ご愁傷さま金剛くん   作:やじゅせん

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第六話  the last night with one summer  3

 

 

 

「はぁ……」

 

 千冬さんの部屋の掃除を終え、自室へとぼとぼと足を運ぶオレ。オレの頭の中では、先ほど千冬さんに言われた言葉が反芻していた。……千冬さんはオレに、一夏と付き合ったらどうか、と口にしていた。それは即ち……今まで生きてきた男としての自分を捨て、女として一夏を受け入れろということだ。理屈ではそれが一番楽になる方法だということは、自分でもよくわかるのだが……。男のプライドという名の最後の砦がそれを潔しとはしなかった。ほんの一瞬、一夏と世間一般的なカレカノ関係になった自分を想像してみる。

 

 ………………。

 …………。

 ……。

 

 一夏「金剛……キス……していいか?」

 

 金剛「うん……♡ いいよ♡」

 

 ぬちゅ♡ ぬちゅ♡ れろれろ♡ ぬちゅっぬちゅっ♡ ……ごっくん♡♡♡

 

 金剛「一夏ぁ……すきぃ……♡」←目がハート

 

 一夏「俺もだよ……」←野獣の眼光。

 

 ……。

 …………。

 ………………。

 

 いつぞやに見たAVでの光景を、登場人物をオレと一夏にすり替えて妄想してみたのだが……。

 

(うげっ……。やっぱ無理だ。吐きそう)

 

 千冬さんには悪いが……女として一夏を受け入れるのは、いまのところ絶対に無理に思える。……大体、一夏がオレと付き合う前提で千冬さんはオレに話を進めてきたが、仮にオレが一夏に告白したとして、一夏オレにOKしてくれるとはとても思えない。だって、あいつ、オレが男だったときからずっと一緒にいるんだぜ? もし、まあ……その可能性は百パーセントないだろうが、オレが告白して(しないが)、OKしてきたらそのときはあいつのことをこう呼んでやろう。

 

 ――ホモ野郎、と。

 

 ……などとあれやこれやと決心をしていると、いつの間にか自室の前へと到着していることに気が付く。明日から鈴と一緒に住むことになったこの一室。この部屋で一夏と過ごす夜も、きょうで最後になるわけだ。そう考えると、ほんのちょっとだけ感慨深い気分になる。俺は、一呼吸置いてからカードキーを部屋の前でかざすと、ドアノブを引いて部屋の中に入った。

 

 ――部屋の電気は、ついてなかった。

 

(あれ……一夏いないのかな?)

 

 そう思いながら部屋の奥へと足を進める俺だったが……。

 

「……金剛」

「うおっ!?」

 

 電気もついていない暗い部屋の中で、深刻そうな顔をしながらベッドに腰掛ける一夏と視線が合う。彼は一瞬オレに視線をあてたあと、こちらから視線を逸らすかのように顔を伏せた。

 

「……。金剛、少し……話しないか?」

「な、なんだよ……いきなり改まって」

「……」

 

 オレの問いに一夏は答えず、代わりにその視線をベッドわきのテーブルの上に逸らす。

 

「?」

 

 彼の視線を追って、その視線の先にあったものをオレも見ると――……。

 

「……あ」

 

 呼吸が――止まった。

 ……無理もない。だって、そこにあったのはオレが捨てたはずの――コンドームだったからだ。

 

「……あ、あ、ああ、そ、それは…………」

「……いや、いい。何も言わなくて」

 

 ただ黙って俺の話を聞いてほしい。

 一夏はそう言うと、静かにその口を開いたのだった。

 

「……金剛。俺はお前のことを大切な幼馴染だと思っていた。それこそ、何物にも代えがたいほどの大切な幼馴染ってな」

「……」

「そして、それはお前も俺のことをそう思ってくれいる。……そう信じていたんだ」

「い、いや……一夏、それは……!」

「いいんだ! ……悪いのは俺だ。……ごめん。お前の気持ちに気づいてやれなくて」

「一夏……」

 

 なんと彼に声をかければよいのかオレが迷っているうちに、一夏は立ち上がり……。

 

「金剛。俺、お前の気持ちはよくわかった。……なにも言わなくていいから」

「え、一夏、……ちょっ……んぷっ」

 

 ――ベッドの上に押し倒し、オレの唇をふさいできたのだった。

 

 

 

 

 


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