ご愁傷さま金剛くん   作:やじゅせん

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第九話  金剛ちゃん、(想像)妊娠する

 

 

 

 翌朝。

 小鳥たちの囀りで目が覚める。

 時計を見ると朝の六時過ぎ。

 登校時間まで大分余裕がある。

 

 オレは半身だけベッドから起き上がり、大きくあくびをしながら背伸びする。

 と同時に、布団の中になにか違和感を感じ思わずそれをはがす。

 そして間髪入れず、

 

「はあっ!? な、なんで一夏がっ!?」

 

 自身の口から大きな声が漏れた。

 無理もない。

 

 布団の中には、下着姿の一夏が眠っていたのだから。

 ボクサーパンツとTシャツだけを着たまま眠る一夏。

 彼のパンツの中、もっこりと膨らんでいる股間を見て思わず赤面する。

 

(け、けっこうでっかいな……)

 

 一夏のアレ……パンツごしに形がくっきり見えるぞ。結構な大きさだ。

 ……そ、それに太い。なんならオレの手首くらいはある。

 あんなのいれられたら裂けちゃってぜったい痛いだろうな……。

 そんなことをふと他人事のように考え、現実逃避していた。

 

「って違う違う。なんなんだ!? この状況!?」

 

 自分の頬を二、三度叩き、現実に引き戻す。ま、まず状況を整理しよう。

 冷静に考えれば、きっと現状を突破できる術が見つかるかもしれない。

 

 1、下着姿のまま眠る一夏。

 2、同じく下着姿のままのオレ。

 3、なんかどことなく湿ってる一夏のパンツ。

 4、同じくちょっと湿ってるオレのパンティ。

 5、二人は同じベッドに寝ていた。

 

 ……おい。なんだこれ。

 

 某名探偵バーローを呼ぶまでもないやんか。

 こんなの昨日の夜、オレたちが合体してた以外の可能性ないやん。

 必死に昨晩の記憶を辿ってみるも千冬さんの部屋に入って以降の記憶がない。

 最悪なことに……もしかしたら、一夏とガチでしちゃったのかもしれない。

 

「うわっ……うわうわうわっ……」

 

 昨日は確か、生理から十日後くらいのはず。

 ……つまり、言いたかないが、排卵日。 

 ナマでやったら、間違いなくできちゃう日だ。

 自身の顔が徐々に青ざめていくのを感じる。

 

「そ、……そうだ。ゴム、千冬さんからゴムもらってたんだった」

 

 最悪の事態の最善の可能性を求め。

 一縷の望みをかけてゴミ箱の周辺を漁る。

 すると、そこからは新品未開封のコンドームの箱が見つかる。

 そう。新品。そして未開封である。

 

 それが意味することは、つまり……昨日のオレたちは、たぶん、避妊してない。

 そして、初めて同士の自分たちが適切に外で発射できる可能性と言えば……ごくわずか。

 もはや、得られる答えは一つだけだった。

 

「あ、あはは……どうしよ。妊娠しちゃった」

 

 わずかに股間に残る冷たい感触を感じながら。

 オレの口からは乾いた笑いが漏れた。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 織斑一夏が目を覚ましたのはそれから30分ほどが過ぎたあとのこと。

 昨日の夜、寝ぼけた金剛に寝技(意味深)をかけられ続けた一夏。

 実質彼が寝れた時間は3時間に満たないほどだったためその目元にはうっすらと隈が残る。

 布団に残る金剛の香りを鼻いっぱいに吸い、のそのそと彼も起き上がる。

 

「金剛は……シャワーかな?」

 

 ふと耳を澄ますとシャワー室から水音が聞こえてくる。

 おそらく先に起きた金剛がシャワーを浴びているのだろう。

 

 仮に介抱した末、一緒の布団で寝ていたのがセシリアや箒や鈴だったら。

 あらぬ誤解をうけてボコボコにされていたのだろうが、金剛ならそんな心配もあるまい。

 あいつと俺の仲だ。金剛なら色々と全部察してくれるはずだ。

 その証拠にほら、あいつは特段騒いだりせずにこうやっていつも通りシャワーを浴びてる。

 どこか安堵した一夏はおおきくあくびをしながら、布団の中に再び倒れこんだ。

 

(それにしても…昨日は……すごかった)

 

 それはもう、いろんな意味で。

 酒を飲んで寝ぼけていた金剛に終始抱き枕として使われていた一夏。

 中学時代――性欲の『せ』の字も見せずそのあまりの異性に対する紳士的な態度で、パイプカットをしているのではと噂された一夏でさえ、危うく昨日は道を外しかけた。普通の男だったら、あのまま金剛のエロエロ攻撃に耐えかねて、彼女に手を出してしまっていることだろう。そして簡単に想像できてしまうのだ。悪い男たちに弄ばれて泣かされてしまう金剛の顔が。

 

 彼はひとり、心の中で誓うのだった。もう二度と金剛に酒を飲ませないようにしよう、と。

 そんな決意を抱いている一夏の横でシャワー室の扉が開く音が聞こえる。

 そして脱衣所から制服をきちんと着終えた金剛が出てきた。

 

「お、おはよう金剛」

「……おはよう。一夏」

 

 暗い表情のまま金剛は対面のベッドに座り、一夏のほうを向く。

 

「なあ一夏。オレになにか言うことある?」

「え?」

 

 怖い顔をした金剛にそう尋ねられ、一夏は思わず首をかしげる。

 もしや金剛は昨日の夜のことを言っているのだろうか……?

 そうだとしたら、自分は何と言うべきか。

 千冬姉の部屋まで足を運び。

 完全に酔っぱらっていた金剛をここまで運んできて介抱したのだから……。

 

「どういたしまして……?」

「最っ低!」

「ええっ!?」

 

 突然烈火のごとく怒りだした金剛に思わず一夏はたじろぐ。

 なぜあそこまで彼女を懇切丁寧に介抱してやった自分が怒られなければならないのか。

 一夏の頭の中は『???』で埋め尽くされた。

 そしてその頭で必死に考えること数十秒。

 

(あ、そうか……!)

 

 一夏の頭にある解が思い浮かんだ。

 きっと金剛は、今日で俺たちの部屋が別々になることを言っているのだろう。

 にもかかわらず自分がそのことに触れなかったため、怒っているのだ。きっと。

 そう一人で納得した一夏は、真面目な表情で金剛のほうへ向き直る。

 

「金剛」

「なに……?」

「いままでありがとな」

「えっ……いままでって」

「ああ。今日で俺たちの(相部屋の)関係は終わりだけど、一応ケジメってことで」

「え、お、終わりって……」

「ん? だって(相部屋は)終わりだろ? 違うか?」

 

 一夏がそう言うと、くしゃりと悲しそうな顔を浮かべる金剛。

 

「も、もしかして単なる遊びだったの……?」

「え? 遊び? あー……ああ。確かに遊んだな、この部屋で(ジェンガとかオセロで)」

「ひ、ひどいっ……ひどすぎるっ」

「ええっ!?」

 

 ぶわっと急に泣き出した金剛を見て思わずたじろぐ一夏。

 一夏は思わず金剛のほうに手を伸ばすが、彼女はそれを振り払う。

 

「もういいっ! 一人で産んで育てるからっ!」

「は……? うむってなにを……っておい! どこ行くんだよ!」

 

 一夏の手を振り払い、脱兎のごとく部屋を後にする金剛。

 一人残された部屋の中で、一夏は首をかしげ呟いた。

 

「んだよ……意味わかんねえ」

 

 

 

 


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