今日はヒカルと一緒にお出かけです。月曜日も本来なら平日なのだけど、今日は祝日です。だからこそ、ヒカルは文化祭とかいうのに行こうと言ってくれたのかも知れない。
「緒方さん、送ってくれてありがとうございました」
「気にするな。それじゃあな」
「ばいばい」
送ってもらった緒方さんと別れて少しヒカルが押して歩くと直ぐに華やかな看板が目に入ってきた。周りを見るとどんどん人がやって来ている。他の人は私達を不思議に見てきている。私は白いワンピースの上に青いジャケットで、ヒカルは普段着じゃなくてスーツだからかも知れない。ヒカルは普段着にしようとしてたけれど、私が指導碁をするならちゃんとした格好がいいと言ったからこんな感じになった。
「人がいっぱいだね」
「そうだな。っと、ここで受付か。すいません」
「招待券をお願いします」
「はい。それと囲碁部の所ってわかりますか?」
ヒカルが招待券を受付の人に渡して、名前を記入していく。
「囲碁部はこちらになりますね」
受付の人は学内の地図が書かれたパンフレットを広げて親切に教えてくれる。
「ありがとう。じゃあ、行こうか」
「うん」
「楽しんでいってね」
「はい」
受付の人は私にチュッパチャプスをくれて手を振ってくれた。
「良かったな」
「うん」
口に入れて舐めながら周りを眺めていく。周りはお祭り騒ぎみたいに賑やかだ。開始前みたいでまだ始まっていないからか、校舎の中には入れないみたい。
「朝食も食べて無かったな。何か食べたいものがあるか?」
「ん~わたあめ?」
小首をかしげながら食べたい物を考えてみる。
「それはないな。焼きそばとかフランクフルトとか。クレープなんかもあるな」
ヒカルが見ているパンフレットを覗き込んで囲碁部以外に一点だけ行きたい場所があった。
「麻婆豆腐」
「いや、無い――」
「んっ」
「――え!? マジかよ……何考えてんだ」
パンフレットには激辛飲食店と書かれている。辛さを選べて一番辛いのを食べられたら無料らしい。
「ヒカル、やる」
「昼はここで決定か」
「決定」
「まあいいか。差し入れも兼ねて色々と買ってから囲碁部に向かうか」
「賛成。辛いのがいい」
「女の子は甘いものが好きって聞いたが……」
「甘いものも好き」
「じゃあ、クレープでも買うか」
「うん」
クレープ屋さんの前まで移動して始まるまで待つ。
「準備できましたから注文いいですよ。売るのは開始のアナウンスが流れてからですが」
「そうか。じゃあ、お言葉に甘えるか。かなではどれがいい?」
「ん」
メニューから朝食になりそうなのを選ぶ。ヒカルも同じようなのを選んだ。
「あ、それと全メニュー一個ずつ持ち帰りで」
「え?」
「一回やってみたかったんだよな」
「本気ですか?」
「本気だから。差し入れも兼ねてだから問題ないよ」
「わかりました」
数人で一生懸命に作ってくれる。その間に口からチュッパチャプスを取り出してヒカルに差し出す。
「ん、あ~ん」
「もういいのか」
「うん」
「はむっ」
ヒカルはチュッパチャプスを口に入れて舐めた後、飽きたのか噛み砕きだした。
「うわぁー」
「……」
なんだか視線が集まってる。
「?」
『只今より第43回風見学園学園祭、月曜日を開始致します』
「ど、どうぞー」
「ありがとう」
沢山のクレープが入った袋を貰った私はそれを膝に抱いて自分で頼んだ分を食べていく。校舎に入って進んでいる間に半分くらい食べたらお腹が満たされて来たので車椅子を押してくれているヒカルの口元に運んでいく。ヒカルの分も同じようにして食べさせてあげる。そのまま進んでエレベーターに乗って2階に移動する。
2階に到着して進んでいるとヒカルが最後の一口を食べる。
「ヒカル、指にソースが付いてるから舐めて」
「洗い場は無いな」
「ソースは落ちにくい」
「仕方ないな」
ヒカルの舌が私の指を綺麗に舐めていく。
ガンッ!!
「「っ!?」」
後ろで何か重いような物を落とした音が聞こえてヒカルが振り返る。
「ヒカル、そんな小さな子に何をしているのかな? かな?」
ペットボトルが入った袋を地面に散乱させたままに、ヒカルを怖い感じのする瞳で見つめているあかりさんが居た。すごく怖い。
短いけど、あえて切る!
かな? かな? はわざとです。イメージとしてわかりやすいだろうしね!
怖い瞳=ハイライトの消えた……