人分だけど」

「ん~空いてるわよ」

 

 今は3人だけだしね。

 

「じゃあ、進藤とその連れが来るから」

「ああ、進藤君も来るのね。って事は指導碁終わったんだ」

「ああ。俺も進藤も終わったよ。今、1階に迎えに行ってるんで、俺が先に部屋の確保に来たってところだ」

「そうなんだ。じゃあ、お茶を用意してあげるわ」

「サンキュ。それで、そっちのは……」

「岡君と庄司君よ。1組14位と1組16位ね。二人共院生だから、来年のプロ試験に参加するのよ」

「よ、よろしくお願いします」

「よろしく……」

「来年のプロ試験は……荒れるらしいから気をつけろよ」

「荒れるの?」

「ああ、荒れるね。間違いなく。進藤の奴が笑いながら言ってやがった事が本当ならな。saiが出るって言ってやがったからな」

「「「ぶっ」」」

 

 慌てて口を抑えて落ち着く。saiって言えばネット碁最強と言われる人じゃない。確か、ネット碁で塔矢行洋先生と戦って勝っている人じゃない。

 

「ま、まじ?」

「凄いよ!」

「あちゃぁ、来年もやばいのかなぁ……」

 

 はっきり言って、本当に来るならトップ棋士の先頭クラスじゃない。そんな人となんて桁が違うわよ。

 

「で、でも、saiの正体は誰も知らないんじゃないですか! 進藤プロが知ってるのって……」

「ああ、進藤がsaiと繋がってるって噂もあったわね」

「噂じゃねえよ。あいつ、俺とsaiがネット碁で会話してた内容も知ってやがった。あんときはネカフェで後ろからちらっと見たとか言ってやがったが、あれは絶対に嘘だと思ってたが、まじだったって訳だ」

「まあ、進藤は色々とおかしかったしね。っと、ご本人が来たみたいよ」

 

 扉がノックされたので開けて見ると、車椅子に乗った銀髪の女の子を連れた進藤が居た。

 

「久しぶりだな、奈瀬」

「ええ。元気そうね」

「ああ」

「そっ、それで、その子は?」

 

 なんだか、無表情なのに睨まれてる感じがして怖いんだけど。

 

「ああ、この子はかなでだ。ほら、挨拶しろよ」

「藤原かなでです。何時もヒカルがお世話になっております」

「いっ、いえ、こちらこそ……」

 

 ああ、これは無意識か知らないけど、クギを指してきてるのね。この威圧感、やばい。早く誤解とかないと。

 私はしゃがんで顔を合わせる。

 

「私は奈瀬明日美。進藤とは元院生仲間だから安心していいわよ。むしろ、応援してあげる」

「何言ってるんだ?」

「はいはい。進藤は黙ってなさい」

 

 理解してくれたのか、威圧感はなくなった。

 

「ほら、さっさと入りなさいよ。お茶入れてあげたから」

「おっ、サンキュー」

 

 進藤がかなでちゃんを連れて部屋の中に入る。

 

「あっ、お前は!」

「?」

「知り合いか?」

「ん……さっき、午前中に対戦した人」

 

 小首を傾げて悩む姿は可愛いけど、次に出て来た言葉で庄司が誰に負けたのかわかった。こんな小さな女の子に負けたんだ。

 

「そうだ。俺はお前の一回戦の相手だ!」

「ああ、それでどうした?」

「……相手の実力の基準にさせてもらいました」

 

 少し雰囲気が変わった?

 

「ちゃんとヒカルに言われた通りに全力を出さず、途中から切り替えましたよ」

「ああ、なるほど」

「あ、あの、進藤プロ……」

「えっと、君は確か若獅子戦で相手した……」

「覚えててくれたんですか!?」

「ああ。戦った局は出来る限り覚えるようにしているからな。かなでも覚えてるよな?」

「局面は覚えていますが、相手まではうろ覚えです。対局時には局面に集中しているので強い人はちゃんと覚えられるんですけど、まだちゃんと混じり合ってない感じがして……」

「俺は強者じゃないっていうのかよ! 俺と僅差だったのに!」

 

 確かにちょっとおかしいわね。僅差で勝ったのに強者と認識していない。それってつまり……

 

「?」

「ああ、悪いな。こいつの棋力は塔矢先生や緒方さんも認めてるからな。俺が本気出すなって言ってあるんだよ。あと、元々病弱でついこないだ退院したばっかなんだ。完全に治った訳ではないんで、顔とかはあんまり覚えられないんだ。すまいないな」

「わぷっ。ごめんなさい」

 

 進藤がかなでちゃんの頭をぐしぐしと撫でる。本人は嫌がってないみたいだけど。

 

「進藤、それマジか?」

「大マジだって。和谷も負けると思うぞ」

「へぇ……ぜひ一局……」

「駄目よ。先にご飯を食べないと午後が辛いわよ」

「そうだな。和谷、今度家に呼ぶからその時でいいだろ。この頃塔矢先生達もよく来てるしよ」

「まあ、それならいいか。どうせなら奈瀬も来いよ」

「いいの?」

「大丈夫だ。住所は後でメールするよ」

「かなでちゃんは?」

「どうぞ。おもてなしする」

「なら行くわ。じゃあ、何か買っていくわね」

「頼む」

 

 進藤がかなでちゃんをテーブルに近づけ、鞄からお弁当箱を取り出す。そこには焼かれたパンで作られた美味しそうなサンドイッチがあった。

 

「ほら」

「ん」

 

 2人はそれを食べだす。しかも、進藤が食べさせてるし。私はお茶を入れてあげようかな。

 

「美味しそうだな。一つくれよ」

「そういえば弁当も用意されてるんだっけ。かなで、いいか?」

「ん。大丈夫」

「いいってよ。だけど、どれか一つだぞ」

「俺も」

「ボクも」

「じゃあ、私も」

 

 みんなで食事を終えると、また部屋に人がやって来た。今度はもっととんでもない人だったけど。

 

「ふぉっふぉふぉ、ここにおったか。小娘に小僧」

「「「「桑原さん!?」」」」

「小娘、わしと一局打たんか?」

 

 扇子でかなでちゃんを指名する桑原本因坊。

 

「くすくすっ、面白いですね……ぜひ、やりましょう」

 

 扇子を開いて口元を隠して笑いながら応じるかなでちゃん。有り得ないって、何考えてるの。

 

「ヒカル」

「はいはい」

「進藤?」

「おいおい……」

 

 部屋の隅にあった碁盤を用意する進藤。そして、碁石を握る。

 

「かなではちゃんと打てないんで、指示通りに代打しますね。いいですよね。本人に打たすとまだ石をちゃんと握れなくて時間がかかりますから」

「ふむ。かまわんよ。時間もない事じゃし、一手十秒じゃ。扇子で刺した時点までカウントでよいぞ」

「分かりました。ヒカル」

「はいはい」

 

 進藤がかなでちゃんを抱き上げて椅子に座り、自分の膝に乗せた。進藤が有り得ない事をしたけど、これから始まる勝負ももっと有り得なかった。

 

「奇数じゃ。ふむ、こちらからじゃの。では……参る」

「勝負」

 

 とんでもない威圧感を発する2人が笑いながら高速で打っていく碁はどれも尋常じゃないレベルだった。勉強になるとかの次元じゃなかった。遥か上の読み合いが行われていた。

 

「むっ、時間じゃの」

「残念です」

「勝敗は決められないな。桑原さん、すいませんが……」

「うむ、わかっておるわ。片付けはわしがしておくからお主らはさっさと行け。小娘、次は三時間の真剣勝負じゃ」

「ふぅ……ええ、楽しみです」

 

 2人が扇子を閉じると威圧感は霧散していく。それから私達は慌てて準備する。

 

「これからが楽しみじゃ」

「そうですか。では、本因坊のタイトルを守っててくださいね。それは私かヒカルが頂きますから」

「ふぉっふぉふぉ、言いおるわ。良かろう、期待して待っておるよ」

「おい、時間ないぞ。早くしろって」

「ああ。行くぞ、かなで」

「はい。すいませんが片付けお願いします」

「うむ。小僧、貴様は負けておったの」

「うっ、はい……」

「検討をするから付き合え。それに碁盤は年寄りでは重いしの」

「は、はい!」

「ずるいっ!」

 

 庄司君は桑原さんの指名が入り、岡君が悔しがってる。まあ、こんな好機なんてまずないからね。しかし、かなでちゃんって本当に何者?

 

 

 

 

 

 


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