日曜日、大会二日目が幕を開けました。といっても、私は前の日に全勝しているからほぼ予選通過は確定です。でも、油断はしませんが。今の相手も指導碁で勝利しました。
「調子はどうだね?」
振り向くと行洋さんがいました。ギャラリーの人も行洋さんの登場に驚いています。
「問題ありません」
「そのようだね」
「塔矢元名人……」
対戦者の方も驚いています。
「まだ時間はありますから検討をしますか?」
「そ、それは……」
「私は気にしなくていい」
「むしろ、手伝ってください」
「良かろう。今日はかなでを見に来ただけだからな」
検討をしていくと、ギャラリーがどんどん集まってきます。
「おい、塔矢元名人が来てるって」
「まじかよ」
「中学生くらいの車椅子の子を見に来たっていってたっけ」
「あの強い子かよ」
噂が噂を呼んでどんどん人が集まってきます。流石に係りの人が飛んできました。それから話し合った結果、今日の最終戦の解説をしてくれる事になりました。その間は私の所には居られないようでした。どちらにしろ、私の後に沢山のギャラリーができるようになりました。
予選の最終戦。私の相手はサラリーマン風の男性、片桐恭平さんです。その人と私は向かい合って沢山のギャラリーとカメラの前で打っています。相手の実力はプロ並みですね。
「これは……死んだはずの石が息を吹き返して……」
ミスをしたように見せかけて準備を整え、後々有効活用して一気に巻き返す。ヒカルが好んで使う方法です。それを使って逆に包囲網を敷きました。もちろん、私なりに改造していますが。
「参りました」
「ありがとうございました」
問題なく最後まで読みきって勝利を掴みました。席を離れようとすると直ぐに別のところへと連れられていきました。
「すいません、インタビューをお願いします」
「?」
「抱負とかですね。考えていてください」
壇上に連れていかれ、閉会式の式典が行われて行きます。そこで予選大会優勝を祝われていきます。トロフィーはないですが、景品と本戦への招待状を頂きました。
「それでは優勝者にして全勝というとてつもない記録を打ち立てた藤原かなでさんにこれからの決意表明をしてもらいたいと思います」
写真を取られたりして不安になりますが、ヒカルも撮影陣に混じっている事を見つけたので安心できました。
「では、お願いします」
「め、目指すは全勝優勝、です……」
うぅ、噛んじゃった。恥ずかしいです……
「凄い言葉を頂きました! 本戦はプロの方々も出場してこられますが、それについては……」
「ただ、力の許す限り打つだけなので……」
「では、気になっている選手はどなたでしょうか?」
これは決まっています。
「ヒカルと行洋さん、緒方さん、塔矢さん、桑原さんです」
「え?」
おや、会場が静まり返っています。何故でしょう?
「塔矢元名人と戦って勝つ気なんですか?」
「? そのつもりです。神の一手を目指す良き友でありライバルですから」
「あ、あの、塔矢元名人……」
「なんだね?」
「藤原さんの事は……」
「事実だ。彼女は強い。私も本戦で戦うのを楽しみにしている」
「私もです」
「と、とととんでもない子が現れたようです! 藤原さんを教えているのはやはり塔矢元名人ですか?」
「私ではない。彼女は進藤君の師弟だ」
嘘はついていませんね。確かに私とヒカルは師弟です。
「進藤プロのお弟子さんなんですね……」
私が師匠で、ヒカルが弟子ですが、皆さんは勘違いする事でしょうね。
「では、彼女が全勝優勝する事もありえると……」
「有り得ん。私が防ぐ。全勝などさせん」
「むっ、負けません」
互いに見つめ合っていると、パリンッという音が響いてきました。それに周りが暗くなったようですね。
「ど、どうやらガラスを落とした人が慌てて照明器具を倒してしまったようですね……インタビューはここまでとします。ありがとうございました。次に写真撮影を……できれば塔矢元名人と……」
「私はプロではないから辞退する。それよりも彼女には適任がいる」
「ヒカル、ヒカル!」
「あ~なるほど」
行洋さんが降りていったので私はヒカルを呼びます。するとヒカルは嫌そうにしながら出てきました。
「まじで撮るのか?」
「はい」
「当たり前だよ。あ、あとでくださいね」
「もちろんですとも」
さっきまでの雰囲気は何処かへぽいして、ヒカルに近づきます。それから、ヒカルと一緒に写真撮影をして貰いました。後はそれをデータと写真として貰いました。データは携帯電話の待受画面にするんです。写真は家に飾ります。
ヒカルはまだ仕事があるらしいので帰宅出来るようになるまで碁盤を借りて行洋さんと早碁の一色碁を打って時間を潰していきます。ギャラリーは沢山ですが、わかるかなー?
付いてこれた人には声を掛けてホームページのアドレスを差し上げました。
「二人共、家に来なさい。明子が食事を用意して待っている」
「分かりました」
「うん。楽しみ」
タクシーを使って行洋さんの家に向かいました。それから私とヒカルの家でやっている事と変わらずひたすら打ちました。塔矢さんが飛行機か新幹線かは知りませんが、飛んで帰ってきたのは驚きましたけど、楽しいひと時でした。ちなみにヒカルは呆れていました。
「お前、無茶しすぎだろ……」
「彼女と同棲して常に打てる恵まれている環境にいる君にはわからないだろう!」
「いや、しょっちゅう打ってる……って、同棲じゃない!」